配偶者居住権とは?活用すべき状況や注意点・手続方法を詳しく解説

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配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、戸籍上の夫婦関係において、亡くなった方が所有していた建物に、残された配偶者が一定期間無償で住むことができる権利です。

たとえば、自宅建物を所有していた夫が亡くなった場合、妻と子らで遺産分割協議をすることになります。自宅建物を子の名義にする場合でも、配偶者居住権があれば妻は住み続けることができます。

なお、配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の終身の間と定められております。ただし、遺産分割協議や遺言などで別途居住についての事項があれば、期間を定めることは可能です。

配偶者居住権の目的

配偶者居住権は、夫婦の一方が亡くなったあとに、残された配偶者の生活の拠点となる住居を確保することが目的です。

以前の民法では自宅建物を所有していた夫が亡くなった場合、妻が引き続き自宅建物に住むためには建物を相続しておかないと、ほかの相続人に退去請求されるリスクがありました。

また、自宅建物は不動産なので評価額が高く、それだけで法定相続分に達してしまうと、預貯金をほかの相続人に譲らなければならず、今後の生活費の確保が難しくなるといった問題がありました。

しかし、配偶者居住権の創設により所有権と居住権を分けての相続ができるようになりました。居住権は所有権よりも評価が下がることが多いため、その分を預貯金に回して生活費を確保する、ということが可能になります。

配偶者居住権成立の要件

配偶者居住権の成立には、以下3つの要件をすべて満たす必要があります

  • 配偶者は亡くなった方の法律上の配偶者である
  • 配偶者は亡くなった方の所有する建物に相続開始時に住んでいた
  • 配偶者が遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判のいずれかにより配偶者居住権を取得した

1つでも欠けてしまうと配偶者居住権が成立しないので、注意が必要です。

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配偶者短期居住権とは

相続開始日から6か月、または自宅建物の遺産分割協議が成立する日までの間、配偶者は配偶者短期居住権という権利により自宅に住むことができます。主に配偶者居住権を取得するまでの住まいや、引っ越す場合に必要な準備期間などを確保するためです。

配偶者居住権は住んでいた建物全体の権利を指しますが、配偶者短期居住権の対象は住んでいた居住部分に限られます。また、配偶者居住権は登記ができますが、配偶者短期居住権は登記を行うことができません。

配偶者短期居住権の成立要件

配偶者短期居住権は、配偶者が亡くなった方が所有していた建物に相続開始日に無償で住んでいたことが成立要件です。

したがって、夫婦で一緒に住んでいれば配偶者短期居住権はほぼ成立すると考えられます。また、配偶者短期居住権は要件を満たせば自動的に権利が発生します。

配偶者居住権と配偶者短期居住権の違い

配偶者居住権と配偶者短期居住権の違いは次のとおりです。

配偶者居住権 配偶者短期居住権
権利の期間 終身(※1) 期間あり(※2)
対象者 法律上の配偶者 法律上の配偶者
登記の可否 登記できる 登記できない
対象不動産 建物全体 建物の居住部分のみ

※1:遺産分割協議、もしくは遺言や審判で短くすることも可能。
※2:遺産分割協議で当該建物の所有者が決まった日、もしくは相続開始から6か月を経過した日まで。

配偶者居住権で押さえておきたいポイント

配偶者居住権で覚えておきたいポイントを解説します。

配偶者居住権の設定は必須ではない

配偶者居住権は、相続時に必ず設定しなければならないものではありません。配偶者が自宅に住み続ける権利を必要としない場合や、他の相続人との合意があれば、設定しなくても問題ありません。配偶者居住権はあくまで選択肢の1つであり、被相続人の遺言や相続人の意向に応じて設定を検討することができます。

配偶者居住権は登記可能

配偶者居住権を登記すると、法務局で取得できる登記記録に掲載され、第三者に対しても権利を主張できます。たとえば、相続した建物が第三者に売却された場合でも、配偶者居住権を登記していれば立ち退き要求に対抗できますが、未登記だと応じなければならない可能性があります。自身の居住権を守るため、配偶者居住権を得たら早めに登記することが重要です。

配偶者居住権は建物に対してのみ行使できます。ただし、登記には建物の名義が亡くなった方のままではできないため、所有権を持っている相続人に名義変更後に配偶者居住権を登記できます。なお、配偶者短期居住権は登記対象外です。登記には登録免許税と司法書士手数料がかかるため、事前に確認して準備することが重要です。

