遺言執行者とは?役割から選任方法、必要な報酬などを詳しく解説

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遺言執行者とは

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理や遺言の執行に必要な一切の権利義務を有する立場の者です。より簡単には、遺言者の死後、遺言書の内容に沿った遺産の名義変更を行うよう指定される人物を指します。

遺言執行者がいるケースでは、相続人自ら財産を承継するための手続を行う必要がなくなり、死後事務と税務申告を除いて指定された人物に手続を任せられます。

遺言執行者の役割と存在意義

遺言執行者の役割で誤解を避けたいのは、遺言を実現するための行為そのものについて権限が与えられている点です。相続人が行う手続の管理、監督ではなく、自ら遺産の名義変更などを行えます

ほかに注意したいのは、遺言執行者は必須というわけではなく、指定するか・しないかは原則として任意である点です。法律で必要とされる場合を除き、遺言執行者になる人がいなくても構いません。その場合は、自分たちで遺産の名義変更を進めることになります。

遺言執行者が負う義務

遺言執行者になることを承諾した人には、その職務を果たすため、複数の義務が課せられます。大前提として、委任を受けた者として、善良な管理者の注意をもって事務(善管注意義務)にあたらなくてはなりません。被相続人や家庭裁判所によって指定され、就職を受け入れた場合に行うべきこととして解説しますが、実務の面では、遺言内容の通知や財産目録の作成といった義務もあります。

さらに、遺言執行者の仕事に関しては、その状況を相続人に報告し、利益を受け取った場合には相続人に引き渡す義務があります。とりわけ遺産の取り扱いには注意を払う必要があり、万が一にも遺言執行以外の目的で費消してしまった場合には、利息を上乗せして返還しなくてはなりません。

遺言執行者を指定・選任するメリット

有効な遺言書がある相続事例では、遺言執行者が職務にあたることで、相続人の負担を減らすメリットがあります。遺産の名義変更を指定された人に任せることで、それぞれの家事や仕事に専念でき、普段とほとんど変わらない日常を過ごすことができます。

相続人の負担軽減は、遺言者の意思の実現性にも貢献するでしょう。「面倒だから」などといった理由で遺言執行せずに放置されてしまう可能性や、手続の誤りを巡る相続人同士のトラブルについて、リスクを大幅に軽減できます。

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遺言執行者を選任すべきケース・不要なケース

遺言執行者の指定の要否については、相続の状況を3つのパターンに分けて判断しなければなりません。基準となるのは、遺言書の内容と、相続財産および相続人の状況です。最初に状況を分類すると、次のとおりです。

  • 法律で指定・選任が義務付けられているケース
  • 選任は義務ではないが、した方が良いケース
  • 遺言執行者の選任が不要なケース

法律で選任が義務づけられているケース

遺言事項のなかには、法律上「遺言執行者でないと実現できない」とされるものがあります。その内容として、相続人の変更に関することと、法人の設立に関することが挙げられます。

子の認知を遺言で行う場合

非嫡出子の認知は遺言で行えますが、その実現は、遺言執行者が就職の日から10日以内に届出を行う必要があります。

相続人の廃除・取り消し

遺言者の意思で相続人から権利を失わせたり(廃除)、これを取り消したりする場合には、遺言の効力が生じた後、遅滞なく遺言執行者によって家庭裁判所に請求しなければなりません。

一般財団法人の設立

遺言では、相続財産を利用して一般財団法人を設立することが認められています。ただし、その実現にあたっては、法律の定めにより、速やかに遺言執行者によって定款を作成するなどの手続を行う必要があります。

遺言執行者を選任した方がよいケース

遺言執行者でないと実現できない遺言事項がない場合であっても、状況によっては指定した方が良いと考えられます。具体的な状況としては、下記が挙げられます。

相続人の都合で手続対応が難しい場合

居住地が遠い、未成年者や高齢者が含まれている、相続人同士の仲が悪いなどは、遺言執行者に一任するのが適切です。

相続の状況が複雑な場合

相続人が多数いる場合や、不動産やその他投資用資産が多数ある場合などは、知識を有する人に遺言執行を任せた方が良いでしょう。

特殊な事情がある場合

事業承継(株式や事業用資産の相続)を含む場合などは、会社法そのほかの知識のある人が遺言執行に臨む状況だと安心です。

遺言執行者の選任が不要なケース

遺言執行者を選任するとなると、適切な候補者を挙げる必要があり、さらに報酬もかかります。

相続人自身で遺言の内容を実現させられそうなときは、無理に遺言執行者を立てる必要はありません。具体的には、相続人が少数かつ相続財産の構成が単純な場合や、相続人同士で手続のため協力できる状況が整っている場合などが挙げられます。

