相続登記と相続人申告登記の違いとは?メリット・デメリットを解説

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相続登記の義務化と相続人申告登記制度の新設

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相続登記の義務化に伴い、新しく相続人申告登記が設けられます。相続登記の代わりに、相続人申告登記をしようと考えている方もいるでしょう。本記事では相続登記と相続人申告登記の違いを比較し、相続人申告登記のメリット・デメリットについて解説します。

これまでの法律の内容・問題点

これまでの法律下において相続登記は義務ではなく、不動産を相続しても相続登記をしない人が少なくありませんでした。なぜなら相続した土地の資産価値が低く高値での売却が見込めない場合、わざわざ手間と費用をかけてまで登記の申請をするメリットが少ないからです。

しかし、このことは、登記簿上で所有者がわからない「所有者不明土地」を増加させる原因となります。実際、国土交通省の調査によれば、不動産登記簿上で土地所有者などの所在が確認できない土地は20.1%あるとされており、現在では大きな社会問題にまで発展しているのです

※参照:所有者不明土地の実態把握の状況について(平成28年8月)」|国土交通省

相続登記の義務化に至る経緯

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所有者不明土地は土地所有者の探索に時間と費用がかかるうえに、土地が管理されないことで隣接する土地へ悪影響が及ぶといったような問題を含んでいます。

このような背景から所有者不明土地問題の解決手段として、令和6年4月1日より相続登記の義務化を定めた法律が施行されました。正当な理由なく相続登記の申請を怠った場合10万円以下の過料が科されるため、これによって所有者不明土地問題が解消されることが期待されています。

相続人申告登記の新設

相続人申告登記とは相続登記の義務化に伴って新設された制度であり、相続登記をすることなく簡易に申請義務を履行できる手続です。相続人申告登記は相続登記の義務化によって生じる不都合を解消するために設けられました。

たとえば、不動産を所有している方が亡くなって遺産分割協議になったものの、話し合いがまとまる前に相続登記の申請期間である3年を経過してしまう場合があります。そんなときはひとまずは相続人申告登記をすれば過料を免れることができ、遺産分割成立後に相続登記をすれば申請義務を履行したことになります。

ただし、相続人申告登記は相続登記の代わりになるものではないので、結局はあとから相続登記をしなければなりません。詳細は「相続人申告登記のメリット・デメリット」にて解説します。

相続人申告登記と相続登記の違いを比較

相続人申告登記と相続登記について簡単に解説しましたが、ここでは両者にどんな違いがあるのかについて、さらに深堀します。

  • 申請内容・手続
  • 費用
  • 対象者

以上3点から両者の違いを比較するので、それぞれの制度に関する理解をより深めましょう。

申請内容・手続

相続人申告登記では、不動産を取得した相続人が以下の内容を登記官に対して申し出ることが、法律によって定められています。

  • 登記簿上の所有者について相続が開始したこと
  • 申出人がその相続人であること

一方、相続登記に関する法律の定めは所有権の移転登記の申請、つまり「相続登記をしなければならない」ということです。

また、相続登記は一般的に以下のような流れで手続を行います。

  • 遺産分割協議で誰が不動産を相続するかを決める
  • 協議の内容に全員が合意したうえで、遺産分割協議書を作成する
  • 相続登記に必要な書類を集める
  • 管轄の法務局へ相続登記を申請する

このように相続登記は基本的に遺産分割協議の成立が前提ですが、相続人申告登記は遺産分割成立前でも相続人が単独でできるため、相続人申告登記の方が簡易な手続であるといえるでしょう。

費用

相続人申告登記については登記自体に費用はかからず、必要書類の発行にかかる数千円程度の実費負担のみがかかります。

一方、相続登記の費用としては主に司法書士報酬と登録免許税の2つがあり、それぞれおおよそ以下のような金額がかかります。

  • 司法書士報酬:約3~12万円程度
  • 登録免許税:固定資産税評価額の0.4%

※参照:司法書士の報酬と報酬アンケートについて(平成30年1月)」|日本司法書士連合会

司法書士報酬に幅があるのは、報酬は各司法書士が自由に定めることができるためです。また、登録免許税も不動産の固定資産税評価額によって変動するため、相続登記の費用はケースによって大きく異なります。

対象者について

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対象者はいずれも不動産を相続した相続人です。ただし、相続人申告登記をする場面と相続登記をする場面がそれぞれ異なるため、状況やタイミングによって両者を使い分けることが重要でしょう。

前述のとおり相続申告登記は、相続登記をすることなく簡易に相続登記の申請義務を履行できる手続であり、遺産分割協議が3年以内に成立しなかった場合などに役立ちます。

一方、遺産分割協議が3年以内に成立した場合、相続申告登記をせずに相続登記をすれば二度手間にならずに済みます。詳細は「相続申告登記のデメリット」にて解説します。

相続人申告登記のメリット・デメリット

相続人申告登記にはメリット・デメリットがあります。それぞれを比較することで相続人申告登記なのか、相続登記をすべきなのかをよく検討しましょう。

相続人申告登記のメリット

相続申告登記をするメリットは、以下のとおりです。

  • 相続登記を遅らせる
  • 登記が遅れても過料を免れる
  • 簡易な手続で申請義務を履行できる

それぞれのメリットの内容、効果などについて解説します。

相続登記を遅らせる

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新法の下では、不動産を取得した相続人はその取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりませんが、相続人申告登記をすれば申請義務を履行したものとみなされます。つまり、相続人申告登記には、相続登記を遅らせる効果があるのです。

