贈与登記とは?手続の流れや必要書類・費用・税金について解説

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贈与登記とは

贈与登記とは、無償で譲渡された土地や建物について、元の所有者からもらった人へと名義変更するための手続です。親子・夫婦間などの近しい間柄で譲るときも、公に所有者の変更を証明するためにかかせません。

贈与の状況も生前・死亡時・死後の3パターンがあり、贈与登記の申請書類を作るときに「どの贈与に該当するのか」を理解しておく必要があります。ここからは、まず基本を押さえましょう。

そもそも「贈与」とは何か

贈与とは、ある人から別の人へ、所有する財産を無償で譲渡することです。財産を提供する側を贈与者、もらう側を受贈者と呼びます。

さらに言えば、贈与には種類があります。所有者の生前に実行する通常の贈与と、死亡したときに贈与すると約束する死因贈与です。死亡したときに財産が無償譲渡される契約を区別すると、贈与契約書によるものを「死因贈与」と呼ぶのに対し、遺言で指定するものが「遺贈」と言います。

贈与の種類 贈与の手段 贈与のタイミング
通常の贈与 口頭もしくは贈与契約書 契約締結時
死因贈与 口頭もしくは贈与契約書 贈与者の死亡時
遺贈 遺言書 贈与者の死亡後

ここで整理できた贈与の意味は、贈与登記を行うときの書類作成で重要性を帯びます。登記申請では、書面を作成するとき、登記の原因として「法律上どんな権利の変化があったのか」を具体的にする必要があるためです。

親子・夫婦間での譲渡も贈与扱いになる

贈与は、他人の間で行われることもあれば、親子や夫婦といった親族間で行われることもあります。無償で財産を譲る性質から、どちらかと言えば親族間が多いでしょう。いずれの場合であっても、不動産が贈与の対象であれば、ここから解説する「登記」の手続が必要です。

不動産を贈与した場合は名義変更が必要

土地や建物を贈与すると、当然に贈与者から受贈者へと所有者が変わります。ただし、所有者が変わったことを公に証明するには、贈与契約とは別に名義変更手続が必要です。名義変更が済むまでは、贈与者が依然として所有者であるとみなされ、二重に譲渡される・売却されるなどのリスクを負います

不動産の名義変更は登記申請で行う

不動産の名義変更は、法務局での登記申請で実現させます。登記とは、不動産の所在、所有者、権利状況につき、法務局が管理する「登記簿」に最新の状況を記載してもらうための手続です。

贈与した不動産は、登記申請するまで、公には贈与者が登記名義人のままです。そこで、贈与登記(贈与を原因とする所有権移転登記)を行い、権利が変化した原因・年月日と共に新しい登記名義人を記載してもらう必要があります。

贈与登記の申請が必要となるケース

贈与登記が必要となるケースは実にさまざまですが、よくある場合として下記のようなものが挙げられます。

  • 夫名義の自宅を妻に譲るようにして、名義変更しておきたい
  • 親名義の更地を子に譲り、住宅用地として使ってもらいたい
  • 祖父母名義のマンションを孫に譲り、自宅や通学の拠点として使わせたい
  • 個人名義の不動産を法人名義にして、事業用地として使っていきたい

これらのケースでは、贈与契約を締結して不動産の引渡しを行ったあと、贈与者と受贈者で協力して贈与登記しなければなりません。

贈与登記の申請は、贈与者と受贈者で協力し、自分たちで共同で行えます。受贈者ひとりでも対応できますが、その場合は贈与者から委任状を渡しておく必要があります。実際には司法書士に依頼して登記申請を代行してもらう場合も多く、代行時には贈与者・受贈者それぞれの委任状が必要です。

贈与登記の手続の流れと必要書類

贈与登記の手続の流れと必要書類_イメージ

不動産の贈与登記では、必要書類や収入印紙を用意し、法務局で申請しなければなりません。登記が完了したあとも含めて手続の流れを大まかに整理すると、次のようになります。

  1. 必要書類を集める
  2. 管轄の法務局に提出する
  3. 登記識別情報を受け取る
  4. 贈与税申告・納付を実施する

必要書類を集める

贈与登記を実施するには、法務局公式サイトなどに掲載されている書式をもとにした登記申請書のほかに、添付情報も必要です。用意すべき人ごとに必要書類を整理すると、次のようになります。