もっとも「所有権変更にあたって取り扱いの難しい財産が見つかった」「相続人が急病で倒れて手続対応が難しくなった」などといった事情の変更は考えられます。遺言執行者の必要有無について判断が難しい場合は、司法書士などの専門家に相談してみるのも良いでしょう。

遺言執行者に指定されたら行うこと

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遺言執行者の指定でよくあるのは、遺言者との関係の近さや家庭との関わりを基準に選ばれるケースです。このようにして指定された人は、専門資格や経験がないため「何をすればいいのかわからない」と悩むことになるでしょう。以下では、法律で定められた職務を含め、遺言執行者として選ばれた場合に行うべきことを解説します。

遺言執行者に就職した旨の通知

遺言執行者に指定・選任されたときは、その職務を承諾(就職)するか否かを判断します。そして、就職する場合は、法律の定めにより、遅滞なく相続人全員に通知しなければなりません。通知は書面で行い、就任した旨、遺言の内容、今後の手続の予定などを伝えます。

財産目録の作成と交付

法律では、遺言執行者の就職に関する通知義務のほかに、財産目録の作成および相続人への交付も遅滞なく行う必要があると定められています。そこで必要なのが、不動産、預貯金、有価証券、動産などのすべての遺産に対する調査です。不動産であれば登記簿や課税台帳の閲覧、預貯金であれば残高証明書の取得などといった方法で調査し、調査結果をまとめた書面で相続人に配りましょう。

相続人調査・戸籍謄本の収集

必要がある場合は、相続人を正確に把握するため、遺言執行者の権限で戸籍謄本の調査も行います。連絡がとれない相続人がいる場合は、戸籍附票で住所も調べましょう。調査では、民法で定める法定相続の知識が必要です。また、取得した戸籍謄本は、遺産の名義変更手続でも必要となるため、大切に保管しましょう。

遺言執行のための必要書類収集

遺言執行にあたっては、遺言書の原本または謄本や、被相続人および相続人の戸籍謄本のほか、遺産を承継する人の住民票などといった書類が必要です。認知・相続廃除といった遺言事項がある場合には、家庭裁判所に提出するための家事審判申立書の作成も必要となります。遺言の内容を確実に実現できるよう、これらの必要書類を不備なく集めなくてはなりません。

遺言執行・業務報告

遺言執行の方法は、遺産の構成および遺言事項によってさまざまです。遺産の名義変更については、不動産なら法務局、預貯金や証券であれば各種金融機関で、それぞれの窓口で実施しなければなりません。家庭裁判所への申し立てが必要な手続では、受理証明書などの受け取りによって遺言事項が実現します。

遺言執行のための手続が終わり、遺産の帰属先などについて遺言者の意思が実現した段階では、収支などについて報告書を作成し相続人に交付しなければなりません。なお、報酬の定めがある場合は、原則として遺言執行が終わった段階で受け取ることができます。

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相続開始後に遺言執行者が必要となった場合

遺言執行者の指定は遺言で行うのが一般的ですが、指定する方法はほかにもあります。必要であれば、相続開始後に家庭裁判所に選任してもらうことも可能です。遺言執行者が指定されていない遺言書の取り扱いは、以下のように行うと良いでしょう。

遺言執行者の選任申し立ての方法

遺言執行者を選任するための申し立ては、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。申し立ての時期に制限はありませんが、遺産分割を早々に終えられるよう、相続開始後なるべく早い段階で行いましょう。申し立ての要件は下記のとおりです。

遺言執行者の選任を申し立てられる人

  • 相続人
  • 遺言者の債権者
  • 遺贈を受けた人
  • そのほかの利害関係人

※いずれか1人が申し立てれば選任のための審理が行われます。

申し立てに必要な書類(以下すべて)

  • 家事審判申立書
  • 遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本
  • 遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票
  • 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
  • 申立人の利害関係を証明する書類

※相続人であれば相続関係がわかる戸籍謄本、債権者であれば金銭貸借契約書など

申し立て費用

遺言書1通につき800円+連絡用の郵便切手代

遺言執行者になれる人とは

遺言執行者を選任してもらう場合、特別な職業資格などは不要です。破産者でない成人であれば誰でも遺言執行者になることができます。もっとも、職務にあたって相続法や不動産登記法などの知識および実務スキルが求められることを踏まえると、司法書士などの専門家が適任だと言えます。

