相続登記に影響する?「住所・氏名変更登記等の義務化」とは

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不動産の住所・氏名変更登記の義務化とは

令和3年に成立した民法および不動産登記法の改正により、転居に伴う「住所変更登記」と姓の変更に伴う「氏名変更登記」の申請が義務化されました。期限内に行わなかった場合、過料に処すとの内容です。

変更登記申請の義務化の対象者

住所または氏名の変更登記申請の義務化の対象となるのは、土地や建物を所有している人です。法改正後の不動産の所有者は、転居または姓の変更があったとき、必ず行うべき手続に登記申請が加わります

もともと、住民票や戸籍関係の手続きをしただけでは、登記簿に記載されている所有権者の情報の書き換えは行われません。変更登記を申請して完了するまでのあいだは、登記簿上は旧姓・旧住所のままです。

改正法の施行日と登記申請期限

住所または氏名変更登記の申請が義務化されるのは令和8年4月1日です。改正法に伴う登記申請の期限は、転居や姓の変更があった日によって変わります。

義務化に伴う変更登記申請の期限

  • 施行日より前に変更があった場合:施行日から2年以内
  • 施行日以降に変更があった場合:変更があったときから2年以内

相続登記の義務化との関係

住所変更登記・氏名変更登記の申請の義務化は、所有者が亡くなったときの名義変更手続を義務とする「相続登記の義務化」に伴う改正です。これらの法改正の背景には、増加の一途を辿る所有者不明土地問題があります。

不動産の情報や権利状況は登記簿で管理され、変更が起きたときは登記申請して登記簿を書き換えるのが基本です。ところが、転居・結婚・離婚・相続などが起きて所有者の情報が変わっても、登記されず、登記簿上は従前のままになる土地が多く存在しています。このような状況を放置することによって、やがて土地や建物それ自体も維持管理する人がいなくなり、地域や行政の力で管理しなければならない「所有者不明土地」が増えています。

上記のような状況を受けて、今回の住所または氏名変更登記には、次のような効果が期待されています。

  • 登記簿の情報が常に最新の状態になる
  • 亡所有者の家族らで相続登記すべき不動産を調査しやすくなる
  • 調査しやすくなれば、相続登記も確実に行われるようになる
  • 相続登記の義務化によって、受け継がれた不動産の所有者を捕捉しやすくなる

住所・氏名変更登記の義務化の注意点

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住所または氏名変更登記の義務化には、期限内に行わなかった場合のペナルティがあります。先に紹介しましたが、改正法施行日より前の変更も義務化の対象であり、過料に科されるリスクがあります。内容が軽いものであっても、将来相続するときの調査の難しさを考えれば、申請せずに放置するわけにはいきません。

転居や姓の変更があったときの変更登記に関する注意点として、以下の2つが挙げられます。

2年以内に変更登記をしなかったときの罰則

法改正による変更登記申請の義務化後、正当な理由がないのに期限内に登記しなかった場合、5万円以下の過料に処されます。正当な理由とは、病気や被災、家庭内暴力からの避難などが考えられますが、いずれにしても自己判断せず法務局・登記所への相談が必要です。

変更登記前の不動産を相続するときの問題点

住所・氏名変更登記の申請がされないまま相続が発生すると、不動産を受け継いだ相続人の手を煩わせることになります。

まず考えられるのが、登記名義人と被相続人の情報に不一致があることで、相続した不動産の調査が難航する問題です。登記事項証明書(登記簿に記載された事項の証明書)だけでは相続財産と断定できないため、固定資産税の課税情報や、各市町村での住民票の写しなどを取り寄せて、一致させる作業をしなければなりません。一致したときには、変更登記を経てから相続登記する必要があり、大変面倒です。

住所変更登記等の手続き方法・必要書類

住所変更登記・氏名変更登記の申請方法は、義務化された後も大きく変わりません。登記原因証明情報(変更がわかる公的書類)と登記申請書などを用意して、管轄の法務局・登記所に提出します。詳細は次の通りです。

登記申請先となる法務局の窓口

変更登記の申請先は、所有する不動産の所在地を管轄する法務局・登記所の窓口です。窓口に直接向かう必要はなく、必要書類を「不動産登記申請書在中」と書いた封筒に入れて郵送する方法でも手続可能です。

