印鑑証明書とは?相続登記で必要・不要になる場面や取得方法について解説

印鑑登録証明書とは?相続登記などで必要になる場面や取得方法について解説_サムネイル

印鑑証明書とは

印鑑証明書(印鑑登録証明書)とは、書類などに押された印影が自治体に登録された印鑑(実印)の印影と相違ないことを証明するための、公的な証明書です。実印は個人が保有する印鑑のうちで唯一公的に認められた印鑑であり、実印を使った押印には法的効力が認められます。

印鑑登録をしていない日常的に使用する印鑑のことを認印といいますが、認印は誰でも容易に入手できるため、信頼性が高くありません。そのため、重要な法的手続のように厳格な本人確認が求められる場面においては、実印が使用されます。実印が押印されていれば、本人によってなされた押印である可能性が高く、信頼性が担保されるためです。

このように、印鑑証明書は文書の信頼性を担保する重要な役割を果たしています。そのため、日本の契約社会では書類の作成者が間違いなく本人であることを保証し、取引の安全性を高めるために、さまざまな場面で印鑑証明書が用いられています。

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印鑑証明書が必要なケース

相続手続において、印鑑証明書は重要な役割を果たします。これは、相続に関連する多くの手続が法的に重要な契約や公的手続に該当するためです。以下では、印鑑証明書が必要となる具体的な相続手続の例をいくつか紹介します。

遺産分割協議書による相続

遺産分割協議書とは、相続人全員が合意した遺産の分割方法を文書化したものです。遺産分割協議書を作成することで、被相続人の遺産をどのように分配するかを明確に記録し、将来の紛争を防ぐ効果があります。

遺産分割協議書に相続人が実印を押印したうえで、それに対応する印鑑証明書も添付されていれば、協議の内容に本人が同意したことが証明されます。印鑑証明書は、本人が協議の内容に同意したという強力な証拠となるのです。この方法により、遺産分割協議の内容に関する後日のトラブルを効果的に予防することができます。

遺言書による遺贈

被相続人の遺言で法定相続人以外に不動産を遺贈する場合、以下の印鑑証明書が必要です。

  • 遺言執行者がいる場合:遺言執行者の印鑑証明書
  • 遺言執行者がいない場合:相続人全員の印鑑証明書

遺贈による登記手続では、受遺者と登記義務者が共同で所有権移転登記を行います。登記義務者は、通常、遺言執行者が該当しますが、不在の場合は相続人全員がその役割を担います。

このため、登記義務者の同意確認と本人確認を目的に印鑑証明書が必要です。なお、どちらのケースにおいても、証明書を発行してから3か月以内のものが必要になるので、発行期限には注意しましょう。

上申書の提出が必要な場合

登相続登記で上申書を提出する場合、相続人全員の印鑑証明書が必要です。上申書には全員の実印が押され、その実印が本人のものであることを証明するためです。

上申書とは、被相続人と不動産の登記名義人が同一人物であることを戸籍謄本や住民票で確認できない場合に作成します。通常、不動産の登記事項証明書の住所と住民票の除票上の住所が一致していることで確認しますが、これらが一致せず、戸籍の附票も取得できない場合に必要となります。

なお、上申書の書式や扱いは法務局によって異なることがあるため、必要書類が揃わないと判明した段階で、不動産を管轄する法務局に相談することをおすすめします。

その他必要なケース

相続登記の手続以外でも印鑑証明書は必要になる場面があります。以下では相続登記の手続に付随して行う必要性が高い手続について解説していきます。

預貯金・株式などの名義変更

相続によって預貯金や株式などの金融資産を名義変更する際、多くの場合印鑑証明書が必要となります。これは、金融機関が相続人の本人確認と意思確認を厳格に行い、不正な取引や詐欺を防ぐためです。具体的には、以下のような場面で印鑑証明書が求められます。

  • 被相続人の預金口座を解約し、相続人名義の口座に資金を移す場合
  • 相続した株式を相続人名義に書き換える場合
  • 保険金の請求手続を行う場合

これらの手続は、相続登記や遺産分割協議書の作成と同様に重要な財産権の移転を伴うため、金融機関は慎重な確認を行います。ただし、金融機関によって要求される書類が異なる場合があるため、印鑑証明書の要否については事前に金融機関に確認を取るとよいでしょう。

