共有名義における相続登記のトラブル回避ポイントやメリット・デメリットを解説

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共有名義での相続登記とは?

共有名義での相続登記とは、被相続人が所有していた不動産を、複数の相続人が共同で受け継いだものとして名義変更する手続です。各相続人が相続により取得する不動産の権利は「共有持分」と言い、登記簿上では「持分〇分の〇」とのように各人の権利を表記します。

共有名義の相続登記が行われるケース

共有名義での相続登記が行われるのは、特定の人が単独で承継する必要性がそれほどないケースや、資産状況から見て不動産の価値をそのまま分割せざるを得ないケースです。具体的には、次のような場合が当てはまります。

  • 同居する家族と一緒に自宅を相続し、引き続き住み続ける
  • 不動産の評価額に対し、そのほかの財産(預貯金など)が少ない
  • 賃料収入を公平に分割できるよう、賃貸物件を共有名義にする必要がある

土地や建物は、実際にあるものをそのまま分割するのが難しく、現金化しようにも販売活動や契約締結といった手間や費用のかかる資産です。相続人が2人以上いるケースで公平に承継したい場合、最も簡単なのは、共有名義による登記申請だと言えます。

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共有名義での相続登記の手続の流れと費用

共有名義での相続登記は、遺言書または遺産分割協議による合意で共有持分を判断し、これを登記原因として管轄の法務局に申請する方法で行います。なかでも一般的な遺産分割協議による手続の大枠を説明すると、次の通りです。

  1. 全員で遺産分割協議を行い、書面化して署名押印する
  2. 遺産分割協議書やそのほかの書類を法務局に提出する
  3. 登記完了後、登記完了通知および登記識別情報が送られてくる

一部の相続人と連絡が取れない場合や、法律で決められた相続割合(法定相続分)のままで良いのなら、遺産分割協議を省略しても構いません。この場合は、手続する人(登記申請人)は相続人のいずれか1人だけで良く、法務局に戸籍関係書類や登記申請書を出すだけで手続は終わります。もし、任意の割合で相続登記を行いたい場合は、相続人全員での申請が必要です。

また、相続登記以外で名義変更を行う際は、単独での申請は行えません。共有持分を譲り受ける側・譲り渡す側の共同で申請を行う必要があります。登記申請書の登記の目的は「持分全部権移転」となり、登記原因については他の共有者との話し合った内容を記載します。いくら自身の持分とはいえ、勝手に名義変更すること他の共有者から反感を買うことになり、トラブルへと発展する可能性があるので注意しましょう。

手続にかかる費用

共有持分移転登記にかかる費用は大きくわけて以下の3つになります。

  • 登録免許税
  • 必要書類の取得費
  • 司法書士などの専門家への報酬

登録免許税

手続を行う際には登録免許税が必要になり、その費用は以下の式で求めることができます。

登録免許税=固定資産税評価額×共有持分×登録免許税率

登記の原因によって税率は異なりますが、相続の場合は0.4%になります。たとえば、評価額が5000万円の不動産に対して持分が2分の1を所有していた場合、「5000万円×1/2×0.4%」となり、登録免許税は10万円となります。

必要書類の取得費

申請時には必要な書類を提出する必要があり、少額ながらもきちんと覚えておく必要があります。なお、発行する手段や地域によって一部書類の金額が異なります。

書類名 1通あたりの手数料
固定資産税評価証明書 200~400円
住民票 200円~300円
印鑑登録証明書 200円~300円
戸籍謄本 450円

司法書士への報酬

共有持分移転登記を司法書士へ依頼した場合の報酬額はおおよそ3~15万円程度が相場となっています。金額に振り幅があるのは、司法書士側で報酬額を設定できるためです。もし、複数の登記手続を依頼する場合は件数分の費用がかかるめ、気になる場合は事前に報酬額を確認しておくとよいでしょう。

手続に必要な書類

登記申請を行うために必要な書類は、下記のとおりです。

  • 登記申請書
  • 被相続人が生まれてから死亡するまでの連続した戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票もしくは戸籍附票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 固定資産評価証明書
  • 登記事項証明書(登記簿謄本)
  • 相続関係説明図(準備している場合)

