借地権を相続放棄するメリット・デメリットや注意点などを解説

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借地権は相続放棄できる

借地権とは、建物所有を目的として所有者に土地を借りる権利のことです。土地には所有権があるため、通常であれば他人が所有する土地の上に建物を建てることはできません。しかし、費用を支払って借地権を取得することで、他人の土地上であっても建物を建てる権利が得られます。

借地権は相続の対象となる権利の一種のため、相続人は相続放棄を選択することで借地権を含む財産の相続を放棄することができます。相続放棄とは、相続財産となる資産・負債といった権利・義務を一切引き継ぐことなく、相続する権利を手放すことです。

なお、相続放棄には期限があり、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に行わなければなりません。この期間内に手続をしないと単純承認が成立し、相続を承認する意思があるとみなされます。

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借地権を相続放棄するメリット

借地権は資産ではあるものの、不動産絡みの権利であるため相続する際は慎重に検討する必要があります。安易に相続すると、かえって損をする可能性があります。そこで、借地権を相続放棄をするとどんなメリットがあるのか、具体例を挙げながら解説します。

不動産の管理負担からの解放

借地権を相続すると、建物や敷地の日常的な管理が必要になります。具体的には、建物の修繕や補修、定期的な点検、敷地内の清掃や草刈りなどの環境整備などです。

特に古い建物の場合、予期せぬ修繕が必要になることも多く、その都度対応に追われることになります。また、土地が遠方にある場合は現地への往復の時間や交通費もかかり、仕事や私生活との両立が難しくなることもあります。相続放棄をすれば、このような煩雑な管理業務から解放され、本来の生活に専念できるようになります。

管理費用の節約

借地権を相続すると、さまざまな費用負担が発生します。たとえば、所有者に対して支払う費用のほか、建物の固定資産税や都市計画税といった税金などです。また、火災保険料をはじめとした保険料などの継続的な支出も発生します。相続放棄すれば、これらの管理費用を支払う必要がなくなるので、固定費の削減につながります。

所有者とのトラブル回避

借地権を相続すると、所有者との関係維持が重要な課題となります。なぜなら、金額の改定交渉や建物の改築・増築の際の承諾取得など、さまざまな場面で所有者との折衝が必要だからです。

所有者との折り合いがつかなければ、立ち退き要求や借地契約の更新拒絶など、深刻な問題に発展することもあります。特に所有者が法人の場合、経営方針の変更によって契約変更を求められるリスクもあります。相続放棄することで、このような所有者とのトラブルや緊張関係から解放され、精神的な負担を軽減することができます。

借地権を相続放棄するデメリット

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借地権を相続放棄する場合、メリットだけでなくデメリットもしっかりと把握しておく必要があります。相続放棄は取り消すことができない重要な決断なので、以下のようなデメリットを十分に理解したうえで慎重に判断することが大切です。

借地権以外の相続財産をすべて放棄することになる

相続放棄は遺産を引き継ぐ権利を一切放棄することなので、借地権だけでなくほかの遺産を含めたすべての財産を得る権利がなくなります。たとえば、預貯金や株式、受取人が被相続人になっている保険金、不動産などの遺産が残っていても、これらの財産は相続できません。そのため、被相続人に多額の預貯金や価値の高い不動産がある場合、借地権の相続を避けるために相続放棄をすると大きな機会損失が発生します。

後順位の相続人とトラブルになる可能性がある

相続放棄を選択すると、その権利は法定相続人の順位に従って後順位の相続人に移りますが、事前に後順位の相続人への連絡や説明を怠ると深刻なトラブルに発展する可能性があります。

たとえば、後順位の相続人が突然借地権を相続することになり、準備不足のまま支払いや建物管理の義務を負う可能性があります。また、相続放棄の事実を知らないまま手続期限を経過してしまい、望まない相続債務を背負わされるリスクもあるでしょう。そのため、相続放棄を検討する際は、後順位の相続人への事前の連絡と十分な説明を行い、お互いの意思確認をしっかりと行うことが重要です。

