持分移転登記が必要になるケースと手続の流れや費用・注意点を詳しく解説

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持分移転登記が必要になるケース

持分移転登記は、不動産の一部の名義変更手続で、単独所有から共有、または共有不動産の一部取得時に行います。持分移転登記となる原因は、主に不動産の相続や離婚に伴う財産分与などで、不動産の共有者として持分を譲渡する場合にも必要です。以下で具体例を挙げながら、手続が必要な状況を考えてみましょう。

不動産を共有で相続した場合

持分移転登記が必要なケースの1つとして、所有者が亡くなった不動産を2人以上で共有するかたちで取得する場合が挙げられます。遺言もしくは遺産分割協議で共有する場合もありますが、民法で定める相続権の割合に従って「法定相続」するケースも当てはまります。

【例】同居する一家のうち、自宅の所有者が亡くなった場合

  • 相続開始時の共有持分:なし
  • 被相続人:父(自宅の所有者)
  • 法定相続人:母と子2人

仮に、父の名義の自宅には、今後も母子3人で住み続ける予定であるとします。この場合、3人の合意で自宅を共有名義にする方法が考えられるでしょう。法定相続分に従うなら、母は持分2分の1、子はそれぞれ持分4分の1となります。

被相続人の共有持分を取得する場合

持分移転登記が必要なほかの場合として、すでに自身も共有者となっている不動産において、ほかの共有者の死亡などに伴って持分移転が発生する場合が挙げられます。わかりやすいのは、上の「不動産を共有で相続した場合」で紹介した例の将来に関するケースです。

【例】共有持分について相続が起きた場合

  • 相続開始時の共有持分:母2分の1、子各4分の1
  • 被相続人:母
  • 法定相続人:子2人

このケースでは、母の共有持分2分の1を子らで平等に取得し、最終的に各自共有持分2分の1として、自宅の持分移転登記を行う方法が考えられます。

財産分与で共有に関する変更がある場合

離婚に伴う財産分与でも、共有状態にあった自宅を夫婦の一方の単独名義にするなど、持分移転登記を必要とする場合があります。実際の離婚協議・離婚調停では、次のような合意になる場合が多いでしょう。

【例】自宅の共有状態を解消して協議離婚する場合

  • 離婚前の共有持分:夫2分の1、妻2分の1
  • 離婚協議での合意内容:いずれか自宅に住み続ける方の単独名義とする

仮に夫が自宅を出て引っ越すとすれば、夫の共有持分を妻へと移転させて妻の単独名義とするのが好都合です。その代わり、平等な離婚を実現するため、預貯金の分割では妻側の割合を減らすなどといった合意を交わすのが一般的です。

共有持分の譲渡をする場合

共有状態にある不動産の持分は、共有者の意思で自由に譲渡(贈与もしくは売買)できます。この記事のなかで解説するように、不動産の共有は何かと不都合が多いため、親族同士で共有する不動産だと、下のように単独名義にする目的で持分譲渡する場合があります。

【例】いったん共有で不動産を相続し、後に単独名義にする場合

  • 譲渡前の共有持分:兄・弟・妹で各3分の1(元は亡親の単独名義)
  • 持分移転登記の目的:単独名義に変更しつつ、公平性を保つ

仮に、兄が単独で不動産の利用を続けたいと希望しており、弟・妹がこれに同意したとしましょう。この場合、兄が弟・妹の持分を相当額で買い取り、きょうだい全員で持分移転登記を行って兄の単独名義とするのが好都合です。

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手続の流れ

持分移転登記の手続では、登記申請書および添付書類を法務局(登記所)に提出する必要があります。書類の審査を経て、持分を得た人に登記完了を知らせる書類が届けば、不動産の一部に関する名義変更の手続は完了です。

手続の流れでポイントになるのは、添付書類のうち「登記原因証明情報」とよばれるものと、登記申請書の作成方法です。共有の状態の変化に応じ、ケースバイケースで対応する必要があるからです。

1.登記原因証明情報を用意する

持分移転登記で必要な登記原因証明情報とは、共有の状態が変化したきっかけ(登記原因)がわかる書類です。状況に応じて、次のような書類を用意しなければなりません。遺産分割協議書や各種契約書については、押印にあたって登録済の実印を用います。

