相続登記の抹消とは?手続方法や注意点を紹介

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相続登記の抹消とは

相続登記の抹消とは、不動産についていったん完了した所有権移転登記(名義変更手続)を取り消して、所有権を被相続人名義に戻すための手続です。遺産の取り分の判断と相続登記が完了したあと、何らかの事情でやり直そうとするときに必要とします。

まずは、抹消の方法と効果や、手続を必要とする状況について、基本的なことを整理してみましょう。

相続登記を抹消する方法と効果

相続登記が完了すると、亡くなった人(被相続人)から不動産の取得者へと登記名義人が変更され、取得者が公に所有権を主張できるようになります。所有権移転を抹消し、相続が開始した状態の権利関係に戻すには、登記申請が必要です。その場合の手続は「所有権抹消登記」や「抹消登記」とよばれ、次のような効果が生じます。

抹消登記で影響を受ける項目 抹消登記の効果
登記簿上の名義人 被相続人に戻る
所有権の状況 相続人の共有に属する

不動産の分割にやり直しが生じたときに必要

相続登記を抹消するのは、不動産の分割にやり直しが生じたときです。登記名義人の相続権に変更が生じたり、事情により分割方法を見直す必要に迫られたときなどが挙げられます。相続開始からの全体の流れで押さえると、イメージが掴みやすくなるでしょう。

相続登記の抹消を必要とする場合の手続の流れ

  1. 相続開始+遺産分割または遺言執行
  2. 上記に基づく相続登記(1回目)
  3. やり直すべき事由の発生・発覚
  4. 抹消登記の実施
  5. 遺産分割協議
  6. 上記に基づく相続登記(2回目)

※相続人全員が放棄した場合、5・6の代わりに「相続財産管理人の選任申立」もしくは「相続土地国庫帰属制度」を利用します。詳しくは、注意点の項目で解説します。

抹消を行う主なケース

相続登記の抹消が必要なケースは「当初の遺産分割が無効または解除された場合」と「相続放棄があった場合」にわかれます。さらに分類すれば、以降で解説する3パターンとなります。

遺言または遺産分割協議が無効になった場合

相続登記の抹消が必要となるケースとして、最初に「遺言または遺産分割協議が無効になった場合」が挙げられます。遺言であれば書面の不備や偽造・変造が認められた場合や、遺産分割協議であれば相続関係などに関する誤解(錯誤)により無効となる場合が当てはまります。具体的には、次のようなケースです。

  • 遺言書が無効であると裁判所が認めた
  • 遺産分割協議の後に把握していなかった相続人が判明した
  • 遺産分割協議の時点で、相続人の判断能力が不十分となっていた

※協議と前後して認知症が進行し、法律行為(この場合は遺産分割に関する合意)について適切な判断ができていなかったケースが当てはまります。

遺産分割協議を合意解除してやり直したい場合

いったん遺産分割協議が成立しても、相続人全員の合意で解除できます。その上で協議のやり直しをしたい場合は、解除について書面化し、相続登記の抹消を行ってから進めます。当てはまるケースとして、以下のような場合があります。

  • 同居する配偶者のため居住権を設定したい
  • 不動産の維持管理が難しいので、ほかの相続人が得た財産と交換したい
  • 不動産の評価額が当初と大きく異なるので、公平になるようやり直したい

登記名義人が相続放棄した場合

登記名義人が相続放棄した場合_イメージ

相続の状況によっては、債務や遺産分割の長期化を理由に、登記名義人が相続放棄する場合があります。問題は、すでに相続放棄した人につき、登記申請されてしまうケースがある点です。具体例として、次のような場合が挙げられます。

  • 遺産分割協議中に法定相続で登記したところ、相続人の一部が放棄した
  • 債権者が回収のため代位して所有権移転登記し、その前後に相続人全員が放棄した

手続の流れ・必要書類

相続で移動した所有権を抹消するための手続では、登記にあたって必要な証明情報や、そのほかの必要書類に注意する必要があります。抹消すべき事由が発生または発覚したあとから、順を追って登記申請のやり方を解説すると、次のようになります。