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相続放棄する際の注意点

相続放棄は一度行うと取り消すことができない重要な決断であるため、手続の際の注意点をしっかりと理解し、適切に対応することが必要です。以下では、借地権の相続放棄において特に重要となる法的な注意点について解説します。

単純承認となる行為は控える

被相続人の預金の払い戻しや相続財産を私用目的で使った場合、「単純承認」が成立し、相続放棄できなくなる可能性があります。民法では以下のように定められています。

第九百二十一条

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

※引用:民法第九百二十一条│e-Gov法令検索

そのため、相続放棄を選択する場合、これらの処分行為に該当する行為をしないよう慎重に行動する必要があります。

相続放棄をしても建物の管理が必要になることもある

相続放棄をしても「現に占有」している相続財産については、ほかの相続人や相続財産清算人に財産を引き渡すまで保存義務が残る場合があります。

たとえば、相続人全員が相続放棄を行うも、その中に被相続人と同居していた借地権付きの建物に住み続けている人がいる場合、その人物が保存義務を負うことになります。もし、管理を怠ると損害賠償責任などに発展するリスクがあります。

相続人がこの保存義務から解放されるためには、相続財産清算人を選任する必要があります。相続財産清算人とは、亡くなった方の資産を管理・清算する人のことで、家庭裁判所に申し立てることで選任が可能です。なお、この相続財産清算人は土地の所有者も担うことができます。もし所有者と関係性が良好であれば、一度相談してみるのもよいでしょう。

相続放棄以外で借地権を手放す方法

所有者との交渉次第では、相続放棄するよりもよい条件で権利を手放せる可能性もあります。以下では、相続放棄以外の具体的な選択肢について解説します。

建物を解体し所有者へ返却・売却

手放す方法の1つとして、建物を解体して借地権を所有者に返還または売却する方法があります。ただし、この場合は建物の解体費用が発生するため、誰が負担するのかを事前に明確にしておくことが重要です。

返還の場合、借地権者側に原状回復義務が発生するため、借地権者が解体費用の全額を負担するのが原則です。一方、売却の場合は所有者との交渉により解体費用の負担割合を決めることができるので、所有者側が土地の有効活用を考えている場合、建物の解体費用を含めた条件で買取に応じてくれる可能性もあります。

ただし、建物の解体に着手する前に必ず所有者との合意を得ておく必要があります。事前の合意なく解体を始めると、トラブルの原因となる可能性があります。

所有者と協力し底地とあわせて第三者へ売却

もし底地の所有者が保有を望んでいない場合、借地権と底地をセットにし、第三者へ売却する方法があります。この方法だと底地と建物が一体となった完全な所有権として売却できるため、それぞれを個別に売却するよりも高値で取引できる可能性が高くなります。

また、購入希望者にとっても借地権と底地が分かれている物件より、所有権が完全な状態の不動産の方が購入しやすいため資産価値が高まります。このように、所有者と借地権者が協力することで底地と建物を一体として活用でき、双方にメリットがある選択肢をとることができます。

借地権が関わる相続放棄は司法書士にご相談ください

相続放棄を選択すると、借地権に関する負担から解放されるメリットがある一方で、ほかの相続財産も相続できなくなるというデメリットもあります。また、占有している財産の保存義務や、建物の処分による法定単純承認など、思わぬリスクも潜んでいます。相続放棄以外にも所有者との交渉による返還や売却など、状況に応じた選択肢を検討することが重要です。

このように、借地権の相続放棄にはさまざまな法的知識と実務上の注意点を押さえておく必要があります。当事務所では、相続人の方の状況を丁寧にヒアリングし、相続放棄が最適な選択かどうかを慎重に検討したうえで、適切な対応方法をご提案いたします。

借地権の相続でお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。豊富な実績と経験を活かし、ベストな解決策をご提示させていただきます。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載