相続登記の費用は必要経費にできるのか?
令和6年4月1日より相続登記が義務化されたため、不動産を相続したら相続登記をしなければなりません。相続登記とは、不動産相続において名義を亡くなった方から相続人に変更する手続です。所有者がなくなると不動産の所有権が相続人へと移転するので、相続登記によって登記簿へ反映させる必要があります。
相続登記にはさまざまな費用がかかりますが、これらの費用のうち、確定申告の際に経費にできるものとそうではないものがあります。ここではまず、相続登記にかかる費用のうちで必要経費として計上できるものについて紹介し、一般的にどのような勘定科目を使うかについて解説します。
登録免許税
登録免許税は不動産登記を申請する際に発生する税金であり、確定申告において経費としての計上が可能です。相続登記の登録免許税は、不動産の課税標準額に一定の税率をかけて計算します。
登録免許税=課税標準額×1000分の4
たとえば、課税標準額が1000万円の場合、1000万×1000分の4=4万円が登録免許税の額となります。登録免許税を経費にする際の勘定科目としては、一般的に「租税公課」が使われます。
書類の取得費用
相続登記をするうえでは以下のような書類が必要ですが、これらの書類の取得費用も経費にすることが可能です。
登記事項証明書 | 480円~600円 |
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印鑑登録証明書 | 200円~500円 |
住民票 | 200円~300円 |
戸籍謄本 | 450円 |
除籍謄本 | 750円 |
固定資産評価証明書 | 200円~400円 |
必要となる書類はケースによって異なるので、実費のみを経費として計上します。相続登記においては、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて取得する必要がありますが、複数の戸籍を取得した場合にはその費用もすべて経費として計上可能です。
書類の取得費用を経費にする際の勘定科目は、登録免許税と同じく「租税公課」を使うのが一般的です。
司法書士報酬
相続登記の中には、自分で手続を行うのが難しい複雑なケースもありますが、そういったケースでは司法書士に依頼して相続登記手続を行うこともあります。
相続登記を依頼する際の司法書士報酬は約3~12万円ですが、報酬は各司法書士が自由に決められるため、依頼する司法書士によって金額が異なります。そのため、経費にする際は実際に司法書士へ支払った金額を計上します。司法書士報酬を経費にする際の勘定科目としては、一般的に「支払手数料」などが使われます。
※参照:司法書士の報酬と報酬アンケートについて(平成30年1月)」|日本司法書士連合会
相続関連の費用で経費にできないもの
相続登記以外にも、相続手続全般においてはさまざまな費用がかかりますが、相続関連の費用でも経費にできるものとできないものがあります。ここでは相続関連の費用のうち経費にできないものについて解説します。
葬儀費用・係争費用
葬儀費用や係争費用は経費に計上することができません。なぜなら、葬儀費用や係争費用は不動産の取得や売却とは直接関係がなく、これらに対応する所得が計上されるわけではないからです。確定申告の際に経費として計上できるのは、不動産の取得に対して関係のある費用でなければなりません。
もっとも、相続税の計算において葬儀費用を遺産総額から差し引くことは可能です。つまり、葬儀費用がかかった分だけ控除が適用され、相続税を軽減する効果があります。
代償分割の費用
代償分割とは、相続人のうちの1人が財産を取得し、ほかの相続人に対して代償金を支払うことで清算する遺産分割の方法です。
代償分割を行う際に支払う代償金は、経費に計上することができません。なぜなら、代償金は相続財産を調整するために支払われるものであり、不動産の取得に要する費用ではないからです。
もっとも、代償金も相続税の計算において相続財産から控除することは可能なので、代償金を支払っている場合には相続税を減額できる可能性があります。
不動産所得の経費について
不動産所得とは、不動産を貸し付けることによって生じる所得のことです。アパートやマンションなどの賃料のほか、地上権の権利の設定や貸し付けなども不動産所得に含まれます。
被相続人が所有するアパートや土地を賃貸している状態で相続が発生した場合、賃貸人が相続人に変更されるので、相続以後は相続人が不動産所得の税務申告を行うことになります。
不動産所得には経費として算入できる費用があるので、不動産所得の計算方法や経費の内容などについて解説します。
不動産所得の計算方法
不動産所得の金額は、以下のような式で計算できます。
総収入金額−経費=不動産所得の金額
総収入金額には、貸し付けによる賃貸料収入や共益費のほか、以下のようなものも含まれます。
