不動産の名義変更は法務局で出来る?よくある疑問と利用できる制度

法務局で不動産の名義変更するための方法や手続書類を紹介_サムネイル

不動産の名義変更は法務局で手続する

相続した不動産の名義変更(相続登記)は、必要書類と登記申請の方法さえわかっていれば、法務局(登記所)の窓口で自ら申請できます。司法書士などの有資格者しか手続できないわけではないため、専門家報酬を負担せずに済む場合が多々あります。

相続登記の申請は管轄の法務局の窓口で行うのが確実ですが、遠方に住んでいる場合は、書類を郵送する方法でも構いません。さらに、不動産の名義変更に関する情報は、次のように集められます。

必要書類・手続方法は法務局公式サイトで確認

法務局公式サイトでは、土地や建物を相続した場合の登記申請の方法について、状況別にわかりやすいPDFファイル方式のハンドブックを用意しています。必要書類の集め方から登記申請まで、順を追って確認できます。

登記申請の方法に関する相談も可能

不動産を相続する状況は人それぞれであり、必ずしも法務局の案内通りに進むとは限りません。相続人の数が多かったり、複数回の登記申請を行わないと名義変更が完了しなかったりする場合もあります。困ったときは、公式サイトで予約すれば、名義変更の手続について電話相談できます

手続に関係して、遺言書の謄本を取得する「自筆証書遺言保管制度」や、相続手続全体を通して戸籍謄本収集を減らす「法定相続情報証明制度」などの相談も、法務局で行えます。法務局が窓口となって受け付ける手続なら、どんなことでも相談可能です。

名義変更の申請先は所在地管轄の窓口

不動産の名義変更手続は、不動産の所在地を管轄する地方法務局で行います。受付時間の問い合わせや、そのほかの簡単な質問は、登記申請を行う上記の窓口で電話相談すると良いでしょう。

気を付けたいのは、管轄外の法務局での手続はできない点です。土地などの所在地から遠く離れた距離に住む場合は、現地窓口まで行くか、書類を郵送するかのいずれかの方法になります。手続に関する電話での相談も、最寄りの法務局ではなく、申請先で行うと良いでしょう。

法務局で取得できる書類とできない書類

不動産の名義変更のための書類が取得できる場所_イメージ

不動産の名義変更(相続登記)にあたっては、自分で作成する登記申請書や、添付情報と呼ばれる複数の公的書類が必要です。法務局で取得できる書類とできない書類、それぞれの取得先をあらかじめ整理しておくと良いでしょう。

法務局の窓口で取得するもの

相続登記のため法務局で取得する書類は、少なくとも登記申請書と登記事項証明書の2種類です。各書類の詳細は次の通りです。

登記申請書

法務局公式サイトなどで記載例および書式が配布されており、ダウンロード・印刷して必要事項を記入します。管轄法務局の窓口で印刷済のものをもらうことも可能です。

登記事項証明書

登記申請書に記載する不動産の表示を確認するために使用します。地番や家屋番号がわかっていれば、法務局窓口や郵送のほか、オンライン請求も利用可能です。請求の際、身分証明書を提出する必要はありません。

遺言書情報証明書

自筆証書遺言が法務局で保管されている場合、登記申請書に添付するため、先に請求する必要があります。

認証文が付された法定相続情報一覧図

戸籍謄本一式の請求回数を減らしたい場合、その代わりになる法定相続情報一覧図を先に法務局で請求します。

法務局以外の窓口で取得するもの

登記申請書・登記事項証明書以外の必要書類は、それぞれの市区町村役場で請求します。請求先ごとに書類を挙げていくと、下記のようになります。

戸籍謄本

被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、各相続人の現在の戸籍謄本などは「各人の本籍地役場」で請求できます。

住民票、印鑑登録証明書

遺言または遺産分割協議によって不動産をもらい受ける人の住民票、印鑑登録証明書(遺産分割協議を行った場合)は各人の「居住地の市区町村役場」で請求します。

固定資産評価証明書

土地や建物など、固定資産税の課税対象となる資産の評価額を証明する固定資産評価証明書は、「不動産所在地の市区町村役場」で請求できます。

遺言書や遺産分割協議書の作成・取得について

不動産の名義変更を法務局で行おうとすると、権利の変更についての証明として、遺言書または遺産分割協議書を求められます。遺言書であれば、家庭裁判所で検認が済んだ遺言書の原本か、公証役場で入手した公正証書遺言の謄本を用意しなければなりません。遺産分割協議で名義変更する場合は、合意した内容を自分たちで書面にして提出する必要があります。

