生前の相続準備で費用や負担を軽減!覚えておきたい親の没後からの登記手続までの流れ

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相続手続において義務化された「相続登記」とは

相続登記の義務化は、令和6年4月1日から施行された新しい法律で、これまで任意であった相続登記を義務化するものです。具体的には、亡くなった方の土地や建物を相続した場合、相続人は原則として3年以内に所有権移転の手続を行わなければなりません。この申請を怠ると10万円以下の過料が科せられます。

この制度が導入された背景には、国内で「所有者不明土地」の問題が深刻化していることがあります。現在、全国の土地の約24%が所有者不明土地であり、都市開発や防災対策への支障や、建物の倒壊などによる周辺住民への悪影響が深刻化しています。相続登記の義務化はこの問題を解決するために導入されました。

近年、相続登記に関連する新たな制度が次々と施行されており、これにより自身の状況に応じた手続の選択肢が広がりつつあります。あわせて、相続による不要な出費やトラブルを避けるためには生前からの準備も大切になってきます。次項からは生前にやるべきことや相続時の流れ、相続登記にまつわる制度などについて解説していきます。

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親の生前時に確認すべき点

相続の準備は生前から行えるものがあります。事前に準備しておくことで、実際の相続手続が円滑になり、残された人たちの負担が大きく軽減されることが見込めます。

確認すべきリストと流れ

下記は親が生前時に確認しておきたい項目になります。

  • 預貯金や借金などの資産状況の確認
  • 親の相続人となりえる人物とその所在地を把握
  • 相続人間で相続財産の方針を定めておく
  • 遺言書の作成
  • 親の世話(介護など)を担っている相続人の対応記録
  • 生前贈与の検討

預貯金や借金などの資産状況の確認

まずは親の財産状況を正確に把握しておきましょう。具体的には預貯金、不動産、株や投資信託、保険の有無や借金などが挙げられます。事前に整理しておくことで、相続発生後の手続もスムーズに進めることができます。

親の相続人となりえる人物とその所在地を把握

相続手続には、すべての相続人の名前と所在地を把握することが不可欠です。戸籍謄本などの必要書類の収集や遺産分割協議がスムーズに行えます。万が一、相続人として扱われない人が出てきた場合、トラブルや遅延の原因となりかねません。

相続人間で相続財産の方針を定めておく

相続財産について相続人間でどうまとめるか方針を決めておくとよいでしょう。プラスの財産が多いのか、それともマイナスの財産が多いかといったポイントは相続手続をする上で重要になります。

遺言書の作成

遺言書の作成_イメージ

遺言書を作成することで、親の意志を最大限に反映させることができます。ただし、相続財産を分配する場合は遺留分に注意が必要です。遺留分とは、法定相続人が最低限受け取る権利を保証するための制度です。遺言書作成時にはこれらを侵害しないための配慮も必要です。

親の世話(介護など)を担っている相続人の対応記録

介護などで親の世話をしている相続人は、その費用や負担を詳細に記録しておくことが重要です。これにより、相続時に「寄与分」として相続財産の増加を求める際の証拠となります。詳しくは後述で解説します。

生前贈与を検討

相続前に生前贈与を行うことで、相続財産を減少させ、相続税の負担を軽減できます。贈与は、親から子や孫への資産移転を指し、贈与税の非課税枠を利用することも可能です。贈与を計画的に行うことで、相続手続がスムーズになり、財産の分配が明確になります。なお、贈与を行った場合は贈与契約書などを残しておくようにしましょう。贈与として受け取ったとする証明が難しくなり、相続財産の対象となる可能性があります。

生前に確認できなかった場合

事前に親や相続人間で相続財産についての状況を整理できていればベストですが、突然の不幸などによって、その時間が取れないケースも出てくるでしょう。以下は主な相続財産をまとめた一覧表になります。なお、親の財産は生活環境や仕事などによって異なってくるので、この点も考慮して調べるようにしましょう。

財産の種類 確認すべき項目
現金 金額
預貯金口座 銀行名や口座の種類、口座番号
株式・投資信託 証券会社名、株式名簿や株券
不動産 不動産の住所や種類(土地・建物)
自動車 台数や車検証
保険 保険会社目や保険の種類、保険証券

借入金

債権社名とその金額
その他の財産 貴金属や骨董品、ゴルフ会員権など

親の没後に行う手続の流れ

親が亡くなったら死亡診断書の受け取りから始まり、相続まわりの手続など、やることが山積みになります。ここでは親の没後に着手する手続を順番に紹介します。

没後の対応

親が亡くなったあと、相続手続に入る前に確認しておくべき内容は以下のとおりです。

  1. 死亡診断書の受け取り
  2. 死亡届の提出
  3. 葬儀費用の準備
  4. 遺言書の有無を確認
  5. 亡くなった親の戸籍謄本を取得
  6. 相続人全員へ連絡(婚外子や前の配偶者との子も含める)
  7. 年金受給の停止
  8. 介護保険の喪失届
  9. 健康保険の喪失届
  10. 生活基礎設備(電気・水道・ガス・電話など)の解約
  11. 定額サービスの解約手続