相続登記を抹消するための流れ

  1. 登記原因証明情報を用意する
  2. 登記申請書を作成する
  3. そのほかの抹消登記のための必要書類を揃える
  4. 管轄の法務局に登記申請書類を提出する
  5. 登記完了通知を受領する

登記原因証明情報を用意する

相続登記を抹消する手続では、登記原因証明情報として、不動産の取得に関する法律行為が無効または合意解除されたことを証する書面が必要です。ケース別の証明情報は、下記の通りです。

所有権抹消の理由 登記原因証明情報
遺言が無効 確定判決の謄本※1
遺産分割協議書が無効 確定判決の謄本など※2
遺産分割の合意解除 合意解除に関する書類
登記名義人の相続放棄 相続放棄申述受理書※3

※1:遺言無効訴訟の判決が確定したときに取得できます。
※2:後見登記事項証明書など、無効になった理由に応じた書類が必要です。
※3:登記名義人だけでなく、ほかに相続放棄した人の分も必要です。

登記申請書を作成する

相続などによる所有権移転を抹消するには、登記申請書を作成しなければなりません。このとき、登記の目的は、登記事項証明書を見ながら「〇番所有権抹消登記」と書く必要があります。

例として、登記事項証明書を取り寄せたとき、次のように記載があるとしましょう。1で権利を保存し、2で生前の被相続人が購入し、3で今回抹消する対象の相続登記が入った場合です。このようなときは「3番所有権抹消登記」と記載するのが適切です。

【登記事項証明書の例】

順位番号 登記の目的 権利者そのほかの記載事項
1 (省略) 登記太郎
2 所有権移転 原因 〇年〇月〇日売買
所有者 法務一郎
3 所有権移転 原因 〇年〇月〇日相続
所有者 法務花子

そのほかの抹消登記のための必要書類を揃える

そのほかの抹消登記のための必要書類を揃える_イメージ

抹消登記を法務局(登記所)で申請する際は、登記原因証明情報とあわせて下記の一式が必要です。相続登記の際に原本還付を受けていない場合、戸籍関係書類を再度請求する必要がある点に要注意です。

  • 登記原因証明情報
  • 抹消登記のための登記申請書
  • 登記識別情報または登記済証
  • 戸籍関係書類(相続人全員が放棄した場合は不要)
  • 委任状(申請人が相続人の代表者もしくは司法書士である場合)

※相続登記したときに発行されたものとなります。受け取っていなかったり、紛失した場合などは、司法書士による本人確認制度などで代用します。

管轄の法務局・登記所に登記申請書類を提出する

抹消登記のために集めた書類の提出先は、はじめに相続登記したときと同じく、土地・建物の所在地を管轄する法務局(登記所)です。書類提出および登記申請の方法は、郵送・窓口のほかにオンライン申請も可能です。全員が相続放棄しなかったケースでは、提出書類に含まれる戸籍関係書類が電子文書に非対応となっているため、申請方法は実質的に郵送または窓口となります。

登記完了通知を受領する

抹消登記の申請を終えると、あらかじめ知らされた補正日(登記完了予定日)までに、書類の審査が行われます。審査で問題なければ、登記官が手続を完了させ、受取権限を委任された申請者のもとに通知が届きます。申請から登記完了通知が届くまでの期間は、不備がなければおおむね2週間程度です。

かかる費用・課税の種類

相続した不動産の抹消登記にかかる費用は、必要書類の収集費用・登録免許税・司法書士報酬に分類できます。なお、抹消後にあらためて相続登記する場合、譲渡などによる不動産取得税はかかりません。それぞれの金額の相場も含めて解説すると、以下のようになります。

そのほか、遺産分割協議のやり直しを目的とする手続では、翌年の課税(贈与税または譲渡所得税)にも要注意です。本記事内であとに解説する部分も確認しておくと良いでしょう。

必要書類の収集費用

移転した所有権を抹消するときの書類収集費用は、最初に相続登記した時点とおおむね同額です。登記原因証明情報の取得手数料を除けば、戸籍関係書類だけで数千円程度となり、これが費用の大半を占めます。