なお、遺言書で手続する場合、制度によって原本が法務局で保管されている場合があります。当てはまるときは、先に窓口で謄本(写し)を取得し、名義変更手続を開始します。制度の詳細はこのあと詳しく紹介します。

法務局で利用できる不動産の名義変更関係の制度

法務局で利用できる不動産の名義変更関係の制度_イメージ

土地や建物の名義変更(相続登記)のための手続では、同じく法務局が受付窓口となる各制度を活用できます。制度の大まかな内容とメリットを理解しておけば、登記申請を含む相続手続を簡略化するヒントになります。

自筆証書遺言保管制度

生前に手書きで作成する方式の「自筆証書遺言」は、令和2年7月以降、法務局に保管してもらえる制度があります。

亡くなった人が制度を利用していた場合、相続登記の申請より前に遺言書情報証明書を請求しましょう。登記の手続では、上記の証明書を提出すれば問題ありません。制度の具体的なメリットとして、次のようなものがあります。

全国どこでも遺言に関する証明書が手に入る

自宅などで保管されていた遺言書で登記申請するには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で検認を申し立て、証明書を入手しなければなりません。対して、自筆証書遺言保管制度を利用していた場合、検認は不要であり、証明書も全国の法務局で請求可能です。

遺産分割のやり直しが発生しにくい

自宅などで保管されていた遺言書は、無効になり、遺産分割や登記申請をやり直す羽目になるリスクがあります。保管制度を利用した自筆証書遺言は、少なくとも作り直された疑いが生じにくく、上記の失敗も起きにくいと言えます。

法定相続情報証明制度

登記申請で相続関係を証明するために必要な戸籍謄本は、銀行などで行うほかの手続で何度も必要になります。この手間を省くものとして法務局で利用できるのが、法定相続情報証明制度です。

制度では、ひと揃いの戸籍謄本と自分で作成した法定相続情報一覧図を提出することで、図面に認証文を付して何枚でも交付してもらうことができます。そのメリットは、下記で説明する通りです。

戸籍謄本一式に代わる証明書として利用できる

認証文が付された法定相続情報一覧図は、相続で必要になる手続の多くで、親子・配偶者などの相続関係を証明するための戸籍謄本に代わる書類として活用できます。相続登記の申請も、上記の図面が使える手続の1つです。

無料で何枚でも請求でき、書類収集の手間が省ける

制度により交付される図面は、必要なだけ何枚でも無料で請求できます。1枚ごとに戸籍謄本一式と同じ役割を果たすため、謄本交付手数料の節約と手間の削減に繋がります。法務局・銀行・証券会社など提出先が多数に及ぶ場合では、特に恩恵が大きいと言えます。

相続土地国庫帰属制度

相続土地国庫帰属制度_イメージ

建物のない土地を相続した場合、収益がないのに固定資産税ばかりかかり続けるなど、かえって負担になることがあります。登記申請の面倒さもあいまって、名義変更されないまま放置される土地が少なくありません。

上記の問題を受け、令和6年4月1日の相続登記の義務化に先立って、土地を一定の条件つきで国が引き取ってくれる相続土地国庫帰属制度が始まっています。受付は法務局で行っており、必要書類の一部(公図など)も各地の法務局で取り扱う場合があります。主なメリットとしては、次のようなものがあります。

1筆単位で引き取ってもらえる

要らない土地のせいで相続の利益がマイナスになる場合、相続放棄して自宅や預貯金などのプラスの財産ごと手放すのが従来の方法でした。制度を活用すれば、ほかの財産は登記や払戻しによって受け取りながら、土地1筆単位で引き取ってもらえます。

土地管理の手間がなくなる

亡くなった人の土地は相続人が管理していく義務を負い、放棄したとしても相続財産管理人が選任されるまでは負担を逃れられません。申請、審査が済めば土地が国庫に帰属する本制度は、管理の手間を大幅に減らしてくれます。

不動産の名義変更をしないとどうなる?