被相続人と相続人間の関係性に応じて、追加書類が必要になるケースがあります。なお、法定相続情報一覧図を用意していると戸籍謄本の準備は割愛できます。

共有名義でのメリット・デメリット

共有名義でのメリット・デメリット_イメージ

共有名義での相続登記は、短期的には手続の簡便化という利益が得られるものの、長期的には不利益になる可能性が大きいと言わざるを得ません。共有不動産に関する手続、維持管理という面からメリットとデメリットを挙げると、以下のように言えます。

共有名義の相続登記の2つのメリット

共有名義で相続登記を行うメリットは、不動産を売ったり相続分相当の現金を用意したりしなくても、簡単に公平な相続が実現する点です。共有物の性質上、簡単に手放すわけには行かない土地や建物がある人にとっても、利点があります。

遺産分割協議による手続の負担が少ない

共有名義での相続登記なら、相続人のうちの誰か1人が申請人となり、事前の協議を行わずに法定相続分を持分割合として手続しても構いません。遺産分割協議によって持分割合を決めてから申請するにせよ、査定や販売活動・分割のための資金調達などは必要なく、ほかの不動産の分割方法に比べて負担が少なくなります。

たとえば、父親が亡くなり、父親名義の自宅を母親および子2人で遺産分割するケースがあるとします。父母で同居し続けてきた自宅は、今後も母親の独居生活のため利用する予定です。問題は、自宅を母親の単独名義としたい場合、遺産分割協議を実施して書面を作成する手間がある点です。母親もすでに高齢であり、上記のような手続の負担はなるべく避けたいところです。そこで、子のどちらか片方が戸籍関係書類を持って法務局に行き、法定相続分をそのまま持分割合にして手続を完了させる手段が考えられます。

簡単に手放せなくなることで土地を守れる

詳細はデメリットの項目で解説しますが、共有状態となった不動産は、売却などの著しい変更行為に一手間かかります。そのため、特定の共有者の意思で勝手に売られる、建替えを行われるといった心配はありません。第三者への賃貸も同様です。

上記のような共有物の性質を利用すれば、代々受け継いできた大切な土地を守れます。家業のため必要な土地や、伝統的・歴史的な土地や建物については、あえて共有名義で登記する方法も考えられるでしょう。

共有名義の相続登記の4つのデメリット

相続登記によって不動産が共有状態となった場合のデメリットは、土地および建物の維持管理で顕著です。その理由は、共有物の変更に関する法律の定めや、共有状態の解消方法にあります。具体的にどんな面で不都合が生じるのか、4つの側面から考えてみましょう。

不動産の維持管理・活用に支障が出やすい

不動産の売却、賃貸、リフォーム、抵当権設定といった行為は、法的に「共有物の軽微な変更」以上の行為として扱われます。こうした重要な行為にあたっては、法律上、共有者のうち一定数の同意が必要とされます。具体的には、リフォームや賃貸なら共有者の価格に基づく過半数の同意、売却や抵当権設定を伴う融資申込であれば共有者全員の同意が必要です。

必要な共有者の同意を得るには「代表者がほかの共有者全員と連絡を取る」「日程を決めて話し合う」などといった、事前準備や調整が欠かせません。このようにして、目的とする取引や修繕に遅延が出るなど、土地や建物の維持管理・活用のための活動に支障が生じやすくなります

共有者の間で意見対立が起こりやすい

相続で不動産の共有者となった人同士だと、賃貸収入の分配や固定資産税の負担をめぐって意見対立が起きやすい傾向がみられます。マンションの区分所有者のような共有形態とは異なり、維持・管理・運用に関する意思を事前に統一していないケースがほとんどだからです。

一般的には持分に応じた固定資産税を払うのがベターとされていますが、曖昧のまま放置せず、しっかりと支払い体制の共有を行っておくべきです。なお、請求書は相続時では相続人の代表者に送られますが、自治体からの請求書は持分を一番多く持ってる人に送付されます。いずれにせよ、送付された人が全額支払うというものではないので、誤った認識で覚えないようにしましょう。

相続で共有者が増えて権利関係が複雑化する

不動産の共有状態が続くと、共有者の死亡に伴ってさらに権利関係が複雑化し、維持管理がますます難しくなる恐れがあります。共有持分もまた、共有者の死亡により相続財産となるからです。

