遺贈による登記(所有権移転登記)とは
「遺贈」とは、亡くなった方の遺言によって、法定相続人以外の第三者に財産を財産を譲る場合に用いられる方法です。
相続が起きた場合、遺言書がなければ相続人の遺産分割協議によって財産の分配方法を決定します。この際、協議を行うのは法定相続人であり、相続の権利は法定相続人にしかありません。しかし、遺言書に法定相続人以外の人に財産を譲る旨の記載があれば、その遺言で指定された人(受遺者)にも財産を譲り受ける権利があります。
通常の相続では法定相続人が遺産を相続し、相続登記が行われます。一方、遺贈が行われると、遺言によって受遺者が遺贈登記をすることになります。もっとも、受遺者が行う登記の手続は「所有権移転登記」なので、手続の内容自体は相続登記と変わりません。
遺贈と相続の違い
遺贈の受取人は「受遺者」と呼ばれ、この受遺者は遺言によって指定された財産を譲り受けることができるだけで、ほかの財産を相続する権利はなく、遺産分割協議に参加する必要もありません。
ただし、遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類があり、包括遺贈が行われたときは、遺産分割協議に参加しなければならない場合もあります。
さきほど説明した「遺産のうち特定の財産を譲る」というのは、特定遺贈のことです。包括遺贈とは、たとえば「自分の資産の2分の1をAに譲る」といったような遺言であり、この場合Aさんは遺産のなかから自分が譲り受ける財産を確定しなければならないため、遺産分割協議に参加する必要があります。
遺贈を受けた登記も義務化手続の対象
令和6年4月1日から相続登記が義務化されますが、遺贈の登記も義務化の対象になります。そのため遺贈によって不動産を取得した人は、3年以内に相続登記の申請をしなければならず、この申請を正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科されます。
遺贈登記の手続方法(相続登記との違い)
相続登記と遺贈登記には、どのような手続上の違いがあるのかを解説します。登記の内容自体はどちらも所有権移転登記で変わりませんが、申請人や申請書の書き方、登録免許税などに違いがあるため、正確に手続ができるよう両者の違いを理解しておきましょう。
申請する場所
登記を行う場所は法務局であり、この点は相続登記でも遺贈登記でも同じです。不動産の所在地によって法務局の管轄が決まっているため、管轄の法務局へ行って遺贈登記の申請を行います。
申請人
遺贈登記の申請人は「受遺者が相続人であるか」、または「遺言執行者が選任されているか」という点で、3つのパターンに分けられます。
受遺者 | 遺言執行者の選任 | 登記の申請人 |
---|---|---|
相続人以外 | なし | 受遺者と相続人全員 |
相続人以外 | あり | 受遺者と遺言執行者 |
相続人 | ー |
相続人 |
まず前提として、登記の手続は共同申請が原則です。たとえば売買によって不動産が譲渡された場合、売主と買主が共同で登記の手続を行います。これと同じように、相続が行われた場合も基本的には相続人全員が登記義務者となり、相続人全員で相続登記の手続を行うのが原則です。
ただし、遺言執行者が選任されている場合、遺言執行者がすべての相続人を代理することができ、受遺者と遺言執行者の共同申請によって登記手続が可能です。遺言執行者とは、遺言の内容を実現する役割を担った人のことであり、相続財産の管理などに必要な行為をする権限を与えられています。そのため、遺言執行者が選任されている場合とそうでない場合には、上記のように登記の手続を行う申請人にも違いが出ます。なお、受遺者が相続人である場合の手続については後述で解説します。
必要書類
遺贈登記で必要な書類は、以下のように遺言執行者がいるかどうかによって異なります。
遺言執行者がいない場合
- 遺言書
- 亡くなった方の戸籍(除籍)謄本
- 亡くなった方の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 受遺者の住民票
- 当該不動産の登記済証もしくは登記識別情報
- 固定資産評価証明書
- 身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)
遺言執行者がいる場合
- 遺言書
- 亡くなった方の戸籍(除籍)謄本
- 亡くなった方の住民票の除票または戸籍の附票
- 遺言執行者選任の審判書
- 遺言執行者の印鑑登録証明書
- 受遺者の住民票
- 当該不動産の登記済証または登記識別情報
- 固定資産評価証明書
- 身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)
遺言執行者がいない場合、登記申請には法定相続人全員の戸籍謄本や印鑑登録証明書などが必要です。一方、遺言執行者がいれば受遺者と遺言執行者だけで登記申請ができ、ほかの相続人の戸籍謄本などは必要ありません。
費用
遺贈登記にかかる費用は、以下のとおりです。
- 登録免許税:固定資産税評価額の2%(遺贈の場合)
- 司法書士報酬:約2~9万円
- 必要書類の発行手数料:5000~1万円
参照:司法書士の報酬と報酬アンケートについて(平成30年1月)」|日本司法書士連合会
相続登記とは登録免許税の税率が異なります。相続登記の場合は0.4%ですが、遺贈の場合は2%なので、相続登記よりも登録免許税が高くなります。
相続人に対する遺贈では単独申請が可能
令和5年4月1日から、相続人が受遺者である場合は相続人が単独で相続登記を手続できます。相続人に対する遺贈に関して一部改正されたこの新制度により、相続人への遺贈による所有権移転の登記は、不動産登記法第60条の規定にかかわらず、受遺者が単独で申請することが可能となったのです。
