【雛形あり】未登記建物がある遺産分割協議書の書き方

未登記建物があるケースの遺産分割協議書の書き方_サムネイル

未登記建物は遺産分割協議書に記載する

亡くなった人が所有していた不動産を調べてみると、建物があるにもかかわらず、その登記事項証明書を請求しても交付されない場合があります。このような「未登記建物」も相続財産として扱うため、有効な遺言書がないケースでは、ほかの財産と同じく遺産分割協議で取得者を決めなくてはなりません。

書面の作成方法や手続の前に、相続した未登記建物に関する基本的な考え方を押さえましょう。

未登記建物とは?相続したときの取扱い

未登記建物とは、法務局で登記簿が作成されておらず、その所在地や権利の情報などの管理がされていない建物です。登記簿が作成されていない以上、その写しである登記事項証明書も請求できません。そのため、前もって「登記されていない可能性がある」とわかっている建物に関しては、法務局で上記証明書を請求する際、混乱を招かないよう事情を伝えておくのがベターと言えます。

そうは言っても、現に財産として存在する以上、所有権は認められます。所有者が亡くなれば、いったんは相続人の共有に属し、遺言書または遺産分割協議によって新しい所有者を判断しなければなりません。

本来なら新築時に登記義務を負う

建物が未登記になっているのは、例外的な状況です。新築したときに少なくとも「表題登記」を申請する義務を負い、1か月以内に申請しなければ10万円以下の過料とするルールも設けられているからです。表題とは、建物の場所や造りに関する基本情報に関するもので、この情報の届出によって初めて登記簿が作成されます。

未登記建物の相続における遺産分割協議書の役割

未登記建物を相続したときは、その名義変更にあたって、まだ実施されていない表題登記から着手する必要があります。この際、相続時には遺産分割協議書に基づいて登記申請することになります。

多くの場合、新築時から相当の時間が経過していますが、上記申請があれば相続人に過料に処されることはありません。あとは一般的な相続・遺産分割と同じく、所有権に関する登記を行い、建物の活用について決めるだけです。

未登記建物を含む遺産分割協議書の作成の流れ

未登記建物を含む遺産分割協議書は、特定できるように建物の情報を記載し、表題登記していないとわかるように作成する必要があります。登記されている建物を相続するケースとの違いは、あらかじめ建物を調べておく必要がある点です。順を追って遺産分割協議書の作成の流れを解説すると、次のようになります。

まずは未登記建物を特定する

まずは未登記建物を特定する_イメージ

固定資産税の課税明細書が手元にあれば、家屋番号が空欄となっているのが未登記建物だとわかります。家屋番号とは、登記簿が作成されたときに付されるものです。登記簿がない場合、建物の所在地や床面積・構造などの情報しか記載されません。

手元に課税明細書がなければ、土地の所在する地域の市区町村役場で課税台帳の閲覧請求をする必要があります。市区町村の調査で把握した建物の情報が記載されており、調査したばかりで課税明細書が届いていないものも、家屋番号が空欄のまま掲載されています。

未登記建物の取得者を話し合って決める

未登記建物を含む遺産分割協議書を作成するにあたっては、その内容の大元になる「誰が建物を取得するのか」を話し合いで決めなくてはなりません。このとき、表題登記・保存登記が済んでいる不動産のみ相続する場合と同じく、すべての法定相続人が参加する必要がある点に注意しましょう。1人でも欠けると、成立した協議が無効になってしまいます。

遺産分割協議書に未登記である旨を記載する

登記されていない建物を含む遺産分割協議書は、相続する不動産がすべて登記済である場合とおおむね同じです。唯一注意しなければならないのは、建物の表示(所在・家屋部分・種類・構造・床面積)です。それでは、具体的にどう記載すれば良いのでしょうか。

遺産分割協議書の書き方・雛形

固定資産税関係の調査で未登記建物が登記できていれば、基本的には、確認した情報をそのまま建物の表示欄に記入するだけです。家屋番号は番号がないため「未登記」や「未登記建物」となります。所在・種類・構造・床面積については、固定資産税の納税通知書、評価証明書、課税台帳の内容をそのまま写します。

以下で紹介するのは、遺産分割協議書の例文です。それぞれの状況や合意内容に応じた記載が必要となるため、あくまでも参考程度と考えてください。

【遺産分割協議書の例文】

遺産分割協議書


被相続人 法務一郎(昭和〇年〇月〇日生)
本籍地 〇〇県〇〇市〇〇町〇-〇
最後の住所地 〇〇県〇〇市〇〇町〇-〇
死亡年月日 令和〇年〇月〇日

相続人法務太郎(昭和〇年〇月〇日生、以下甲)および法務花子(昭和〇年〇月〇日生、以下乙)は、被相続人法務一郎の相続人として、相続人全員で遺産分割協議を行い、下記のとおり合意する。

第一条 甲は以下の遺産を取得する

<土地>
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇-〇
地番 〇〇番〇
地目 宅地
地籍 〇〇.〇〇平方メートル

<建物>
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇-〇
家屋番号 〇〇番〇
種類 居宅
構造 木造木造瓦葺2階建て
床面積 1階部分 〇〇.〇〇平方メートル
    2階部分 〇〇.〇〇平方メートル

所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇-〇
家屋番号 未登記建物
種類 居宅
構造 木造木造瓦葺1階建て
床面積 〇〇.〇〇平方メートル


~ほかの合意事項は省略~



甲乙は、本合意の成立を証明するため、遺産分割協議書2通を作成し、各自1通を保管するものとする。


令和〇年〇月〇日


相続人甲
住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇-〇
氏名 法務太郎 実印

相続人乙
住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇-〇
氏名 法務花子 実印

未登記建物を相続したときの手続はどうする?

