夫から妻へ家の名義変更をする方法をケース別に解説

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夫から妻へ名義変更が必要なケース

夫から妻への名義変更が必要なケースはいくつかありますが、それぞれのケースによって手続方法や手続にかかる費用などが異なります。

具体的に名義変更が必要なケースとしては、以下の3つのケースがあります。

  • 相続
  • 生前贈与
  • 財産分与

相続が発生すると遺産分割協議を行い、財産の分配方法について相続人同士で話し合います。そして、遺産分割協議によって遺産の分配が決まったら、不動産を相続することになった相続人へ名義変更の手続を行います。

生前贈与とは、亡くなる前に自分の財産を贈与することです。相続とは違って財産を譲る相手を自分で選べるのが生前贈与の特徴です。生前贈与によって不動産を譲渡すると不動産の所有者がかわるので、その際に名義変更を行う必要があります。

財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産を離婚の際に清算することです。財産分与の際、共有名義の不動産をどちらか一方の名義にする、あるいは夫婦の一方の名義をもう一方の名義に変更するというケースがあります。

以上3つのケースがありますが、それぞれのケースにおいて手続の内容や必要書類、費用などが異なるので、以下で詳しく解説します。

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相続による名義変更手続・費用

相続による名義変更は、一般的に相続登記といわれます。相続登記は以下の流れで手続を行います。

  • 遺言書の確認
  • 遺産分割協議書の作成
  • 必要書類の収集
  • 登記申請書の作成・提出
  • 登記済証の受領

遺言書があればその内容に従って遺産の分配方法が決まるため、まずは遺言書の有無を確認します。遺言書がない場合は遺産分割協議によって相続分を決め、遺産分割協議書を作成し、不動産を相続することになった相続人へ名義変更を行います。

必要書類を収集したら、登記申請書を法務局の窓口で受け取るか法務局公式サイトからダウンロードし、作成します。

登記申請書を作成したら必要書類と合わせて法務局の窓口で提出し、書類に不備がなければ登記済証を受領して手続が完了します。

必要書類

一般的な相続登記の必要書類は、以下のとおりです。

  • 遺産分割協議書
  • 相続人の印鑑登録証明書
  • 不動産相続人の住民票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 亡くなった方の住民票(除票)
  • 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍(除籍)謄本
  • 固定資産評価証明書
  • 相続関係説明図

相続にはいくつかのケースがあり、上記は遺産分割協議によって妻が不動産を相続する場合に必要となる書類の例です。

一方、相続では遺言書によって相続人が決まるケースもあり、その場合は遺言書があれば遺産分割協議書は必要ありません。また、それに伴い相続人の印鑑登録証明書も不要になります。

費用

相続による名義変更手続で発生する費用としては、相続税・登録免許税などの税金と司法書士報酬があります。それぞれの計算方法、費用相場について解説します。

相続税

相続税は、課税対象額が基礎控除額を超えた分に課税されます。基礎控除額は以下の式で計算します。

基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の人数

たとえば、夫との間に子が1人いた場合、法定相続人の人数は妻と子で2人となり、基礎控除額は4200万円になるため、課税対象額が4200万円以下であれば相続税は発生しません。

課税対象額を計算したら、以下の税率と控除を適用して相続税を計算します。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1000万円以下 10%
1000万円超から3000万円以下 15% 50万円
3000万円超から5000万円以下 20% 200万円
5000万円超から1億円以下 30% 700万円
1億円超から2億円以下 40% 1700万円
2億円超から3億円以下 45% 2700万円
3億円超から6億円以下 50% 4200万円
6億円超 55% 7200万円

※参照:相続税の税率|国税庁

たとえば、課税対象額が1500万円だと税率が15%、控除額が50万円なので、相続税は1500万円×15%-50万円=175万円となります。

登録免許税

登録免許税は、課税標準額に0.4%の税率をかけて計算します。

登録免許税=課税標準額×税率(0.4%)

100円未満は端数切り捨てとなるため、たとえば計算結果が12万4355円だった場合、1000円未満の端数を切り捨てて12万4300円が登録免許税の額となります。

司法書士報酬

相続登記の場合の司法書士報酬は、3~12万円です。もっとも、こちらは一般的な金額の例であり、金額は依頼する司法書士や依頼の内容によっても異なるので、詳しい金額が知りたい場合には依頼する司法書士から見積もりをとりましょう。

