遺言執行者が相続人と同一の場合に注意したいトラブルや、専門家へ依頼するメリットとは

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遺言執行者は相続人でも問題ない

遺言執行者は、故人の遺言内容を実現する役割を担うのことであり、民法には以下のように定められています。

第千十二条

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

※引用:民法第千十二条│e-Gov法令検索

遺言執行者には、預貯金の払い戻しや不動産の名義変更、財産の分配など、遺言で指示された内容を確実に実行する権限が与えられています。また、誰が遺言執行者になれるのかは、民法で以下のように定められています。

第千九条

未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。

※引用:民法第千九条│e-Gov法令検索

つまり、未成年者と破産者以外は遺言執行者になれるということなので、結論としては相続人であっても未成年者・破産者に該当しなければ遺言執行者になることができます。

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相続人を遺言執行者にした際のデメリットや注意点

法律上は相続人であっても遺言執行者になれますが、現実的には相続人が遺言執行者になることのデメリットもあります。以下、相続人を遺言執行者にした場合の主要な注意点について説明いたします。

遺言執行者以外の相続人が感じる不公平感

相続人が遺言執行者を務める場合、ほかの相続人から不信感や疑念を持たれやすい状況が生まれます。なぜなら、相続人は自分自身が相続の利害関係人であるため、「自分に有利な執行をしているのではないか」という疑いの目で見られる可能性があるからです。

この場合、遺言の内容に不満を持つ相続人が遺言無効確認訴訟を起こすなど、法的な争いに発展することも考えられるでしょう。また、遺言執行者と関係のよくない相続人からは、手続の進め方について意図的に批判されることも考えられます。

このように、相続の当事者である相続人が遺言執行者になると相続人間の不和が生じ、家族関係の悪化をもたらすリスクがあります。

遺言執行者の負担が大きくなる

相続人が遺言執行者を務める場合、相続手続に苦慮することもあります。なぜなら、相続の手続には法律や役所の手続などの専門的な知識が必要だからです。遺言執行者は、相続を進めるために戸籍謄本の取得などの手続を担います。そのため、法律の知識や法的手続の経験がないと、書類作成のミスや必要書類の添付漏れなどのトラブルが発生しやすくなります。

このように相続人への負担が大きいことを考えると、相続実務に詳しい専門家に依頼する方が確実で円滑な遺言執行を期待できます。

遺言執行者を専門家に依頼するメリット

遺言執行者を専門家に依頼するメリット_イメージ

相続人が遺言執行者を務める場合、専門知識の不足や相続人間の対立などさまざまな課題があるため、専門家へ依頼することも検討しましょう。具体的には、弁護士、司法書士、行政書士といった専門家が遺言執行者に選任される場合が多いので、以下ではこれらの専門家に依頼する際のメリットを見ていきます。

弁護士に依頼するメリット

相続が複雑な場合、弁護士の専門知識が効果を発揮します。たとえば、不動産や株式、預貯金など財産が多岐にわたる場合や相続人以外の婚外子や内縁の妻などに遺贈がある場合などは、弁護士への依頼が効果的です。

また、特に法的な専門性が求められる相続人の廃除手続や遺留分侵害額請求への対応など、遺言の有効性を巡って訴訟が起きた場合も、弁護士に依頼すれば代理人として適切に対処してもらえます。

ただし、弁護士が遺言執行者になると相続人が身構えてしまうというデメリットもあります。これは、相続の場面で弁護士が関わると、「法的な争いになるのではないか」「もめごとが起きるのでは」という不安や緊張感を与えてしまうからです。

司法書士に依頼するメリット

司法書士は戸籍調査から財産の名義変更まで、実務的な手続を確実に進められます。特に不動産登記などの登記手続は司法書士の専門分野なので、登記が絡む相続であれば司法書士への依頼が最適です。

司法書士は弁護士のように訴訟の対応ができないため、法的な争いへの対応力は限定的ですが、通常の相続手続であれば問題なく処理できます。

行政書士に依頼するメリット

行政書士は主に行政関係の手続に専門性と実務経験があり、遺産分割協議書の作成、年金・保険請求など相続実務を進められます。ただし、弁護士や司法書士と比べて職務領域は狭く、以下のような制限があります。

  • 不動産登記は司法書士に依頼が必要
  • 法的争いには弁護士の関与が必要
  • 遺留分侵害額請求など複雑な法的判断が必要な場合は対応が困難

そのため、遺産の内容が比較的シンプルで、相続人間の争いリスクが低い場合に適しています。

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遺言執行者にかかる費用相場

遺言執行者に支払う報酬は、依頼先によって大きく異なります。一般的には弁護士、司法書士、行政書士などの法律専門家に依頼するケースが多く、それぞれの職種によって報酬体系が異なり、また同じ職種でも事務所によって料金設定はさまざまです。どの事例においても、以下のような特別なケースでは追加報酬が発生します。

  • 特に複雑または特殊な事情がある場合
  • 裁判手続が必要な場合

また、料金は事務所の経験や規模、取り扱う案件の複雑さによっても異なります。特に相続人間で争いがある場合は、通常より高額になることが一般的です。そのため、依頼前に具体的な作業内容と料金について、しっかりと確認することをおすすめします。

相続人が遺言執行者である場合の費用相場

相続人が遺言執行者を務める場合、専門家への報酬とは性質が異なり、当事者間の合意で自由に決めることができます。

ただし、具体的な金額の目安として、専門家への報酬相場を参考にすることも1つの方法です。その際は、法的知識や実務経験が十分でない点などを考慮したうえで、専門家への報酬相場と比較しながら適切な金額を設定するのがよいでしょう。

