仮登記付きの不動産とは?相続するときの手続方法

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仮登記とは?仮登記付きの不動産の対処法

土地や建物を相続すると、登記簿の写しである登記事項証明書を取得し、権利の状況を確認する必要があります。このとき、名義変更などの権利の変更歴を示す権利部の欄に「仮登記」と入っている場合があります。

仮登記付きの不動産は、法律上、仮登記の前の登記名義人の所有とされます。被相続人が買った土地に仮登記を入れている場合なら、法律上の権利はまだ売主にある状態です。このままだと、仮登記を抹消もしくは本登記するまでは、相続人の所有する不動産として扱う条件が調いません。

不動産の仮登記とは

仮登記とは、何らかの理由で本登記できる要件が揃わないときに、登記の順位を確保するための手続です。不動産の名義変更(所有権移転登記)をしたい場合を例にすると、書類が揃わないなどの理由で法務局での申請ができなければ、ひとまず仮登記を申請することがあります。申請すれば、その後に占有者や第三者の登記があったとしても、本登記した段階で「先に自分の名義になっていた」と主張できるようになります。

相続したときの仮登記の取扱い

仮登記のある不動産を相続したときは、いったん相続登記してから仮登記を抹消することで、名義変更が完了します。先に相続登記しなければならないのは、仮登記名義人の協力が得られない場合、相続登記によって所有権を得ないと仮登記抹消に関われないからです。

ここで、例を挙げてみましょう。

債権者による仮登記が入っていた場合

  • 1番所有権移転登記:Aさん(被相続人)
  • 2番所有権移転仮登記:Bさん(債権者)

Aさんの相続人はいったん相続登記の仮登記を行い、Bさんと債務履行について協議します。弁済などしてBさんと合意できたときは、Aさんの相続人とBさんで仮登記の抹消を行います。

もっとも、仮登記名義人から相続で取得した場合は、その仮登記を本登記してから相続登記する方法もあります。下記はその例です。

仮登記名義人が死亡した場合

  • 1番所有権移転登記:Cさん(祖父)
  • 2番所有権移転仮登記:Dさん(Cの子)

Dさんの相続人は、先にDさんの相続登記の仮登記について本登記を行い、あとで相続登記して自分の名義にするのが一般的です。もっとも、先に相続登記の仮登記を行い、Dさん・Dさんの相続人の順に本登記を繰り返す方法をとることもあります。

抹消が必要な仮登記をそのままにするデメリット

仮登記のなかには、本登記するものと、抹消しなければならないものがあります。抹消する必要のある登記をそのままにしておくと、本登記され、仮登記名義人のものになってしまいます。こうなると、せっかく相続した土地・建物について、自分の権利を行使できなくなる恐れがあります。

仮登記を抹消する必要がある例

  • 被相続人が口約束で売却し、結局取引しないまま仮登記が入っている
  • 担保として債権者が仮登記し、弁済しているのに抹消されていない

相続した不動産の仮登記を抹消するには

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相続した不動産の仮登記は、相続登記で名義変更をしても、放っておくと「あとから知らない第三者に権利を主張される」「債権者に取られる」などのリスクがあります。こうした危険をなくすには、仮登記を抹消するほかありません。それでは、どうすれば良いのでしょうか。

本来なら亡所有者と仮登記名義人で抹消する

本来なら、仮登記は「もともと所有権を有していた人」と「その次に仮登記を入れた人」が一緒に申請するのが原則です。不動産の所有者が存命であれば、その本人と仮登記名義人で話し合い、仮登記名義人が納得できる内容で合意できたら「抹消承諾書」を交わします。この書面を使って、仮登記抹消の登記申請を行います。

相続した場合は相続人と仮登記名義人で抹消する

相続してから初めて不動産に仮登記がついていることがわかった場合は、相続人と仮登記名義人で申請できます。相続人は、不動産の所有者の地位を引き継いでおり、本人の代わりに承諾を取って抹消できるのです。仮登記名義人から抹消承諾書と印鑑登録証明書の提供があれば、相続人単独での手続が可能です。

不動産の仮登記の種類と具体例

不動産の登記簿に記載される仮登記には、1号仮登記と2号仮登記があります。1号仮登記は残すところ必要書類だけという比較的単純なケースですが、2号仮登記は法律上何らかの要件が満たされなかった状況で行われます。

2号仮登記に当てはまるケースでは、相続登記で名義変更しようにも、債務や許可などの負担が問題です。そのため、手続が複雑になったり、場合によっては相続放棄を検討しなければならないこともあります。

1号仮登記(所有権移転仮登記)

売買契約・贈与・相続などの効果は生じていて、所有権移転登記の手続の条件が揃わない状態で行う仮登記は、一般に「1号仮登記」と言います。登記識別情報や契約書など、必要書類に不足が生じたままになっているケースが当てはまります。

1号仮登記の例(仮登記の本登記が必要)

父が購入した土地を所有権移転登記し、父から成人した子に贈与して仮登記したまま、子が亡くなって孫が相続することになった。

2号仮登記(所有権移転請求権仮登記)

売買契約・贈与・債務不履行時の担保などとして約束は交わしたものの、実際に効果が生じていない状態の仮登記は、一般に「2号仮登記」と言います。買主が代金を払っていないときや、必要な行政の許可が下りていないときが当てはまります。2号仮登記の例は、2つ挙げてみましょう。

2号仮登記の例(仮登記抹消が必要)