また、オンライン申請用のソフトウェアのインストールなどといった事前準備があれば、住民票コードをもとにしたインターネットでの申請も可能です。

登記申請のための必要書類

登記申請のための必要書類は、登記申請書と登記原因証明情報です。登記原因証明情報とは、登記申請の原因となった変更などを証明する書類にあたり、次のようなものが当てはまります。

住所変更登記の登記原因証明情報

登記申請書に記載する住民票コードがわからない場合は、住民票の写し(マイナンバーが記載されていないもの)が必要です。短期間に転居を繰り返している場合は、住所移転の経緯がわかるよう、住民票コードおよび住民票の写しの代わりに戸籍の附票を提出します。

氏名変更登記の登記原因証明情報

個人の姓の変更がわかる戸籍全部事項証明書を取得し、提出します。変更前と変更後の両方の氏名がわかるようにする必要があるため、記載内容によっては、除籍謄本(以前入っていた戸籍の写し)も用意します。

登記申請書については、法務局・登記所の記載例に沿い、自分で作成する必要があります。記載例を挙げると、次のようになります。

【登記申請書の記載事項(住所変更の例)】

登記申請書


登記の目的 〇番所有権登記名義人住所変更
登記の原因 令和〇年〇月〇日住居表示実施
変更後の事項 〇〇県〇〇市〇〇街〇丁目〇番〇号

申請人
   法務 太郎 印
   〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
   連絡先電話番号:0000ー0000―0000

添付書類
   住居表示実施証明書

令和〇年〇月〇日申請 〇〇法務局〇〇支局

登録免許税 2000円

不動産の表示
(以下省略。登記事項証明書に記載の情報を記入)

参考:住所変更があったときの記載様式│法務局

【登記申請書の記載事項(住所変更の例)】

登記申請書


登記の目的 〇番所有権登記名義人氏名変更
登記の原因 令和〇年〇月〇日氏名変更
変更後の事項 法務 太郎

申請人
   法務 太郎 印
   〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
   連絡先電話番号:0000ー0000―0000


添付書類

   登記原因証明情報

令和〇年〇月〇日申請 〇〇法務局〇〇支局

不動産の表示
(以下省略。登記事項証明書に記載の情報を記入)

参考:氏名変更があったときの記載様式│法務局

変更登記の申請にかかる費用

住所変更登記、氏名変更登記のどちらであっても、申請手数料にあたる登録免許税として不動産1個あたり1000円かかります。戸建てと土地のセットや、マンションの部屋と敷地権のセットであれば、2個と数えて2000円です。そのほか、郵送申請の場合は、管轄法務局までの郵便料金もかかります。

職権による住所変更登記なども導入予定

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住所変更登記などをスムーズに行うための制度として、登記官の職権による登記も導入される予定です。市区町村の住基ネットなどに定期照会をかけ、その情報に変更があれば、原則として所有者の同意のもとで職権による登記を行ってくれる制度です。本制度では、自然人(個人)と法人の場合で扱いに若干の違いがあります。

自然人(個人)が所有する不動産の取扱い

自然人(個人)が所有する不動産については、住基ネットへの定期照会だけではなく、施行後新しく不動産の所有権を得た人に対して事前情報の提供が義務付けられる予定です。これらのしくみを元に法務局が照会をかけ、変更があれば法務局のシステム内部に登録されます。

もっとも、法務局のシステムに変更情報が登録されただけでは、変更登記が完了した扱いとはなりません。その後、登記官から所有者に「変更登記しても良いか」と確認する連絡が来て、了承すれば登記されるしくみです。これは、何らかの被害により住民基本台帳の閲覧制限をしている人に対する配慮を踏まえた方法です。

法人が所有する不動産の取扱い

法人名義で所有する不動産は、商業登記・法人登記のシステムから不動産登記のシステムへ変更情報を通知し、取得した情報に基づいて職権登記が行われる予定です。この際、自然人(個人)のときのような意思確認は行われません。もとより法人は登記によって公の人格であると考えられるためです。

変更登記前の不動産の相続は司法書士に相談を

旧姓・旧住所のまま登記されている不動産の相続は、家族にとって悩みの種です。調査から漏れる可能性が高く、名義変更が完了するまでに余分な手続(生前行うはずだった変更登記)も含まれるためです。手続を進めているうちに、入居者や親族との間でトラブルにならないとも限りません。

相続登記の義務化の前でも、不動産の相続は司法書士に相談することをおすすめします。特に、変更登記をしていない土地・建物については、登記の専門家によって、適切な調査・手続を個別に判断してもらうのが確実です。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

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