なお、金額の設定方法や支払い時期については、トラブル防止のために相続人間であっても書面で明確に取り決めておくことをおすすめします。

選任するまでの流れ

遺言執行者を選任する際は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所での手続が必要です。

以下では、具体的な選任の流れについて解説します。

必要書類の準備

申し立てを行うにあたり、いくつかの必要書類があります。主な必要書類は以下のとおりです。

  • 遺言者の死亡記載のある戸籍関係書類
  • 選任予定の遺言執行者の身分証明書類(住民票など)
  • 遺言書の写しまたは検認調書謄本
  • 申立人の利害関係を証明する資料(戸籍謄本など)
  • 家事審判申立書

これらの書類は、市区町村役所での直接取得や郵送請求により入手可能です。ただし、上記は一般的な必要書類であり、必要に応じて裁判所から追加書類の提出を求められる場合もあります。なお、遺言執行者を選任する遺言書には、以下のような記載をします。

遺言書



第1条 私は、以下の不動産を長男〇〇〇〇に相続させる。


1.東京都〇〇区〇〇町1-2-3所在の土地

地積   〇〇平方メートル

2.前項記載の土地上に存する建物
家屋番号 〇〇番〇
種類   居宅
構造   木造瓦葺2階建
床面積  1階〇〇平方メートル、2階〇〇平方メートル


第2条 私は、〇〇銀行〇〇支店普通預金口座(口座番号〇〇〇〇〇〇〇)の預金債権全額を次女〇〇〇〇に相続させる。


第3条 前2条に定めるもの以外の遺産については、長男〇〇〇〇と次女〇〇〇〇で均等に分割して相続させる。


第4条 本遺言の執行については、以下の者を遺言執行者として選任する。なお、当該司法書士には事前に相談のうえ、承諾を得ている。相続が開始された際は、速やかに本人へ連絡することとする。

事務所 東京都〇〇区〇〇町1-2-3 〇〇司法書士事務所
執行者 〇〇〇〇
電話  〇〇〇-〇〇〇-〇〇〇〇


第5条 遺言執行者への報酬として、遺産総額の〇%を支払うものとする。 また、遺言執行に必要な諸経費については、上記報酬とは別に実費精算とする。



〇年〇月〇日

住所 東京都〇〇区〇〇町1-2-3
遺言者 〇〇〇〇 印

申立書の記入

家事審判申立書を事前に記入し、用意しておく必要があります。裁判所公式サイトに申立書の記載例があるので、こちらを参考にして記入しましょう。

記載時のポイントをまとめると、以下のとおりです。

  • 事件名:「遺言執行者選任」と記入
  • 申立人:住所、氏名、職業などを漏れなく記入
  • 申し立ての趣旨・理由:遺言の日付や内容、希望する遺言執行者の情報を記載
  • 申立手数料:800円分の収入印紙を貼付

申立書の提出

申立書は管轄の家庭裁判所に提出します。提出は平日の業務時間内に行う必要がありますが、裁判所によって受付時間が異なるため事前に確認しておきましょう。また、申し立てに関して不明な点がある場合、家庭裁判所の手続案内窓口で相談することができ、手続に慣れた裁判所の職員からアドバイスを受けることも可能です。

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遺言執行者を解任・辞任する方法

遺言執行者に指名された方や相続人の方にとって、遺言執行者の地位に関する変更が必要になる場合があります。たとえば、遺言執行者としての職務を続けることが難しい状況に直面したり、執行者の職務遂行に問題が生じたりする場合です。

このような状況に対応するため、民法では遺言執行者の解任と辞任の制度が設けられています。ここでは、遺言執行者に指名された方や相続人の方に向けて、解任・辞任の具体的な手続と必要な要件について説明していきます。

遺言執行者を解任する手続

遺言執行者の解任については、以下のような流れになります。

  • 家庭裁判所への申し立て
  • 必要書類の準備と提出
  • 審判と決定
  • 審判書の受領

相続人や受遺者などの利害関係者が管轄の家庭裁判所に申立書を提出するという流れは、選任の場合と同様です。

また、申し立てに必要な書類も遺言執行者選任の場合とほぼ同様ですが、解任は解任を求める具体的な理由や経緯を申立書に記載する必要があります。そして、家庭裁判所は申し立ての内容を審査し、遺言執行者本人からも事情を確認したうえで解任の可否を判断します。解任が認められた場合は審判書が発行され、これをもって手続が完了します。

遺言執行者を辞任することも可能

遺言執行者の辞任も解任と同じく家庭裁判所の許可が必要であり、手続の流れなどは基本的に同様です。また、辞任の場合でも辞任に至る正当な理由が求められます。承認されやすい内容としては以下のようなケースがあります。

  • 病気や健康上の理由
  • 長期の海外赴任などによる不在
  • 相続人間の深刻な対立により職務遂行が著しく困難な状況

申し立て後も、家庭裁判所による許可が下りるまでは職務を誠実に遂行する義務があります。そして、この義務を怠ると相続人などから損害賠償を請求される可能性があります。

遺言執行者に関するお悩みなら司法書士へ

遺言執行者には相続人もなることができますが、専門知識の不足や相続人間の対立リスクを考慮すると、中立的な立場の専門家に依頼することが望ましいと言えます。しかし、対応できる業務は職種によって異なるため、案件の複雑さや財産規模に応じて選択することが重要です。

当事務所の司法書士は、遺言執行に関する豊富な実務経験を活かし、ご依頼に添った丁寧なサポートを心がけております。遺言執行についてご不安やご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。ご状況に応じた最適なアドバイスをいたします。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載