相続税の申告

相続税の申告においては、申告内容の正確性を確保して不正申告を防ぐために、印鑑証明書の提出が求められます。ただし、通常の相続税申告では必ずしも印鑑証明書の添付は求められません。多くの場合、ほかの本人確認書類や相続関係を証明する書類で足りるとされています。

もっとも、特定の状況下では印鑑証明書が必要になることがあります。たとえば、納税管理人を選任する際や相続税の延納、物納の申請を行う場合などです。これらの相続税申告においては、通常の申告よりも慎重な本人確認が必要とされるためです。

印鑑証明書が不要なケース

印鑑証明書が不要なケース_イメージ

前述とは逆に印鑑証明書が不要になる場合があります。大きく分けて法律に準じた手続を進めた場合と、印鑑証明書とは別の書類で文書の正当性を証明する場合になります。以下では印鑑証明書が不要なケースについて解説しますが、用意することは手続準備の不備にならないため、心配な方は、ほかの書類と一緒に揃えておくと安心でしょう。

法定相続による相続登記

法定相続による相続登記の場合、原則として相続人の印鑑証明書は不要です。法定相続とは、民法で定められた法定相続分に従い、法定相続人間で遺産を分割する方法を指します。この方法では、法定相続分に基づいて不動産登記が行われるため、相続人全員の同意を示す必要がありません。したがって、印鑑証明書も不要です。

法定相続は、ほかの手続方法と比較すると簡易に進めることができ、遺産分割協議が不要になります。しかし、財産の割合は相続人間の合意や心象を考慮しないため、法定相続を行う際は、相続開始時点で相続財産の状況や相続人の意向を把握しておくことが重要です。

遺産分割調停が行われた相続

家庭裁判所で遺産分割調停を行い、その結果に基づいて相続登記をする場合、印鑑証明書の提出は不要です。遺産分割調停とは、相続人間の遺産分割協議がまとまらない場合に、法定相続人全員が家庭裁判所の仲介のもとで解決を目指す手続です。この話し合いの結果に基づいて、家庭裁判所は次のいずれかの書面を作成します。

  • 遺産分割調停調書:話し合いが成立した際、その事実をまとめた書面
  • 遺産分割審判書:話し合いが不成立となり、家庭裁判所が下した審判内容を記した書面

相続登記の手続では、これらの書面の謄本を法務局に提出します。これらの書面には家庭裁判所の証明文が付されており、公的に内容が証明されているため、相続人全員の同意や印鑑証明書の提出が不要となります。

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印鑑証明書は原本還付できる

相続登記などの相続手続では、印鑑証明書の原本還付が可能です。相続手続の中には印鑑証明書が必要な場面が複数あるため、原本還付をすれば同じ証明書をほかの手続にも使用できます。原本還付を申請するには、以下の手順を踏みます。

  • 書類の原寸大コピーを作成
  • コピーの余白に原本と相違ない旨を記載し、申請人が署名捺印
  • 登記申請書にコピーを添付し、原本と一緒に提出
  • 登記完了後、法務局で原本を受け取る

原本還付を請求する場合、通常よりも手続に時間がかかる場合があるため、余裕をもって申請することをおすすめします。原本の保管には十分注意し、紛失しないようにしましょう。

取得方法

印鑑証明書の取得方法には以下の2通りあります。

  • 市区町村役所での発行
  • コンビニでの発行

印鑑証明書は住民票のある市区町村役所で発行でき、印鑑登録時に発行された印鑑登録カードを持参して手続を行います。本人のほか、委任状を持参すれば代理人による申請も可能です。

印鑑証明書は、マイナンバーカードを利用することでコンビニなどでの取得も可能です。対応している店舗のマルチコピー機を使用し、年末年始を除く6時30分から23時の間で利用ができます。この方法を使うと役場へ行く手間が省け、土日祝日も利用できるという利点がありますが、マイナンバーカードがなければ発行できない点がデメリットです。