贈与者が用意するもの

  • 登記済証または登記識別情報(不動産を取得したときに得たもの)
  • 印鑑登録証明書(贈与契約書で使った実印によるもの)
  • 固定資産評価証明書※1

受贈者が用意するもの

  • 受贈者の住民票の写し
  • 登記事項証明書※2
  • 贈与契約書※3
  • 登記申請書※3

※1:登録免許税の計算に必要です。
※2:贈与者に取得を依頼しても構いません。
※3:贈与者と協力して作成します。

管轄の法務局に提出する

必要書類が揃ったら、不動産の所在地を管轄する法務局に登記申請を行います。登記申請は、受贈者が自分で行うことも、司法書士などの専門家に依頼することもできます。申請書類を提出する際は、登録免許税の課税額相当の収入印紙を購入し、登記申請書に貼り付けます。

なお、申請方法は窓口だけとは限りません。現地から遠い場合は郵送で書類提出することも可能であり、事前準備が出来ていればオンライン申請も可能です。

登記識別情報を受け取る

登記申請が受理され、審査を経て登記が完了すると、その通知と一緒に登記識別情報が受贈者のもとに送られてきます。次回の登記申請で所有者である旨を証明するための重要書類です。登記識別情報は目隠しシールを剥がさないようにして、次の売買・贈与・相続の際に備え、大切に保管しておきましょう

贈与税申告・納付を実施する

不動産を取得した翌年には、贈与税が課税されます。贈与税の申告・納付義務を負うのは受贈者で、毎年2月1日から3月15日までに住所地の所轄税務署で手続しなければなりません。贈与税の課税額は課税方法の選択などによってケースバイケースになるため、このあと費用に関する項目として解説します。

贈与登記の費用

贈与登記の費用_イメージ

不動産の贈与登記を行う際には、必要書類の収集費用や登録免許税が必要です。贈与登記とは直接関係ないものの、受贈者につき、財産を得たときの贈与税・不動産取得税や、土地・建物に対して継続的に課税される固定資産税などの負担があることも見過ごせません。

贈与登記の費用をトータルで見て内訳を解説すると、以下のようになります。

必要書類の収集費用

贈与登記にあたっての必要書類は、それぞれ交付手数料がかかります。市区町村役場で負担する手数料を書類名称ごとにまとめると、下の表の通りです。

書類名称 取得費用
住民票の写し 200円~300円
印鑑登録証明書 200円~300円
固定資産評価証明書 200円~400円
登記事項証明書 480円~600円

表にある手数料を踏まえると、贈与者・受贈者ともに1000円前後の負担があるでしょう。

注意したいのは、贈与契約書に貼り付ける収入印紙代です。課税文書にあたるため、印紙税法により所定の課税があり、契約書記載の不動産評価額が5000万円以下であれば200円から1万円までの範囲の金額となります。

登記申請時の登録免許税

贈与登記を申請するときは、手数料にあたる登録免許税を納付しなければなりません。金額は固定資産税評価額の2%となり、必要経費のなかで大きなウェイトを占めがちです。課税額の例を挙げてみましょう。

3000万円の自宅を贈与する場合

3000万円×2%=60万円

5000万円の自宅を贈与する場合

5000万円×2%=100万円

贈与税

不動産を贈与により取得した場合に受贈者が申告・納付義務を負う贈与税は、基礎控除額110万円を超える部分について課税されます。課税額がある場合の税率は10%から55%です。税額控除については、祖父母・父母から成人した子・孫への贈与(特例贈与)か、そうでない贈与(一般贈与)かで異なります。

【贈与税の税率(暦年贈与の場合)】

贈与価額 税率 一般贈与の控除額 特例贈与の控除額
200万円以下 10% なし なし
300万円以下 15% 10万円 10万円
400万円以下 20% 25万円 30万円
600万円以下 30% 65万円 90万円
1000万円以下 40% 125万円 190万円
1500万円以下 45% 175万円 265万円
3000万円以下 50% 250万円 415万円
3000万円超 55% 400万円 640万円

なお、贈与税には、次のように相続対策としての生前贈与がしやすくなる優遇措置があります。個人で行う不動産の贈与は親子・夫婦間が多い点から、活用できる可能性は高いと言えます。

