行方不明の相続人がいる場合の相続登記について解説

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行方不明者がいる相続登記の問題点

不動産の相続登記によって承継した人の名義にしたくても、相続人のなかに行方不明者がいると手続が進みません。相続人全員が揃わないと、遺産分割協議を有効に成立させることができないからです。詳しくは、次のようなことが言えます。

相続登記には遺産分割協議が必要

有効な遺言書がない状況で相続登記を行うには、遺産分割協議による不動産の取得に関する合意が欠かせません。協議を成立させるには、相続人全員が揃って参加し、合意した内容を記載した書面にも全員で署名押印する必要があります。所有者が亡くなった不動産は、いったん相続権を持つ人全員の共有に属するためです。

行方不明の相続人がいると手続が進まない理由

相続権を持つ人のなかに行方不明者がいると、遺産分割協議を行うための条件が整いません。相続登記には遺産分割協議書が必要であるところ、行方不明者の署名などが揃わず、いつまで経っても登記申請できない状況に陥ります。この状況下でも登記申請する方法はあるものの、連絡のとれる相続人の希望に沿った登記申請は不可能と言わざるを得ません。

以上のような理由から、相続人のなかに行方不明者がいるときは、その権利を誰かが代わりに行使するなどの対応が必要です。

行方不明の状況とその相続人への対処方法

連絡がとれなかったり、元々住んでいた場所を離れていなくなったりした相続人は、行方不明になっている人も含め、法律上「不在者」と呼ばれます。不在者の財産は放置されて損なわれる恐れがあり、生死すらわからない状況だと不在者について相続が発生したかどうかすら把握できません。

上記のような困った事態に対応するため、不在者財産管理人の選任申し立てや、失踪宣告の申し立てなどといった制度が整備されています。もっとも、まずは本当に法律上の不在者として扱っていいのか、確かめてみる作業が必要です。順を追って対処方法を解説すると、以下のようになります。

行方のわからない相続人の状況の切り分け

ひとくちに「連絡がとれない・住んでいた場所からいなくなっている」と言っても、法律上の不在者に該当するとは限りません。どの制度を利用するか見極めるため、まずは相続人の状況が下記のどれに該当するのか確認する必要があります。

  1. 住所(居所)にいるが、連絡に応じない
  2. 住所(居所)から去っており、連絡不通
  3. 住所(居所)から去っており、連絡不通かつ生死不明

上記1の状況は、単に連絡に応じないため、不在者に関する制度ではなく、相続トラブルがあったときの通常の対処を行うべきです。法律上の不在者と言えるのは上記2と3の場合で、不動産の登記申請に向けて適切な制度を利用する必要があります。

捜索の必要性・不在者だと断定できる具体的状況

相続人を不在者として扱うべきと考えられるケースでも、早とちりせず、連絡がとれないか試してみる必要があります。登記申請に向けた各種制度を利用するにあたり、客観的に不在・行方不明を証明する情報を求められることを踏まえた対応です。

不在者と言える具体的な状況

  • 相続開始後に連絡を試みたが、数か月に渡って連絡先も居所も掴めない
  • 住民票や戸籍附票を取ってみたが、住所とされる場所を訪れてもいない
  • 関係者への聞き取り調査を行っても、相続人の今の居所を把握できない

わかっている住所・連絡先への連絡や、聞き取り調査に関しては、相続人自身でも対応可能です。一方で、住民票や戸籍附票の確認は、司法書士などによる職務上の請求が必要です。捜索に手を尽くすなら、行方不明になっている相続人がいるとわかった段階で専門家に相談することをおすすめします。

単に連絡に応じてくれないときの対処方法

行方不明の相続人について「不在者ではなく、単に連絡に応じてくれないだけ」と言える場合は、遺産分割について調停の申し立てを行います。裁判所で調停・審判があるにもかかわらず姿を表さなければ、そのまま手続が終了し、最後にもらえる調停調書などを提出書類として相続登記の申請に移れます。

不在者だと断定できる場合に利用できる制度

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行方不明の相続人について法律上の不在者であると断定できるときは、本人が最後にいたと考えられる住所・居所を管轄する家庭裁判所で、然るべき制度を利用するための手続を行います。このとき、状況に応じて、不在者財産管理制度もしくは失踪宣告の申し立てを利用します。

詳しくはこのあと解説しますが、制度ごとに次のような特徴や効果があります。

不在者財産管理制度

従来の住所・居所を去った不在者のため、財産管理や権利行使などをする代理人(財産管理人)を家庭裁判所に選任してもらえる制度です。

失踪宣告

生死不明となった不在者について、家庭裁判所による公告・催告を通じて捜索し、どうしても見つからなかった場合に失踪を宣告する制度です。

いずれの制度についても、相続人という利害関係者である旨を証明するための戸籍謄本のほか、不在であること・失踪したことを示す書面が必要です。裁判所内での手続が終わると、財産管理人による遺産分割協議書への代理参加か、失踪宣告による死亡扱いにより、相続登記に向けた手続が進みます。