相続開始時に有効な遺言書がある場合

不動産を相続する場合に有効な遺言書があるときは、その遺言書の原本が必要です。公正証書遺言でない場合は、家庭裁判所で開封し、その際にもらう検認証明書を上記原本に添付しましょう。戸籍関係書類として、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本に加え、相続権を有する共有者の現在の戸籍謄本が必要です。

遺産分割協議で不動産を取得する場合

遺産分割協議で不動産を取得する場合は、相続人全員の実印を用いて署名押印した遺産分割協議書を作成、提出します。これだけではなく、有効な遺言書があるケースで解説した戸籍関係書類も必要です。

離婚時の財産分与で不動産を単独名義にする場合

離婚に伴って共有名義の自宅などを単独名義とする場合は、その旨を記載した離婚協議書を作成、提出します。裁判所で財産分与について取り決めを交わしたケースでは、離婚の方法に応じ、調停調書または確定判決の謄本を提出します。

共有持分を譲渡する場合

自分の共有持分を譲渡したり、不動産の共有者から譲り受けたりする場合は、契約内容に応じて売買契約書もしくは贈与契約書を作成、提出します。相続で共有となった不動産を特定の親族の単独名義とするケースなど、親族間で持分移転する場合も同様に扱います。

登記原因証明情報で重要なのは、共有持分の変化について明確に記載しておくことです。不動産を共有で相続するケースであれば「表示する不動産の〇分の〇はAさんへ」とのように、割合を明記しなければなりません。

2.その他の添付書類を用意する

登記原因証明情報以外の添付書類として、不動産全体または共有持分を失う人・共有持分を得る人は、それぞれ下記の証明情報が必要です。

  • 登記識別情報または登記済証※1
  • 住民票の写し※2
  • 印鑑登録証明書(登記原因証明情報に用いた実印に関するもの)
  • 本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)

※1:不動産全体の権利もしくは共有持分を失う人の分が必要です。
※2:不動産の権利もしくは共有持分を失う人に住所変更がなければ、共有持分を得る人の分だけで構いません。

3.登記申請書を作成する

登記申請書は自分で作成する必要があり、登記原因証明情報に合わせて記載内容が変わります。記載項目を表にすると、次のようになります。

登記申請書の記載項目 記載内容
登記の目的 所有権移転または持分全部移転
登記の原因 「令和〇年〇月〇日相続」など
登記義務者の氏名・住所 元の所有者の情報
登記権利者の氏名・住所 持分を得た人の情報
添付情報 添付書類の名称一覧
登記申請の日付 申請日の日付
登記申請者の氏名および住所 手続する人の情報
課税価格

登録免許税の金額

※登記申請書および添付書類を提出する日付です。すべての書類が揃い、不備確認が終えた段階で記入すると良いでしょう。

記載項目で重要なのは、登記の目的のほか、登記義務者または登記権利者の表示です。

登記の目的は、新たに共有状態となるのであれば「所有権移転」と記載し、共有持分の移転であれば「持分全部移転」とします。登記権利者の欄には、氏名・住所のほかに、移転する共有持分の割合を記載しなければなりません。

4.管轄の法務局で登記申請する

持分移転登記の申請先は、不動産の所在地を管轄する法務局・登記所です。郵送または窓口で書類を受け付けており、電子文書の交付に対応している書類はオンライン提出も認められています。

5.登記完了後に届く各種書類を受け取る

持分移転登記が完了すると、対象の不動産の共有者(もしくは単独で所有する人)であることを証明する書類として、登記完了証・登記識別情報通知書が届きます。売却など次の権利移動を予定するケースでは、すぐに必要となるでしょう。

手続にかかる費用

持分移転登記にかかる費用内訳は下記5つに分類でき、司法書士報酬を除いた部分の合計が最低費用にあたります。共有持分の価値に相当する固定資産税評価額や、その他の登記の内容によって費用が大きく変動するため、あらかじめ試算しておきたいところです。