亡父が親戚からお金を借りる際、完済できないときの担保として土地を譲る旨の契約を交わし、債権者である親戚が所有権移転請求権仮登記を申請していた。

2号仮登記の例(仮登記の本登記が必要)

畑作を行っていた親戚から父が営農を引き継いだが、耕作面積などの要件のせいで農地法3条に基づく許可が下りず、売買成立後も所有権移転登記の本登記はできなかった。そこで条件付所有権移転の仮登記を行ったが、許可が下りるのを待たずして亡くなった。

仮登記付き不動産を相続したときの手続方法

仮登記付きの土地や建物を相続したケースでは、原則として、まずは仮登記を相続人に移転させてから抹消または本登記しなければなりません。そのあと、通常の相続登記を申請し、名義変更を完了させる手順になります。農地法などの許可が下りずに仮登記のままとなったケースでも、おおむね同じです。

まずは仮登記移転の登記をする

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仮登記付きの不動産の所有者が亡くなったときは、基本的に、仮登記移転の登記から始めます。登記申請先は不動産の所在地を管轄する法務局です。必要書類は、通常の相続登記の本登記とおおむね同じです。

仮登記移転の登記の必要書類

  • 登記申請書
  • 遺言書または遺産分割協議書
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人の現在の戸籍謄本
  • 仮登記の移転を得る人の住民票
  • 印鑑登録証明書(遺産分割協議書を添付する場合)

※これまで戸籍謄本は本籍地役場で取得する必要があったところ、令和6年3月1日より最寄りの役場で戸籍証明書を取得できるようになりました。

仮登記名義人の協力を得る

不動産の所有者から相続し、相続と関係のない第三者が仮登記名義人である場合、話し合って仮登記抹消に協力してもらう必要があります。このとき、1号仮登記であれば、契約書を再交付してもらうなど、本登記に必要な事務手続に協力してもらうだけで構いません。

一方の2号仮登記では、債権者・抵当権者・買戻しの特約などを行っていた取引の相手方が仮登記名義人となります。基本的には、抹消に協力してもらうため、債務弁済を行っていくことになるでしょう。

なお、抹消すべき仮登記が古いケースでは、仮登記名義人と連絡がつかないことが多く、裁判して抹消命令の判決を得てから手続することもあります。

仮登記の抹消もしくは本登記を申請する

仮登記名義人の協力が得られたときは、相続登記で所有者となった人が登記申請書などを用意し、改めて法務局で抹消登記を申請します。登記が完了すれば、思わぬ不利益を被る可能性がなくなります。

祖父母から親への生前贈与による仮登記など、前回の相続が仮のままとなっている場合では「抹消してから数次相続による登記」もしくは「前回の登記原因証明書を準備した上での本登記」を検討します。

相続登記を申請して名義変更を完了させる

仮登記の抹消もしくは本登記が完了した段階で、亡くなった人から今回の相続で取得した人への名義変更ができるようになります。この手続は、仮登記のない通常のケースでも行う相続登記と呼ばれるもので構いません。登記申請書や戸籍関係書類、遺言書や遺産分割協議書などを用意し、管轄の法務局に提出します。

農地法の許可が下りていない土地を相続する場合

2号仮登記の例のなかでも、農地法に基づく許可が下りないまま相続した不動産の場合は、許可を条件とする「条件付所有権移転仮登記」がなされています。このときの扱いは、相続開始時点での許可の有無によって変わります。

農地法の許可が下りないまま相続が開始した場合

まずは条件付所有権移転登記の移転登記から始め、被相続人(元の仮登記名義人)に農地を譲った人へ許可申請の協力を求めます。協力を得て許可が下りると本登記に移り、そのあとに相続登記を行います。

農地法の許可が下りてから相続が開始した場合

最初に行うのは、被相続人の手元にある許可書に基づく、条件付所有権移転登記の本登記です。その後は通常の相続登記を行えば、手続は完了です。

仮登記抹消のための必要書類と費用

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仮登記を抹消する必要のあるケースでは、手続のため、仮登記名義人や登記上の利害関係人の協力を得て書類を集める必要があります。そのほか、登録免許税もかかります。

仮登記抹消のための必要書類

仮登記抹消のための必要書類は、仮登記名義人と登記上の利害関係人が中心となって揃えます。仮登記の移転登記をした相続人が申請人となる場合を考えると、集める必要があるのは、下記の一式です。

  • 登記申請書
  • 登記識別情報または登記済証+印鑑登録証明書(仮登記名義人が提供)
  • 登記上の利害関係人の承諾書またはこれに代わる裁判の決定書
  • 登記原因証明情報(完済証明書など)
  • 委任状(仮登記名義人が提供)

仮登記抹消にかかる費用

仮登記抹消にかかる費用は、郵送費や関係者との連絡費用のほか、登録免許税として不動産1個あたり1000円かかります。土地と建物であれば2個と考え、2000円必要です。

仮登記付き不動産の相続は手続が複雑になる

仮登記付きの不動産の相続は、相続人に移転させてから本登記もしくは抹消を行い、相続登記を行う必要があります。一般的な土地・建物の承継と比べて、名義変更までの道のりは長いと言わざるを得ません。手続が複雑になる上、状況によっては、第三者である仮登記名義人との話し合いも必要です。

登記事項証明書に「仮登記」との表記があれば、その段階で司法書士に確認を取ると良いでしょう。権利がどうなっているかきちんと見極めることで、最低限、この先どんな手続が必要なのか順に理解できるようになります。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

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