抵当権とは
抵当権は、借入金の返済を担保するために、債務者などが所有する特定の不動産に設定する権利です。債務不履行となった場合、債権者はその不動産を競売に掛けて、債権の回収を図ることができます。その設定にあたっては、債権者と債務者の合意だけでなく、登記申請も必要です。
抵当権設定登記を必要とするケース
抵当権設定を必要とするケースの代表格は、住宅ローンを契約したときです。ほかにも、所有する建物のリフォームのため資金調達するときや、店舗・事務所などを担保にして事業融資を得るときなどがあります。抵当権があることで、債権者は高額の融資でも貸し倒れリスクを低減しながら実行でき、債務者もより良い条件で借り入れることができます。
抵当権は登記するまで第三者に対抗できない
抵当権は、登記をしなければ第三者に対抗することができません。当事者の合意だけでは、設定したことにはならないのです。法務局の登記簿に抵当権の情報が記載され、誰でも閲覧できるようになって、初めて購入検討者そのほかの当事者以外の人に対して権利を主張できるようになります。そのため、不動産を担保とするローンの契約では、必ず登記までセットで手続しなければなりません。
抵当権設定登記にかかる費用の内訳
抵当権設定登記を行う際には、登録免許税をはじめとする各種費用が必要です。主な費用としては、登録免許税、必要書類の取得費用、設定する物件の調査費用(必要な場合のみ)、司法書士報酬などがあります。これらの費用は、不動産の種類や価額、登記の内容によって異なるため、個別のケースに応じて確認することが重要です。以下の表は、各費用の目安をまとめたものです。
費用内訳 | 金額の目安 |
---|---|
登録免許税 | 債権額または極度額の0.4%(住宅ローンの場合は0.1%) |
必要書類の取得費用 | 1000円~2000円程度 |
物件の調査費用(必要になる場合) | 数万円~数十万円 |
司法書士報酬 | 5~10万円程度 |
登記申請時の登録免許税
登録免許税は、登記申請の手数料にあたる税金で、抵当権設定登記の場合、債権額(根抵当権なら極度額)の0.4%です。1000万円の貸し付けなら4万円、3000万円なら12万円、5000万円なら20万円の計算です。上記課税額の納付は、登記申請書への収入印紙貼付で行います。
必要書類の取得費用
抵当権設定登記の申請には、さまざまな書類が必要となります。具体的には、登記原因証明情報や、印鑑登録証明書、登記事項証明書が挙げられます。このうち登記原因証明情報以外のものは、債務者の自己負担で取得しなければなりません。
印鑑登録証明書の発行手数料は、市区町村によって異なりますが、通常1通200円から300円程度です。また、設定前・設定後に取得する登記事項証明書は、法務局で発行され、オンライン請求なら1通480円、窓口請求なら1通600円の手数料がかかります。窓口ではなく郵送で請求する場合は、別途郵便料金も必要になるでしょう。全体では、おおむね1000円から2000円程度となります。
司法書士報酬
抵当権設定登記は専門的な知識が必要な手続であるため、多くの場合、司法書士に依頼して行われます。司法書士報酬は、物件の種類や価額、業務の難易度などによって異なりますが、簡単な抵当権設定登記の場合、5万円から15万円程度が目安となります。ただし、不動産の価額が高額な場合や、複雑な案件の場合は、報酬がさらに高くなることもあるので注意が必要です。
設定する物件の調査費用
住宅購入目的以外の借り入れでは、所有している物件の情報を金融機関と共有するため、専門家による物件調査が必要です。物件調査の目的は、抵当権の対象となる不動産の権利関係や担保価値を確認することです。これにより、借り入れできる額が決まり、契約トラブルも防げます。
物件調査の内容は、登記簿謄本や公図の取得、現地調査などがあります。範囲は物件の種類や状況により異なります。物件調査にかかる費用は、不動産会社や司法書士や土地家屋調査士への依頼料が中心で、1件あたり数万円から数十万円程度が相場です。現地調査や登記事項の詳細な確認を含む場合は、高額になります。
郵送料などの雑費
ごく少額にはなりますが、書類を郵送するときの切手などの雑費も発生します。購入した物件が遠方にある場合など、管轄法務局が離れているなどの事情があれば、数千円に及ぶのも想定されます。登記申請方法に関して、できるだけ安く済む工夫が必要です。
手続費用を抑える方法
抵当権設定登記の費用は、自力で手続すると大きく抑えることができます。ただし、容易ではありません。そのほかにも、融資を得る方法を選んだり、登録免許税の軽減措置を利用したりする方法があります。
可能なら自力で申請する
抵当権設定登記を自力で申請すれば、少なくとも司法書士報酬は節約できます。もっとも、登記申請の方法だけでなく、抵当権の性質についての深い理解が必要であり、簡単ではありません。
抵当権の性質に関してもっとも注意したいのは、順位の存在です。登記の順番によって債権者ごとに「〇番抵当権」とのように番号が振られますが、これは重要な意味を持ちます。順位が高いほど、弁済が優先され、ひいては債権者が回収できる額に関わってくるのです。そのため、登記の遅れが契約トラブルを引き起こし、一括返済を求められるなどのリスクに晒される懸念があります。
登録免許税の軽減措置を利用する
住宅取得資金の貸し付け(いわゆる住宅ローン)のための抵当権設定登記では、令和9年3月末まで、登録免許税の税率を0.4%としているところ、0.1%まで軽減されます。適用すれば、購入する住宅価格ごとに、本則と比べて次のように軽減してもらえます。
- 3000万円の場合:本則12万円→軽減後3万円