必要書類については、相続人が通常の相続によって不動産を取得した場合と同様です。遺言執行者と共同申請する必要もないため、必要書類は以下のようになります。
受遺者が相続人の場合
- 遺言書
- 亡くなった方の戸籍(除籍)謄本
- 亡くなった方の住民票の除票または戸籍の附票
- 受遺者の住民票
- 受遺者の戸籍謄本
- 固定資産評価証明書
- 身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)
遺贈登記の流れ
遺贈登記は、以下の流れで行います。
- 遺言書の検認
- 相続人調査・財産調査
- 必要書類の準備
- 登記申請書の作成
- 法務局へ申請書類を提出
遺言書の検認
遺言書が公正証書遺言でない場合、裁判所による検認が必要です。これは遺言書の改ざん・破棄・隠匿などを防止するためです。遺言書を発見したら自分で開封することなく、適切な手続をとって開封しましょう。
相続人調査・不動産調査
遺言執行者がいない場合、相続人全員で登記の申請をする必要があるため、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をすべて取得して相続人を正確に特定する必要があります。不動産調査は登記簿謄本を取得し、「地番」や「家屋番号」を確認して土地や建物を識別できるようにしておきましょう。
必要書類の準備
登記の申請の際に提出する必要書類を準備します。さきほど説明した通り、必要書類は遺言執行者の有無や受遺者が相続人であるか否かによって異なるため、状況にあった適切な書類を揃えましょう。
登記申請書の作成
登記申請書は、様式と記載例を法務局公式サイトでダウンロードできます。ここでは記載例に沿って、一般的な記入方法を紹介します。
登記の目的
亡くなった方の単独所有する不動産であれば「所有権移転」、共有の不動産であれば「(亡くなった方の氏名)持分全部移転」と記入します。
原因
亡くなった日を記入し、権利変動の原因となる行為として「遺贈」と記入します。
権利者・義務者
権利者は受遺者の住所氏名、義務者は亡くなった方の住所氏名を記入します。住民票の記載どおり、正確に記入しましょう。
添付情報
申請書に添付する書類として、「登記原因証明情報」「住所証明情報」と記入します。
申請日・管轄
登記を申請する日付と、管轄の法務局を記入します。申請日は、申請書を窓口に持参する場合は持参日、郵送する場合は申請書が法務局に届く日です。
課税価格
固定資産評価証明書に記載されている固定資産価額から、1000円未満を切り捨てた金額を記入します。
登録免許税
登録免許税を計算して出して記入します。遺贈の場合、登録免許税は固定資産税評価額の2%です。
不動産の表示
登記事項証明書に書かれている内容を正確に記入します。
法務局へ申請書類を提出
準備した書類を管轄の法務局に提出します。書類や手続に問題なければ1~2週間程度で登記が完了します。法務局の住所や電話番号などについては下記をご参照ください。
遺贈登記の注意点や問題の解決方法
遺贈登記の注意点や、問題の解決方法について解説します。遺贈登記を行う前に、一度チェックしておきましょう。
遺贈と相続が併合していた場合
遺贈と相続が同時に起こった場合、まずは遺贈を優先的に処理し、その後、残りの財産を相続人の間で分割します。
たとえば、「全財産の2分の1をAに遺贈し、残りを相続人BとCに4分の1ずつ相続させる」という内容の遺言がある場合、遺贈と相続が同じ不動産に関わることになります。このようなケースでは、まず遺贈による所有権の一部移転登記を行った後に、相続による残りの持分の移転登記を行うことになります。
これは基本的に被相続人の財産はすべて相続人に承継されるため、一部の遺産だけを残して登記することは法的に矛盾が生じてしまうためです。
登記済証(登記識別情報)がない場合の登記手続
遺贈を原因とする登記手続には登記済証(登記識別情報)が必要になりますが、もし紛失して手元になくても申請を行うことは可能です。一度登記済証がない状態で法務局へ登記申請をすると、登記義務者へ事前通知が行われます。これに対して登記手続に間違いがない旨を回答することで、登記済証(登記識別情報)がなくとも手続を進めることができます。
不動産を取得したくない場合の対処法
不動産を相続しても管理の手間などがかかり、負の資産になる可能性があるため、資産価値が低い場合には取得しないという選択肢もあります。
対処法の1つは、遺贈を放棄するという方法です。遺贈も相続と同じように放棄することができ、放棄すれば不動産を取得することはありません。遺贈の放棄は家庭裁判所に申述して手続を行います。
もっとも包括遺贈の場合、「不動産は取得したくないけど、放棄もしたくない」というケースもあるでしょう。しかし、遺贈の放棄を行うと、不動産だけでなくほかの財産も遺贈できなくなってしまいます。
その場合、建物を取り壊すという方法があります。建物を取り壊してしまえば遺贈登記をする必要はありません。ただし、建物の取り壊しには相続人全員の同意が必要であり、また、建物を取り壊しても土地の遺贈登記はしなければならないことに注意してください。
遺贈登記は司法書士に依頼して正確な手続を
遺贈登記は申請人や必要書類、申請書の書き方などが相続登記と異なります。また、遺言執行者の有無や、受遺者が相続人であるか否かによっても手続が異なるので、状況に応じて適切な手続を行いましょう。
相続登記と同じく、遺贈登記も令和6年4月1日からは義務化されました。申請を正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科されるので、期限である3年以内に手続を行わなければなりません。
遺贈登記の手続は複雑なケースもあり、すべて自分で行うのは手間がかかります。手間なく正確に手続を行うためには、ぜひ司法書士への依頼もご検討ください。