相続土地国庫帰属制度の手続の流れ

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相続土地国庫帰属制度とは

相続土地国庫帰属制度とは_イメージ

相続土地国庫帰属制度とは、相続または遺贈で取得した土地に限り、所有者の申請で国庫帰属を承認してもらう制度です。事前相談のうえで「相続土地国庫帰属制度」の承認申請をすると、半年から1年ほどの期間で国に引き取ってもらえます。制度の内容や利用する方法を簡単に整理すると、次のようになります。

  • 不要な土地を引き取ってもらい、所有のコストから解放される
  • 制度利用にあたり、法務局へ費用を支払って手続する必要がある

不要な土地所有権を国に引き取ってもらう制度

土地所有者から見た相続土地国庫帰属制度は、不要な土地所有権を申請および承認審査だけで手放せるメリットがあります。ここで言う不要な土地とは、利用価値が低く活用や買主探しに難航し、固定資産税や維持管理費ばかりかかってしまう場合などを指します。

相続土地国庫帰属制度と相続放棄の違い

相続土地国庫帰属制度の特徴は、遺産全体を放棄することなく、土地1筆単位で手放せる点です。申請期限もなく、遺産を承継する手続に着手してからでも申請可能です。上記制度に対し、相続放棄は遺産全体の放棄を要する手続です。加えて遺産承継の手続に着手する前の「相続開始を知った日から3か月以内」に申述する必要があります。つまり、

  • 対象の土地の他に目立った「マイナスの財産」がない
  • すでに遺産分割に着手してしまっている

といった場合には、相続土地国庫帰属制度をおすすめできます。

相続土地国庫帰属制度を利用する方法

相続土地国庫帰属制度で土地を引き取ってもらうには、相続人もしくは受遺者が申請人となり、法務局本局で申請する必要があります。申請方法のポイントとして、次の4点を理解しておくとよいでしょう。

  • 事前相談が必要
  • 所定の申請書の他にも必要書類がある
  • 審査手数料1万4000円+負担金として原則20万円の費用がかかる
  • 審査後、電話での問い合わせや現地調査への協力を求められる可能性あり

相続土地国庫帰属制度手続の流れ

相続土地国庫帰属制度の手続は5ステップで進みます。事前相談から順に、必要書類や負担金などの重要な部分を押さえながら解説します。

1.事前相談

相続土地国庫帰属制度の利用を受け付ける各地の法務局では、必ず事前相談するよう案内しています。個別の必要書類や、対象外となる土地の要件、手続の運用や心構えについてあらかじめ理解を深めておく必要があるためです。

申請しようとする土地の相談先は、土地が所在する都道府県の法務局・地方本局の不動産登記部門です。電話もしくは窓口対応が可能で、いずれの場合も下記方法で進めます。

  • 相続土地国庫帰属相談票をダウンロードし記入(Excelファイル・PDFファイル)
  • 法務局手続案内予約サービスで事前予約
  • 予約当日に電話対応または来庁(1回30分)

相続土地国庫帰属相談票
Excelファイル

PDFファイル

なお、相談先は法務局だけとは限りません。他の制度の活用も含めて、司法書士に問い合わせてアドバイスしてもらう方法もあります。

2.申請書類の作成・提出

事前相談が終わったら、相続土地国庫帰属制度の承認申請書を作成し、添付書類と共に提出します。申請書類の提出先は、事前相談先と同じく、土地が所在する都道府県の法務局・地方本局の不動産登記部門です。受付は本局だけであり、支店・出張所では申請対応できない点に注意しましょう。

申請書類の提出方法は、窓口と郵送のどちらでも構いません。それぞれ次のように行います。

法務局の窓口に提出する場合

できるだけ事前連絡し、原則として申請者本人が来庁します。本人に困難な事情がある場合は、家族が代わりに来庁しても構いません。

法務局に郵送で提出する場合

申請書類が入っている旨を記した書留郵便か、レターパックプラスを利用して提出します。封筒や切手、送料は申請者負担です。

3.要件審査

相続土地国庫帰属制度では要件に該当するか審査されます。要件審査にて書面調査での却下、実地調査での不承認がなければ国庫帰属の承認通知が届きます。

4.負担金の納付

国庫帰属の承認通知が届いたら、通知到達日から30日以内に負担金を納付します。注意したいのは、納付期限を過ぎてしまうと承認が失効する点です。期限内に負担金納付ができず失効してしまった場合、最初から申請し直す必要があります。

5.国庫帰属

負担金の納付からしばらくすると、申請人かつ元所有者の手元には国庫帰属通知が到着します。法的に所有権が国に移るのは、上記通知が届いた時点ではなく、負担金納付の時点です。なお、土地の権利が移ると登記申請するのが通常ですが、相続土地国庫帰属制度を利用した場合は申請不要です。国側で所有権移転登記嘱託がされるためです。