配偶者居住権は譲渡不可

配偶者居住権は、配偶者が被相続人と共に住んでいた自宅に住み続けるための権利ですが、この権利は譲渡できません。つまり、配偶者居住権を他人に売却したり、譲り渡したりすることは認められていません。この権利は配偶者本人に限られるため、配偶者が亡くなるか、権利が終了するまでの間のみ有効です。

配偶者が相続対象となる建物と異なる家に居住していた場合

配偶者居住権には、「相続開始時に配偶者が居住していた」という条件があります。そのため、相続開始時に配偶者が対象の建物に住んでいた場合配偶者居住権が認められない可能性があります。たとえば、老人ホームに入居していた場合などが挙げられますが、短期的なショートステイなどの場合には、例外として認められることもあります。

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配偶者居住権を行使すべき基準

配偶者居住権には行使した方が良いケース、しなくて良いケースが存在します。配偶者居住権の行使は通常の遺産分割協議に付随して行うものであり、本当に必要かどうかを検討しておきましょう。よくあるケースとしては下記のとおりです。

配偶者居住権を行使した方が良いケース

  • 配偶者と子の仲が悪い、亡くなった方と前の配偶者との間に子がいる
  • 相続財産のほとんどが自宅不動産で、預貯金がほとんどない

配偶者と子の仲が悪い、亡くなった方と前の配偶者との間に子がいる

自宅建物を相続するために代償金を準備したり、預貯金を相続して自宅建物を子の名義にしたものの、子や前の配偶者と折り合いがつかず、立ち退きを迫られるといったリスクも発生します。配偶者は自宅建物に住めるように、配偶者居住権を行使した方が良いでしょう。

相続財産のほとんどが自宅不動産で、預貯金があまりない

相続財産に預貯金がほとんどない場合、配偶者居住権を行使することで、自宅建物の価値を相続人と配偶者に分散できます。相続分を分散させることは、遺産分配のリスクを軽減し、親族や相続関係者との不要な対立を防ぐ一助となるでしょう。

配偶者居住権を行使しなくて良いケース

  • 配偶者が自宅建物に長く住む予定がない
  • 配偶者が自宅建物を相続する

配偶者が自宅建物に長く住む予定がない

配偶者が高齢なので、自宅を売却し介護施設への入居予定などがある場合は、配偶者居住権の登記をしなくて良いでしょう。売却先が決定するまで自宅に引き続き居住するとしても、配偶者短期居住権で一定期間保障されており、配偶者居住権を行使する必要がないと考えられます。

配偶者が自宅建物を相続する

配偶者が自宅建物を相続するのであれば、名義変更後には自身の建物に住むだけなので、この場合でも配偶者居住権を行使する必要がありません。

配偶者居住権のメリット・デメリット

ここからは配偶者居住権の導入に伴うメリットとデメリットについて掘り下げ、その意味や影響について詳しく解説します。

配偶者居住権のメリット

配偶者居住権を行使することにより、残された配偶者は所有者と揉めたりしても、追い出されることなく住み続けることができます。また、配偶者居住権を登記しておけば、建物が第三者に売却されたとしても、配偶者は居住権を主張・維持することができます。

建物の居住権は土地建物の所有権を相続する場合に比べて、相続財産の評価額は低くなります。その分を預貯金などに回すことで、配偶者の今後の生活費を安定させることが可能です。

配偶者居住権の行使例

実際に配偶者居住権を行使した場合としなかった場合で、相続の内容がどう変化するのかを以下の例を用いて解説します。

■相続財産の条件

  • 自宅土地2000万円
  • 建物1000万円
  • 預貯金3000万円
  • 相続人は配偶者、子1人

配偶者居住権なしの場合

配偶者居住権なしの場合、法定相続分を配偶者と子で2分の1ずつ分割し、配偶者は居住用に自宅の土地建物の相続となります。

【配偶者】自宅土地・建物3000万円

【子】預貯金3000万円

配偶者居住権ありの場合

配偶者居住権を行使すると、子は自宅の土地建物を相続するため、配偶者は預貯金2500万円を得られます。加えて、土地建物の名義は子に渡しても住み続けることができます。