- 名義書換料、承諾料、更新料、頭金などの名目で受領する金銭
- 敷金・保証金のうち返還の必要がないもの
- 管理費・共益費などの名目で受け取る電気代・水道代など
経費にできるもの
経費にできるものは、不動産収入を得るために直接必要な費用です。具体的には、以下のようなものが経費として計上できます。
- 税金(登録免許税、固定資産税、印紙など)
- 損害保険料
- 修繕費
- 水道光熱費
- 減価償却費
- 地代・家賃
- 広告宣伝費
- 管理会社へ支払う業務委託料
損害保険料は、賃貸している建物の火災保険や地震保険などが該当します。地代・家賃は、土地を借りて建物が建っている場合に支払う代金のことです。広告宣伝費は、賃貸の入居者を募集するために支払う代金です。賃貸している物件の管理を管理会社に委託している場合、管理会社に支払う手数料も経費として計上できます。
一方、経費として計上できない費用としては、ローンの元本や所得税・法人税などがあります。アパートローンの元本は減価償却費として計上するものであり、所得税や法人税は事業に直接関係のある出費ではないからです。
不動産の売却益の経費について
相続した不動産を売却すると譲渡所得税がかかりますが、譲渡所得税の場合も必要経費に控除が適用されます。譲渡所得税の計算方法や、必要経費となる費用について解説します。
譲渡所得税の計算方法
不動産を売却すると、売却時に発生した利益に対して税金が発生しますが、これが譲渡所得税です。譲渡所得税の計算のもとになる譲渡所得金額は、以下の式で計算します。
譲渡所得=収入金額−(取得費+譲渡費用)−特別控除額
譲渡所得の計算においては、取得費や譲渡費用といった必要経費とは別に、特別控除があります。特別控除は、一定の条件を満たした場合に適用される控除であり、たとえば居住用不動産を譲渡した場合の3000万円の控除などが特別控除に該当します。
経費にできるもの
以下のような取得費や譲渡費用は、経費として計上できます。
- 土地・建物の購入代金
- 建築代金
- 購入時にかかった税金(登録免許税、印紙税、不動産取得税など)
- 購入時の仲介手数料
- 設備費
- 改良費(リフォーム費用など)
- 整地費、測量費、建物取り壊し費用など
- 立退料
- 一定の借入金利子
不動産の購入代金を計算する際、土地と建物では扱いが異なり、建物の場合は購入代金がそのまま経費に計上されるわけではないことに注意が必要です。これは、建物の場合は減価償却費を考慮する必要があるためです。
リフォーム費用は取得費に含まれますが、対象となるのは不動産の価値を上げるようなリフォームのみです。たとえば、耐震工事やバリアフリー化などは対象ですが、故障した設備の修理などの修繕・維持にあたるものは取得費に入りません。
相続登記を必要経費にするときの注意点
相続登記を必要経費にする場合の注意点について解説します。ケースによっては経費を正確に計算するのが難しいこともあるので、悩んだときは専門家に相談することも検討しましょう。
相続登記費用は債務控除できない
遺産のなかに借金や借入金といったマイナスの財産が含まれていることもあり、このような債務は相続税を計算する際にプラスの財産から差し引くことができます。これが相続税における債務控除ですが、相続登記費用は債務には該当しないので、債務控除の適用はありません。
複数の不動産を相続登記した場合は土地と建物の評価を按分する
複数の不動産の相続登記を行い、一部のみを売却する場合、経費を計上するうえでは土地と建物の評価を按分して金額を計算する必要があります。
按分とは、基準となる数字をもとに実情の比率に応じ、金額を分けることです。たとえば、7000万円の土地と3000万円の建物があり、10万円の経費をそれぞれ按分した場合、土地に対して7万円、建物に対し3万円というのが按分した割合になります。
この場合は登記費用をそのまま計上できるわけではないので、注意しましょう。
必要経費算入時期
確定申告において必要経費を計上する場合、その年12月31日までに納付すべきことが具体的に確定したものが対象となります。12月31日以降が納付日となる経費に関しては、翌年の経費に算入することになります。
相続登記の手続は司法書士にお任せ
相続登記をする際の登録免許税や専門家への報酬といった費用は、確定申告の際に必要経費として計上できます。不動産とともに事業を相続したり、相続した不動産を売却したりした場合、確定申告時に必要経費の計上を忘れないように行いましょう。
令和6年4月1日からは相続登記が義務化されたため、不動産を相続したら相続登記をしなければなりません。相続登記手続はケースによって複雑な場合もあるので、自分で手続をするには時間と手間がかかります。手間なく正確に手続を行うためには、司法書士に依頼して手続を任せるのもおすすめです。