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相続土地国庫帰属制度の必要書類

相続土地国庫帰属制度の必要書類は、大別すると下記の5種類になります。書類不備で国庫帰属が遅れることのないよう、確認しておきましょう。

  • 相続土地国庫帰属制度の承認申請書
  • すべての申請で添付すべき必須書面
  • 遺贈によって土地を取得した相続人の書面
  • 承認申請者と所有権登記名義人が異なる場合の書面
  • その他の任意で提出する書類

相続土地国庫帰属制度の承認申請書

相続土地国庫帰属制度の承認申請書_イメージ

制度を利用するため、まず必要なのが「相続土地国庫帰属制度の承認申請書」です。下記リンクからWordファイルをダウンロードし、そのまま記載事項を埋めてプリントアウトしましょう。

申請書は土地の所有状況によって様式を使い分けます。特定の相続人が単独で所有する土地なら「単独申請」、共有する土地なら「共同申請」を用いましょう。

すべての申請で添付すべき必須書面

国庫帰属の承認を得たい土地は、位置・範囲・境界点・形状を資料で説明しなくてはなりません。上記資料に加え、申請者の印鑑登録証明書(市区町村役場で取得)が必要です。どのケースでも承認申請書に添付する必須書面は、次のとおりです。

承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面

土地の位置及び範囲に関する資料は、国土地理院地図・住宅地図・登記所備付地図の上にマークを付けて提出します。下記は国土地理院地図を使った例です。

承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面_イメージ

※引用:添付書類の記載例│法務省

承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地の境界点を明らかにする写真

土地の境界点を明らかにする資料は、隣地との境界線付近で撮影し、その写真にマーカーを付けて提出します。下記がその例です。

承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地の境界点を明らかにする写真_イメージ

※引用:添付書類の記載例│法務省

承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真

土地の形状を明らかにする資料は現地で撮影し、建物が存在しないことを含む土地の利用状況がわかる写真を提出します。下記がその例です。

承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真_イメージ

※引用:添付書類の記載例│法務省

遺贈によって土地を取得した相続人の書面

土地の遺贈とは、遺言で土地を贈与することを指します。遺贈で取得した土地について相続土地国庫帰属制度を申請する場合は、上記を証明する書類が必要です。下記一式は、土地の遺贈があったことを証明する書類の一例です。

  • 遺言書
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書、除籍謄本または改製原戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票、戸籍附票
  • 相続人の戸籍一部事項証明書
  • 相続人の住民票または戸籍附票

承認申請者と所有権登記名義人が異なる場合の書面

国庫帰属の対象になる土地は、相続登記が済んでおらず、所有権登記名義人(もしくは表題部所有者)が亡くなった人のままの可能性もあります。上記のように、承認申請者と登記上の所有者が異なる場合には、相続があったことを証明する必要があります。以下はその際必要となる書類の一例です

  • 遺産分割協議書
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書、除籍謄本または改製原戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票、戸籍附票
  • 相続人の戸籍一部事項証明書
  • 相続人の住民票または戸籍附票

その他の任意で提出する書類

その他の任意で提出する書類には、次のようなものがあります。事前相談の内容で変化し、資料によっては士業に調査を依頼する必要があります。

  • 固定資産税評価額証明書(市区町村役場で取得)
  • 承認申請土地の境界などに関する資料(土地家屋調査士に依頼)
  • その他相談時に提出を求められた資料

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相続土地国庫帰属制度の費用

相続土地国庫帰属制度の費用_イメージ

相続土地国庫帰属制度の利用は、審査手数料と負担金の名目で費用が発生します。それぞれの金額・算定方法は以下のとおりです。

相続土地国庫帰属制度の審査手数料

制度の承認申請時には、審査手数料の名目で土地1筆あたり1万4000円を納める必要があります。金額分の収入印紙を用意し、承認申請書に貼付しましょう。

相続土地国庫帰属制度の負担金

承認通知に記載された負担金は、原則として土地1筆あたり一律20万円とされます。国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用額であり、土地の地目と面積に応じて所定の方法で計算する場合があります。以降で解説する負担金の計算は、下記ページ内にあるExcelファイルを使って試算できます。

宅地の負担金

宅地の負担金は一律20万円ですが、市街化区域または用途地域が指定される土地は、下の表を使って計算します。

地積区分 負担金の算定
50㎡以下 地積(㎡)×4700円+20万8000円
50㎡超100㎡以下 地積(㎡)×2720円+27万6000円
100㎡超200㎡以下 地積(㎡)×2450円+30万3000円
200㎡超400㎡以下 地積(㎡)×2250円+34万3000円
400㎡超800㎡以下 地積(㎡)×2110円+39万9000円
800㎡超 地積(㎡)×2010円+47万9000円

田・畑の負担金

田・畑の負担金も一律20万円ですが、市街化区域または用途地域が指定される土地、農用地区域などの土地は、下の表を使って計算します。

地積区分 負担金の算定
250㎡以下 地積(㎡)×1210円+20万8000円
250㎡超500㎡以下 地積(㎡)×850円+29万8000円
500㎡超1,000㎡以下 地積(㎡)×800円+31万8000円
1000㎡超2000㎡以下 地積(㎡)×740円+38万8000円
2000㎡超4000㎡以下 地積(㎡)×650円+56万8000円
4000㎡超 地積(㎡)×640円+60万8000円

