不動産を相続したときに必要な登記申請書の書き方・注意点

不動産を相続したときに必要な登記申請書の書き方・注意点_サムネイル

不動産を相続したときの登記申請書とは

亡くなった人の不動産を取得したときは、名義変更のため相続登記が必要です。登記にあたっては、状況に応じて所定の項目を記入した申請書を提出しなければなりません。登記申請書に記載する内容はケースバイケースですが、まず押さえておきたいのは、書式の場所や書類収集の順番です。

登記申請書の様式はどこで取得するのか

不動産を相続した際の登記申請書は、法務局公式サイトで配布されています。窓口に直接用紙を取りに行っても問題ありませんが、パソコンまたはスマートフォンとプリンターがあれば、ダウンロードして印刷するのが効率的です。

登記申請書作成の前に添付書類を用意しておく

登記申請書に書く内容は、戸籍関係書類などの添付書類で証明する必要があります。書類提出後添付書類と登記申請書の内容が異なっていた場合、補正(書類の修正または不足分の提出)が入り、登記完了日が延期されます。

以上のような理由から、登記申請書をいきなり書き始めるのではなく、先に添付書類を用意しておくと良いでしょう。

作成前に用意しておきたい書類

登記申請書に添付するのは、大別して登記原因証明情報・住所証明情報・代理権限証書と呼ばれる3種類の書類です。具体的な書類名称は、下記の通りとなります。

登記原因証明情報(以下すべて)

  • 遺言書または遺産分割協議書
  • 被相続人の死亡から出生までのすべての戸籍謄本
  • 相続人全員分の現在の戸籍謄本
  • 相続人全員分の印鑑登録証明書

住所証明情報(以下すべて)

  • 被相続人の住民票除票の写し、もしくは戸籍附票
  • 不動産を取得する人(相続人または受遺者)の住民票の写し

代理権限証書(以下いずれか)

  • 各相続人から司法書士に代理権限を委ねる旨の委任状
  • 共同相続人から相続人に代理権限を委ねる旨の委任状

※遺産分割協議書を添付する場合に必要(協議書に使用した実印に関するものを用意する)

上記以外にも、申請書に添付するものとは定められていないものの、記載内容を確認するために「登記事項証明書」と「固定資産評価証明書」が必要です。登記事項証明書は各地の法務局で、固定資産評価証明書は不動産の所在地の市区町村役場で取得可能です。

登記申請書の書き方

登記申請書には、不動産の登記名義人の変更に関する事項のほか、証明情報として添付するものや名義変更の対象となる不動産の情報を明記する必要があります。法務局で書式を取得したら、上から順に以下7項目を記入していきましょう。

【登記申請書の見本】

登記申請書の見本_イメージ

引用:所有権移転登記申請書(相続・法定相続)|法務局

1.登記の目的

不動産の相続に伴う登記申請には、登記の目的として「所有権移転」と記載します。所有権移転とは、名義人が変わることを意味し、売買・贈与などのほかの理由で不動産の所有者が変わるときにも同じように記載する内容です。

2.登記の原因

所有者が亡くなることで不動産の権利が移転することから、登記申請書には、登記の原因として「令和〇年〇月〇日相続」とのように記載します。併記する日付は相続開始日(所有者の死亡日)であり、権利がいつ移転したのか明らかにするために必須です。

3.被相続人および不動産を取得した人の情報

不動産の名義変更のための登記申請書には、被相続人の氏名とあわせて、相続人などの不動産を取得した人の氏名および住所が必要です。

共同相続人のうちの1人が不動産を単独で取得する場合

相続人(被相続人 法務太郎)

○○市○○町○○丁目
法務一郎 (印)

4.添付情報

登記申請書には添付する書類についても記載する必要があるものの、個別の書類名称を記載する必要はありません。原則として「何を証明するものか」を表す、次の2点もしくは3点を記載します。括弧内に記載するのは、書類の具体的な名称です。

  • 登記原因証明情報(遺言書または遺産分割協議書+戸籍関係書類)
  • 住所証明情報(相続人の住民票の写し)
  • 代理権限証書(委任状)

※司法書士もしくは相続人の代表者が申請者となる場合に必要。

5.登記識別情報の通知

登記識別情報とは、権利移転に伴う登記が完了した際に、不動産の所有者であることを証明する情報として発行されるものです。発行された通知書を受け取るか否かは任意とされますが、基本的に受け取っておくようにしましょう。法務局が交付する書式を使うなら、間違って「登記識別情報の通知を希望しません」にチェックを入れないように注意する必要があります。

6.登記申請日・管轄法務局

6.登記申請日・管轄法務局_イメージ

登記の目的に書く相続開始日とは別に、登記申請書を提出する日付(登記申請日)の記載が必要です。加えて、登記申請書を提出することになる、不動産の所在地を管轄する法務局・登記所の名称も記載します。

