連帯保証人は相続放棄できる?相続放棄の判断基準や相続した場合の対処法とは

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連帯保証人と相続放棄の関係

相続で被相続人の連帯保証債務を引き継ぐことになった場合、その債務から免れる手段として相続放棄があります。ただし、相続放棄の効果は、連帯保証人の立場によって大きく異なってきます。連帯保証人の債務を相続するケースは以下のとおりです。

  • 被相続人が第三者の連帯保証人だった場合
  • 相続人自身が被相続人の連帯保証人だった場合
  • 被相続人による根保証契約や身元保証がある場合

被相続人が第三者の連帯保証人だった場合

被相続人が第三者の連帯保証人だった場合、相続人は相続放棄をすることで連帯保証債務から免れることができます。これは、連帯保証人としての地位が相続財産の一部として扱われるためです。相続放棄をすれば、最初から相続人ではなかったものとみなされ、連帯保証債務を含むすべての相続財産を相続しないことになります。

ただし、相続放棄を検討する前に、主債務者の返済状況を確認することが重要です。主債務者が滞りなく返済を続けている場合や、完済が近い場合には、連帯保証人として支払いを求められる可能性は低く、むしろ相続放棄によってほかの相続財産まで放棄してしまうデメリットの方が大きくなる可能性があるためです。

相続人自身が被相続人の連帯保証人だった場合

相続人自身が被相続人の連帯保証人だった場合は、相続放棄をしても連帯保証人としての地位や義務からは逃れられません。これは、連帯保証人としての義務が相続人個人に属しており、相続財産として引き継がれるものではないためです。

したがって、これらのケースでは、債権者から返済を求められた場合は応じなければなりません。この連帯保証人としての返済義務は、主債務が完済されるまで継続することになります。相続放棄の判断をする際は、この点を十分に考慮する必要があります。

被相続人による根保証契約や身元保証がある場合

連帯保証人の相続には、契約の種類によって例外的な取り扱いが存在します。たとえば、保証極度額(上限額)を設定できる「根保証契約」の場合、極度額が明記されていないと、令和2年4月1日の民法改正により根保証契約自体が無効となり、相続の対象外となります。

また、会社への就職時などに求められる身元保証人の場合も、一身専属的な性質を持つため原則として相続されません。ただし、死亡時点ですでに発生していた損害賠償債務については相続の対象となる点に注意が必要です。

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連帯保証や借り入れの有無の調査

相続を承認するか、それとも放棄するかを判断するときは、被相続人が連帯保証人になっていたかどうかの調査を要します。問題は、連帯保証は契約時以外に表面化しにくく、家族にも知らされていないケースが少なくない点です。以下では、連帯保証や借り入れの有無を確認するための具体的な方法を解説します。

連帯保証の有無を確認

連帯保証の調査は、まず被相続人の自宅や事務所に残された書類の確認から始めます。借用証書や金銭消費貸借契約書、不動産賃貸契約書などが重要な手がかりとなります。金融機関からの請求書や督促状なども、連帯保証の存在を示す重要な証拠になり得ます。

また、スマートフォンやパソコンに残されたメールデータ、クラウドストレージの内容、LINEなどのSNSメッセージも確認すべきでしょう。親族や親しい知人への聞き取りも有効な調査方法の1つです。

信用情報機関への照会と確認手順

信用情報機関では、融資取引の情報を加盟する金融機関から収集し、本人や各加盟店に対して収集した情報を公開する業務を行っています。国内では、株式会社日本信用情報機構(JICC)、株式会社シー・アイ・シー(CIC)、全国銀行個人信用情報センター(KSC)の3社が挙げられます。これらの信用情報機関に情報開示を求めれば、連帯保証契約を含む借り入れ状況を確認できる可能性があります

照会には、相続人であることを証明する戸籍謄本や、被相続人の住民票の除票などが必要です。各機関への照会は、本人確認書類と必要書類を添えて申請を行います。手数料は1000円程度で、回答までに1週間ほどかかります。

会社経営者だった場合の調査のポイント

被相続人が会社経営者の場合、事業資金の借り入れに関する連帯保証人になっているケースが多く見られます。法人名義の借り入れについて、経営者が個人で連帯保証人となっている可能性が高いため、会社の決算書類や金融機関との契約書を入念に確認する必要があります。

また、取引先との間で相互に連帯保証を行っているケースもあるため、主要取引先との契約書類も確認が必要です。金融機関に対しては、法人・個人両方の取引履歴を照会することで、連帯保証契約の存在を把握できる可能性があります。

相続放棄を検討する際の注意点

相続放棄を検討する際の注意点_イメージ

連帯保証人の相続放棄には、期限や手続など様々な注意点があります。また、相続放棄以外の選択肢も含めて検討する必要があります。連帯保証債務からの解放を目指すなら、まず契約自体の有効性を確認し、次順位相続人への影響も考慮しながら、限定承認などの代替手段も視野に入れる必要があります。以下では、相続放棄を検討する際の重要なポイントを解説します。