相続時精算課税の選択

60歳以上の祖父母・父母から成人した子・孫に贈与する場合は、課税方式を暦年贈与から「相続時精算課税」に切り替えることが可能です。切り替えを行うと、相続開始までの通算で2500万円まで非課税となり、その間の贈与価格がすべて相続税の課税対象となります。令和6年1月1日からは、暦年贈与の非課税枠分と併用できるようになりました(左記の毎年110万円の分は相続税が課税されません)

夫婦間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

夫婦間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除_イメージ

配偶者に居住用不動産を贈与する・配偶者名義に変えるなどといった行為では、暦年贈与の基礎控除額に2000万円の上乗せを行えます。対象となるのは、婚姻期間20年以上の夫婦で、贈与翌年3月15日まで受贈者が居住する(そのあとも引き続き居住する)見込みがあるときです。

不動産取得税

そのほかにも、受贈者には不動産取得税も課税されます。不動産取得税の課税額は、課税標準額である固定資産税評価額の4%となります。なお、譲渡したのが住宅であれば、新築・中古それぞれの要件で不動産取得税の軽減措置があります。

不動産取得税の新築住宅特例

床面積50平方メートル以上240平方メートル未満の住宅は、課税標準額につき、1200万円を控除できます。面積要件の下限は、集合住宅で賃貸中の物件に限り40平方メートルとなります。

不動産取得税の中古住宅特例

床面積50平方メートル以上240平方メートル未満で、受贈者が自分で住むための中古住宅を取得する場合が対象です。一定の要件(築年数や耐震基準など)を満たすことで、課税標準額につき建築した年に応じて最大1200万円を控除できます。

固定資産税・都市計画税

不動産の所有者には、毎年6月頃に固定資産税および都市計画税の課税もあります。固定資産税の課税額は課税標準額である固定資産税評価額の1.4%ですが、住宅用地特例や新築住宅向けに特例があります。

固定資産税の住宅用地特例

居住できる建物の敷地(住宅用地)は、建物が存する限り、課税標準額が6分の1に軽減されます。ただし、200平方メートルを超える部分の軽減率は3分の1です。

固定資産税の新築住宅特例

居住部分にかかる床面積120平方メートルを限度として、一定の年数に渡り課税標準額を2分の1に減額する特例です。3階建以上で耐火構造の建物や、長期優良住宅に該当する建物は、減額期間を伸ばす優遇措置があります。

都市計画税は、市町村が都市計画事業などに要する費用に充てるために課す税金で、税率は0.3%以内で市町村が定めます。

不動産の贈与登記をする際の注意点

不動産の贈与登記を行う際は、特に生前贈与を前提とする場合、理解しておきたいポイントが2つあります。贈与契約書の必要性と、登録免許税の課税額です。

贈与契約書は必ず用意する

不動産の無償譲渡は口頭でも成立しますが、仮に親子や夫婦といった親密な関係であっても、合意事項は契約書として書面化しておかなくてはなりません。贈与登記の際の登記原因証明情報として必須になるだけでなく、贈与税の適正申告のための証憑としても欠かせません。

贈与契約書の作り方がわからないときは、専門家に相談しましょう。各種ウェブサイトや書籍で雛形を見つけて作ることもできますが、登記申請の内容そのほかの状況により、書くべき内容は個別に判断する必要があるからです。

相続に比べて登録免許税が高くなる

不動産の生前贈与では、死亡と同時に遺言もしくは遺産分割協議によって譲る場合に比べ、登録免許税の税率が高くなる点に要注意です。相続登記の登録免許税は税率0.4%かつ「100万円以下の土地なら免税」との措置があるのに対し、贈与登記なら税率2%で軽減措置もほとんどありません。

不動産の生前贈与・贈与登記は司法書士に相談を

贈与登記は、無償で譲った・もらった不動産につき、新しい所有者の名義に変えるための重要な手続です。たとえ親子や夫婦の間での譲渡であったとしても、契約書を作って必要書類を揃え、確実に申請を済ませなくてはなりません。この際、登録免許税や、翌年以降の課税(贈与税など)についても考えたいところです。

土地や建物を生前贈与しようとするときは、実行する前から司法書士に相談しておくと安心です。相続する場合との手続負担および費用の比較から始められるほか、結果として生前贈与を選んだ場合には、登記申請について適切な支援が得られます。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

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