債権者代位による相続登記とは?目的と対処方法を解説

代位登記とは

亡くなった人の不動産を名義変更しようとすると、すでに相続人以外によって手続が行われていることがあります。これは相続登記の「代位」と呼ばれる手続によるもので、本来は相続人自身で行うはずの不動産の名義変更手続(所有権移転登記)を、第三者が自身の権利に基づいて行うことを言います。

ここで言う第三者とは債権者のことであり、亡くなった人から引き継いだ不動産の差押えが目的です。代位登記の方法や完了時の通知は、通常の相続登記とは異なります。

代位による相続登記の目的は差押え

第三者が代位して相続登記を行う目的は、亡くなった人の不動産に対する差押えです。

前提として、債務者が亡くなった場合、その返済義務は相続人に承継されます。債権者視点で言い換えると、督促や差押えを図るべき相手は債務者の相続人です。仮に、不動産を競売手続にかけて回収しようとするなら、その不動産は相続人名義である必要があります。

上記のような法律関係の兼ね合いで、債務者が死亡したあとの債権回収にあたり、債権者が相続登記を代位して行うことが認められます。根拠となるのは、このあと詳しく解説する「債権者代位権」です。

債権者の代位による相続登記の方法

債権者が相続人に代位して相続登記しようとする場合、裁判所での競売の申し立てから着手します。申し立ての受理には相続人の確定が必要となり、そのために必要な戸籍関係書類は、正当な理由がある第三者として、相続人本人に断りなく収集可能です。

競売が受理されて債権者のもとに証明書が届くと、相続を原因とする所有権移転登記の申請が行われます。登記申請が完了した差押え対象の不動産は、法定相続分に沿った持分割合で相続人の所有に属します。

代位登記が完了したときの通知方法

代位による相続登記が行われた場合、相続人に通知があります。登記完了時の通知は、通常なら「登記識別情報通知書」を添えて行われますが、代位の場合は届きません。代位による相続登記では、登記完了の通知が届くのみです。

また、代位登記が完了した際の通知は、共同相続人全員に届くとは限りません。規則により、相続人が2人以上いる場合は、代表者のもとにしか届かない可能性があります。

代位登記される可能性があるケース

代位登記される可能性があるケース_イメージ

代位登記の目的は差押えであると説明したように、勝手に相続登記されてしまった場合は「亡くなった人に履行前の債務がある」と考えて差し支えありません。代位登記の通知が来たケースの多くは、おおむね次のいずれかに当てはまります。

住宅ローン返済中に相続が発生した場合

代位登記でよくあるのは、住宅ローン返済中に自宅の所有者が亡くなるケースです。通常、団体信用生命保険などによって完済できない限り、相続人に対して一括請求が始まります。請求に応じられなかったり、分割払いの相談などの債務整理手続を進められなかったりすると、自宅に設定された抵当権を実行するため、債権者代位権が行使される可能性があります。

税金の滞納中に相続が発生した場合

代位登記で同じくよく見られるのは、亡くなった人が税金を滞納していたケースです。認知症や入院・療養の影響で長らく住民税・固定資産税などを払えない状態が続くと、管轄の行政機関が差押えに入る場合があります。遺産分割のときに税金の未納に気付かないと、差押えが始まり、その過程で相続登記を勝手にされてしまうことがあります。

売却・譲渡したのに登記申請をしなかった場合

ほかによくあるのは、亡くなった人の不動産についてすでに売却・譲渡の契約を締結したにもかかわらず、所有権移転登記に協力していなかったケースです。不動産を譲り受けた人は、登記請求権を有する債権者であり、登記に協力する義務を引き継いだ相続人に改めて請求できます。このような理由で、代位により相続登記を勝手に行われることがあります。

不動産の代位登記が行える条件

不動産の代位登記が行える条件_イメージ

相続した不動産を債権者が勝手に登記できる根拠は、すでに述べた通り、民法で定める債権者代位権です。行使には一定の条件があり、原則として、次の3つの要件を満たす場合に認められます。

  • 被保全債権の履行期が到来している
  • 債務者が無資力である
  • 債務者が被代位権利を行使していない

被保全債権の履行期が到来している

債権者代位権の第一の要件は、債権者の自己の債権が、履行すべき時期を迎えていることです。債務者について相続が始まった場合を想定すると、亡くなった人が抱えていた債務=債権者の自己の債権(被保全債権)にあたります。被保全債権は相続財産として配偶者や子などに引き継がれるため、ここでは債務者=相続人とも言えます。

債務者が無資力である

債権者代位権の第二の要件は、債務者の無資力(返済資金がないこと)です。無資力とは、債務者の一般財産である「預貯金や給与債権を含めた全財産」のうち、一身に専属する生活保護受給権や差押禁止財産を除く部分がほとんどない状態を指します。土地・建物以外の返済資金となる遺産がほとんどなかったり、相続人自身の収入や貯蓄がほとんどなかったりする場合が当てはまります。