  1. 添付書類の交付手数料
  2. 印紙税(持分譲渡の場合)
  3. 登録免許税
  4. 郵送料・交通費
  5. その他の手続の費用
  6. 司法書士報酬

添付書類の交付手数料

登記申請書に添付する書類のうち、市区町村役場や裁判所に交付請求できるものについては、下の表にある金額が1通ごとにかかります。不動産を共有で相続するケースでは、戸籍関係書類が被相続人および相続人全員分に及ぶことから、添付書類だけで1万円を超える可能性があります。

書類名称 1通あたりの交付手数料
戸籍関係書類 450円~750円
住民票の写し 200円~300円
印鑑登録証明書 200円~300円
調停調書の謄本 150円
審判所の謄本 150円
判決の確定証明書 150円

※自治体および請求方法(マイナンバーカードを使ったコンビニ交付を利用するか、窓口または郵送で請求するか)により異なります。

印紙税(持分譲渡の場合)

共有持分を売買または贈与することで移転登記が必要となるケースでは、登記原因証明情報となる契約書に、印紙税法に基づく課税額分の収入印紙が必要です。

印紙税の額は、記載金額のない贈与契約書なら200円です。記載金額ありの贈与契約書や売買契約書については、金額に応じ、1億円以下のマンションであれば最大6万円までとなります。

登録免許税

持分移転登記では、登記申請にかかる実質的な手数料として、登録免許税の課税があります。課税額は固定資産税評価額に対する税率で計算され、原則上は下記の方法で計算できます。

単独名義の不動産を共有で相続した場合
固定資産税評価額×0.4%

不動産の共有持分を相続する場合
固定資産税評価額×相続する持分割合×0.4%

上記以外の理由で共有持分に変更がある場合
固定資産税評価額×移転する持分割合×2%

郵送料・交通費など

持分移転登記は、権利を失う人と得る人全員で協力して行わなければなりません。具体的には、住民票や印鑑登録証明書など、各自取得してきてもらう必要があります。そのための連絡のやり取りや、代表者もしくは司法書士への書類送付のため、郵送料・交通費や電話料金などが発生するでしょう。

司法書士報酬

持分移転登記を司法書士に依頼する場合、その報酬は3万円から12万円の範囲となるのが一般的です。金額に影響するのは、依頼する手続の範囲や、事例の複雑さです。一般的には、次のようなケースが高額化します。

  • 登記原因証明情報の作成から依頼する場合
  • 持分移転のケースで、共有者の数が多い場合
  • 持分移転のケースで、共有者の相続登記が済んでいない場合
  • 不動産を共有で相続するにあたり、相続人の数が多い場合

※登記簿に掲載されている共有者がすでに亡くなっており、その共有者の子や配偶者への名義変更が済んでいないケースが当てはまります。

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持分移転登記の前に考えたい共有不動産のリスク

不動産の所有者は、土地・建物ごとに1個単位で維持管理を行うのが基本です。単独名義であれば、所有者の判断で全体の管理などを行っていく点に関して、特に支障はありません。問題は共有名義になった場合で、民法の定めにより「共有者の同意」が必要になる点から、土地や建物に必要な措置をスムーズにとれない可能があります。

以下で解説するのは、特に不動産を共有で相続するケースなどで考慮しておきたいリスクです。結論として、土地や建物は単独名義の方が望ましく、持分移転登記などによって積極的に共有状態とするのはあまりおすすめできません。

変更・処分行為は共有者の同意が必要

共有状態となった不動産は、管理行為や変更行為、処分行為などについて、最低でも各共有者の価格に応ずる過半数の同意が必要になります。同意が必要になる行為の例を挙げてみましょう。

共有者の価格に基づく過半数の同意が必要な行為(一例)

  • 賃貸借契約の解除
  • 共有物の管理者の選任・解任
  • 一定規模以上のリフォーム(外壁の修理など)

共有者全員の同意が必要な行為(一例)

  • 共有物の建替え
  • 共有物全体の売却
  • 抵当権設定(リフォームローンの契約など)

