名寄帳とは?相続登記で用いる場面や取得方法やその費用について解説

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名寄帳とは

名寄帳とは、各市区町村において、固定資産税の課税対象となる土地・建物を所有者ごとにリストアップした書類です。相続した不動産の調査では、登記事項証明書・固定資産評価証明書および納税通知書と並んで、重要視される書類です。ここでは、調査に用いられるほかの書類と比較しながら、名寄帳の特徴を押さえてみましょう。

被相続人所有の不動産が一覧化されている

固定資産評価証明書や登記事項証明書は、特定の不動産について情報を記載するもので、ほかに所有する土地・建物の情報まではわかりません。一方の名寄帳は、被相続人が生前に所有していた土地や建物の詳細な情報が記載されています。具体的には、不動産の所在地、地番、地目(宅地・田・畑など)、面積といった、登記簿に載っている情報を一覧で確認できます

非課税の土地・建物も記載されている

名寄帳の最大の利点は、課税されない土地・建物についても記載されている点です。具体的には、宗教法人が所有する不動産、文化財に指定されている物件、そのほかの税制上の優遇措置が適用される不動産、評価が低く課税対象にならない建物などが挙げられます。

市区町村役場で取り寄せが可能

名寄帳は、固定資産評価証明書と同じく、不動産が所在する市区町村の役場で管理・請求対応を行っています。相続人やその関係者は、所有者本人との関係を証明することで、名寄帳の閲覧(写しの請求)が可能です。

請求の際は、申請書に必要事項を記入し、本人確認書類や相続関係を証明する書類(戸籍謄本など)を提出する必要があります。また、一部の自治体では、郵送やオンラインでの請求にも対応しているため、不動産所在地への訪問が難しい場合でも、名寄帳を取得することが可能です。

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相続登記の手続で名寄帳を用いる場面

相続登記の手続における名寄帳の役割は、2つ挙げられます。1つは登記申請する必要のある不動産の調査資料、もう1つは相続登記にかかる費用計算の資料です。具体的には、次のようなことが言えます。

不動産の所有状況がわからないとき

土地や建物は、言うまでもなく、手に取って確かめられるものではありません。所有者が亡くなると、その自宅に権利証が残っていなければ、確認から漏れることがあります。そこで用いるのが、各市区町村で所有者別に土地・建物の状況を一覧化した、名寄帳です。

相続のとき、財産目録や固定資産評価証明書・納税通知書・権利証などがなくとも、名寄帳さえあれば、登記申請すべき不動産の情報を漏れなく把握できます。令和6年4月1日以降の相続登記の義務化に対応する上でも、確認は欠かせません。

相続登記の登録免許税を計算するとき

相続登記を行う際には、実質的な手数料にあたる「登録免許税」の納付が必要です。その課税額は、不動産の評価額に基づいて計算されます。名寄帳には、固定資産税評価額が記載されているため、この情報を参考にすることで、登録免許税の概算を見積もることができます

もっとも、固定資産税評価額は、あくまでも課税時の標準にすぎず、実際の不動産価値よりは低くなる点に要注意です。売却を予定するケースでは、あくまでも登録免許税の根拠および取引額の目安として捉え、具体的な評価は不動産会社などに相談するようにしましょう。

【所有不動産記録証明制度】今後は法務局でも名寄せができる

令和8年2月2日からは、法務局でも所有する不動産の名寄せに対応します。相続登記の義務化に伴って導入される、所有不動産記録証明制度です。本制度は、特定の不動産について取り寄せるしかなかった登記事項証明書につき、システム改良により、指定の所有者の名前で一覧化して取得できるようになる見込みです。相続登記にあたっての調査は、もっと簡単になると考えられます。

名寄帳の取得方法と必要書類・費用

名寄帳の取得方法と必要書類・費用_イメージ

名寄帳は、相続登記を行う上で重要な書類ですが、実際に取得するためには、一定の手続が必要です。ここでは、名寄帳の請求・取得方法や、必要な書類、費用について詳しく解説します。名寄帳を円滑に入手するために、これらの情報を把握しておくことをおすすめします。

名寄帳を請求・取得できる人の範囲

名寄帳を請求・取得できるのは、原則として下記の範囲に含まれる人物です。所有者が亡くなり、相続登記が必要なケースでは、相続人や、遺言執行者(=遺言者や家庭裁判所に指定された、遺言の内容を実現する手続にあたる人物)が利害関係人に該当します。

  • 不動産の所有者
  • 上記の代理人
  • 利害関係人

名寄帳取得のための必要書類

名寄帳を取得する際には、請求者の本人確認書類や、利害関係を証明する書類などが必要です。相続人もしくは遺言執行者が請求(役場で申請)する例で言えば、次のような書類を準備しなければなりません。