生前贈与による名義変更手続・費用

生前贈与による名義変更手続は、以下の流れで行います。

  • 贈与契約書の作成
  • 必要書類の収集
  • 登記申請書の作成・提出
  • 登記済証の受領

相続の場合と異なる点は、生前贈与では贈与契約書を作成するということです。贈与においては双方が納得すれば口約束でも契約が成立しますが、あとから揉めないように書面を残しておくのが一般的です。

贈与する人が日付と署名を自筆し、偽造・変造を避けるために実印を押印します。

必要書類

必要書類は、以下のとおりです。

  • 贈与者の登記識別情報通知(登記済権利証)
  • 贈与者の印鑑登録証明書
  • 受贈者の住民票
  • 固定資産評価証明書
  • 登記事項証明書
  • 贈与契約書

登記識別情報通知は、登記完了時に送付される書類です。登記事項証明書を取得する際、土地は「地番」、建物は「家屋番号」が必要なので、固定資産税納税通知書で確認しておきましょう。

印鑑登録証明書、住民票、固定資産評価証明書などは、市区町村の窓口で発行し、名義変更の際に添付して提出します。

費用

生前贈与による名義変更手続でかかる費用としては、以下のようなものがあります。

  • 贈与税
  • 不動産取得税
  • 登録免許税
  • 司法書士報酬

登録免許税と司法書士報酬がかかる点は相続の場合と同様ですが、相続と贈与では税率や相場が異なる点もあるので、こちらについても解説します。

贈与税

贈与税は、贈与額に110万円の基礎控除を引いた額に一定の税率をかけて計算します。

贈与税=(贈与額-110万円)×税率

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1000万円以下 40% 125万円
1500万円以下 45% 175万円
3000万円以下 50% 250万円
3000万円超 55% 400万円

※参照:贈与税の計算と税率(暦年課税)│国税庁

たとえば3000万円の土地を贈与した場合、基礎控除によって課税価格は3000万円-110万円=2890万円となり、税率は50%、控除額は250万円が適用されます。

相続税の額の計算は、以下のとおりです。

  • 2890万円×50%-250万円=1195万円

以上により、3000万円の土地を贈与した場合は1195万円の相続税がかかります。ただし、夫から妻への生前贈与では、ここから2000万円の配偶者控除が適用される場合があります。配偶者控除の適用条件は、以下のとおりです。

  • 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎたあとに贈与が行われた
  • 配偶者から贈与された財産が、居住用不動産である
  • 受贈者が贈与を受けた年の翌年3月15日までに該当の不動産に住んでおり、その後も住む見込みがある

先ほど計算した贈与税の金額に配偶者控除を適用した場合、1195万円-2000万円で0円以下になるため、相続税は発生しません。

不動産取得税

不動産取得税は、以下の式で計算します。

  • 土地および住宅用の建物:課税標準額×税率3%
  • 住宅用以外の建物:課税標準額×税率4%

また、課税標準には以下のような特例措置があります。

  • 住宅を新築した場合:課税標準から1200万円を控除
  • 中古住宅を取得した場合:課税標準から新築時における控除額と同額を控除

たとえば住宅用の建物2000万円を新築で生前贈与された場合、(2000万-1200万)×3%=24万円が不動産取得税となります。

登録免許税

生前贈与の場合、登録免許税の税率は相続とは異なり2.0%です。

登録免許税=課税標準額×税率(2.0%)

相続による名義変更では登録免許税の税率が低く設定されているため、生前贈与では相続よりも登録免許税が高くなることに留意しておく必要があります。

司法書士報酬

相続登記の場合の司法書士報酬は、2~9万円が相場です。司法書士報酬は相続の場合と大きな違いはありませんが、さきほど説明したとおり依頼する司法書士や依頼内容によって費用は異なるので、詳しい金額を知りたい場合には実際に司法書士へ見積もりを依頼しましょう。

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財産分与による名義変更手続・費用

財産分与による手続の流れは、以下のとおりです。

  • 財産分与の公正証書の作成
  • 必要書類の収集
  • 登記申請書の作成・提出
  • 登記済証の受領

財産分与の場合は公正証書を作成し、不動産の取り扱いについて明記しておくことが重要ですが、そのほか基本的な流れは相続や生前贈与と変わりません。

必要書類

離婚に伴う不動産の名義変更には、以下の書類が必要です。

  • 登記申請書
  • 譲り渡す側の印鑑登録証明書
  • 譲り受ける側の住民票
  • 固定資産評価証明書
  • 権利証もしくは登記識別情報
  • 夫婦どちらか一方の戸籍謄本
  • 離婚の公正証書
  • 離婚協議書