これらの行為をするにあたって逐一同意をとりつけるのは、共有者と普段から緊密に連絡をとる間柄でない限り、多少なりとも負担がかかります。

相続による共有者増加で管理に支障をきたしやすい

不動産の共有者は相続によって増加し、それとともに同意を必要とする行為の難易度があがります。単に行為について合意をとるべき人数が増加するだけでなく、お互いにほとんど関係性がない状態で共有不動産を維持管理が必要になるであろうことも考慮しなければなりません。

■共有者増加の例

  • 一次相続:亡母から子(A・B・C)の共有名義に
  • 二次相続:Aが亡くなり、Aの配偶者Dと子Eが共有者になる
  • 三次相続:Bも亡くなり、Bの配偶者Fと子Gが共有者になる

この時点の共有者は、C・D・E・F・Gとなります。CはDとFから見ると義理の家族であり、EとGから見ると叔父・叔母の関係です。5人の交流が続いているとは限らず、多くは連絡もなければ所在も不明になっている可能性があります。

よくあるのは、相続の回数を重ねて共有者の一部が所在不明となるケースです。この場合、所在不明共有者の持分を取得するため、あるいは維持管理の同意を要する共有者から除外するために、裁判所に申し立てる手間がかかります。

共有持分の譲渡によるトラブルの可能性

すでに述べたように、共有持分は所有者の意思だけで譲渡できます。仮に親族で共有する不動産を、一部の共有者が第三者に持分を譲渡したとしましょう。必然的に、不動産全体の維持管理に事情をよく知らない外部の人間が入り込むことになり、維持管理に関する合意をとるのが難しくなってしまいます。

共有物分割請求・共有持分の放棄への対応

いったん共有不動産となった後、維持管理が大変だと判断した共有者が出てきた場合、共有物を分割してそれぞれ単独名義にするよう請求される可能性があります。これは民法で定める請求権であり、妨げることは出来ません。

また、共有持分の放棄も、共有者が単独でできるものと認められています。この場合、放棄された持分を共有者に平等に帰属させるため、改めて持分移転登記しなければなりません。いずれにしても、将来に向かって単独名義に変更するのであれば、手間暇や費用を考慮して、最初から不動産を共有すべきではないと考えられます。

持分移転登記後の課税に関する注意点

持分移転登記は、時期・方法が課税に影響するため、手続には注意を十分に払う必要があります。下記で解説するのは、共有持分の変更自体が適切かどうかも含めて、事前に専門家に相談した方がよいポイントです。

固定資産税の請求が前の所有者に届く可能性あり

不動産に対する固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日の時点の所有状況で判断されます。つまり、持分移転登記が年をまたぐと、実際に移転した年の固定資産税は、以前の所有者に課税されてしまいます

持分移転に関する相続発生や契約締結が年末付近になる場合は、課税関係について確認し、必要に応じて年内12月31日までに登記を完了できるようにしましょう。

共有者への持分移転は方法によって課税額が変わる

ほかの共有者に自分の共有持分を移転するケースでは、贈与と放棄のどちらを行うかで課税額が変わる可能性があります。

持分移転登記の翌年に行う申告は、贈与・放棄ともに「贈与税」で問題なく、課税額に違いはありません。変化があるのは、共有持分を得た人が不動産を売却する場合です。売却益に対して譲渡所得税がかかる際に、控除できる取得費について、次のような違いが生じるのです。

  • 贈与の場合:贈与者が持分を得たときの取得費を全額控除できる
  • 持分放棄の場合:概算の取得費(売却金額のうちの5%程度)しか控除できない

持分移転登記は不動産の分割方法から要検討

持分移転登記とは、単独名義の不動産の一部を取得して共有する場合や、共有名義の不動産の持分が移動する場合に必要な手続です。相続で不動産を分割したり、家族の共有持分が相続や離婚に伴う財産分与で移動したりする場合に必要です。

持分移転登記の特徴は、登記原因証明情報と登記申請書の作成方法がケースによって全く異なる点です。そもそもの問題として、不動産の共有そのものにあるリスクにも留意しなければなりません。特に相続で不動産の共有が生じるときは、分割方法から司法書士と一緒に検討するようおすすめします。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載