7.課税価格・登録免許税

相続登記では、申請手数料にあたる登録免許税の課税があります。そこで、税額計算の基礎となる固定資産税評価額を課税価格として記載し、課税価格につき税率0.4%(原則)で計算した登録免許税の税額を併記しなければなりません。

8.不動産の表示

相続する不動産を特定するための情報は、法務局の記載例に沿い、上記1から7までの情報の下に記入します。このとき、記入する必要があるのは「登記事項証明書にある不動産の表示」であり、郵便物を配達してもらう際の住所ではない点に注意しましょう。土地と建物を相続するケースでは、それぞれについて、次の表示が必要です。

  • 土地:所在・地番・地目・地積
  • 建物:所在・家屋番号・種類・構造・床面積

ケース別・登記申請書作成のポイント

不動産の相続に伴って登記申請書を作成する際は、状況ごとに用意する添付書類に注意しましょう。添付書類に誤りや不備があると、登記申請書を正しく作成していても、補正の連絡が来る可能性があります。

遺言で相続するケース

遺言で相続するケースでは、登記申請書の記載項目は先に説明した内容の通りで構いません。注意する必要があるのは「添付する遺言書の取扱い」です。

前提として、亡くなった人の自宅や貸金庫などで保管されていた遺言書の場合、発見者の自己判断で開封するのは厳禁です。未開封のまま家庭裁判所に持ち込んで「検認」を行い、開封と共に検認済証明書を交付してもらう必要があります。登記申請書に開封済の遺言書を添付する際も、上記証明書とあわせて提出しなければなりません。

検認済証明書と一緒に提出する必要のある遺言書の種類

  • 自筆証書遺言(自宅などで保管されていたもの)
  • 秘密証書遺言(公証役場で封印の上、自宅などで保管されていたもの)

なお、遺言方式や保管方法によっては、遺言書の添付を省けます。該当するのは次の遺言書です。それぞれ公的記録として遺言書および遺言の内容が証明されているため、改めて登記申請書に添付する必要はないと考えます。

登記申請書への添付が不要となる遺言書の種類

  • 自筆証書遺言(法務局の保管制度を利用していたもの)
  • 公正証書遺言(公証役場で公証人が作成したもの)

遺産分割協議で相続するケース

遺産分割協議で相続するケース_イメージ

不動産を遺産分割協議で相続するケースでは、遺産分割協議書の作成不備に注意しなければなりません。この場合の前提は、相続権を有する人(法定相続人)全員が協議に参加しないと、遺産分割が無効になる点です。

たとえば、亡くなった人の配偶者が単独で自宅を取得するケースでは、子を含む全員で遺産分割協議書に署名押印しなければなりません。ほかに相続人がいるにもかかわらず不動産を取得する人しか署名押印していない遺産分割協議書を提出したり、使用した実印について全員分の印鑑登録証明書が揃っていなかったりすると、補正や、協議自体のやりなおしが発生します。

遺贈で不動産を取得するケース

遺言書に「贈与する」と記載され、相続人でない人などが不動産を取得する「遺贈」のケースでは、どのように対応すればよいのでしょうか。遺贈では、先に説明した遺言書の取扱いに関する注意点のほかに、登記申請書の当事者の書き方にもポイントがあります。所有権移転の理由が「贈与」になり、贈与を受けた人(受遺者)による単独申請が可能となります。

上記の取扱いを受け、申請書の各項目につき、下記のように記載しなければなりません。

登記の原因

  • 相続・遺産分割の場合:「令和〇年〇月〇日相続」
  • 遺贈の場合:「令和〇年〇月〇日遺贈」

当事者の情報

  • 相続・遺産分割の場合:「被相続人」、「相続人」、「申請人」の情報をそれぞれ記載
  • 遺贈の場合:「登記権利者」および「申請人」として受遺者の情報、次の「登記義務者」に被相続人の情報をそれぞれ記載

※受遺者とは、遺言で贈与を受けた人(ここでは不動産を取得した人)を指します。

法定相続するケース

有効な遺言書がなく、遺産分割が何らかの事情で完了しない場合は、法定相続による登記申請が必要です。遺産分割が進まないまま登記や税申告の期限が迫ってきたり、一部の相続人と連絡が取れなかったりする場合が該当します。

上記のように法定相続で登記申請書を作成するときは、本記事で説明した方法でおおむね問題ありません。注意すべきなのは、相続人の情報に共有持分を併記しなければならない点です。法律上、遺産分割協議が成立しない限り、各人の法定相続分に応じて不動産が共有となるためです。

配偶者と子2人の計3人で法定相続による登記を行う場合の記載例

相続人(被相続人 法務太郎)

○○市○○町○○丁目
持分2分の1 法務花子 (印)

○○市○○町○○丁目
持分4分の1 法務一郎 (印)

○○市○○町○○丁目
持分4分の1 法務二郎 (印)

