不動産の贈与登記を自分でやる方法は?手順と必要書類・手続の注意点

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贈与登記とは?手続する理由と目的

贈与登記とは、土地や建物を無償で譲渡したときに、贈与(無償での譲渡)を原因として所有者が変わったことを登記簿に記録してもらうための手続です。法務局で受け付けており、自分で対応できる手続です。

贈与された不動産は名義変更手続が必要

不動産を贈与したときは、たとえ親子や夫婦間で譲った場合でも名義変更が必要です。速やかに名義変更しないと、いつまで経っても実際に所有している人が誰なのか判断できず、これがトラブルを招くかもしれません。トラブルが起きたときも名義変更の未了が影響し、権利の状況を証明できないため不利になりがちです。この名義変更手続を放置すると以下のような状況に陥る場合があります。

  • 贈与者の債権者に差し押さえられる
  • 贈与者が別の第三者に譲渡し、先に名義変更される
  • 贈与者が亡くなり、不動産について共同相続人に遺産分割を求められる

登記完了で公に受贈者名義であると証明できる

不動産の贈与登記が完了すると、法務局が管理する登記簿に、受贈者(もらい受けた人)の情報が登記名義人として記載されます。

登記簿の情報は、取引の相手方や入居者といった第三者に対し、権利の状況などについて公に証明する効果を持ちます。実務的には、登記簿の写しである登記事項証明書を必要なときに取り寄せれば、これを提示することで売買や大規模修繕の契約を締結できるようになります。

贈与登記はいつまでに行うべきか

贈与登記はいつまでに行うべきか_イメージ

不動産の贈与登記に期限はありませんが、贈与契約の締結から可能な限り早いタイミングで行いましょう。特に急ぐ必要がなくても、契約後2週間以内に申請するのが理想的です。

また、このあと説明する贈与税の申告義務にも注意を払いましょう。実際に贈与した日から登記完了日までの間に年をまたいでしまうと、どの年度で申告・納付をすべきか判断が難しくなってしまいます。

贈与登記を必要とするケース

贈与登記が必要となる代表的なケースはさまざまで、不動産について世帯も生計も一緒にしている別の家族の名義に変えたいだけの場合も含まれます。よくあるのは、下記のような状況です。

  • 親から子へ土地や建物を譲るとき
  • 所有する自宅を配偶者名義に変えたいとき
  • 親戚などから不動産を無償で譲り受けたとき
  • 個人名義の土地や建物を法人名義に変えたいとき

自分で行う場合と司法書士へ依頼した場合の違い

土地や建物の贈与は、夫婦や親子、役員と会社などといった近しい関係で行われることが一般的です。当てはまる場合には、名義変更手続にあたる贈与登記も「他人に任せず自分でやりたい」と考えるのが自然です。

結論として、自分で贈与登記することは不可能ではありません。ただ、予算があれば、司法書士に依頼するのが迅速かつ確実です。以下では、手続する人によって異なるメリット・デメリットを考えてみましょう。

自分で手続するメリット・デメリット

贈与登記を自分で行うメリットは、何といっても費用を抑えられる点です。司法書士への報酬が不要となるため、登録免許税などの必要経費以外の出費を削減できます。また、申請の進捗状況を自分で把握しやすいというメリットもあります。

ただし、自分で登記申請を行う場合は、事前の情報収集と書類集めに多くの時間と手間がかかります。不動産登記法の知識や登記実務の経験が乏しいと、申請したときに不備を指摘され、やり直しや余分な追加費用が発生する恐れがあります。

贈与登記を自分でする場合のメリット

  • 費用を抑えられる
  • 進捗状況を自分で把握できる

贈与登記を自分でするデメリット

  • 事前準備に時間と手間がかかる
  • 書類不備などによる延期や費用増加があり得る
  • 登記完了日が延びる場合、その間に第三者とトラブルになるリスクがある

司法書士に依頼するメリット・デメリット

司法書士に依頼するメリット・デメリット_イメージ

一方、贈与登記を司法書士に依頼するメリットは、専門家ならではの知識と経験を活かした的確な手続が期待できる点です。相手方となる贈与者あるいは受贈者との連絡や、必要書類の収集なども、基本的には司法書士に任せたままで問題ありません。

