贈与された不動産を登記しない場合のリスクとは?登記すべき理由を解説

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不動産の贈与登記とは

不動産の贈与登記とは、土地や建物の所有権が贈与によって移転した場合に、その事実を登記簿に記録する手続です。ここでの贈与とは、当事者の合意によって、財産を無償で譲り渡すことを指します。不動産を贈与したとき、もらった人(以下、受贈者)が所有権を取得できるのは、贈与を原因とする所有権移転登記をした場合です。

登記原因となる贈与は3種類ある

相続登記の手続を適切に進めるためには、不動産が法律上どのようなかたちで贈与されたのかを理解しておく必要があります。贈与者が元気なうちに行う生前贈与か、あるいは贈与者の死亡によって効力が発生する死因贈与か、もしくは遺言書で贈与を指定する遺贈か、種類によって登記申請書の書き方が異なるのです。

贈与には3つのパターンがありますが、効力が生じてからすぐに登記しなければならないのは生前贈与のみです。死因贈与と遺贈は、贈与者が亡くなったときに登記します。

贈与登記によって得られる効果

贈与登記が完了すると、法務局で管理される公的な帳簿である登記簿の内容が書き換えられます。登記簿には、誰から不動産を贈与されたのかが明記され、受贈者が現在の所有者として記載されます。登記簿の内容は誰でも閲覧できるようになっており、所有者が第三者に対して権利を主張するときの根拠になります。

つまり、不動産の贈与登記とは、あげた人からもらった人へと名義変更をするための手続です。不動産を売却したり、賃貸経営を行ったりする際に、所有者であることを主張するためには、贈与登記が欠かせません。

贈与登記の申請には手間と費用がかかる

贈与登記の申請を行うには、贈与を原因とする所有権移転登記について記載した登記申請書を作成し、登記原因証明情報や受贈者の住所証明などもあわせて提出する必要があります。また、贈与登記の申請時には、必要書類の収集費用に加えて、固定資産税評価額のうち一定割合の登録免許税も納める必要があります。

これらの書類を集めるための手間や費用負担を考えると、贈与者と受贈者の双方にとって、贈与登記の手続の負担が大きいと感じるのは当然と言えるでしょう。

贈与された不動産を登記しないときの5つのリスク

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贈与された不動産の登記は、法律上義務化されているわけではありません。しかし、長期間登記しないままでいると、第三者の登場や相続の発生によってトラブルが起きるリスクが大きくなります。経済的にも、贈与税および延滞税や無申告加算税(いわゆる追徴課税)を納付するよう処分が下り、負担が大きくなります。

贈与契約を撤回される可能性がある

贈与登記を行わない場合の第一のリスクは、登記が完了せず権利を主張できる状態にないあいだに、贈与者によって贈与契約を一方的に撤回されてしまう可能性があることです。生前贈与や死因贈与では、書面による契約を交わしていない場合、贈与者の意思でいつでも撤回が可能です。

心配なのは、贈与者が認知症と診断されるなどして、法律行為ができないとまでは言えないものの判断能力が低下してきたタイミングです。このタイミングに、第三者から指摘を受けるなどして、贈与の約束を撤回されてしまうかもしれません。生前贈与の多くは、介護や家業の承継などを見返りとしているケースが多いことを考慮すると、受贈者にとっては相当の不利益となります。

第三者が登記を具備すると権利を主張できない

贈与登記を行わない場合の第二のリスクは、二重譲渡の相手方や不動産の占有者が先に登記を完了させてしまうことで、第三者に不動産の権利が渡ってしまう可能性があることです。

たとえば、親が子に不動産の贈与を約束した後、その事実を忘れてしまい、同じ土地・建物について不動産会社と売買契約を締結したとします。この場合、買主である不動産会社による登記が先に完了すると、子が「先に贈与を受けたのだから自分が所有者だ」と主張しても認められません。不動産の時効取得でも同様のことが言えます。