遺言執行者への報酬

遺言執行者の職務は、本来であれば複数の相続人が協力して行う内容であるため、相当の負担となります。そのため、指定されたのが専門家か否かにかかわらず、相応の報酬を定めて支払うのが一般的です。その金額や負担はどうなっているのでしょうか。

遺言執行者の報酬の決め方

遺言執行者の報酬を決める方法は3つです。もっとも無難なのは遺言書で報酬を指定する方法で、当事者が金額に納得すれば手続が増えることはありません。また、遺言書で報酬の指定がない場合は、相続人と遺言執行者で協議して金額を定める必要があります

そして、遺言書で指定された報酬額だと足りない場合や、報酬を決めるための協議が整わない場合は、家庭裁判所に申し立てることで決定が下ります。報酬額の基準としては、遺産の規模、遺言執行の複雑さ、所要時間などが考慮されます。

遺言執行者の報酬は誰が負担するのか

遺言執行者に支払う報酬は、誰か特定の人の負担に属するわけではなく、遺産から支払います。遺産分割により、結果的には相続人が平等に負担することになるとも言えるでしょう。支払う報酬は遺言執行のための費用にあたり、その費用は「相続財産の負担とする」ことが法律で定められているためです。

就職者別の報酬相場

遺言執行者の報酬相場は、その職業によって大きく異なります。弁護士や司法書士が遺言執行者となる場合、一般的に遺産総額の3%から5%程度が報酬の目安です。ただし、最低報酬額が設定されていることも多く、遺産額が小さい場合でも一定の報酬が発生します。信託銀行の場合、基本手数料に加えて遺産額に応じた報酬が設定されることが多く、最低報酬額は30万円程度からとなっています。

一方、一般人が遺言執行者になる場合、報酬は比較的低額に設定されることが多いと言えます。実際のところ、特に遺言書で特定の相続人が指定されるケースでは、無報酬とすることも珍しくありません。ただし、労力に見合う対価がないと後述の方法での辞任に繋がる恐れがあるため、できるだけ有償とすべきでしょう。

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遺言執行者について知っておきたいポイント

遺言執行者の指定や就職では、予想外の事態に備えて知っておくと良いポイントがあります。遺言執行者の解任・変更や、その指定の柔軟性に関する点です。具体的には、以下のようなことが言えます。

遺言執行者は解任・辞任が可能

遺言執行者は一度選任されても、特定の条件下では解任が可能です。解任の条件としては、遺言執行者が職務を怠った場合や、不適切な行為を行った場合などが挙げられます。解任の手続は、相続人や利害関係人が家庭裁判所に申し立てを行うことで進められます。

ほかには、遺言執行者自身が辞任を希望する場合も、正当な理由があれば認められます。この場合も、家庭裁判所に請求し、その許可を得なくてはなりません。

遺言執行者の指定方法は色々ある

遺言執行者の指定は「特定の誰か」とは限りません。あとから2人目の選任の申し立てをするなどして複数人を指定し、共同で職務にあたってもらうことも可能です。2人以上の遺言執行者が指定されるケースでは、任務の執行につき、遺言執行者の過半数の同意で進められます。

また、遺言執行者は、自然人(個人)とも限りません。商業登記簿などを必要書類として提出し、法人を指定することも可能です。会社経営者や不動産賃貸業を法人化しているケースでは、遺産に事業に関する財産が含まれることを踏まえて、会社を指定することもあるでしょう。

遺言執行者には復任権が認められる

遺言書で別段の意思の表示がある場合、遺言執行者から第三者に職務を預けることが可能です。よくあるのは、相続人のうちの1人が遺言執行者に指定されたものの、実際には都合により職務にあたることが難しいため、司法書士などの専門家に依頼するケースです。

なお、上記例のように「やむを得ない事由」によって第三者に任務を負わせるときは、相続人に対して負う責任が制限されます。すなわち、遺言執行者は、任務を行わせる第三者の選任および監督のみ責任を負うものとされます。

遺言執行者の選任で円滑な相続を実現

遺言執行者は、遺産分割など遺言の実現にあたるため、必要な権利と義務を課せられた立場です。原則として必須ではありませんが、遺言執行者がいることで、相続人の負担は減り、遺言者視点では遺言内容の確実な実現が期待できるようになります。

有効な遺言書があるケースでよくあるのは「遺言執行者に指定されたが今後の手続がわからない」といったケースです。指定がないケースでも、必要性の判断に迷った末、自分たちで相続手続を進めて壁にぶつかる場合がよく見られます。遺言執行に関して不安がある場合は、ひとまず司法書士などの実務の専門家に相談し、今後について方針を立てると良いでしょう。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載