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親から子に不動産の名義変更をするケース
親から子に不動産の名義変更をするケースは、大きく分けて相続による場合と生前贈与による場合があります。そこでまずは相続による不動産の名義変更、生前贈与による不動産の名義変更それぞれについて概要を説明します。
生前贈与による不動産の名義変更
生前贈与とは、存命中に自分の財産を他人に譲り渡すことです。相続と違うのは、法定相続人以外にも財産を引き継ぐことができるという点です。また、自分の意思で相手を選んで財産を譲れるという点も、生前贈与の特徴といえるでしょう。ほかにも、判断能力があるうちに親子間で財産を譲り渡す手段として、生前贈与が使われることがあります。
相続による不動産の名義変更
相続とは、亡くなった方の財産そのほかすべての権利・義務を、法律に定められた相続人が引き継ぐことです。遺言書がある場合には遺言の内容に従って相続分が決まりますが、遺言書がない場合には遺産分割協議によって相続財産の分配方法を決定します。
遺産分割協議で誰が不動産を相続するかについて全員の合意が得られたら、その内容で遺産分割協議書を作成します。そして、不動産を相続した相続人は法務局で相続登記の手続を行い、被相続人から相続人に名義を変更しなければなりません。
名義変更をする場合の手続・必要書類
生前贈与の場合と相続の場合それぞれの、手続の内容と必要書類について解説します。手続内容は重なる部分も多いのですが、それぞれどのような違いがあるのかをよく理解しておくことで、ケースごとに正しい手続が行えます。
生前贈与の場合
生前贈与の不動産の名義変更について、手続の流れと必要書類を紹介します。
手続の流れ
生前贈与で不動産の名義変更をする場合、以下の流れで手続を行います。
- 不動産調査
- 必要書類の収集
- 贈与契約書の作成
- 登記申請書の作成
- 法務局への申請
- 申請完了書類の受理
まずは登記事項証明書を取得し、相続する不動産の所有者を確認しましょう。登記事項証明書を取得するには「地番」や「家屋番号」を知る必要がありますが、これらは毎年届く「固定資産税納税通知書」に記載されています。
不動産調査が完了したら、必要書類を収集します。必要書類についてはのちほど一覧で紹介するので、そちらを参考にしてください。また生前贈与を口頭だけで行うと証拠が残らないため、不要なトラブルを避け、確実に贈与が履行されるよう贈与契約書を作成します。
不動産の名義変更をするには法務局で所有権移転登記手続を行う必要があり、その際に登記申請書を提出します。法務局公式サイトから登記申請書の様式と記載例がダウンロードできるので、記載例を参考にして必要事項を記入しておきましょう。
登記が完了すると、登記識別情報通知書や戸籍謄本などの返却を受けられます。これらの書類が受け取れたら、不動産の名義変更手続が完了します。法務局で登記事項証明書を取得できるので、間違いなく名義変更がされていることを確認しておくとよいでしょう。
必要書類
生前贈与の名義変更では、以下の書類が必要です。
- 登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
- 譲り渡す側の印鑑登録証明書
- 譲り受ける側の住民票
- 登記済権利証(登記識別情報通知書)
- 贈与契約書
登記事項証明書、固定資産評価証明書、印鑑登録証明書、住民票は、市区町村の窓口で発行できます。登記識別情報通知書は、先ほど説明したとおり登記完了時に受け取れる書類で、贈与契約書は贈与の際に当事者間で取り交わす契約書のことです。
相続の場合
相続の場合の名義変更手続も、基本的な流れに関しては生前贈与と大きな違いはないので、ここでは生前贈与との違いに着目して解説します。
手続の流れ
- 遺産分割協議
- 不動産調査
- 必要書類の収集
- 登記申請書の作成
- 法務局への申請
- 申請完了書類の受理
生前贈与の場合、譲り渡す側が亡くなっているので、まずは遺言書の有無を確認します。遺言書があれば遺言の内容に従って相続財産を分配しますが、遺言書がなければ遺産分割協議を行って相続人間で話し合いをします。
不動産の分割方法にはいくつかの種類がありますが、相続人のうちの1人が不動産を相続する方法としては、現物分割や代償分割などがあります。現物分割は1人の相続人が不動産をそのまま引き継ぐ相続方法です。代償分割は、不動産を1人の相続人が取得する代わりにほかの相続人に対して代償金を支払い、バランスをとる相続方法です。
なお、不動産の相続人が単独ではなく複数人になったとしても、相続登記を行うことは可能です。ただし、共有の場合には不動産の利用・処分に毎回共有者の同意が必要であり、非常に不便なので、一般的にはあまりおすすめされていません。
遺産分割協議で不動産の相続人が決まったら、あとの手続は基本的に生前贈与の場合と同様です。相続であれば贈与契約を行わないので、あらかじめ贈与契約書を作成しておく必要はありません。
登記申請書に記載する内容が贈与の場合と相続の場合とで異なるので、この点は注意して正しく記入しましょう。
必要書類
相続の場合の必要書類は、以下のとおりです。
- 相続人の印鑑登録証明書
- 不動産相続人の住民票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 亡くなった方の住民票(除票)
- 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍(除籍)謄本