森林の負担金

森林の負担金は金額の決まりがなく、下の表を使って計算します。

地積区分 負担金の算定
750㎡以下 地積(㎡)×59円+21万0000円
750㎡超1,500㎡以下 地積(㎡)×24円+23万7000円
1500㎡超3,000㎡以下 地積(㎡)×17円+24万8000円
3000㎡超6,000㎡以下 地積(㎡)×12円+26万3000円
6000㎡超12,000㎡以下 地積(㎡)×8円+28万7000円

その他の土地

雑種地や原野など、宅地・田・畑・森林のいずれにも該当しない土地の負担金は、面積(地積)にかかわらず一律20万円です。

隣接する2筆以上の土地における負担金算定の特例

隣接する2筆以上の土地につき相続土地国庫帰属制度を使おうとする場合、その区分が同一のものに属する限り、負担金を1筆分で計算してもらえる特例があります。土地Aが兄・土地Bが弟といった、各隣接地の所有者が異なる場合も、共同で申請すれば上記特例の適用対象です。

相続土地国庫帰属制度の注意点・よくある質問

相続土地国庫帰属制度の注意点・よくある質問_イメージ

相続土地国庫帰属制度の利用にあたっては、取得状況や審査期間に多少注意を払う必要があります。また、土地の状況によっては、法令で却下・不承認となる場合がある点も気を付けたいところです。

相続登記未了でも国庫帰属の申請はできる?

制度利用の条件に、相続登記済かどうかを問う項目はありません。亡くなった人(被相続人)が登記名義人のままでも、戸籍謄本や遺言書・遺産分割協議書で相続・遺贈を証明できれば、制度の利用申請は可能です。

共有で相続した土地の申請者は?

共有で相続した土地について相続土地国庫帰属制度を申請するとき、申請は共有者全員で共同して行います相続開始まで単独名義だった土地なら、共有者は親子・きょうだいといった近い関係になるため、連絡を取り合って共同申請するのは、そう難しくないでしょう。

しかし、相続開始前から共有状態にあり、共有持分を相続した場合には、他の共有者と連絡を取るのが困難になり、士業に調査してもらうなどの手助けが必要になります。

申請から国庫帰属までの期間は?

相続土地国庫帰属制度の標準処理期間(申請から国庫帰属まで)は半年から1年程度です。ただし、積雪その他の自然災害の影響で、現地調査の実施が遅れるなどして上記期間を超える場合もあります。地形上辿り着くのが難しいなどの理由で管理不全に陥りやすい土地ほど、申請を早める必要があります。

申請後に何か手続は必要?

国庫帰属の承認申請をした後、あらためて何らかの手続を求められることはありません。ただし、法務局の職員から問い合わせがあったり、国に現地調査の立会いを求められたら応じる必要があります。現地調査への協力については、任意に選んだ第三者(申請を代行した司法書士など)に任せることも認められています。

申請しても却下・不承認となる土地の要件は?

法令で定める却下要件または不承認要件に当てはまる土地は、相続土地国庫帰属制度による引き取り対象になりません。それぞれ次のように定められています。

却下要件

却下要件とは、その事由があれば直ちに通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要する土地を指します。法令の定めは次のとおりです。

  • 建物がある土地
  • 担保権や使用収益権がある土地
  • 通路その他の他人の利用が予定される土地
  • 土壌汚染が認められる土地
  • 境界が明らかでない土地・所有権について争いがある土地
  • 現に通路の用に供されている土地
  • 墓地内の土地
  • 境内地(宗教施設の中にある土地)
  • 現に水道用地、用悪水路またはため池の用に供されている土地

不承認要件

不承認要件とは、費用・労力の過分性について個別の判断を要する土地を指します。法令での定めは次のとおりです。

  • 勾配30度以上かつ高さ5メートル以上の崖がある土地
  • 土地の管理・処分を阻害する有体物(樹木・車両など)が地上にある土地
  • 土地の管理・処分のため除去を要する有体物が地下にある土地
  • 隣接所有者などにより、通行や所有権に基づく使用収益が現に妨害されている土地
  • 土砂崩れや獣害がある、適切な造林・間伐・保育が実施されていない、国庫帰属に伴い金銭債務も承継するなど、その他の事情がある土地

相続土地国庫帰属制度で重要な4つのポイント

相続土地国庫帰属制度の利用にあたっては、事前相談で添付書類などについて個別案内を受けましょう。申請から国庫帰属までは半年から1年程度かかるため、ある程度時間がかかります。手続の流れや注意点のポイントを押さえると、次のようになります。

  • 添付書類に土地の図面・写真が含まれる(場合により土地家屋調査士に依頼)
  • 負担金の納付期限は厳守する(承認通知到達後30日以内)
  • 法務局からの問い合わせ・現地調査には対応する必要あり
  • 却下要件・不承認要件に該当する土地は引き取り不可

事前相談の段階から司法書士に相談すれば、相続放棄の方が適切かどうかを含め、スムーズかつ迅速に手続を進められます。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

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