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遺産分割調停調書とは
遺産分割調停とは、相続財産の分け方について相続人が家庭裁判所を介して話し合い、まとめる手段です。裁判所の調停委員が中立的な立場に立ち、相続人それぞれの言い分を平等に聞いたうえで、偏った判断にならないよう円満な解決へ導きます。
遺産分割調停調書とは、遺産分割調停で合意した内容を証明する書面のことです。調停の成立後、保存期間である30年間は、いつでも裁判所に対して交付請求できます。調停調書は確定判決と同一の効力を持つので、調停調書の記載どおりに相続登記手続を行えます。
以下では遺産分割調停についてより詳しく理解するために、遺産分割の種類について簡単に解説したうえで、遺産分割調停と遺産分割協議の違いについて解説します。
遺産分割の種類について
遺産分割には、以下の3種類があります。
遺産分割協議 | 相続人全員が話し合って遺産分割方法を決める |
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遺産分割調停 | 家庭裁判所を介して相続人全員が話し合い、遺産分割方法を決める |
遺産分割審判 | 家庭裁判所が遺産分割方法を決定する |
まずは遺産分割協議を行い、相続人同士で話し合いをしますが、協議では折り合いがつかない、あるいは協議自体行うことができないケースもあります。その場合、遺産分割調停の申し立てをして遺産分割調停を行います。そして、調停でも話がまとまらないときは、遺産分割審判によって裁判所が遺産分割方法を指定します。
遺産分割調停と遺産分割協議の違い
前述のとおり、法定相続人同士の協議によって遺産分割方法を決めるのが、遺産分割協議です。これに対し、遺産分割調停の場合、相続人同士が家庭裁判所を通じて遺産分割協議を行います。
もっとも、遺産分割調停は家庭裁判所の調停委員を介して行われる手続ではありますが、相続人同士の話し合いである点は遺産分割協議と同様です。そのため、相続人全員が納得して合意しなければ、遺産分割調停は成立しません。
相続登記での手続における違いとしては、遺産分割協議よりも遺産分割調停の方が必要書類が少なくて済むという点があげられます。遺産分割調停の場合、遺産分割協議とは違って遺産分割協議書や戸籍謄本などが不要です。遺産分割調停の必要書類については、のちほど詳しく解説します。
また、遺産分割調停は単独で相続登記できるというのも特徴です。たとえば、法定相続分で登記していた不動産をあとから単独で相続した場合、遺産分割協議だとほかの相続人との共同申請が必要です。一方、遺産分割調停なら、調停調書に適切な文言の記載があれば単独で相続登記できます。
遺産分割調停の申し立て
遺産分割調停調書の申し立てにおける手続方法や、必要書類について解説します。
遺産分割調停の手続
遺産分割調停の申し立ては相続人の1人から行うことができ、ほかの相続人全員が相手方になります。申立書の提出先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定めた家庭裁判所です。
調停は通常の訴訟のように公開の法廷で行われるわけではなく、調停室という密室で行われるため、秘密が第三者に漏れる心配はありません。遺産分割調停によって話しがまとまると調停調書が作られ、相続登記手続を行えるようになります。
遺産分割調停申し立ての必要書類
申し立てにあたっては、以下の書類が必要となります。
- 亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・改製原戸籍含む)謄本
- 亡くなった方の戸籍の附票または住民票除票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票または戸籍附票
そのほか、申し立て人の主張を補完するために、遺産の内容や状況によって以下のような証拠書類が必要です。
預貯金・株式に関する書類 | 金融機関の残高証明書 株式預かり証の写し 証券会社の残高証明書 |
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自動車に関する書類 | 車検証の写し |
遺言書 | ー |