考えておきたいのは、司法書士報酬の発生です。土地や建物の価格に応じて報酬額は変わりますが、贈与登記の代行費用の相場は2万円から9万円です。自分でやれば発生しない費用だと考えると、惜しく感じられるかもしれません。

司法書士に依頼するメリット

  • 申請書を適切かつ迅速に作成できる
  • 贈与当事者への連絡、書類収集などといった面倒を省ける
  • 贈与を実際に行う前の段階から、目的ごと(相続対策など)の相談ができる

司法書士に依頼するデメリット

  • 報酬の支払いが発生する
  • 進捗管理が司法書士任せになる
  • 専門性の高い資格者を探すのに手間がかかる

自分で贈与登記申請する手順と必要書類

贈与登記の申請を自分で行うときは、現在の登記簿の状態を確認したあとに、必要書類を漏れなく揃えて法務局に提出する必要があります。贈与登記による名義変更完了までの大まかな流れを説明すると、以下の通りです。

  1. 登記事項証明書を取得する
  2. 贈与契約書を作成する
  3. そのほかの添付情報を揃える
  4. 登記申請書を作成する
  5. 管轄の法務局に提出する
  6. 登記識別情報を受け取る

登記事項証明書を取得する

贈与登記では、登記簿にある表示を申請書に記載し、申請対象がどの不動産なのか特定する必要があります。そこで、まずは登記事項証明書を取得しましょう。

登記事項証明書の取得は、窓口・郵送のほかにオンラインでも可能です。取得者は誰でも構いませんが、慣習的には、贈与契約したいと持ちかけた側が取得します。

贈与契約書を作成する

次に、贈与者と受贈者の間で贈与契約書を作成します。贈与契約書は契約自由の原則に従って自分たちで作成しますが、下にある記載項目は押さえましょう。

  • 贈与者と受贈者の氏名・住所
  • 贈与の対象となる不動産の表示(所在、地番、地目、面積など)
  • 贈与の時期(契約締結日など)
  • 特約事項(もしあれば)

また、贈与者と受贈者の実印を押印し、印鑑登録証明書を添付します。契約書は2通作成し、双方が1通ずつ保管します。下で紹介するのは、贈与契約書の文例です。

【贈与契約書の例】

贈与契約書


贈与者〇〇〇〇(住所・氏名)(以下「甲」という)と、受贈者 △△△△(住所・氏名)(以下「乙」という)とは、下記の不動産(以下「本物件」という)について、次の通り贈与契約を締結する。


第1条(贈与の内容)
甲は、本物件を乙に贈与する。


第2条(贈与の目的物)
本物件の表示は次の通りである。

所在:〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
地番:〇番
地目:宅地
面積:〇〇〇.〇〇平方メートル


第3条(所有権移転の時期)
本物件の所有権は、本契約締結日をもって、甲から乙に移転するものとする。


第4条(費用の負担)
本贈与に関する費用は、すべて乙が負担するものとする。
本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。


贈与契約締結日:〇〇〇〇年〇〇月〇〇日

(贈与者)甲 住所
氏名〇〇〇〇 印

(受贈者)乙 住所
氏名△△△△ 印

上記は文例のため、以下の点を書き換えて作成しましょう。

  • 【住所・氏名】当事者それぞれのフルネームに置き換える
  • 【第2条の記載内容】登記簿にある表示の通りに記載(登記事項証明書で確認)
  • 【贈与契約締結日】贈与契約を締結する日付を西暦または年号で入れる
  • 【文末】当事者それぞれの住所を記載+手書きで署名押印

そのほかの添付情報を揃える

登記申請には、先に紹介した登記事項証明書と贈与契約書以外にも、以下のような書類が必要です。

贈与者が用意するもの

  • 印鑑登録証明書(贈与契約書に使用したもの)
  • 固定資産評価証明書(登録免許税の計算に必要)
  • 委任状(受贈者がひとりで申請する場合)