これまでは相続登記が義務ではなかったため、相続登記の準備がすぐには整わないという人もいるでしょう。そんなときはとりあえず相続人申告登記をしておくことで、相続登記を先延ばしにして一定期間やり過ごすことができます。

もっとも相続人申告登記は、相続登記の代わりになる手続ではありません。相続人申告登記は相続登記を遅らせるだけで、結局はあとから相続登記をする必要があることには留意してください。

登記が遅れても過料を免れる

正当な理由なく相続登記が遅れた場合10万円以下の過料が科されますが、以下のように3年以内の相続登記ができないときなどは、相続人申告登記をすることで過料を避けられます。

  • 3年以内に遺産分割が成立しない
  • 遺産分割は成立したが、相続登記に必要な書類が揃わない

このような場合はまず相続人申告登記をしておき、遺産分割成立日から3年以内に相続登記をすれば問題ありません。

ちなみに、相続人申告登記をする以外にも、法定相続分に従った共有状態で不動産を登記するという方法があります。しかし、この手続は端的にいって手間がかかり、これを強いるのは相続人にとって酷であると考えられました。そこで今回の法改正では相続人申告登記が設けられ、上記のような事例でも簡易な方法で対処できるようになったという経緯があります。

簡易な手続で申請義務を履行できる

相続人申告登記は相続人が単独ででき、登記簿上の所有者について相続が開始したことと申出人がその相続人であることを申し出るだけの手続なので、比較的簡易といえます。必要な資料は下記のとおり。

  • 相続人申告登記の申出書
  • 被相続人が亡くなったことがわかる戸籍(除籍)謄本
  • 申出人が相続人であることがわかる戸籍謄本
  • 相続人の住民票

仮に法定相続分に従った共有状態で不動産を登記する場合、法定相続人の範囲および法定相続分の割合を確定する必要があるため、すべての相続人を把握するための資料が必要です。これと比較すれば、相続人申告登記は簡易な手続であることがわかるでしょう。

相続人申告登記のデメリット

相続申告登記には、以下のようなデメリットもあります。

  • 相続登記の代わりにはならない
  • 登記簿上に正確な相続の内容を反映できない
  • 不動産を自由に処分できない・そのほか

メリットだけでなくデメリットも理解し、自身にとって最適な手続であるのかどうかを考えましょう。

相続登記の代わりにはならない

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相続人申告登記をしても結局あとから相続登記をしなければならないので、相続人申告登記は相続登記の代わりにはなりません。

たとえば、遺産分割が3年以内に成立しなかったケースにおいて、ひとまず相続人申告登記をしたところ、あとで遺産分割が成立したとします。この場合には遺産分割成立日から3年以内に改めて相続登記をしなければならず、相続登記をしなければ申請義務を怠ったとみなされ、過料に処せられます。

つまり、相続人申告登記は一時的な措置のようなものであり、結局あとから相続登記をしなければならないため、結果的には二度手間になります。そのためもし申請期間内に相続登記ができるのであれば、相続人申告登記をせずに最初から相続登記をした方が手間は少なく済むでしょう。

登記簿上に正確な相続の内容を反映できない

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相続人申告登記は、登記簿上の所有者について相続が開始したことと、自らがその相続人であることを申し出る制度です。そのため相続人申告登記で申し出をした相続人の氏名・住所などが登記されるものの、持分までは登記されないので、相続の内容を正確に反映できるわけではありません。

また、相続人申告登記後に遺産分割が成立すれば、その内容を踏まえた相続登記が義務付けられていますが、もし遺産分割が成立しなければ登記はそのままになってしまいます。

相続登記の義務化の目的は、所有者不明土地問題の解消にあると解説しました。しかし、相続人申告登記をしても正確な相続内容を反映できないのであれば、相続登記の義務化によっても所有者不明土地問題を完全に解決することはできないとも考えられます。

不動産を自由に処分できない・そのほか

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相続人申告登記は遺産分割前の状態をひとまず登記しているに過ぎないので、不動産を売却するなど自由に処分することはできません。相続人申告登記後、遺産分割協議の結果次第では自分以外の相続人が不動産の所有権を取得する可能性もあるので、相続人申告登記をしても不動産を自由に処分できないのは当然ともいえます。

そのほかのデメリットとしては、たとえば、登記簿上に住所・氏名が記載されることによって固定資産税の請求書が届いたり、不動産業者からの営業を受けたりするといったように、事実上の不利益を受けることなどが考えられるでしょう。

相続登記と相続人申告登記は適切な活用を

相続人申告登記は簡易に相続登記の申請義務を履行できる手続です。相続人申告登記をすれば、相続登記が遅れてもひとまず過料を免れられるので、遺産分割協議が3年以内に成立しなかった場合などにはぜひ活用してください。

ただし、相続人申告登記は相続登記の代わりにはならないので、あくまで相続登記の時期を遅らせるだけです。そのため手続が二度手間になることを避けたいのであれば、できるだけ申請期間内に相続登記を済ませておく方が効率的でしょう。

結論として、相続人申告登記はやむを得ず申請期間内に相続登記ができない場合に限り、一時的な措置として使うのがおすすめです。基本的には申請期間内に相続登記ができるよう意識し、準備を進めておくことが重要であるといえます。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

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