未登記建物について遺産分割協議書を作成できたときは、新築時に行うはずだった登記申請により、登記簿で名義が確認できる状態とします。もっとも、建物を解体する場合はこの限りではありません。必要な手続として、以下の2つのパターンがあります。

建物を残すなら2種類の登記が必要

建物を取り壊さずに取得する場合、新築時に義務付けられている表題登記のほかに、保存登記が必要です。保存登記とは、作成した登記簿の権利部に所有権の状況を記載するための手続であり、買主や賃借人に所有者である旨を証明するために必要です。作成した遺産分割協議書は、保存登記の必要書類として用います。

表題登記の必要書類

  • 登記申請書
  • 遺産分割協議書(所有権証明情報)
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(所有権証明情報)
  • 相続人全員の戸籍謄本(所有権証明情報)
  • 申請者の住民票(所有権証明情報)
  • 建物図面・各階平面図(土地家屋調査士に依頼)
  • 相続人全員の印鑑登録証明書(遺産分割協議書に用いた実印に関するもの)

保存登記の必要書類

  • 登記申請書
  • 住宅用家屋証明書(あれば登録免許税の税率が0.4%→0.15%に下がる)
  • 遺産分割協議書

建物を解体する場合も滅失届は提出する

「更地で売りたい」などの理由で建物を解体する場合、表題登記・保存登記ともに不要ですが、市区町村役場への滅失届の提出は必要です。滅失届がなければ、市区町村による次の調査まで建物があるものとして扱われ、固定資産税が課税され続けます。

未登記建物をそのままにしておくデメリット

未登記建物をそのままにしておくデメリット_イメージ

登記簿のない建物だと気付いているにもかかわらず、表題登記も解体もしないのは禁物です。下記のような理由で赤字化する上、将来の相続トラブルや、近隣トラブルに発展することがあります。

売買や抵当権設定ができない

建物の価値を利用できるのは、登記簿が作成されている場合に限られます。表題登記がないと、買主が所有権移転登記する・銀行が不動産に抵当権設定登記をするなどの利用上必要な手続ができません。

固定資産税の課税時に更地と同じ扱いになる

表題登記も市区町村への届出もない建物は、敷地について課税時に「更地であるもの」として扱われます。この場合、固定資産税の軽減措置が適用されず、通常の約6倍もの課税は避けられません。

権利の状態が曖昧になる

不動産について登記簿がないのは、何らかの権利があっても第三者に主張できない状態です。不法占有や境界線を巡るトラブルが発生しても、自分の権利を根拠にした対応ができません。現在建物を利用する親族がいるケースでは、将来の相続で争いが発生する可能性もあります。

専門家の支援が必要になる場合

相続した建物の表題登記がされていないケースでは、遺産分割協議書の作成から個別の判断を必要とする場合が多々あります。未登記の対応だけでなく、今回に加えて前回の相続登記にも対応しなければならないなど、さまざまな状況が考えられます。

登記が必要な建物なのか判断に迷う場合

未登記建物には、塀や門扉などといった造作物との違いがわかりにくい、ごく簡素な小屋・倉庫が多く見られます。現に建っているものが上記に当てはまる場合、取り壊すのでなければ、そもそも登記が必要なものか判断した上で遺産分割協議書を作成する流れとなります。

このように、登記すべき建物にあたるのか判断に迷うものがあれば、まずは司法書士や土地家屋調査士に相談しましょう。建物のせいで、予想外の課税や不法占拠のトラブルに発展してしまう可能性を避けるためです。

数次相続の遺産分割協議書が必要になる場合

数次相続の遺産分割協議書が必要になる場合_イメージ

新築時の登記が住んでいない建物には、手続に関する情報が不十分だった古い時代のものや、新築まもなく相続が発生して手続できなかったものが見られます。この場合、今回に至るまでの複数回にわたる相続(数次相続)に対応した遺産分割協議書が必要です。そのため、未登記である旨の記載を含め、通常の相続で作成するものよりも複雑な対応が求められます。

遺産分割協議書に不備があると、協議自体が無効になるなどして、その後に控える手続が長引く可能性があります。書面作成や登記申請を間違いなく行う上で、司法書士に依頼するのが確実です。

未登記建物を含む遺産分割協議書作成のポイント

建物は新築時に登記義務が課せられていますが、情報不足や突発的な事態の発生により、未登記のままとなっているものがあります。こうした建物を含む遺産分割協議書の作成方法に、特段の注意点はありません。固定資産税に関する情報を市区町村に請求し、その結果に基づいて建物を特定・記載するだけです。

実際には「工作物などと同じ扱いのため未登記のままでも良い」といった判断ができる場合や、あるいは「相続自体が複雑化している」といった場合が少なからず存在します。合わせて、未登記のまま取扱いについて検討する時間を設けるにしても、市区町村への届出は必要になるのが原則です。適切な手続を行うため、司法書士への相談をおすすめします。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

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