たとえば、ある不動産をきょうだいで共有したとしましょう。共有者のうちの誰かが死亡すると、共有持分は甥・姪に受け継がれます。さらに甥・姪についてもいずれ相続が発生することを考えれば、将来的には共有者がネズミ算式に増えていくことになります。このようにして増えた共有者同士は、相互の人間関係が希薄になり、意思疎通は難しいと言わざるを得ません。このようにして、最初に説明した「売却やリフォームが実施しにくい」というデメリットがさらに加速します。

共有状態の解消に多額の費用がかかる

共有不動産のデメリットを踏まえると、現状を解消して単独名義にしておきたいところですが、実施しようとすると買取代金や登記費用などを含む相応の費用がかかります

自身の単独名義とする方向性で共有状態の解消を望む人は、ほかの共有者に持分を売ってもらうための代金を用意しなくてはなりません。次に、買い取った持分の移転登記(共有状態を解消する人の名義に変更するための手続)をするときも、登録免許税のほかに譲渡所得税などの負担があります。

上記の費用は、立地条件の良い物件や広大な土地ともなれば、相当額が必要となり、共有を解消したい人の懐を圧迫するでしょう。

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事例紹介

不動産の相続においては、デメリットの多い共有状態を回避し、できる限り特定の相続人の単独名義で登記申請するのが一般的です。しかし実際には、共有名義のデメリットを知らないまま、被相続人による生前の準備も相続人による適切な対処もされず、共有名義で相続登記してしまうケースが少なくありません。

共有を回避できずトラブルになった例

共有名義での相続登記を回避できずトラブルに発展した事例の主な原因は、生前対策が不十分で、相続開始後に分割方法を検討せざるを得なかったり、その際に知識不足だったりすることです。具体的には、以下のような事例が挙げられます。

ほかの相続人と連絡が取れず名義変更ができない例

最初に挙げるのは、親と同居し家業を手伝っていた子が、自宅および営農中の農地を受け継ぐことになった事例です。この事例では、下記のような経緯のせいで、やむを得ず共有名義での相続登記としました。

  1. 親が遺言書を作成していなかった
  2. ほかに弟2人が相続権を有しており、遺産分割協議をする必要がある
  3. 弟たちとは長年疎遠であり、把握している連絡先ではコンタクトがとれない

この状況で自宅と農地の名義変更をするなら、法定相続分で登記するしかない

この問題の原因は遺言の不在です。生前のうちに遺言書を作成しておけば、遺言を執行するだけで単独名義での承継が叶ったはずです。

また、この先で起こる問題として、不在の弟の財産(主に共有持分)の管理方法が挙げられます。このまま連絡が取れない状況が続けば、弟たちの親族が突然権利を主張してくる・共有持分を買い取った第三者から連絡があるなどして、不動産の維持管理に支障をきたすかもしれません。

共有者同士で合意できず適切な時期の売却が出来なかった例

次に挙げるのは、亡くなった父の自宅を遺産分割協議で取得する際に、母と長女・長男の3人の共有名義とすることが決まった例です。母と長女は同居しており、長男は別居しています。この例では、不動産の将来を容易に想像することが出来たにもかかわらず、適切な対応が取れませんでした。時系列で状況を見てみましょう。

  1. 手続の負担を考え、法定相続分で自宅を登記した
  2. 母が認知症を発症して施設に入居し、長女も引っ越すことになった
  3. 自宅を売ろうとしたが、共有者の1人の同意を得られないため不動産会社に断られた

同意を得られない共有者(母親)について後見を開始するまでのあいだに、不動産の老朽化が進み、価値が低下した

この問題では、遺産分割協議の際に将来のリスクを慎重に協議し、3人のうち誰か1人の単独名義とすべきでした。将来のリスクとは、空き家になって売却を始めることや、その際に認知症による判断能力の低下(意思能力の欠如)によって必要な同意がとれなくなることです。

1つの方法として、母の単独名義としつつ、自宅の売却を可能にする任意後見契約を結んでおくやり方も検討できたはずです。この場合、認知症と診断された時点で任意後見人となった人物が自宅を売却し、その代金を相続財産として分割できるようにすることで、共有不動産の問題は回避できるでしょう。

相続開始後になって共有状態が発覚した例

最後に挙げるのは、亡くなった親の不動産の登記事項証明書を取り寄せると、以前の相続で共有名義による登記を行っていたと分かったケースです。これから相続登記しようとする人にとっては、子や孫などといった次の代で起こる問題と言えます。時系列で整理してみましょう。