【配偶者】建物(配偶者居住権)500万円、預貯金2500万円

【子】自宅土地2000万円、建物(配偶者居住権付建物)500万円、預貯金500万円

このように配偶者の生活費を確保しつつ、法定相続分での遺産分割をすることが可能になります。

配偶者居住権のデメリット

一見、配偶者居住権を設定するのがベターと考えやすいですが、今後の展開次第では設定することが不利益になる場合があります。

自宅を売却することができない

配偶者居住権を取得した配偶者は、単独で自宅を売却できないというデメリットがあります。原則として家の売却やリフォームなどを行う権利は、自宅の所有者が持っているため、配偶者居住権者が勝手にこれらを無断で行うことはできません。

逆に所有権を持つ側が自宅を売却したいと考えても、居住権がある限り、配偶者の同意が必要であり、売却自体が制約されます。居住権が第三者に対しても優先されるため、買い手が見つかりにくくなる可能性もあります。も

固定資産税を支払う可能性がある

配偶者居住権を取得した配偶者は居住建物にかかる費用を負担する必要があるため、所有者は固定資産税を配偶者へ請求することができます。高齢や収入が限られている場合では、税負担が重く感じられることがあります。遅くとも固定資産税の通知が届く前に支払いをどうするかを配偶者と所有者の間で話し合っておくことをおすすめします。

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登記申請の方法と費用

配偶者居住権の登記申請の方法と費用について解説します。

登記申請の方法

原則とし登記申請は配偶者と建物所有者が共同申請します。それぞれに必要な費用と合わせて説明します。なお、登記の方法は自分で登記申請するケースと専門家に依頼するケースがあります。

自分で登記申請を行う場合

自分で法務局に登記申請する場合、時間と手間をかければ費用を安く抑えて登記をすることが可能です。登記までの手順は次のとおりです。

  1. 登記する建物を管轄する法務局に相談し、申請書や必要書類を確認
  2. 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本の収集
  3. 亡くなった方の死亡後の住民票除票、不動産の評価証明書の収集
  4. 相続人全員の戸籍謄本・印鑑登録証明書の収集
  5. 建物の名義人になる方の住民票を準備
  6. 遺産分割協議書、登記原因証明情報の作成と署名押印
  7. 法務局へ登記申請し完了

市区町村役場は土日開庁しているところもありますが、法務局は平日しか開庁しておりません。そのため、相談や登記申請は平日に行うことになります。

        ※参照:配偶者居住権尾登記申請書|法務局

        司法書士へ依頼する場合

        専門家である司法書士に依頼する場合は、手続の費用がかかる代わりにほとんどの手続を代行してくれます。

        1. 登記内容や報酬、手続期間について面談
        2. 委任契約
        3. 司法書士が必要書類を精査・準備(戸籍収集、遺産分割協議書・登記原因証明情報の作成)
        4. 揃った書類への署名と押印
        5. 司法書士が法務局へ登記申請し完了
        6. 書類返却、報酬の支払い

        登記申請にかかる費用

        費用は、書類を収集する市区町村や相続人の人数などによって異なりますが、戸籍謄本代などの必要書類の収集で数千円~1万円程度と、建物の固定資産税評価額の0.06%(相続登記分:0.04%、配偶者居住権分:0.02%)分の登録免許税が必要です。

        たとえば、建物の固定資産税評価額が1000万円の場合、相続登記に4万円と配偶者居住権の登記に2万円の合計6万円が登録免許税となります。これらに必要書類費用をあわせると約7万円程度となるでしょう。

        もし他の相続登記などと並行して手続を進める場合は、法定相続情報一覧図を用いると都度戸籍謄本の書類を集めることが不要になります。これは相続人が多いとより恩恵を感じやすい制度になっているので、気になる方は下記をご参照ください。

            手続が不安な場合は司法書士へ相談してみましょう

            相続財産のほとんどが自宅不動産の場合でも、配偶者居住権を行使すれば残された配偶者が自宅に住み続けることが可能です。法定相続分で分けてしまうと、自宅を手放すことになると心配されている方は、しっかり覚えておくと良いでしょう。

            もし配偶者居住権の進め方で不明な点や、懸念することが発生した際は司法書士へ相談してみましょう。一部の司法書士は無料相談を提供しているので依頼するかどうか決断が難しい場合でも、事前に相談することで不安を軽減できます。

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            記事の監修者

            司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

            司法書士法人さくら事務所
            代表司法書士 坂本 孝文

            昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
            平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
            平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

            【メディア掲載】
            ・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載