- 固定資産評価証明書
- 相続関係説明図
このほか、相続のケースによって必要な書類があります。たとえば遺産分割協議によって相続が行われた場合には遺産分割協議書が必要であり、遺言によって相続が行われた場合には遺言書が必要です。
名義変更をする場合にかかる費用
不動産の名義変更にかかる主な費用としては、税金、司法書士報酬、書類の取得費用があります。これらの費用の計算方法や相場について解説するので、合計で不動産の名義変更にいくらくらいかかるのかを把握しておきましょう。
税金
不動産の名義変更をするうえでは、以下のような税金が発生します。
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 贈与税
- 相続税
不動産取得税
不動産取得税は、土地や家屋などを取得した際に課される税金です。不動産取得税の金額は、不動産の評価額に税率をかけて計算します。
不動産取得税=不動産の評価額×税率(4%)
なお、令和9年3月31日までは軽減税率が適用され、住宅を取得した際の税率は3%になります。
登録免許税
登録免許税は不動産登記の際にかかる税金で、以下の計算式で金額を計算します。課税標準は、固定資産課税明細書の価格から1000円未満を切り捨てた金額です。
登録免許税=課税標準×税率(0.4~2.0%)
登録免許税の税率は相続の場合は0.4%、売買や贈与の場合は2.0%です。不動産を取得した原因によって税率が異なるので注意しましょう。
贈与税
贈与税は、1年間の間に贈与でもらった財産の価額を合計し、以下の式で計算します。
贈与税=(贈与財産の合計-110万円)×税率-控除
生前贈与の場合、子や孫に不動産を譲る場合も多いと思いますが、その場合には以下のような特例税率が適用されます。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1000万円以下 | 30% | 90万円 |
1500万円以下 | 40% | 190万円 |
3000万円以下 | 45% | 265万円 |
4500万円以下 | 50% | 415万円 |
4500万円超 | 55% | 640万円 |
※参照:贈与税の計算と税率│国税庁
また、生前贈与の場合には、2500万円までは贈与税が非課税となる相続時精算課税制度があります。これについては、のちほど詳しく説明します。
相続税
相続税は相続の際にかかる税金です。まず、遺産総額から以下のような基礎控除を差し引き、課税額を計算します。
課税額=遺産の総額-基礎控除(3000万+600万×相続人の人数)
課税額を計算したら、下記の相続税の速算表に当てはめて相続税を計算します。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | – |
1000万円超から3000万円以下 | 15% | 50万円 |
3000万円超から5000万円以下 | 20% | 200万円 |
5000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
※参照:相続税の税率│国税庁
司法書士報酬
司法書士報酬は、生前贈与の名義変更なら2万~9万円程度、相続の名義変更だと3~12万円程度です。報酬の金額は司法書士によって異なるので、依頼する際は事前に確認しておくとよいでしょう。
※参照:司法書士の報酬と報酬アンケートについて(平成30年1月)」|日本司法書士連合会
書類の取得費用
必要書類の中でも、市区町村の窓口で発行するのに手数料がかかるものを一覧で紹介します。
必要書類 | 手数料 |
---|---|
登記事項証明書 | 480~600円 |
住民票の写し | 200~300円 |
固定資産評価証明書 | 200円~400円 |
印鑑登録証明書 | 200円~300円 |
戸籍謄本 | 450円 |
相続税や贈与税を節税する方法
親から子への相続税・贈与税を節税するために活用できる制度がいくつかあります。これらの制度を効率的に活用すれば相続税・贈与税を節税できるので、積極的に活用しましょう。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、子や孫に財産を贈与した場合に2500万円まで贈与税がかからず、贈与者が亡くなった際に贈与財産の価額と相続財産の価額を合算した金額が、相続税の課税対象額になる制度です。
2500万円の特別控除に加えて年間110万円の基礎控除があり、基礎控除の分は相続発生時に相続財産として加算されることがありません。
(1年間の贈与額-年間110万円の基礎控除の累計額-2500万円の特別控除)×20%
相続時精算課税制度を使うと、1人の贈与者からの贈与額の合計が2500万円になるまで何回贈与を受けても非課税の対象になります。
ただし、相続時精算課税制度の利用を一度選択すると、次に説明する暦年贈与(通常の贈与税の課税方式)に戻ることができないので、この制度を選択する際は注意してください。
暦年贈与
暦年贈与とは、年間110万円まで贈与税の基礎控除が適用される制度のことです。贈与税は年間110万円までの贈与であれば非課税となるので、これを利用して相続税の課税対象となる財産を減らして節税効果が得られます。
一度に大きな金額を贈与すると相続税が発生しますが、毎年110万円ずつ贈与すれば相続税非課税で財産を譲り渡すことができます。