同一の不動産について権利を主張する者が複数いる場合、先に登記を具備した方が所有権を主張できるというのが、登記制度の趣旨です。

贈与者が亡くなったあとの手続が複雑になる

贈与登記を行わない場合の第三のリスクは、登記するつもりでいても、その前に贈与者が亡くなるなどして、手続が複雑になる可能性があることです。

生前贈与された不動産は、贈与者と受贈者による共同申請で登記するのが原則です。贈与者が亡くなってしまったときは、贈与者の相続人がその地位を引き継ぎ、受贈者と共同で登記申請を行う必要があります。この際、少なくとも相続関係を証明するための戸籍関係書類が必要となり、贈与契約書と贈与者の印鑑登録証明書があれば申請できたはずの贈与登記の手続がややこしくなってしまいます。

さらに、贈与者の死亡までの間に抵当権者などの利害関係者が登場しているケースもあり得ます。この場合は、利害関係者の承諾書なども必要になり、いっそう複雑です。

贈与の事実を証明できず分割される恐れがある

贈与登記を行わない場合の第四のリスクは、贈与の事実を証明する書類がないために、不動産が相続財産として遺産分割の対象となってしまう点です。

受贈者名義への登記が未了の不動産は、贈与者の死亡時点で、贈与者名義のほかの財産と区別がつきません。たとえ贈与契約書があったとしても、それが公正証書で作成されているのでない限り、生前に贈与されたものだと主張するのは容易ではありません。不動産の生前贈与は「特定の人が単独で受け継ぐこと」を目的としているケースが多いところ、贈与された不動産が相続財産に紛れ込んでしまうと、遺産分割の対象となり、本来の目的を達成できなくなってしまいます。

贈与税の無申告により追徴課税となる恐れがある

贈与登記を行わない場合の第五のリスクは、登記の有無にかかわらず税制上は贈与があったものとみなされ、贈与税および申告が遅れた分の加算税が課税される可能性があることです。

財産の移転があった場合、権利関係を主張するためには登記が必要となりますが、税務上は実態に即した取り扱いがなされ、登記の有無は問われません。したがって、登記簿上は贈与者名義のままになっている不動産でも、税務調査の対象となった際、贈与契約が交わされた形跡などから「贈与税の課税対象であるにもかかわらず申告していない」と指摘される恐れがあるのです。

本来、贈与税の申告は、贈与を受けた年の翌年初旬までに行わなければなりません。万が一無申告の事実を指摘された場合、本来納付すべき税額に加え、延滞税や無申告加算税が上乗せされ、多大な不利益を被ることになります。

贈与登記の手続の流れと必要書類・費用

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さまざまなリスクを考慮すると、不動産を贈与されたらできるだけ早めに登記申請を済ませておくべきです。そうは言っても、自分で登記申請を行うとなると、具体的にどのような手続の流れになるのか、また必要書類や費用はどの程度かかるのか、不安ではないでしょうか。

以下では、自分で登記申請する場合と、司法書士に依頼する場合の双方について解説します。ざっと目を通すことで、登記申請のハードルが下がるでしょう。

贈与登記を自分でやるときの手続の流れ

贈与登記の申請は、不動産の所在地を管轄する法務局または地方法務局の出張所で行います。必要書類を揃えて窓口で提出する方法と、郵送で申請する方法があります。

登記申請から完了までの期間は、通常であればおおむね2週間程度です。登記官による書類審査を無事通過すると、申請者(受贈者)のもとに登記完了通知と登記識別情報通知書が届きます。登記識別情報は、不動産の売却や担保付融資を受けたりする際に必要になるため、大切にとっておきましょう。

贈与登記を申請するときの必要書類

贈与登記の申請は、贈与契約自体を書面で締結し、その契約書を添付して行います。また、贈与者が登記簿上の所有者本人であることを証明する情報や、受贈者の現住所を証明する書類なども求められます。

具体的には、生前贈与の登記申請の場合、以下の書類を一式揃える必要があります。

生前贈与の登記申請書類

  • 登記申請書
  • 贈与契約書
  • 贈与者の印鑑登録証明書
  • 受贈者の住民票の写しおよび印鑑※1
  • 委任状(司法書士に依頼する場合は必要)
  • 固定資産評価証明書※2

なお、死亡を条件に贈与の効力が発生する「死因贈与」の場合、受贈者が権利を保全するには、仮登記と呼ばれる方法を取るのが一般的です。この場合は公正証書で贈与契約を締結し、以下の書類を添えて申請します。