もっとも、被保全債権が住宅ローンなどの金銭債権または登記請求権である場合、必ずしも無資力を要件としません。

債務者が被代位権利を行使していない

債権者代位権の第三の要件は「債務者が第三債務者に対して有する権利」をまだ行使していないことです。上記の債務者が有する権利を、被代位権利と呼びます。もとの債務者が亡くなったケースでは、相続人が有する不動産の名義変更の権利(登記の権利)や、第三者に不動産を譲渡した場合の代金請求権が当てはまります。

相続登記が代位で行われた場合の対処方法

相続登記が代位で行われた場合の対処方法_イメージ

相続登記が代位で行われても、遺産分割協議をした上で所有権移転登記を改めて申請し、債務の履行については債権者と相談することが可能です。実際には、亡くなった人の債務の大きさを理由に、相続人の一部または全員が相続放棄し、これを踏まえて対処するケースが多いと考えられます。

ここでは、相続放棄があったことを前提にして、代位登記された場合の対処方法を考えてみましょう。いずれにしても登記申請が必要ですが、その方法は手続の前後関係で異なります。

【ケース1】代位登記前に相続放棄が受理された場合

相続放棄の状況により、更正登記または所有権抹消登記で対応します。

【ケース2】代位登記後に相続放棄が受理された場合

相続放棄の状況により、所有権または持分移転登記や、所有権抹消登記で対応します。

各対処方法の詳細は、次の通りです。

【ケース1】代位登記前に相続放棄が受理された場合

手続の順番が「相続放棄の申述受理→代位登記の完了」だったケースでは、代位登記について錯誤があったものとして、登記された内容を修正するための更正登記を行います。これにあたっては、代位した債権者の承諾書が必要です。もっとも、代位者の承諾書が要らない持分移転登記で対応できるケースもあります。

【例】配偶者と子2名が相続人であり、配偶者のみ相続放棄したあとに代位登記された場合

相続放棄のあとに代位登記されると、いったんは本来の法定相続分に沿い、配偶者の持分2分の1・子は各持分2分の1で名義変更されています。このケースでは、遺産分割協議を行わない場合だと、子たちだけで各々持分2分の1とする内容に修正するための更正登記が行えます。

更正登記で対応するのは相続人の一部だけが相続放棄したケースであり、代位登記の前に全員が相続放棄したケースでは所有権抹消登記が必要です。この場合も、不利益を被ることになる利害関係者(代位した債権者)の承諾が必要とされています。

【例】配偶者と子2名が相続人であり、3名全員が相続放棄したあとに代位登記された場合

代位登記の内容(配偶者の持分2分の1・子は各持分2分の1)を所有権抹消登記で、被相続人の名義に戻します。相続放棄した人は「はじめから相続権がなかったもの」として取扱うため、遺産分割協議は不要です。

【ケース2】代位登記後に相続放棄が受理された場合

代位登記後に相続放棄が受理された場合_イメージ

手続の順番が「代位登記の完了→相続放棄の申述受理」だったケースでは、所有権または持分の移転登記か、所有権抹消登記で対応します。まず、一部の相続人のみ相続放棄した例を挙げます。

【例】配偶者と子2名が相続人であり、代位登記の後に配偶者のみ相続放棄した場合

相続放棄による「配偶者にははじめから相続権がなかったものとする」効果は、申述が受理された時点で生じます。このケースでは、法定相続もしくは遺産分割を原因とする移転登記で対応できます。登記申請の際、代位した債権者の承諾は不要です。

次に、全員が相続放棄したケースを考えてみましょう。この場合は、代位登記前に相続放棄が受理されたケースと同じ対応で構いません。

【例】配偶者と子2名が相続人であり、代位登記された後に3名全員が相続放棄した場合

代位した債権者の承諾を得て、代位登記の内容(配偶者の持分2分の1・子は各持分2分の1)を所有権抹消登記を抹消し、被相続人の名義に戻します。全員が相続放棄するケースでは、代位登記との前後関係にかかわらず対応は同じです。

代位登記後の対処の流れ・費用・必要書類

代位登記に実際に対処しようとすると、登記申請そのもの自体は通常の相続登記と同様であるものの、相続放棄の有無・代位者の承諾の要否によって時間や費用が変わります。代位して相続登記された後に手続を進める場合を想定すると、以下のようになります。

代位登記後の手続の流れ

代位登記後の手続は、自ら不動産の名義変更を行う通常の相続登記と同じです。大きく異なるのは、相続および登記の状況に応じ、追加で書類収集や連絡の手間が発生する点です。債務を理由に相続放棄があることを想定すると、必要書類の収集だけで次のような流れになります。