また、コンビニなどで発行するサービスはすべての自治体で提供されているわけではないため、利用する際は事前に確認が必要です。

印鑑登録がない場合

印鑑証明書を発行するには、事前に印鑑登録をしておく必要があります。もし印鑑登録をしていない場合、先に印鑑登録から始めなければなりません。登録手続は、居住地の市区町村役所で行います。

手続に必要なものは、以下のとおりです。

  • 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
  • 登録する印鑑

上記のものを持参して窓口で申請書を作成し、申請書を提出して本人確認を行ないます。代理人が申請する場合、上記に加えて本人自筆の委任状と代理人の本人確認書類が必要になります。また、本人へ郵便照会による確認を行うため、証明書の交付まで数日を要します。

印鑑登録時には印鑑登録証というカードが発行されます。印鑑登録証は印鑑証明書を発行する際に必要なので、大切に保管しておきましょう。印鑑登録証を紛失すると、再発行手続をしなければなりません。なお、各自治体によって細かい手続や必要書類、印鑑登録証の発行などが異なる場合があるので、事前に居住地の市区町村役所に確認することをおすすめします。

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印鑑証明書発行の注意点

印鑑証明書は、さまざまな法的手続や契約において重要な役割を果たします。しかし、その発行や使用に際して知っておくべき重要な注意点がいくつか存在します。これらの注意点を理解し、適切に対応することで、手続の遅延や問題の発生を防ぐことが可能です。以下では、印鑑証明書に関する主要な留意事項について詳しく解説します。

印鑑証明書の有効期限について

印鑑証明書そのものに有効期限はありませんが、提出先や手続の性質によっては発行からの経過期間に制限が設けられることがあります。相続登記においては、できる限り最新のもの(おおよそ3か月以内)を用いることが推奨されます。これは、登録情報の変更や本人の状況変化を反映させるためです。印鑑証明書の使用可能期間は、手続の内容や提出先によって異なるため、提出を求められた際は発行からの経過期間に制限がないか、事前に確認しておくとよいでしょう。

印鑑登録ができないケース

印鑑登録には一定の制限があります。具体的には、15歳未満の未成年者や重度の精神障害または認知症により意思能力がない方の場合、印鑑登録ができません。

そのため、15歳未満の方が法定相続人となった場合、遺産分割協議には親権者が参加することになります。ただし、親権者も相続人である場合は利益相反の問題があるため、家庭裁判所に申し立てて特別代理人を選任する必要があります。

また、重度の精神障害や認知症により意思能力がない方が法定相続人となった場合、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選任し、成年後見人が本人に代わって必要な手続を行うことになります。このように、印鑑登録ができない方でも、適切な代理人を通じて相続手続を進めることができます。

法定相続人が海外に在住しているケース

海外在住の法定相続人の場合、印鑑証明書の発行には特別な手続が必要です。具体的には、日本国内での印鑑登録ができないため、代替手段として在外公館(大使館や総領事館)で「署名証明書」を取得します。この署名証明書は印鑑証明書と同等の効力を持つため、相続手続において印鑑証明書の代わりに用いることができます。

署名証明書の取得には、有効なパスポートと現地の居住証明書が必要です。また、事前に在外公館に予約を入れておく必要もあります。迅速な手続が困難な場合、日本国内の親族などに委任状を作成して、代理人として手続を進めてもらうことも検討するとよいでしょう。

相続登記に関わる書類でお困りなら司法書士へ

印鑑証明書は、相続登記や遺産分割協議書の作成をはじめ、相続におけるさまざまな場面で活用できます。財産権の移転に直結するような重要な手続に関しては、印鑑証明書による厳格な本人確認が求められます。

印鑑証明書の発行には、いくつかの注意すべき点があります。たとえば、未成年者や意思能力に問題がある方の場合、特別代理人や成年後見人の選任が必要です。また、海外在住者には署名証明書という代替手段があります。

これらの複雑な手続を適切に行うには、専門知識が求められます。司法書士に相談することで、あなたの状況に合わせた最適な対応が可能であり、スムーズな相続手続につながるでしょう。相続登記に関わる印鑑証明書の発行手続について不明点や不安なことがあれば、一度司法書士に相談するのがおすすめです。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載