相続税申告に関する書類 | 相続税申告書の写し |
遺産のなかに預貯金や株式があれば預貯金・株式に関する書類が、遺産のなかに自動車があれば車検証の写しが必要です。遺言書は遺言がある場合に、相続税申告に関する書類は既に相続税の申告をしている場合にそれぞれ必要な書類です。
調停調書を用いた相続登記で必要な書類や費用
遺産分割調停調書を用いた相続登記の必要書類や、費用について解説します。遺産分割調停調書を用いた相続登記の場合、遺産分割協議書の場合とは必要書類などが異なるので、手続の際には参考にしてください。
遺産分割調停調書を用いた相続登記の必要書類
相続登記手続に必要な書類について、必須の書類と状況に応じて必要な書類にわけて解説します。
必須の書類
- 遺産分割調停調書の正本もしくは謄本
- 相続を受ける人の住民票
- 固定資産評価証明書
相続を証する書面として、遺産分割調停調書が必要です。原本は裁判所で保管されているため、法務局には正本もしくは謄本を提出することになります。正本とは原本に基づいて作成・認証された書面であり、原本と同一の法的効力があります。謄本は原本をコピーした書面であり、原本との内容の同一性が認証されています。
遺産分割協議による相続登記の場合、遺産分割協議書に加えて亡くなった方の死亡から出生までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本などが必要となりますが、遺産分割調停に基づく相続登記ではこれらが必要ありません。なぜなら、遺産分割調停の申し立ての際にこれらの書類を提出しており、すでに家庭裁判所で相続関係をチェックしているからです。
状況に応じて必要な書類
- 亡くなった方の戸籍謄本(除籍謄本)
- 住民票の除票または戸籍の附票
- 司法書士への委任状
調停調書に亡くなった方の死亡年月日が記載されていない場合、登記原因のあった日付を明らかにするために亡くなった方の死亡した日の記載がある戸籍謄本などが必要となります。
また、亡くなった方の不動産登記簿謄本上の住所と亡くなった当時の住所が異なっている場合、登記簿謄本上の住所地から亡くなったときの住所地までの沿革がわかる住民票、もしくは戸籍(除籍)の附票が必要です。
遺産分割調停調書を用いた相続登記にかかる費用
遺産分割調停調書を用いた相続登記にかかる費用は、以下のとおりです。
書類の発行手数料 | 戸籍謄本:450円 除籍謄本:750円 住民票の写し:200円~300円 |
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登録免許税 | 固定資産評価額×0.4% |
司法書士報酬 | 3~12万円 |
司法書士報酬には幅があるので、司法書士へ依頼する場合には事前に費用について相談しておきましょう。
※参照:司法書士の報酬と報酬アンケートについて(平成30年1月)|日本司法書士連合会
調停調書を用いて相続登記を行う場合の注意点
遺産分割調停調書で相続登記を行ううえで、いくつかの注意点があります。ここでは調書の文言による相続登記手続の違いと、遺産分割協議が長引く場合の対処法について解説します。
調書の文言によって相続登記手続が異なる
調停調書を使って登記申請をする場合の手続方法は、現在の登記名義人が誰になっているか、調書の文言がどのように記載されているかによって変わります。以下では、登記名義人が亡くなった方になっている場合と、法定相続分に従って相続登記されている場合に分け、手続方法の違いについて解説します。
登記名義人が亡くなった方になっている場合
登記名義人が亡くなった方のままになっている場合、以下のような調停調書の文言が書かれていれば、不動産を取得した相続人が単独で相続登記を申請できます。
文言例
申立人は、別紙遺産目録記載の土地を取得する
法定相続分に従って相続登記されている場合
すでに法定相続分に従って相続登記がされている場合、調停調書には先ほどの文言だけでは足りず、「登記手続条項」が書かれている必要があります。 登記手続条項とは、 登記義務者に一定の登記手続を命じる文言のことをいいます。具体的には、以下のような文言が記載されている調停調書が必要です。
文言例
申立人は、別紙遺産目録記載の不動産を取得する
相手方は、申立人に対し、別紙遺産目録記載の土地につき、遺産分割を原因とする持分全部移転登記手続をする