  1. 相続放棄の申述+受理書の取得
  2. 遺産分割協議書の作成
  3. 代位者の承諾書を取得
  4. 上記に加え、通常の相続登記に必要な書類を収集

※戸籍関係書類、今回の登記によって不動産を取得する人の住民票の写し、遺産分割協議書に添付する印鑑登録証明書など。

上記1のステップを必要とするときは、受理書が届くまで1か月ほどかかる点に注意しましょう。相続人全員が放棄するケースでは、上記2を省略できます。相続放棄しなかった人が1人でも残れば、遺産分割協議を行うか(上記2)、代位者の承諾書を必要とする登記なのか(上記3)により、1から4までの必要な手続を行います。

書類収集を含めた全体の流れを解説すると、次のようになります。この後解説しますが、必要書類のうち「登記識別情報」だけは自力で揃えられないため、実際には必要書類の収集段階から司法書士に任せることになるでしょう。

  1. 必要書類の収集
  2. 登記申請書の作成
  3. 不動産の所在地を管轄する法務局に書類提出
  4. 登記完了証+登記識別情報の受け取り

代位登記の対処にかかる費用

代位登記の対処にかかる費用_イメージ

代位登記の対処にあたっては、通常の登記申請の費用に加え、必要な対応に応じて下記の費用が追加されます。

  • 相続放棄の申述手数料(法定相続人1人あたり800円+返信用切手代)
  • 代位者との連絡に必要な電話料金・郵便料金

もっとも費用に影響するのは司法書士報酬です。相続登記の依頼報酬は3万円から12万円ですが、複雑な判断と手続を要するため、この範囲で高額化すると考えられます。加えて、相続放棄の申述も依頼するのであれば、追加で被相続人1人あたり5万円前後の費用を要すると考えられます。

登記の種類にかかわらず必要となる書類

登記の種類にかかわらず法務局に提出する書類は下記一式となります。戸籍関係書類は、代位登記の時点で債権者から提出してあるものの、自分たちで相続登記するなら、改めて用意しなければなりません。

  • 登記申請書
  • 遺産分割協議書(協議で遺産分割の割合を決める場合)
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、改製原戸籍など
  • 相続人全員分の戸籍謄本
  • 相続人および受遺者の住民票
  • 司法書士に代理権限を委ねる旨の委任状

※代位登記後に自分たちで所有権移転登記などを行おうとするケースでは、用意できない書類の代替として司法書士への依頼が必須です。

追加で必要となる書類

すでに解説しましたが、更正登記もしくは所有権抹消登記を行おうとするなら、代位した債権者が作成する承諾書が必要です。また、相続放棄があったケースでは、家庭裁判所から届く各人の相続放棄申述受理証明書も添付しなければなりません。

相続人が代位登記の修正を行う場合の注意点

相続人が代位登記の修正を行う場合の注意点_イメージ

相続人が代位登記の修正をする場合、大前提として、亡くなった人が残した債務をどうやって履行するか・そもそも履行可能かを検討することになるでしょう。また、代位登記の際に本来届くはずの情報をもらえないことから、司法書士への依頼が必須になる点にも要注意です。

債務の状況や相続放棄を検討する

自ら登記の修正などを行って不動産の所有権を得るのであれば、債務の弁済義務も引き継がなくてはなりません。これを法律上は「単純承認」と呼びます。もし返済できない額が残っているのであれば、原則として相続開始の翌日から3か月以内に相続放棄の申述を行い、相続財産に含まれる権利義務をすべてなかったものとする手続が必要です。

手続対応は司法書士への依頼が原則必須

相続人が自分たちで登記申請することにより、代位登記された内容を修正または抹消しようとするときは、原則として司法書士に手続を依頼する必要があります。本来なら登記申請書に添付が必要な「登記識別情報」が手元にないためです。

登記識別情報とは、不動産の所有者であることを証明するものであり、所有者が自ら権利移転の申請をしようとするときは本来必ず提出しなければならないものです。ない場合の代替手段は、基本的に司法書士による本人確認となります。その他、登記の種類をどうするか個別に検討する必要もあり、有識者である司法書士への相談は最低限必要と言えます。

債務弁済後は抵当権抹消登記が必要

相続放棄することなく不動産の所有権を得て、抵当権実行(差押え)を回避しつつ無事に債務が弁済できる状況では、忘れず抵当権抹消登記を行いましょう。債務がゼロになっても自動的に抵当権が外れるわけではないので、誤解がないよう要注意です。

不動産のほかに債務も相続する場合の対応方法

相続した不動産の名義変更を債権者側で行う「代位登記」は、通知されてから初めて気付くパターンと、通知される前に債務の存在に気付くパターンがあります。いずれにしても、不動産と共に債務を引き継ぐか、相続放棄して一切の権利義務を手放すか、相続人で話し合って決める必要に迫られるでしょう。

亡くなった人に事業融資・住宅ローンなどの債務がある場合は、まず債務額の調査と対応の検討が必要になるため、司法書士に相談しましょう。また、代位登記が完了した旨の通知が届いた場合も、差押えが進む前にすぐ専門家のアドバイスを得ることが大切です。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

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