もっとも、所有権移転登記の時点で原本還付請求を行っており、それからまもなく抹消へと移るケースは別です。手元に戻ってきている戸籍謄本を再度提出すればよく、ほかの書類を取得・作成するために必要な連絡などの費用だけで済みます。

抹消登記の登録免許税

登記申請の際は、その手数料として登録免許税がかかります。相続によって移転した所有権などを抹消する場合、登録免許税は不動産1個あたり1000円となります。登記申請では、土地・建物をそれぞれ1個と数えるため、かかる費用は次の通りとなります。

  • 更地の場合:1000円
  • 建物のある土地の場合:土地1000円+建物1000円=2000円

司法書士報酬

司法書士報酬_イメージ

相続した不動産の所有権を抹消する登記は、適切な登記原因証明情報の判断がケースバイケースとなります。あらためて遺産分割協議するなど、ほかの対応と平行になることも考慮すると、司法書士に依頼して手続を進めるのがベターです。

司法書士報酬の相場は3万円から12万円となりますが、依頼する範囲や、不動産の権利状況によって異なります。あとで必要になる遺産分割協議書の作成まで任せるなら、上記の範囲で高くなると考えられます。

抹消以外の方法

遺産分割協議のやり直しを目的にする場合、必ずしも「当初のものを抹消してから2回目の所有権移転登記をしなければならない」とは限りません。土地・建物の最終的な権利状況がどうなるか踏まえた上で、贈与・交換として1回の移転登記で済ませる方法もあります。

ただし、登録免許税や、そのほかに変更がある点を踏まえると、必ずしも良い方法とは言えません。土地・建物の評価がある程度低い状況を前提に、どうしても手続を省略したいときの選択肢になります。

贈与を原因とする所有権移転登記で対応する場合

最終的に「不動産の権利がAさんからBさんに移動する」といった方法で遺産分割をやり直すときは、必ずしも抹消登記を要するとは限りません。贈与を原因とする所有権移転登記により、名義変更を完了させることも可能です。

共有名義の相続登記を取り消したい場合

  • 対象不動産:土地+建物(Aさんが被相続人と同居していた家)
  • 相続の方法:遺産分割協議
  • Aさん:被相続人の配偶者
  • Bさん:被相続人の子
  • 当初の相続登記:AさんとBさんの共有名義(持分2分の1ずつ)

上記のようなケースでは「Aさんの家をBさんが管理できるよう、Bさんの単独名義にしたい」と考えるケースがあります。この場合は、相続登記をいったん抹消して遺産分割協議をやり直すのではなく、Aさんの持分全部をBさんに贈与する方法が考えられます。

ここで注意したいのは、相続登記を抹消してやり直す場合に比べて、はるかに費用が高額化する恐れがある点です。贈与に伴う登録免許税のほか、不動産取得税もかかるためです。

仮に、上記例では土地・建物の固定資産税評価額が3000万円だったとして、計算式を省略しながら費用を比較してみましょう。各種税金は、Bさんの元の持分にあたる1500万円で計算してみます。

課税の種類 相続登記を抹消する場合 贈与扱いにする場合
抹消登記の登録免許税 2000円 0円
相続登記の登録免許税 6万円
(固定資産税評価額の0.4%)
30万円
(固定資産税評価額の2%)
不動産取得税 0円
(税率は省略)
45万円
(固定資産税評価額の3%)
合計 6万2000円 75万円

交換を原因とする所有権移転登記で対応する場合

遺産分割のやり直しの結果が「AさんとBさんで不動産を交換する」といった結果になるなら、やはり抹消登記ではなく、土地などの交換を原因とする所有権移転登記でも構いません。

所有する不動産を入れ替えたい場合

  • 対象不動産:実家+離れにある遊休地
  • 相続の方法:遺言執行
  • Aさん:被相続人の子(兄)
  • Bさん:被相続人の子(弟)
  • 当初の相続登記:実家はAさん、空き地はBさん
  • そのほか:実家に住んでいるのはBさん