  1. 亡父名義だと思っていた自宅が、父と父の兄(叔父)の共有物だった
  2. 相続人らは幼少期から叔父と交流がなく、調査するまで連絡先も分からない
  3. 叔父の戸籍謄本を取って調べてみると、叔父はすでに亡くなっており、2人の子を残している状態だった

いとこにあたる人は、共有持分の相続人と言っても面識がない状態。連絡が取れても持分の譲渡(自宅を父の直系子孫の単独名義にする)に同意してくれるか不明

このケースでは、司法書士や弁護士など、相続人調査や、いとこらとの協議を支援してくれる存在が不可欠です。たとえ支援があっても、相手方の返信の速さに期待することはできません。いずれにせよ、祖父母の代で自宅を父の単独名義にしておけば、このような複雑な事態にはならなかったはずです。

共有を回避しながら公平に遺産分割できた例

共有名義での相続登記を回避しつつ、公平な遺産分割を実現できた事例では、被相続人による生前対策が鍵となっています。具体的には、以下のような事例が挙げられます。

生前のうちに話し合って遺言書を作成した例

最初に挙げるのは、自宅の所有者である親が、生前のうちに配偶者および子らと話し合って遺言書を作成した例です。配偶者のため住居を確保しつつ共有名義を回避するために、次のような方法で対処しました。

  1. 遺言書で「配偶者居住権」を設定
  2. 上記に加え、自宅の所有権の承継先は長男を指定
  3. さらに、預貯金の一部は配偶者へ、そのほかの財産は次男に相続させる旨も指定

配偶者は自宅に住む権利+老後資金、長男は自宅の所有権、次男は現金をそれぞれ取得する

配偶者居住権は、令和2年4月1日から施行された改正法により、遺言で設定できるようになった権利です。設定すると、自宅の所有権は子や孫といった第三者でも、遺された夫や妻はその家に住み続けることができます。配偶者の住居確保のため共有名義にする必要はありません。

ここで紹介したケースでは、さらに次男の相続分にも配慮しています。配偶者に最低限の老後資金を確保しつつ、不動産をもらえない次男に対し、現金で取り分を用意しました。こうした工夫により、公平な遺産分割と共有不動産化の回避が同時に実現しています。

生命保険金を代償金として単独承継に成功した例

次に挙げるのは、一定の価値がある自宅を公平に分割するため、生命保険を利用するケースです。親は将来的に3000万円程度の売却価値が見込めるマンションの一室を有しており、3人の子のうち長男を承継者として考えています。具体的に、どのような対処をしたのでしょうか。

  1. 遺言書を作成し、マンションの承継先は長男を指定
  2. さらに、そのほかの財産(900万円相当)を次男と三男で分割するように指定
  3. 別途、死亡時に1000万円が支払われる保険に加入し、受取人を長男に指定

上記1と2だけでは、長男は3000万円・次男と三男はそれぞれ450万円の取り分となります。法定相続分はそれぞれ1300万円であり、この半分にあたる650万円の遺留分が次男と三男に認められるため、これだけでは長男が遺留分侵害額請求を受ける恐れがあります。

そこで活用するのが、生命保険です。死亡保険金には、法定相続人の数に応じて1人あたり500万円の非課税枠があり、長男に支払われる額は全額手元に遺しておけます。保険金を原資に次男と三男にそれぞれ200万円支払えば、それ以上請求される恐れはありません。マンションは長男の単独名義として、公平な遺産分割が実現します。

各兄弟の最終的な取得分

  • 長男:3000万円+600万円(ほかの兄弟に計400万円を支払った後)
  • 次男:450万円+長男からの支払い200万円
  • 三男:450万円+長男からの支払い200万円

※生命保険金は特段の事情がない限り相続財産として扱われず、遺留分侵害額請求の対象外となります(税法上はみなし相続財産として扱います)

家族信託で賃貸不動産の単独承継を成功させた例

最後に挙げるのは、評価額3000万円の賃貸不動産を所有するケースです。所有者である親は、2人の子のうち長男に対し、上記物件と運用資金1000万円で計4000万円を相続させたいと考えています。希望通りにするなら、次男は預貯金の残りである1000万円しか相続できません。