死因贈与の登記申請書類

  • 登記申請書
  • 公正証書の正本または謄本(仮登記の承諾があるもの)
  • 受贈者の住民票の写しおよび印鑑※1
  • 固定資産評価証明書※2

※1:認印でも可
※2:登録免許税の計算に必要

贈与登記申請のための費用(登録免許税など)

贈与登記の申請にかかる費用の大半は、不動産の固定資産税評価額の2%相当の登録免許税が占めます。そのほか、印鑑登録証明書・住民票の写し・固定資産評価証明書といった公的書類の交付手数料に加え、贈与契約書に貼り付ける印紙代も必要です。

ここで、固定資産税評価額が1000万円の不動産を贈与し、登記申請するケースを想定してみましょう。かかる費用は、登録免許税が20万円、印紙代は法の定めにより1万円、そのほか必要書類の交付手数料は1000円程度です。

司法書士に贈与登記を依頼するときの報酬相場

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贈与登記の申請は「自分で行うもの」とは限りません。高齢による体力的な問題があったり、遠隔地に住んでいたりする場合などを理由に、登記の専門家である司法書士に依頼するケースも多々あります。必要書類の収集から法務局への申請手続まで一括で任せられ、迅速かつ確実に登記を完了できるのが、依頼のメリットだと言えます。

司法書士報酬の相場は、地域や依頼内容によって異なりますが、贈与登記の場合は一般的に2万円から9万円程度です。ただし、贈与者と受贈者のほかに抵当権者がいるなど、通常より手間のかかるケースでは、これより高額になることもあります。

不動産の贈与登記の注意点

贈与された不動産の登記をしないまま放置すると、権利関係の複雑化や、税務上の様々なリスクが生じる可能性があります。やむを得ず登記手続を先送りにせざるを得ないときは、以下のように無用なトラブルをなるべく避ける対処が必要です。

贈与契約の書面化などの証拠保全をしておく

贈与契約が一方的に撤回されたり、遺産分割の対象になったりするリスクを軽減するために、贈与契約の内容は書面で残しておきましょう。贈与者の推定相続人とも事前によく話し合い、贈与の事実を共有しておくとともに、納得を得ておくことも大切です。

なお、贈与契約書の作成手段は、公正証書とするのが無難です。作成には一定の手数料がかかるものの、自ら作成した私署文書とは異なり、裁判の確定判決と同等の効力が認められるため、より安心できます。

成年後見制度を検討する

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認知症の発症などにより贈与者の判断能力が低下し、その結果贈与不動産が第三者に二重譲渡されるリスクがある場合などは、成年後見制度の利用を前向きに検討しましょう。制度は法定後見と任意後見に分類されますが、あらかじめ受贈者などを後見人に指定できる「任意後見」がおすすめです。

任意後見制度を利用すると、贈与者の判断能力が低下したときは、任意後見人が不適切な取引をしてしまわないように見守ってくれます。さらに、生活や医療機関の受診を支援する機能(身上監護)もあります。生前贈与は「生活の世話を引き受ける」など見返りを条件としているケースが少なからずあり、その条件の履行を担保する点でも、贈与の趣旨に沿った制度だと言えるでしょう。

贈与税の申告を忘れずに行う

贈与税は、不動産の所有権移転登記の有無とは関係なく「財産の無償譲渡があった事実」に対して課税されます。贈与契約が成立した年の翌年には、必ず贈与税を申告・納付しましょう。税申告では証憑添付が求められる点から、書面による贈与契約の締結を意識するきっかけにもなります。

なお、節税について検討することも大切です。不動産のように高額な財産は、年間110万円を超える部分に課税があり、非課税枠が広がる「相続時精算課税制度」を積極的に検討したいところです。贈与の税務については、司法書士や、司法書士の提携税理士などに相談できます。

贈与された不動産はすぐに登記申請するのが原則

不動産を贈与された際は、できるだけ速やかに贈与を原因とする所有権移転登記を申請しましょう。贈与の撤回や手続の複雑化、第三者により権利を奪われるなどのリスクを回避するための大切な手続です。加えて、贈与税の申告も欠かせません。

贈与登記を自分で行えない事情があるときは、贈与契約を書面化しておくなどの対処もありますが、それとは別に登記について司法書士に依頼するのがベターです。贈与者の体力低下、受贈者が離れて暮らしているなどの事情があっても、迅速かつ確実に登記を完了させられます。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

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