相続放棄の期限

すでに述べましたが、相続放棄の期限は相続開始を知った日から3か月以内です。この期間は「熟慮期間」と呼ばれ、期限内に家庭裁判所への申述を完了する必要があります。申述には戸籍謄本など必要書類の準備が不可欠で、書類の取得に時間がかかることも考慮しなければなりません。

期限内の手続が難しい場合は、家庭裁判所に期限伸長を申し立てることで、3か月から6か月程度の延長が認められる可能性があります。ただし、この申し立ては当初の期限内に行う必要があります。

連帯保証契約自体の有効性

連帯保証契約は、令和2年4月1日以降適用される改正民法により、原則として書面での契約が必要とされています。契約書がない場合や、契約内容が不明確な場合、連帯保証契約は無効です。また、保証債務には時効があり、改正以降の契約は5年、それ以前の契約は借り入れ先によって5年または10年で時効となります。

同じように、根保証契約の場合は極度額(上限額)の定めが必要で、この要件を欠く契約は無効となるのは、連帯保証人と相続放棄との関係で述べました。なお、契約時期による法的要件の違いも重要で、法改正の前後で有効性の判断が異なることがあります。

次順位相続人への影響

相続放棄をすると、連帯保証債務は次順位の相続人に移ります。相続順位は、配偶者、子(孫など直系卑属)、父母(祖父母など直系尊属)、きょうだい(甥・姪)の順となります。次順位者への影響を考慮し、事前に状況を説明して理解を得ることが重要です。

特に、高齢の親や経済的に余裕のないきょうだいに債務が移ることを避けたい場合は、手続の支援も含めて、相続人全員での話し合いが必要です。次順位者とのトラブルを防ぐため、専門家を交えた協議も検討しましょう。

限定承認の検討

限定承認は、利益になる財産を限度として負債を引き継ぎ、負債を上回る利益がある場合に受け取れるものとする制度です。相続放棄と異なり、必要な財産はもらえる可能性が残される一方で、債務は財産の範囲内に抑えられるメリットがあります。ただし、相続人全員の同意が必要で、手続も複雑になります。

必要書類には財産目録の作成が含まれ、弁護士などに依頼する場合は依頼費用も発生します。相続放棄との比較では、引き継ぎたい財産の有無や、手続の負担を考慮して判断する必要があります。

遺産で完済できるか確認する

連帯保証債務を完済できるか否かを判断するには、まず遺産の正確な把握が必要です。不動産、預貯金、有価証券などの財産を調査し、時価での評価額を算出します。不動産は路線価や実勢価格を参考に、有価証券は市場価格をもとに評価します。

債務総額は、主債務者の返済状況も含めて確認します。連帯保証債務が残っていても、主債務者が順調に返済していれば実質的なリスクは低くなります。遺産と債務を比較し、清算の可能性を判断することで、相続放棄の要否を決定できます。

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連帯保証人の地位を相続してしまった場合

連帯保証人の地位を相続してしまった場合、返済義務を負うことになりますが、まずは冷静に状況を把握し、専門家に相談しながら最適な解決方法を検討しましょう。

金融機関との返済計画の見直し

金融機関との交渉では、まず現在の収入や資産状況を踏まえた返済計画を提案します。返済期間の延長や金利の引き下げ、分割払いへの変更など、具体的な要望を示すことが重要です。交渉の際は、返済の意思があることを示しつつ、現実的な提案を心がけましょう。

債務整理制度の活用

債務整理には、裁判外での任意整理と、裁判所が関与する特定調停・個人再生・自己破産の方法があります。任意整理は債権者との話し合いで返済条件を見直す方法で、比較的柔軟な対応が可能です。一方、裁判所が関与する手続は、法的な保護のもとで債務を整理できますが、官報で掲載される・財産の処分を余儀なくされるなど、デメリットが大きくなります。

相続後でも相続放棄が認められる場合がある

被相続人が連帯保証人であると知らずに財産を受け継いでしまった場合でも、原則として相続放棄はできなくなります。しかし、特別な事情がある場合には、例外的に救済される可能性があります。債務の存在を知らなかったことについて「正当な理由」があると認められれば、相続放棄の期限の起算点を後ろ倒しにできる場合もあります。

過去には、相続人が知りえなかった連帯保証債務が発覚したケースにおいて、錯誤による単純承認の取り消しを認める事例もあるため、意図せず債務を相続する事実を知った方は一度専門家に相談することをおすすめします。

連帯保証人の相続放棄に関する相談は専門家へ

相続人が連帯保証人である場合の相続では、被相続人との関係性によって相続放棄の効果が大きく異なります。被相続人が第三者の連帯保証人だった場合は相続放棄で債務を免れることができますが、相続人自身が被相続人の連帯保証人だった場合は相続放棄をしても連帯保証債務は残ります。また、相続放棄には3か月という期限があり、その間に連帯保証債務の有無を含めた調査が必要です。

当事務所では、相続放棄に関する無料相談を承っております。連帯保証人の相続でお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。経験豊富な司法書士が最適な解決方法をご提案いたします。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載