上記のようなケースでは、Bさんの住宅確保のため、兄弟で遺産分割協議して所有する不動産を入れ替えるのが好都合と考えられます。このケースでは、取り分が不公平でなければ、上記の書面を用意し、交換による所有権移転登記を行っても構いません。

交換の場合も、贈与税と同じ税率で登録免許税が課税され、譲渡所得税および不動産取得税もかかります。仮に、実家の固定資産税評価額が3000万円、遊休地が3700万円だったと考えてみましょう。不動産取得税の課税は差額700万円に対して行われ、結果、以下のような大きな差が生じます。

課税の種類 相続登記を抹消する場合 交換扱いにする場合
抹消登記の登録免許税 2000円 0円
相続登記の登録免許税 26万8000円※1
(固定資産税評価額の0.4%)
134万円※2
(固定資産税評価額の2%)
不動産取得税 0円
(税率は省略)
21万円
(課税評価額の3%)
合計 27万円 155万円

※1:A・B両名の合計額(3700万円×税率=14万8000円、3000万円×税率=12万円)です。
※2:上記と同様に両名の合計額(3700万円×税率=74万円、3000万円×税率=60万円)です。

抹消するときの注意点・ポイント

抹消するときの注意点・ポイント_イメージ

相続登記を抹消する場合には、課税関係のほかに、相続人全員が放棄した場合の後処理にあたる手続にも注意しなければなりません。押さえておきたいのは、次の2点です。

遺産分割協議をやり直した後の課税関係

相続登記の抹消によって遺産分割をやり直す場合、税制上「財産が2回移転したもの」として扱います。つまり、最初に相続税がかかるだけでなく、やり直しの翌年にあらためて贈与税または譲渡所得税が原則課税されます。

すでに紹介した通り、贈与または交換を原因とする所有権移転登記でやり直すと、不動産取得税の課税もある点にも注意しなければなりません。

相続人全員が放棄したケースでの対応方法

相続人全員が相続放棄したケースでは、後日の所有権移転登記が不要になる代わりに、相続財産管理人の選任申立が必要です。放棄された不動産などの遺産につき、相続人の代わりに維持管理・清算などを行う人を、家庭裁判所で選んでもらうための手続です。

そもそもの問題として、放棄の申述が受理されたとしても、遺産がただちに国庫に帰属するわけではありません。国庫帰属の前に、裁判所であらためて放棄した遺産を取得すべき人がいないか判断する期間があります。そのあいだ、相続財産管理人の選任がなければ、元相続人が土地・建物を含めて維持管理する義務を果たす必要があります。

もっとも、所定の要件を満たす更地であれば、相続土地国庫帰属制度の対象となり、放棄しなくても土地単体で国に引き取ってもらえます。詳しくは司法書士および提携先の土地家屋調査士に相談してみましょう。

債務不履行による相続登記の抹消は不可

ある相続人が別の相続人に対し「約束の金銭を払わない」などのトラブルに関して、これを理由に相続登記の抹消はできません。相続人の間での債務不履行について、遺産分割の合意解除の理由にはならないと過去の例で判断されているためです。

当てはまる場合として、不動産の取り分を決める際、売却して代金を分割する方法(換価分割)をしたにも関わらず、代金が支払われないケースがあります。この場合は、相続登記を抹消せず、別に支払いを求めて訴訟することになります。

相続登記の抹消にかかる手間・費用を避けるには

相続を原因とする所有権移転登記をあとから抹消しようとすると、手間や費用が余計にかかります。できるだけ、相続開始直後から不動産の分割方法の検討や相続人調査を徹底し、あとからやり直さなくても良いようにするのが大切です。

もっとも、債務に気付かないうちに勝手に登記されてしまった場合など、やむを得ない事情により抹消せざるを得ない場合は、決して少なくありません。不安がある場合は、相続開始直後に司法書士に相談し、今後どのようにすれば確実なのかアドバイスをもらうと良いでしょう。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

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