上記のような登記手続条項がない場合、申請人は登記義務者と相続登記を共同申請しなければなりません。 しかし、相手方が積極的に登記手続に協力してくれるとは限らないでしょう。 もし協力が得られなければ、訴訟を提起して名義変更手続をするように命じる判決をもらう必要があります。
このように、登記手続条項がないと相続登記手続に手間がかかるので、調停調書の記載が不十分で登記申請が通らないという事態を避けるためには、調書に記載してほしい内容を裁判所に対して伝えておくことが大切です。
遺産分割協議長引く場合には相続人申告登記がおすすめ
相続人申告登記は相続登記の義務化にともなって新設された制度であり、一言でいえば「相続登記の義務を簡易に履行できる制度」です。
遺産分割協議で折り合いがつかず、調停に入るようなケースの場合、遺産分割が成立するのに長期間かかることも少なくありません。しかし、義務化された相続登記は3年以内に手続をしないと10万円以下の過料が科されるという罰則があります。
そこで、もし遺産分割が3年以内に成立しない場合、ひとまず相続人申告登記をしておけば相続登記の義務を履行したことになり、罰則を免れることができます。
ただし、相続人申告登記は相続登記の代わりにはなりません。相続人申告登記後に遺産分割が成立したら、遺産分割成立から3年以内にその遺産分割の内容を踏まえた相続登記の申請をする必要があります。
遺産分割調停で解決しなかったときは遺産分割審判を
遺産分割の最終的な解決手段として、遺産分割審判があります。遺産分割審判の概要や必要書類について解説するので、遺産分割調停でも話がつかなかったときは遺産分割審判も検討するとよいでしょう。
遺産分割審判とは
遺産分割審判は、裁判所が証拠をすべて精査したうえで遺産分割方法を判断し、遺産分割を決定する手続です。遺産分割調停でも話がつかなかった場合、遺産分割審判を行います。
遺産分割調停は家庭裁判所の介入があるとはいえ、相続人同士の話し合いによる解決方法であるという点は遺産分割協議と変わらず、裁判所が強制力をもって紛争を裁断できるわけではありません。
つまり、裁判所が強制的に遺産分割方法を決められるかどうかが、審判と調停の大きな違いといえるでしょう。遺産分割審判が終了すると、審判書が作られます。審判書には裁判所の判決と同様の効力があり、審判書の内容に基づいて相続登記を行うことができます。
遺産分割審判に必要な書類
遺産分割審判に必要な書類は、以下のとおりです。遺産分割調停申立書・当事者目録・財産目録は、すべて裁判手続上必要になる書類です。
- 遺産分割調停申立書・当事者目録・財産目録
- 相続関係を明らかにする書類
- 遺産の内容を明らかにする書類
相続関係を明らかにする書類は、以下のとおりです。
- 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍(除籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 亡くなった方の住民票除票(または戸籍の附票)
- 相続人全員の住民票
- 相続関係説明図
遺産の内容を明らかにする書類は状況によって異なりますが、具体例としては以下のようなものがあげられます。
- 不動産:登記簿謄本・固定資産評価証明書
- 預貯金:通帳・残高証明書の写し
- 有価証券等:預かり証・残高証明書など
- 自動車:車検証の写し
司法書士に依頼することで適切な相続登記が可能
遺産分割協議では折り合いがつかなかった場合、遺産分割調停を行います。遺産分割調停では裁判所の調停委員が中立的な立場で話を進めてくれるので、円満な遺産分割が成立しやすいというメリットがあります。
遺産分割調停は単独で相続登記でき、遺産分割協議と比べて相続登記の際の必要書類も少なくて済みます。
遺産分割調停調書で相続登記を行う場合、調書の文言によっては単独で相続登記することができず、ほかの相続人との共同申請になる場合もあるので注意してください。
令和6年4月1日から相続登記は義務化されたため、もし申請期限である3年以内に遺産分割協議が成立しない場合、相続人申告登記をしておく必要があります。こういったケースにも対応し、状況に応じて適切な手続をとるためには、司法書士に依頼して手続を任せるのもおすすめです。