- 5000万円の場合:本則20万円→軽減後5万円
- 8000万円の場合:本則32万円→軽減後8万円
自力で申請する場合、これらの適用を忘れがちです。最初に軽減措置を確認して、適用を忘れないようにしましょう。
日本政策金融公庫を利用する
事業融資の場合、住宅ローンにはある軽減措置がなく、登録免許税が高くなってしまうのが難点です。費用を少しでも節約したいのであれば、日本政策金融公庫で貸し付けを受けるのを検討しましょう。
登録免許税について定める法律では、日本政策金融公庫が根抵当権者となる場合に、登録免許税を全額免除するとされています。この根抵当権とは、借り入れと返済のサイクルを繰り返すことを前提に「極度額」を定め、不動産に設定する権利を指します。主に事業の運転資金目的の貸し付けで設定される権利です。
たとえば、3000万円を極度額として融資を受ける場合、本来なら12万円必要であるところ、上記の国民生活事業・中小企業事業などの貸し付けであれば、全額節約できることになります。
複数の司法書士に見積もりを取る
抵当権設定は一歩間違えると契約トラブルに発展する恐れがあるため、司法書士に依頼するのが普通です。自分で依頼先を選べる場合は、物件の概要や登記の内容を簡単に伝えつつ、相見積もりを取ってみると良いでしょう。
複数の司法書士に見積もりをとる過程では、司法書士の対応力や専門性も判断できます。見積もりの結果は、単純に金額の高低だけでなく、サービスの質や対応の良さなども考慮して総合的に判断しましょう。
手続方法と必要書類
抵当権設定登記の手続では、債権者と債務者の双方で書類を用意し、不動産を管轄する法務局で申請する必要があります。以下で解説する全体の流れを頭に入れておくと、書類を何往復もさせるなどの無駄な費用をかけずに済むかもしれません。
債権者から登記申請のための書類を受け取る
債権者から受け取る書類の種類は、抵当権設定契約書をはじめとして、下記のようなものがあります。これらの書類は、抵当権設定の根拠となる重要な書類です。
- 抵当権設定契約書
- 印鑑登録証明書
- 金融機関の資格証明書
- 委任状(債務者もしくは司法書士が申請する場合)
書類の受け取り方法は、直接手渡しが一般的ですが、郵送やオンライン申請も可能な場合があります。受け取る際は、書類の内容を確認し、不明点があれば債権者に確認しましょう。書類に不備や不足がある場合は、債権者に連絡し、追加の書類を求めます。書類が揃っていないと、登記申請ができないため注意が必要です。
登記申請書そのほかの必要書類を準備する
登記申請書は、法務局で定められた様式に必要事項を記載して作成します。記載内容は、抵当権設定者(債務者)と抵当権者(債権者)の氏名や住所、抵当権の目的となる不動産の表示、原因(契約日付と契約名)、抵当権の順位、債権額などです。そのほかにも、債務者側で用意する書類があります。
- 登記申請書
- 印鑑登録証明書
- 登記済証または登記識別情報
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
不動産を管轄する法務局に申請する
抵当権設定登記の申請先は、不動産を管轄する法務局です。登記申請書に登録免許税額相当の収入印紙を貼り付け、郵送または窓口で申請しましょう。なお、必要書類をすべて電子文書で集めた場合は、オンライン申請も可能です。郵送料を節約できるため、積極的に活用しましょう。
抵当権設定登記の費用に関する注意点
抵当権設定登記を行う際は、費用面以外の注意点にも目を向ける必要があります。その手続の重要性から、手続方法を自分で選べるとは言えない点や、借り入れを前提とした税控除の手続があとに控える点です。
金融機関側で手続される場合が多い
抵当権設定登記の手続は、多くの場合、金融機関指定の司法書士が行います。債務者自身での抵当権設定登記や、債務者が指定した司法書士による申請は、債権者がなかなか認めてくれません。自力でやる場合の問題点として指摘したように、登記手続に留まらない高度な知識をもって申請しないと、債権者がリスクを負うことになってしまうためです。
書類不備や記載ミスが許されない
抵当権設定登記では、書類の不備や記載ミスが登記の遅延に繋がり、ひいては債権者の不利益になる場合があります。修正のため登記完了までに時間がかかってしまい、そのあいだに物件の評価や権利状況に変化が起きて、抵当権による担保の効果が薄くなってしまう可能性があるのです。この場合、契約トラブルは当然避けられません。登記申請での間違いは「基本的に許されないもの」と考えるべきです。
住宅ローン控除の適用などを忘れずに行う
抵当権設定とは直接関係ないものの、借り入れをしたのであれば、将来に渡って適用できる税控除がある点にも留意しましょう。住宅購入なら住宅ローン控除があり、事業融資であれば費用計上による法人税低減などの可能性があります。
上記を意識しながら注意を払って抵当権設定登記を申請するのは、やはり容易ではありません。損をしないために、司法書士への依頼がかえって良い場合が多々あります。
抵当権設定登記の費用を把握して賢い節約を
抵当権設定登記は、不動産を担保として融資を受ける際に必要な手続ですが、登録免許税や司法書士報酬など、様々な費用がかかります。これらの費用は、物件の種類や価額、登記の内容によって異なるため、個別のケースに応じて確認することが重要です。また、費用を抑えるためには、自力で申請したり、登録免許税の軽減措置を利用したりする方法があります。
ただし、専門的な知識が必要となるため、安易に自力で行うのは避け、必要に応じて司法書士に相談するのが賢明でしょう。抵当権設定登記の手続と費用について理解を深め、賢く節約しながら、円滑に手続を進めていきましょう。