法務局で行う名義変更(相続登記)は、非常に手間がかかる手続です。名義変更しなくても相続人自身で利用する上では直接の影響がないため、申請しない人もたくさんいるのは事実です。

そうは言っても、必要な手続をしないと、遅かれ早かれトラブルに発展するのが現実です。亡くなった人が名義人となっていることで、以下のような困った事態を招くのです。

売却・活用・担保としての利用が難しくなる

相続登記によって登記簿上の名義人を変えないままだと、自己の居住用としては不要になっても、売却や賃貸経営などといった第三者との取引を行えません。不動産を担保するローンも、債権回収に備えて設定される抵当権の登記ができないため、契約を断られてしまいます。

10万円以下の過料に科せられる恐れがある

先で触れた相続登記の義務化は罰則付きです。相続開始から3年以内に登記しない場合、10万円以下の過料に処されます。手続しないまま自宅として利用しているあいだ、忘れた頃に上記罰則に処され、慌てることになるかもしれません。

土地の名義変更は法務局に行けば自力でできる?

土地の名義変更(相続登記)のやり方は法務局で詳しい案内があり、行けば自力で申請できる手続です。そうは言っても、自分で手続を完結させられるのは、次の所有者の判断や書類収集にあたって、一定の条件をクリアできる場合に限られます。最低限、次のポイントはチェックしておきたいところです。

  • 将来のリスクに繋がらない不動産の分割方法を判断できるか?
  • (有効な遺言書がない場合)遺産分割協議書を作成できるか?
  • 体調や予定を考慮して、各相続人の都合がつきそうか?

相続した状況に特別な要素があるときは、自分で適切な判断ができるか考えてみる必要がますますあるでしょう。登記申請の難しさに関わる要素、状況として、次のようなものが挙げられます。

  • 前回の相続登記が終わっていない
  • 土地の分筆・合筆も一緒に登記したい
  • 新築してから登記されていない建物がある
  • 相続人の数が多く、連絡だけでも手間がかかりすぎる
  • 相続人に未成年者や障がい者がいて、特別代理人が必要

※親子揃って相続人になるケースなど、未成年者あるいは成年後見人の法定代理人も一緒に相続人となる場合には、司法書士や遠縁の親類に「特別代理人」として手続に参加してもらいます。

上記のような場合には、法務局に直接行っても、担当者によって回答が変わるなど、手続方法について的確なアドバイスが得られない可能性があります。相談先として適切なのは司法書士で、申請人目線で必要な情報を集めながら支援してもらえます。

土地の名義変更をする際の注意点

亡くなった人の土地について名義変更手続が完了した場合、税金や別途必要な手続に注意したいところです。以下で説明するポイントは、法務局では質問しないと教えてくれない可能性が大きく、司法書士に相談しない場合は見落としがちです。

相続税もしくは贈与税の申告をする

相続登記を完了させると、登記名義人が得た権利の割合および価格に応じ、相続税または贈与税の申告が必要です。問題は、資産の性質上、課税額が高額となる恐れがある点です。税額の軽減がある配偶者が単独でもらい受ける、小規模宅地などの特例を利用するなど、登記申請の手続の前から対策が必要です。

農地は農業委員会にも届け出る

農地の名義変更を登記申請で行う場合は、同時に、農業委員会への届出も必要です。届出期限は相続を知ったときから10か月以内とされており、相続税の申告時期と同じです。もらい受ける土地の地目、性質に応じて、名義変更に伴うほかの手続が必要となるケースの代表例です。

不動産の名義変更は司法書士へ相談を

不動産の名義変更(相続登記)は、法務局で相続登記を申請するだけです。必要書類と手続のやり方から丁寧な案内であり、特別な事情がないケースでは自力で対応できます。自筆証書遺言保管制度、法定相続情報証明制度など、手続の負担を軽くするための制度も積極的に活用すると良いでしょう。

実際には「管轄の法務局から離れたところに住んでいる」や「相続人が高齢のため対応が難しい」などの事情で、司法書士に相談、依頼する場合が多数あります。相談先が司法書士であれば、土地・建物の利用状況や課税関係から考え、登記申請に留まらない適切な案内ができるのも利点です。法務局だけでなく、司法書士の無料相談も活用しておくと、今後の手続で安心できるでしょう。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

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