暦年贈与には持ち戻し制度があり、贈与者が亡くなる前の一定期間に贈与した財産は相続税の課税対象になります。持ち戻し期間は、贈与が行われたのが令和6年1月1日よりも前であれば3年、令和6年1月1日よりもあとであれば7年です。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、相続によって取得した宅地のうち一定の面積までの部分が相続税の課税価格から減額される制度です。減額される割合は宅地の種類や面積によって異なりますが、最大80%まで減額されます。
相続開始の直前における宅地等の利用区分 | 要件 | 限度面積 | 減額される割合 |
---|---|---|---|
貸付事業以外の事業用の宅地等 | 特定事業用宅地等に該当する宅地等 | 400㎡ |
80% |
一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業を除きます。)用の宅地等 | 特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等 | 400㎡ |
80% |
貸付事業用宅地等に該当する宅地等 | 200㎡ |
50% |
|
一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地等 | 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 | 200㎡ |
50% |
被相続人等の貸付事業用の宅地等 | 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 | 200㎡ |
50% |
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 | 特定居住用宅地等に該当する宅地等 | 330㎡ |
80% |
※参照:相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)│国税庁
不動産の名義変更をする場合の注意点など
親から子へ不動産を譲り渡す際や名義変更をする際に、注意しておくべきことがあります。知らずにいるとあとからトラブルになる可能性もあるので、どのような点に注意すべきかあらかじめ把握しておきましょう。
売買する際はみなし贈与に注意
みなし贈与とは、形式上は売買であっても取引の内容が実質的に贈与であるため、贈与とみなされる取引のことです。みなし贈与は相続税逃れを防ぐために作られた概念です。
たとえば不動産を売買する場合、時価の80%未満で取引された場合にはみなし贈与と判断されることがあります。このような場合、相続税逃れの意思がなくてもみなし贈与とされる可能性があるので、不動産を売買する際は注意してください。
生前贈与がトラブルの原因になり得る
生前贈与を行う場合、贈与を受けなかった相続人の相続財産が減ることになるので、トラブルになるリスクがあります。一方、相続人間の公平のために、特別受益分を相続財産に含めて相続分を決定する特別受益の制度を使った場合、逆に生前贈与を受けた相続人が損をするケースもあります。
また、特定の相続人に生前贈与があった場合、ほかの相続分から遺留分侵害額請求を受ける場合があります。遺留分侵害額請求とは、不平等な遺言や生前贈与があったときに相続人が最低限の相続財産を取得できる制度です。不平等な生前贈与を行うと遺留分の請求が行われ、相続人同士が対立する可能性があります。
このように、特定の相続人に偏った内容の生前贈与はトラブルの原因になり得るので、ほかの相続人の心情にも配慮し、不満の出ないような形で生前贈与を行うことが重要です。
相続登記の期限
相続登記は令和6年4月1日より義務化され、相続開始を知った日から3年以内に相続登記を行わなければなりません。そのため、相続によって不動産を取得した場合には、3年以内に不動産の名義変更をする必要があります。
正当な理由なく相続登記の申請を怠った場合、10万円以下の過料が科されるので注意してください。
生前贈与であれば、相続と違って登記は義務でありません。もっとも、生前贈与を受けたのに名義変更をしなかった場合、第三者が先に登記をしてしまったり贈与を受けた不動産を遺産分割の際に相続財産の中に入れられてしまったりと、トラブルのもとになります。そのため、生前贈与によって不動産を譲り受けた場合も、基本的には不動産の名義変更をした方がよいでしょう。
家族信託を検討する
家族信託は、財産管理を家族に託すための契約です。家族信託では、不動産の所有権を財産権と名義に分けたうえで名義のみを自分以外の家族に変更し、管理処分権を家族に譲り渡すことができます。
家族信託のメリットは、信託を受けた家族の裁量で不動産を管理・処分できるという点です。たとえば家族信託によって親から子へ不動産の名義を変更した場合、もし認知症などで親が自分の不動産を管理できなくなったとしても、子が親に代わって不動産を売却したりできます。
認知症などで財産管理ができなくなり、不動産を有効活用できなくなるリスクを考えるのであれば、家族信託を視野に入れるとよいでしょう。
手間のかかる不動産の名義変更は司法書士にお任せ
親から子に家の名義を移す際には、法務局で名義変更の手続を行います。不動産の名義変更には登録免許税や不動産取得税といった各種税金の負担がかかるので、税金の負担を抑えるためには相続時精算課税制度や暦年贈与を活用するとよいでしょう。
法務局での手続は、必要書類の収集から書類の作成など手間がかかるので、手間なく確実に手続を行うには司法書士に依頼するのがおすすめです。生前贈与・相続の場合どちらでも司法書士に手続可能なので、司法書士に依頼して円滑に名義変更を行いましょう。