そこで、民事信託と呼ばれる契約を親族間で締結する「家族信託」を使い、下記のように対策しました。

  1. 賃貸不動産と運用資金を信託財産として、家族信託を組成
  2. 受託者は長男とし、受益権を親自身と長男に設定
  3. 親の受益権は、死亡したら次男に移動するものとする
  4. 上記信託契約とは別に、個人資産はすべて次男に相続させる旨の遺言書を作成

家族信託は、特定の財産を個人資産から切り離し、管理する人である「受託者」を決め、それとは別に財産から利益を得ることのできる「受益権」を有する人を指定できるしくみです。この事例では、賃貸不動産および運用資金は長男が管理し、賃料収入は受益権として、親と長男(※親の死後は子ら2人)で分割する内容としています。

信託契約のなかで、賃料収入により次男の取り分が遺留分(1250万円)を上回れば、相続トラブルに発展することはありません。トラブル解決のため不動産を売ったり、共有名義にする必要に迫られるリスクはないと言えます。

信託契約締結後のお金の流れ

  • 長男が賃貸不動産を管理
  • 親の生前は、不動産収入を親と長男で分割
  • 親の死後は、不動産収入を長男と次男で分割
  • 信託財産(この場合の賃貸不動産)の最終的な帰属先は長男

共有名義でのトラブルを防ぐ方法

共有名義による相続登記は、さまざまなトラブルの原因です。確実に回避したいのであれば生前対策が有効ですが、相続開始後でも「譲り受けた土地や建物をどうやって分割するか」をしっかり検討すれば問題になりません。

いずれにせよ、ケースごとの対策方法は専門家の支援を得るのがベストです。紹介するのは一般的な対策ですが、具体的な方法としては以下が考えられます。

生前のうちにできる共有不動産対策

不動産を共有名義で相続登記することによるトラブルを回避する方法としては、遺言書の作成、生前贈与、売却による現金化などが挙げられます。これらの方法に予備的な対策を組み合わせ、対策に漏れがなければ、共有を回避しつつ遺産分割を公平に進められる可能性が高まります。

遺言書を作成する

不動産の共有回避に向けた一般的な対策は、遺言書の作成です。特定の人に相続または遺贈する旨の遺言をしておけば、遺産分割協議を行うまでもなく、遺言執行によって共有状態を回避できます

ただし、不動産を単独で承継することで、ほかの相続人の取り分が著しく減る問題があります。生前のうちに資産を組み替えて分割しやすい内容にしたり、生命保険に加入したりするなど、各相続人の遺留分は確保できるような予備的な対策が必要です。

生前贈与で単独名義にする

相続による共有状態を確実に避けるには、あらかじめ特定の人に生前贈与しておく方法も有効です。贈与を原因とする所有権移転登記まで完了させれば、その時点で不動産は単独で承継されたことになり、受贈者の意思で維持管理や売却を行えるようになります

上記の場合でも、遺産の取り分が不公平になる問題への対策は必要です。加えて、贈与税の問題もあります。土地や建物といった高額資産は、贈与した年にその基礎控除額(110万円)を超えてしまう可能性が高く、受贈者に贈与税の負担が生じます。相続時精算課税制度を利用するなど、節税を心掛けたいところです。

売却して現金化する

どうしても共有名義での相続登記が避けられそうにない場合は、生前のうちに不動産を売却しておく方法が考えられます。売却によって土地・建物を現金資産に組み換えてしまえば、何の支障もなく1円単位で分割でき、共有の問題は発生しません

もっとも、上記の方法を選択できるのは、活用予定のない土地・建物に限られます。加えて、現金資産に変換した時点で、課税額上昇のリスクがあります。譲渡所得税の申告・納付が必要となる点や、相続開始時点に「小規模宅地等の特例」による節税が叶わない点は、十分考えておきたいところです。

相続開始後にできる共有不動産対策(換価分割・代償分割・現物分割)

相続が開始した後に取り得る共有不動産対策としては、換価分割、代償分割、現物分割の3つが考えられます。いずれも、共有名義での相続登記ではなく、単独名義での登記を実現しつつ、公平な遺産分割を図る手段となります。

現金化してから分割する(換価分割)

第一に、相続した不動産を共同相続人全員の合意の下で売却し、売却代金を公平に分割する方法があります。この方法は換価分割と言い、自分たちで利用する予定がない不動産であれば選択できます。