離婚の公正証書や離婚協議書は、双方合意のもとで作成しておきます。それ以外は役所で発行可能な書類や役所から自宅に送付される書類であり、これらを登記申請書に添付して法務局へ提出します。

費用

不動産の名義変更にかかる主な費用は、以下のとおりです。

  • 登録免許税
  • 譲渡所得税(復興特別所得税、住民税含む)
  • 司法書士報酬

贈与税や不動産取得税が発生するのは税金を免れる目的で行われた不正な離婚などに限られるため、基本的には財産分与の際に課税されることはありません。また、登録免許税と司法書士報酬は生前贈与の場合と同様なので、ここでは譲渡所得税の計算方法について解説します。

譲渡所得税

譲渡所得税は、課税対象額に一定の税率をかけて計算します。マイホームの譲渡の場合、3000万円の控除が適用され、課税対象額は以下の式で計算します。

譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)-3000万円

上記の式から、離婚時の時価が購入時より3000万円以上高い場合でなければ譲渡所得税は発生しないことがわかります。計算の結果、課税対象額がプラスになった場合、以下の税率をかけて譲渡所得税の額を計算します。

  • 所有期間が5年を超えるもの(長期譲渡所得):15%
  • 所有期間が5年以下のもの(短期譲渡所得):30%

たとえば課税税対象額が2000万円で所有期間が5年を超える場合、譲渡所得税は2000万円×15%=300万円となります。

夫から妻への名義変更で覚えておきたいポイント

相続・生前贈与・財産分与という3つのケースにおける名義変更のやり方について解説しましたが、ここではそれぞれの名義変更におけるポイントや注意点についてまとめて紹介します。

相続では配偶者居住権の登記が可能

配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に残された配偶者が亡くなった人の所有していた建物に、一定期間無償で居住できる権利です。

たとえば、夫が亡くなった際の遺産分割協議で家の名義は子にし、妻に配偶者居住権を設定することにした場合、家が子の名義であっても妻は家に住み続けることができます。

なお、配偶者居住権が発生するのは相続が発生したときであり、生前贈与や財産分与では登記できません。夫から妻への相続が発生した際は、相続登記と合わせて配偶者居住権の登記をしておくことも可能です。

財産分与による名義変更は住宅ローンの契約違反になる

財産分与による名義変更をする際、住宅ローンが残っている場合には金融機関から承諾を得る必要があります。住宅ローンを組むうえでは金融機関の審査を受け、審査に通った場合のみローンを組めるので、ローン返済中に勝手に名義変更することは認められません。無断で名義変更を行うと契約違反とみなされ、残債務の一括返済を求められる可能性があります。

金融機関から名義変更の許可が得られるのは、新しく名義人になる人が現在の契約者と同等の返済能力を有している場合です。もっとも、名義変更が認められる要件は比較的厳しいので、金融機関に相談しても認められない場合があることには留意しておきましょう。

相続登記の義務化

生前贈与と財産分与の場合は名義変更に法律上の義務はありませんが、相続登記は令和6年4月1日から義務化しているため、相続の名義変更手続は必ず行わなければなりません。不動産を取得した相続人は3年以内に相続登記の申請をしなければならず、この申請を正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が課されます。

もっとも、生前贈与や財産分与の場合も名義変更しないと不動産を売却できない、融資を受けられないなどさまざまなデメリットがあるため、いずれにしても名義変更を行うことをおすすめします。

不動産の名義変更手続は司法書士への依頼がおすすめ

名義変更が必要なケースとして相続・生前贈与・財産分与の3つを紹介しましたが、それぞれ手続の内容や費用などは異なります。もっとも、いずれのケースにおいても名義変更の手続は必要であり、しなかった場合のデメリットは大きいので、状況に合わせて名義変更手続を進めましょう。

登記の手続は自分で行うこともできますが、慣れていないと時間がかかる上に手続を誤る可能性があります。特に複雑なケースにおいては自分ですべて対処するのが難しいので、登記の専門家である司法書士への依頼がおすすめです。司法書士に依頼することで手間を削減し、適切な名義変更が行えます。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載