受贈者が用意するもの

  • 受贈者の住民票の写し
  • 贈与契約書
  • 登記申請書

※贈与者と協力して作成。

これらの書類は、贈与者と受贈者がそれぞれ用意する必要があります。書類に不備がないよう、余裕を持って収集しましょう。

登記申請書を作成する

登記に必要な情報と書類が揃ったら、登記申請書を作成します。法務局公式サイトから、所有権移転登記申請書の書式をダウンロードできます。

申請書には、以下の情報を記入します。

  • 申請の目的(表示の変更、所有権移転登記など)
  • 不動産の表示(所在、地番、地目、面積など)
  • 贈与者の氏名・住所
  • 受贈者の氏名・住所
  • 登記原因(令和〇年〇月〇日贈与)
  • 添付書類の目録
  • 登記識別情報の提供

また、登録免許税の金額に応じた収入印紙を貼付する必要があります。収入印紙は、法務局や郵便局で購入できます。

管轄の法務局に提出する

管轄の法務局(登記所)に提出する_イメージ

作成した登記申請書と添付書類一式を、不動産の所在地を管轄する法務局・登記所に提出します。提出方法は、直接窓口に持参する方法と、郵送する方法の2つがあります。申請用ソフトのインストールなどの事前準備があれば、オンライン申請も可能です。

申請が受理されると、登記官による審査が行われます。審査に通れば、登記が完了します。

登記識別情報を受け取る

登記が完了すると、登記完了証と新しい登記識別情報が、法務局から郵送されてきます。登記識別情報は、次の登記申請において所有者である旨を証明する書類です。売却や贈与、相続に備え、重要書類として保管しておきましょう。

贈与登記にかかる費用

贈与登記を行う際には、登記申請に必要な費用が発生します。登記申請時に納付する登録免許税に加えて、受贈者が負担する贈与税や不動産取得税などの税金があります。ここでは、贈与登記にかかる費用について、詳しく解説します。

必要書類の収集費用

登記申請にあたっては、贈与した人・もらった人それぞれの市区町村役場で請求すべき書類があります。各書類の交付手数料の相場を紹介すると、下の表の通りです。

書類名称 取得費用
住民票の写し 200円~300円
印鑑登録証明書 200円~300円
固定資産評価証明書 200円~400円
登記事項証明書 480円~600円

ここで、先に紹介した自分で贈与登記をする手順に沿い、それぞれの必要書類の取得費用を試算してみましょう。いずれも少額ではあるものの、ほかに交通費や郵便料金・電話料金もかかることは考慮したいところです。

贈与者の負担

登記事項証明書+印鑑登録証明書+固定資産評価証明書=800円~1000円

受贈者の負担

住民票の写し=200円~300円

贈与契約書に貼る印紙代

贈与契約書は「課税文書」に該当し、印紙税法に基づいて課税額相当の収入印紙を貼り付ける必要があります。収入印紙代の負担は、贈与する人・もらう人のどちらが負担しても構いませんが、下記のように、契約金額(贈与した不動産の評価額)に応じて高額になる点に留意しましょう。

記載された契約金額 税額
10万円を超え50万円以下のもの 200円
50万円を超え100万円以下のもの 500円
100万円を超え500万円以下のもの 1000円
500万円を超え1000万円以下のもの 5000円
1000万円を超え5000万円以下のもの 1万円
5000万円を超え1億円以下のもの 3万円
1億円を超え5億円以下のもの

6万円

5億円を超え10億円以下のもの 16万円
10億円を超え50億円以下のもの 32万円
50億円を超えるもの 48万円

登記申請時の登録免許税

登記申請を行う際には、実質的な申請手数料にあたる登録免許税を納める必要があります。贈与を原因とする登記の登録免許税の課税額は、不動産の固定資産税評価額の2%です。

たとえば、固定資産税評価額が3000万円の不動産を贈与する場合、以下のように計算します。

3000万円×2%=60万円

受贈者が負担する贈与税

受贈者が負担する贈与税_イメージ

贈与登記が完了すると、受贈者に贈与税が課税されます。贈与税は、毎年1月1日から12月31日までの贈与価額について、翌年の2月1日から3月15日までに、受贈者の住所地の所轄税務署で申告・納付しなければなりません。

贈与税の課税方式には2種類あり、特に選択しない場合は暦年贈与です。親子間での贈与など、一定の場合に当てはまれば、相続時精算課税を選択することもできます。

暦年課税

1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額につき、基礎控除額110万円を差し引いた金額に対して、下の表にある税率を乗じて求めます。