死亡診断書の受け取り

親が亡くなった際、まず死亡診断書を医師から受け取ります。これは故人が正式に死亡したことを証明する書類であり、今後の様々な手続に必要となります。

死亡届の提出

死亡診断書を受け取ったら、市区町村の役所に死亡届を提出します。提出期限は死亡から7日以内です。これにより、故人の死亡が正式に登録されます。

葬儀費用の準備

葬儀費用の準備_イメージ

葬儀を行うために必要な費用を準備します。葬儀社に相談し、葬儀の内容や費用について見積もりを取り、支払いの手配を行いましょう。

遺言書の有無を確認

故人が遺言書を残しているか確認します。遺言書がある場合は、内容に従って相続手続を進めます。遺言書は公証役場での保管や、親が自己管理をしている場合が多い傾向にあります。

亡くなった親の戸籍謄本を取得

故人の戸籍謄本を市区町村の役所で取得します。相続手続や各種届出に必要な書類です。親の本籍地で申請しましょう。

相続人全員へ連絡

相続人全員に連絡を取ります。婚外子や前の配偶者との子も含めて全員に連絡し、相続手続について情報を共有します。

年金受給の停止

故人が年金を受給していた場合、年金の受給停止手続を行います。死亡から10日または14日以内に手続を済ませます。

介護保険の喪失届

介護保険の受給者が亡くなった場合、14日以内に介護保険の喪失届を提出します。役所の介護保険担当窓口で手続します。

健康保険の喪失届

故人が健康保険に加入していた場合、健康保険の喪失届を14日以内に提出します。職場や役所の保険担当窓口で手続します。

生活基礎設備の解約

電気、水道、ガス、電話などの生活基礎設備の解約手続を行います。各サービスを契約している会社などに連絡し、速やかに解約します。

定額サービスの解約手続

故人が利用していた定額サービスの解約手続を行います。クレジットカードや銀行の明細を確認し、サブスクリプションなどの解約を行います。

相続開始後に行うべき対応

葬儀や亡くなった人の周辺整理が終わり、ここから相続手続がはじまります。手続には期限が設けられてるものがあるため、早め早めの行動を心がけていきましょう。

対応期間 手続内容
3か月以内 遺産分割協議を行う
遺産分割協議書の作成
相続放棄
金融機関での手続
4か月以内 準確定申告を行う(確定申告が必要な場合)
10か月以内に対応 相続税の申告および納付
3年以内に対応 登記手続・相続人申告登記

遺産分割協議書の作成

遺産分割協議書とは、相続人全員が遺産の分割方法について合意した内容を文書にしたものです。相続人間で財産をどのように分けるかを詳細に記載し、全員が署名・押印することで法的効力を持ちます。遺産分割協議書を作成することで、後々のトラブルを避け、遺産分割をスムーズに進めることができます。

なお、この遺産分割協議に対して、相続人が故意に参加を拒否しているなどがあれば、家庭裁判所に調停・審議を申し立てることで遺産分割協議書の作成を進めることが可能です。手続は難解なため、司法書士などの専門家に依頼するのがベターです。

相続放棄

相続放棄_イメージ

相続放棄とは、相続人が親の財産を相続する権利とその負債を引き継ぐ義務を放棄することです。これにより、相続人はプラスの財産だけでなく、負債も引き継がずに済みます。相続放棄は家庭裁判所に申述し、原則として相続開始を知った日から3か月以内に行う必要があります。注意点として、一度相続放棄をすると撤回できないため、他の相続人との関係や自身の財産状況を十分に考慮することが重要です。また、他の相続人に影響を与えるため、事前に相談することが望ましいでしょう。

金融機関での手続

金融機関では、親の預金や証券口座などの解約や名義変更を行うために必要です。手続に使用する書類は、相続状況によって異なります。特に手続の期限が設けられているわけではありませんが、預貯金は相続財産として挙がりやすいため優先的に手続を進めておくのがよいでしょう。

準確定申告を行う(確定申告が必要な場合)

準確定申告とは、親が死亡した年の1月1日から死亡日までの所得に対する確定申告を行う手続です。相続人が代わりに行うため「準確定申告」と呼ばれます。申告期限は、親が亡くなったことを知った日から4か月以内です。必要書類には、親の収入や経費に関する書類、源泉徴収票、控除証明書などがあります。注意点として、申告が遅れると延滞税が発生することがあります。また、所得税の還付を受ける場合もあるため、正確に行うことが重要です。