換価分割の問題は、分割の実現に至るまで時間や費用がかかることです。流れとしては、いったん共有名義での相続登記を行い、不動産会社に依頼して販売活動してもらう必要があります。買主が見つかって売買契約となった際は、仲介手数料などを負担しなければなりません。

単独で相続する人が金銭を支払う(代償分割)

第二に、特定の相続人が不動産を単独名義で承継・登記し、その代わりにほかの相続人に金銭を支払って取り分を公平化する方法があります。この方法は代償分割と言い、単独で相続登記する人が支払う金銭を「代償金」と言います。

代償分割の問題は、不動産を譲り受ける人について、代償金を支払えるだけの十分な資力があるかどうかです。基本的には相続財産に含まれる預貯金などを原資としますが、不足する場合は、相続人の個人資産から負担せざるを得ません。

また、不動産自体の正確な査定に基づいて「いくらの代償金を支払えば公平になるか」を見極めることも重要です。不動産会社に依頼せずに自分たちで価値を判断すると、後から代償金の過不足をめぐってトラブルになる恐れがあります。

不動産とそのほかの財産でわける(現物分割)

第三に、不動産とそのほかの財産に仕分けし、それぞれをどの相続人が承継するか決める方法があります。実際にあるものを共有せず、現物ごとに帰属先となる人を判断する点で、現物分割と呼ぶ方法です。

現物分割の問題点は、不動産以外の財産が少ない場合、公平な分割が難しくなることです。どうしても不動産を単独名義で維持したいのであれば、相続人個人の資産を充てて代償分割を選ぶ方法も検討に値します。ただし、被相続人の財産が自宅とわずかな老後資金しかないようなケースでは、現実的な選択肢とは言えないでしょう。

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注意点・知っておきたいこと

共有名義による相続登記が避けられそうにないときは、共有者が亡くなったときの対処方法や、共有状態の解消方法についても理解しておきたいところです。ほかにも「共有名義の登記を勝手に入れられてしまうケースもある」と認識しておけば、相続放棄などの必要な対応を取れるようになります。

代位登記で共有名義になるケースもある

相続登記は通常、相続人やその代理人である司法書士が行うものです。ところが、住宅ローンを完済せずに亡くなったケースなどでは、債権者の申請により法定相続分で登記されてしまうことがあります。これを代位登記と言い、登記申請が受理されると、なし崩し的に不動産の共有が始まります。

債権者による代位登記がなされたケースでは、不動産を共有のままにしておくリスクより「債務をどう処理するか」が問題となります。弁済を約束するなどして債権者の承諾を得なければ、遺産分割による相続登記はできません。そもそも債務を弁済する資金があるかどうかも問題です。

そこで、上記のように債権者が代位して相続登記されてしまったケースでは、最終手段として「相続人全員で相続放棄する」といった方法も考えられます。

共有者の1人が亡くなった場合の相続の方法

共有名義で相続登記を行った後、共有者の1人が亡くなると、その共有者の相続人が持分について改めて相続登記を行うことがあります。単独名義の不動産を相続する場合と同じく、持分をさらに細分化するか、あるいは特定の相続人が持分を丸ごと相続するか、いずれか選択しなければなりません

不動産の共有状態を解消する方法

不動産の共有状態を解消するには、先で述べた通り、ほかの共有者から持分を買い取るか、逆に自分の持分を買い取ってもらう方法が考えられます。ほかに、自分の持分を第三者に譲渡する方法もあるでしょう。

第三者に譲渡する場合、共有者の負担になる恐れがあります。親族の仲を良好に保ちたいのであれば、共有者全員で話し合ってから譲渡先を決めるのが賢明です。

不動産の分割方法は司法書士に相談を

共有名義での相続登記した不動産は、長期的に見ると不利益が生じる可能性が大きいと言わざるを得ません。土地活用などの行為に共有者の同意が必要になる点で、共有者同士の意見対立や連絡不通や、相続発生による共有者の増加などの因子が加わり、著しく支障をきたす恐れがあります。

相続登記の手続に入る前に「そもそも、不動産の分割方法は共有でいいのか」をしっかり検討しましょう。適切な分割方法の検討や、それを実行するための面倒な手続は、専門家の支援で大きく負担を減らせるはずです。まずは司法書士に相談し、長期的に見て良い方法を提案してもらうことが大切です。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載