基本的な必要書類

  • 名寄帳交付のための申請用紙
  • 申請者の本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
  • 亡くなった人の除籍謄本、住民票の除票など(死亡の確認のため)

相続人が請求する場合の必要書類

基本的な必要書類+亡くなった人と申請者の関係を示す戸籍関係書類

遺言執行者が請求する場合の必要書類

基本的な必要書類+家庭裁判所の選任審判書(遺言執行者が申請する場合)

代理人が請求する場合の必要書類

上記いずれかの書類+委任状

上記以外にも、不動産の所在地とは異なる市区町村に居住しているケースでは、申請者の住民票の写しが求められる場合があります。必要な書類は、申請先の役場や状況によって異なるため、都度確認をとりましょう。

名寄帳取得にかかる費用

名寄帳の交付手数料は、不動産が所在する市区町村によって異なります。通常、1通あたり200円から300円程度となります。所有不動産が複数の市区町村に存在する場合は、それぞれの役場で請求し、費用を支払わなければなりません。そのほか、死亡の証明や利害関係の証明のための戸籍謄本についても、数百円程度の請求費用がかかります。

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名寄帳を相続登記に用いる際の注意点

名寄帳は、相続登記を行う上で重要な情報源ですが、いくつかの注意点があります。名寄帳の特性を理解し、適切に活用することが、円滑な相続登記につながります。ここでは、名寄帳を相続登記に用いる際の注意点について、詳しく解説します。

名寄帳の名称は市区町村により異なる

名寄帳の呼び方は、地域・市区町村によって異なります。ある地域では「固定資産税課税台帳」と呼んだり、別の地域では「名寄帳兼課税台帳」と呼んだりします。「土地・家屋名寄帳」と呼ぶ地域も存在するでしょう。

名称が変わっても、各市区町村で固定資産税の課税対象を把握するために作られている点は共通です。基本的には「相続登記のため、固定資産税の課税台帳を通じて所有する不動産を調査したい」と伝えれば、目的の書類が出てくるはずです。

年をまたぐと古い情報になる

名寄帳の記載内容は、毎年1月1日時点の情報です。固定資産税の課税額を判断する期間が毎年1月1日から12月31日であり、年を越すと最新の状況に基づく課税台帳を作り直すしくみとなっています。こうした課税および課税台帳の基本を踏まえると、交付から年をまたいでしまった名寄帳は、情報が古くなっていると言えます。

不動産経営を行っていたケースなど、頻繁に所有状況が変わる可能性がある場合には注意が必要です。亡くなった人の自宅にある権利証なども参考にして、最新の所有状況を確認するようにしましょう。

未登記・未調査の建物は記載されない

名寄帳に記載されるのは、市区町村が把握している土地・建物のみです。何らかの理由で課税のための調査が行われていない不動産は、名寄帳に記載されません。

気を付けたいのは、新築後すぐの表題登記されていない建物や、登記直後でまだ課税のための調査がなされていない建物です。これらの建物は、登記簿が作られていないか、あるいは登記簿の情報を市区町村役場が受け取っていないなどの理由で、課税に関して何も決定されておらず、名寄帳には載りません。

前回の相続登記が未了の不動産は記載されない

土地や建物のなかには、祖父母やそれ以上先の世代での相続登記が完了しておらず、そのせいで名義が古くなっているものがあります。こうした不動産は、名寄帳を取得しても記載されていません。名寄帳は登記簿から情報取得しつつ特定の人の名前で取り寄せるものであり、所有者の名前(登記名義人)が古いまま変わっていないものまで網羅するわけではないからです。

このように、前回の相続登記が完了していない土地・建物があるケースでは、亡くなった人の自宅にある納税通知書(元の所有者の代わりに納付していたと思われるもの)を探し、手がかりとする必要があります

名寄帳を活用した円滑な相続登記に向けて

名寄帳は、被相続人が所有していた不動産の情報を把握する上で重要な役割を果たします。相続登記の手続においては、所有不動産の特定や登録免許税の概算見積もりに活用できます。また、将来的には法務局での名寄せにも対応予定であり、相続登記に関する調査がより簡単になることが期待されています。

ただし、名寄帳の特性を理解し、適切に活用することが円滑な相続登記につながります。名称の違いや、記載内容の時期、未登記の不動産や前回の相続が未了の不動産については注意が必要です。これらの点に留意しつつ、名寄帳を有効活用することで、スムーズな相続登記の実現が可能となるでしょう。相続登記の際には、名寄帳の取得を検討し、専門家の助言を得ながら手続を進めていくことをおすすめします。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載