不在者財産管理制度などを使わずに登記する方法

不在者財産管理制度や失踪宣告を利用しなくても、法定相続分での登記であれば、行方の知れる相続人が単独で申請できます。登記申請した土地や建物は、不在者を含む相続人全員の共有物になります。そこで生じるのが「不在者の共有持分は将来どうなるのか」という問題です。

法定相続分によって不在者が得た共有持分は、居所の知れる共有者が維持・管理することで、時効取得できる可能性があります。もっとも、不在者の共有持分であると了解している状況だと、取得できるのは20年後という決まりがあり、あまり現実的ではありません。

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不在者財産管理人制度と失踪宣告の特徴・選び方

行方不明の相続人が法律上の不在者である場合、利用する制度は状況に応じて選ぶ必要があります。基本的には、生死不明とまでは言えないなら不在者財産管理制度、そうでなければ失踪宣告で対応します。

不在者財産管理人制度の特徴

不在者財産管理制度は、従来の住所や居所で財産を管理できなくなった不在者につき、申し立てを受けて財産管理人を家庭裁判所が選任する制度です。財産管理人は不在者を代理しますが、基本的には財産を減らさない範囲での最低限の行為しかできず、遺産分割協議などの重大な事項は、家庭裁判所の監督下で行います。そのほかの特徴は次の通りです。

制度利用のための申し立てができる人

制度利用のための申し立てができる人_イメージ

不在者財産管理人の選任申し立てができる利害関係人とは、不在者の配偶者や、将来の相続人にあたる人、共同相続人、債権者などです。申立人は、戸籍謄本、債務の負担に関する合意書などといった、利害関係を証明する書類を提出します。

不在者財産管理人の資格と職務

不在者財産管理人になるための特別な資格はありませんが、弁護士や司法書士など、適切に職務を行える人が選任されるのが一般的です。こうして選任された財産管理人は、財産目録の作成や、裁判所の指示に従った財産の保存に必要な処分を職務とします。相続登記などに必要な遺産分割協議への参加(相続権の行使)に関しては、家庭裁判所の許可が必要です。

財産管理の原資は不在者の財産になる

不在者財産管理人の職務は、不在者の財産から費用を支弁して行われます。管理人は、裁判所の命令に基づき、不在者の財産の中から報酬を受け取ることもあります。

上記のように、不在者財産管理人制度は、本人の生存を前提にして、財産を費消しつつ残りを保護する制度です。今後消息をつかめる望みが薄い場合や、すでに死亡している可能性がある場合だと、行方不明者の子、配偶者、孫など直接利益を得る立場の人にとっては、失踪宣告やその他死亡に伴う事務処理を速やかにしないと不利益になる恐れがあります。

不在者財産管理制度の手続方法と流れ

不在者財産管理制度の利用にあたっては、不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に下記の書類を提出する必要があります。

  • 家事審判申立書
  • 不在の事実を証する資料(捜索活動に関する陳述書、行方不明届の写しなど)
  • 不在者の戸籍謄本・戸籍附票
  • 財産管理人候補者の住民票または戸籍附票
  • 利害関係を証する資料(申立人の戸籍謄本など)
  • 不在者の財産に関する資料(通帳の写し、不動産登記事項証明書など)

上記の書類を受け取った家庭裁判所は、行方がわからなくなった事情について申立人に直接聞き取りを行うなどして、審理を進めます。申し立てから不在者財産管理人の選任までは1か月程度で、そのあと遺産分割協議を行い、相続登記に移る流れとなります。

失踪宣告の特徴と手続方法

失踪宣告とは、不在者の生死が7年間(特別失踪の場合は1年間)に渡って明らかでないときに、利害関係人の申し立てによって死亡扱いとする制度です。行方不明になった相続人についてさらに相続が開始されることになるため、遺産分割協議が成立しないことを理由に相続登記もできない問題はなくなります。

制度利用の申し立てができる人

失踪宣告を申し立てることができる利害関係人とは、行方不明になった人の相続人など、失踪宣告によって直接利益を受ける人です。債権者や、本人の債務を負担していた人は、ここで言う利害関係者には当てはまりません。

失踪宣告の種類と効果が生じる時期

失踪宣告の種類と効果が生じる時期_イメージ

失踪宣告には、一般失踪と特別失踪の2種類があります。一般失踪は、不在者の生死が7年間明らかでない場合に適用され、失踪期間満了時に死亡したものとみなされます。特別失踪は、大規模な災害など死亡の原因となる危難に遭遇した後、1年間生死不明の場合に適用され、危難が去った時点で死亡したとみなされます。

生存または死亡時期が判明したときの対応

失踪宣告後に、不在者の生存が判明したり、死亡した時期が明らかになったりした場合、利害関係人または本人の請求により、失踪宣告を取り消してもらうことができます。特に正確な死亡時期が判明したときは、ほかの親族との死亡の先後によって相続関係が変わることがあるため、取消しの申し立ては重要だと言えます。

このとき、失踪宣告により相続することになった財産をすでに売却していたとしても、その取引の効果がなくなることはありません。死亡保険金は返還義務が生じますが、すでに使った分まで返却する必要はなく、手元に残っている金額(現存利益)を返すことになります。