課税価格 税率
200万円以下 10%
300万円以下 15%
400万円以下 20%
600万円以下 30%
1000万円以下 40%
1500万円以下 45%
3000万円以下 50%
3000万円超 55%

相続時精算課税

60歳以上の祖父母・父母から贈与を受けた場合に選択できる制度で、贈与を受けた年の贈与財産に相続時精算課税を適用した場合、特別控除2500万円までは非課税です。控除額を超えた分については、一律20%で課税されます。令和6年1月1日以降の贈与については、法改正により、暦年贈与の毎年110万円の控除(相続税の課税対象外)と併用できます。

相続時精算課税制度は一見お得に見えますが、注意点もあります。任意で選択できるものの暦年課税には戻せない点や、選択した年以降の贈与価額がすべて相続税の課税対象となる点です。

受贈者が負担する不動産取得税

不動産を取得した場合、受贈者は市区町村に不動産取得税を納付する必要があります。不動産取得税の税率は、原則として不動産の固定資産税評価額の4%ですが、令和6年3月31日までに取得した住宅および土地については3%に軽減されています。

贈与登記を自分で行うときの注意点

贈与登記を自分で行うときの注意点_イメージ

贈与登記を自分で行う場合、手続の流れや必要書類など、さまざまな点に注意が必要です。特に、相続登記との違いや、借地権の扱い、登記の遅延による影響など、専門的な知識が求められる部分もあります。ここでは、贈与登記を自分で行うときの注意点について、具体的に解説していきます。

相続登記より登録免許税が高くなる

贈与登記と相続登記は、どちらも不動産の所有権移転登記ですが、登録免許税の税率が異なります。相続登記の登録免許税の税率は0.4%ですが、贈与登記の場合は2%とのように、大きく差があります。

また、相続登記には下記のような特例措置がありますが、贈与税には存在しません。生前贈与したい場合だと、譲渡する・名義を変えるときのコストが相続に比べてかなり高くなってしまう恐れがあります。

  • 土地の固定資産税評価額が100万円以下の場合、登録免許税が非課税となる
  • 相続人が配偶者や親族のみである場合、登録免許税の税率が0.2%に軽減される

借地権の贈与登記は地主の承諾書が必要

借地上の建物を贈与する場合、建物の所有権移転登記と同時に、借地権の贈与登記が必要となります。借地権の贈与登記を行うためには、地主(土地の貸主で底地の所有権を持っている人)の承諾書が必要です。

承諾書には、以下の内容を記載し、地主の印鑑登録証明書を添付して渡してもらいます。

  • 借地権の目的となる土地の表示(所在、地番、地目、面積など)
  • 借地権の種類(普通借地権、定期借地権など)
  • 借地権の存続期間
  • 地代の額および支払方法
  • 地主の氏名・住所

地主の承諾を得られない場合、借地権の贈与登記はできません。贈与登記の手続を進める前に、必ず地主の同意を得ておく必要があります。

登記を遅らせると余分に課税される恐れがある

贈与された不動産の登記期限は特に設けられていません。しかし、登記を遅らせたり、登記を怠ったりすると、余分に課税されたり追徴課税を受けたりする恐れがあります。追徴課税とは、申告がもれていた課税分がある場合に、本来の課税額に加算税を加えた額の納付を求められることです。

たとえば、父から子へ不動産を贈与したにもかかわらず、長年にわたって贈与登記を行わなかった場合、以下のような問題が生じる可能性があります。

  • 当該不動産が父の相続財産に含まれてしまい、相続税の課税対象となる
  • 税務調査で未登記の贈与財産を指摘される

贈与登記の手続は司法書士に依頼するのがベター

贈与登記は当事者らで自ら行えますが、相応の手間と専門知識が求められます。登記申請にあたって贈与契約書の作成を自分たちで作成しなければならない点や、迅速に登記を行う必要がある点など、対応で苦慮しがちなポイントが多く含まれます。

登記を専門とする司法書士は、必要書類の作成・収集から登記完了まで、適切かつ速やかに対応できます。本記事では紹介しなかった「そもそも生前贈与が必要なのか」や「いつ贈与するのがお得なのか」といった悩みにも対応できます。登記申請を自分で行う前に、最低限、司法書士に相談しておくと安心です。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

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