相続税の申告および納付

相続税の申告および納付は、親から受け継いだ財産に対して課せられる税金に関する手続です。相続税の申告は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。申告に必要な書類には、遺産分割協議書、財産目録、評価証明書、相続人の戸籍謄本や印鑑登録証明書などがあります。納税は現金一括払いが基本ですが、分割納付や物納(不動産などの現物で納める方法)も可能です。期限内に申告・納付を行わないと、加算税や延滞税が発生することがあるので、早めの準備が重要です。

登記手続・相続人申告登記

不動産の登記手続は、相続により取得した不動産の所有権を正式に移転するために行う手続です。相続登記には、遺産分割協議書、親の除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本や住民票、印鑑登録証明書などが必要です。

もし、遺産分割協議や手続が難航し、3年以内での登記手続が難しい場合は「相続人申告登記」を利用するとよいでしょう。相続人申告登記とは、親名義の不動産に対して、法務局に自分が相続人である旨を申し出ることによって、登記官がその申し出た相続人の住所・氏名などを記録する行為を指します。一時的な手続ではあるものの、登記義務不履行による罰金を回避することができます。

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知っておきたい手続のポイント

親が亡くなったあとの各手続において覚えておきたいポイントを解説します。各々の相続状況に応じて活用していきましょう。

遺言書は公正証書遺言が推奨

遺言書は相続トラブルが起きにくい公正証書遺言が推奨されています。公証役場で証人立ち合いの元、遺言者が口頭で述べた内容を公証人が代理で遺言書を作成するため、内容が不明瞭になりにくく遺言書の効果が発揮しやすい書式になります。ただし、相続財産に応じて別途費用が掛かるのが難点になります。もし、正しい効果を記すことができる遺言書を執筆できる場合は、自筆証書遺言保管制度を利用するとよいでしょう。開封時の検認手続が省略され手間が省かれます。

住まいが賃貸だった場合の解約手続

亡くなった方の住まいが賃貸だった場合、賃貸料がかかるからといって安易に解約するのは避けた方がよいでしょう。解約手続を行ってしまうと、相続する意思があるとみなされ単純承認したとされる恐れがあります。親の所有物を売ったりした場合も同様に扱われます。相続放棄を視野に入れている場合は特に注意が必要です。

遺産分割前の相続預金の払戻し制度

基本的に相続人が銀行へ親の死亡届を提出すると、口座預金が引き出されなくなります。しかし、葬儀などの急な出費で、残された家族が困窮する状況を回避するために作られたのが本制度です。

遺産分割協議が成立していなくても、相続人であれば亡くなった方の口座がある金融機関に自分の戸籍謄本を提出することで、預貯金額の3分の1、もしくは法定相続分として最大150万円まで払い戻しをうけることができます。相続人間で平等に費用を捻出するのが難しい、といった場面でも活用できるでしょう。

相続土地国庫帰属制度

毎年の固定資産税や管理コストなどの維持費などで、支出面でマイナスが多い土地を手放したい場合は「相続土地国庫帰属制度」を活用してみましょう。

これは相続対象となっている土地を国に引き取ってもらう制度であり、利用することで土地以外の必要な財産を相続することが可能になります。土地の状況が特殊な状況だと申請が見送られる可能性があるので注意が必要です。

寄与分制度

寄与分とは亡くなった親の事業を無償でサポートしたり、長期間にわたって介護を尽力した相続人に対して認められる制度です。請求期限は親の死後10年以内であり、この制度により他の相続人より多くの遺産を受け取ることができます。

ただし、寄与分を承認してもらうためには、口頭の主張だけでなく、具体的な裏付け資料を準備する必要があります。特に、自身が親の生活全般を支えていた状況を示すことが求められるため、親の介護記録や支出の領収書など実際に貢献した証拠を残しておくことが有効です。自分の貢献が特に大きいと感じる場合には、これらの資料を用意することを検討してみてください。

相続手続は生前から準備するのがベスト

相続手続を円滑にするには、財産の整理や遺言書の作成を進めるなど生前から準備が必要です。

しかし、状況によっては相続人間では進行が難しい場面も出てくる可能性があります。そういった場合は自己判断せず、一度専門家である司法書士などへ相談してみましょう。司法書士に依頼することで専門的なアドバイスと手続のサポートが受けられ、安心して進められます。計画的な準備と専門家の協力が、将来の負担を軽減するでしょう。

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本記事は女性向け週刊誌「女性自身(光文社発行)」から取材を受けた当法人代表の坂本孝文が解説した記事を参照しております。

  • 【出版社】 光文社
  • 【掲載媒体】 女性自身(131〜133ページ)
  • 【発行日】令和6年4月23日
  • 【記事概要】 「相続で損しない手続きやる順」

    掲載媒体や記事の一部を紹介しているwebページは以下のとおりです。

    記事の監修者

    司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

    司法書士法人さくら事務所
    代表司法書士 坂本 孝文

    昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
    平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
    平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

    【メディア掲載】
    ・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載