失踪宣告の手続方法と流れ

失踪宣告の申し立ても、生死不明となった人の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所で行います。提出する書類は下記の通りです。

  • 家事審判申立書
  • 失踪を証する資料
  • 失踪した人の戸籍謄本・戸籍附票
  • 利害関係を証する資料(申立人の戸籍謄本など)

申立書類を受理した裁判所は、3か月以上(特別失踪に該当する場合は1か月以上)の期間を定め、行方不明者を捜索するため官報で公告を行います。届出がなければ、失踪宣告がなされ、宣告から10日目で確定します。そのあと、失踪者の本籍地または住所地に届出をすると、失踪者および失踪者から見た被相続人について遺産分割協議を始められます。

以上のように、失踪宣告は、相続人を都合亡くなったものとして扱う兼ね合いで、公告によりプライバシー保護が損なわれる可能性があります。安易に利用するのではなく、戸籍上の年齢そのほかの状況から「死亡している」とある程度断定できる状況で検討すべきものです。

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行方不明者がいる場合の相続登記の流れ

行方不明者がいる場合の相続登記は、相続人調査および相続財産調査から始まり、居所が知れない事実への対応を交えて進めます。全体の流れは通常の相続登記とほとんど同じですが、追加の対応がある点で複雑になります。

相続登記の基本的な手続

相続登記の基本的な手続_イメージ

土地や建物の相続登記では、まず相続人が誰なのか特定するための調査と、相続する不動産の特定から開始します。戸籍謄本や登記事項証明書を取り寄せ、調査が完了すると、相続人全員で集まって不動産の権利を誰のものとするのか(共有する場合はその割合)を取り決めます。

このようにして、相続関係を示す戸籍関係書類、遺産分割協議書、印鑑登録証明書、不動産を取得する人の住民票などが揃えば、登記申請のための条件は整います。あとは不動産の所在地を管轄する法務局・登記所の窓口に登記申請書および添付情報を提出すれば完了です。

行方不明者がいる場合に必要な追加手続

行方不明者がいるときの対応は、相続人調査の段階で始まります。実際の状況として多いのは、あらかじめ居所の知れない人を把握しているケースより、戸籍謄本を取り寄せた結果「生死不明だが亡くなっている可能性が大きい人がいる」「会ったことのない親族がいる」と判明するケースです。

すでに触れましたが、この場合には、各種制度の利用を踏まえて次のような手続を行います。

  1. 親類や周辺住民への聞き取り調査
  2. 司法書士などによる住民票・戸籍附票の請求
  3. 相続人本人やその代理人からの連絡の試み
  4. 行方不明となっている状況の確認
  5. 不在者財産管理人の選任申し立て(連絡がつく可能性がある場合)
  6. 失踪宣告の申し立て(生死不明の場合・死亡している可能性大の場合)
  7. 相続人申告登記(相続人である旨を申し出るための手続)の申請

上記7の対応は、相続登記の義務化を踏まえたものです。行方不明者がいるケースでは、捜索活動により、相続登記までの道のりが長くなりがちです。そうはいっても、義務化以降は3年以内に登記しない場合に罰則があるため、登記しないまま長引かせるわけにはいきません。こういった場合の救済措置として、相続人申告登記制度が設けられています。

行方不明の相続人がいる相続登記のポイント

行方不明の相続人がいる状況はさまざまです。国外に出ている場合や、大規模な災害を機に連絡がとれなくなった場合などがあります。こんなときは、どう対応すればいいのでしょうか。

海外在住の行方不明者への対応方法

行方不明の相続人が海外にいる(もしくは、海外にいる可能性が大きい)場合、対応方法が変わります。まず、在外公館に連絡を取り、相続人の居場所および連絡先の調査を依頼しなければなりません。現地の弁護士や、日本国内で国際的に活動している弁護士に依頼する方法も考えられます。

相続人の居場所や連絡先がわかった場合は、国際郵便などで相続に関する通知を送付します。これでも連絡が取れない場合は、不在者財産管理制度を利用しなくてはなりません。連絡先などがわからず、死亡している可能性もあるような場合には、失踪宣告を利用します。

災害などによる行方不明では認定死亡制度を利用する

失踪宣告とよく似た制度として、戸籍法で定める認定死亡制度があります。大規模な災害などがあったとき、その地域の市区町村役場に届け出て、対象地域に住む人の死亡認定を得る方法です。認定を得ると、戸籍上死亡扱いとなり、相続が開始されます。状況によっては、失踪宣告ではなく、上記の制度で対応するほうが良いと言えます。

行方不明者がいるときの相続登記は早期相談を

行方不明の相続人がいる状態での相続登記は、必要な条件を満たせず申請できません。相続人全員が揃わないことで、遺産分割協議を有効に成立させることができないのです。この問題を解決するには、調停・審判を申し立てて参加するよう呼びかけるか、不在者財産管理制度あるいは失踪宣告の申し立てを利用するほかありません。

いずれにしても、適切な手続の判断や、連絡を試みる時間などを踏まえると、登記完了まで長引くと考えられます。公的資料の調査・相続登記の義務化の兼ね合いなどを考えると、手続対応や司法書士への相談は早めに行うのが望ましいと言えます。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

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