※登記の目的・原因その他の項目は省略

作成した登記申請書の提出に関するポイント

作成した登記申請書の提出に関するポイント_イメージ

不動産を相続したときの登記申請書は、作成方法だけでなく、訂正や提出方法にも注意を払う必要があります。基本的には、次のポイントを押さえておくと良いでしょう。

原本還付のための必要書類

登記申請書に添付する戸籍関係書類、住民票の写し、印鑑登録証明書は、相続手続全体を通して何度も必要になる書類です。不動産の相続登記では、下記の書類を用意することで、提出した上記書類の原本還付に対応してもらえます。還付された原本は、預金の払戻しなどのほかの手続で請求された際に再利用でき、書類の再交付にかかる手数料を節約できます。

原本還付のための必要書類

  • 戸籍関係書類:相続関係説明図(自作する必要あり)
  • 住民票の写し・印鑑登録証明書:各原本のコピー

相続登記に必要な書類の綴じ方

登記申請書と添付書類の綴じ方に決まった方法はありませんが、各書類がばらけないようにした上で、法務局での確認がスムーズに進む順で並べると良いでしょう。提出書類の審査が早く進み、不備のチェックも速やかに行われます。

登記申請書の取扱い方

2枚以上に及ぶ場合は上から順番に並べ、収入印紙貼付台紙(登録免許税相当額の印紙を貼る紙)を最後のページにしてホチキスでまとめます。大まかには、登記申請書→委任状→原本還付に必要な書類(コピー類)→各種原本の順に並べて封筒に入れます。

書類の並べ方(1枚目から順に)

  1. 登記申請書+収入印紙貼付台紙
  2. 委任状
  3. 相続関係説明図
  4. 【コピー】遺言書または遺産分割協議書
  5. 【コピー】印鑑登録証明書(添付する場合)
  6. 【コピー】被相続人の住民票の除票または戸籍附票
  7. 【コピー】不動産を取得した人の住民票の写し
  8. 【コピー】固定資産評価証明書(添付する場合)
  9. 【原本】戸籍関係書類(被相続人→相続人の順)
  10. 【原本】遺言書または遺産分割協議書
  11. 【原本】印鑑登録証明書(添付する場合)
  12. 【原本】被相続人の住民票の除票または戸籍附票
  13. 【原本】不動産を取得した人の住民票の写し
  14. 【原本】固定資産評価証明書

登記申請書の訂正方法

登記申請書に誤りがある場合の訂正は、二重線を引き、登記申請書に使用する印鑑と同じもので押印して行います。その上に訂正後の内容を記入しましょう。なお、申請書の各箇所に使用する印鑑は、訂正印を含め、認印で問題ありません。

登記申請書の3つの提出方法

登記申請書の3つの提出方法_イメージ

登記申請書の提出は、郵送・窓口のほかにオンライン提出も選べます。オンライン申請は、電子証明書の準備などを含む事前準備や、電子文書の交付に未対応の戸籍関係書類について紙の書類の提出が必要となる点を踏まえ、相続登記で申請されるケースは少数です。

特殊な相続事例での登記申請書

相続の状況が特殊なケースでは、添付書類を含め、登記申請書の作成方法が異なります。対応に悩む場合としてよくあるものを取り上げ、取得できない書類などについてどのように取り扱うのか確認してみましょう。

数次相続による登記申請の場合

前回の相続登記が終わらないまま今回の相続が始まった場合、今回の登記申請のみで不動産の名義変更が完了させることを中間省略登記といいます。これには一定の条件が必要ですが、当てはまる場合は登記の原因につき、下の例のように前回と今回の情報を併記します。

2回分の相続登記を中間省略登記の1回で行う場合

平成〇年〇月〇日 法務太郎 相続
令和〇年〇月〇日 相続

相続放棄があった場合

相続放棄の申述によって相続権を失った人がいるケースでは、登記原因証明情報として、戸籍関係書類に加えて「相続放棄申述受理証明書」を追加で提出します。上記の手続が家庭裁判所で受理された際に交付される、相続人ではなくなった旨の証明です。

なお、相続放棄申述受理証明書を添付した分の相続人は、遺産分割協議書に署名押印する必要がなく、印鑑登録証明書の添付も不要です。

相続人が外国籍または海外居住者の場合

相続人が外国籍または海外居住者の場合、添付書類のうち市区町村役場で交付されるものの一部または全部が取得できません。代替として、下記の書類を用意する必要があります。

相続人が外国籍の場合

国内に戸籍簿がないため、その写しにあたる謄本の代わりに、在日領事館や本国の公証役場で作成される宣誓供述書を用意します。

相続人が海外居住者の場合

国内に住民票がない場合は、日本領事館もしくは大使館で発行される、公証人の認証を付した宣誓供述書を提出します。印鑑登録もしていない場合は、上記官公署で発行される署名証明書(サイン証明書)も必要です。

被相続人に関する証明書類が取得できない場合

さまざまな事情で被相続人に関する証明書類が取得できないケースでは、その旨を証明する書類や、相続人自ら作成した上申書で代用できます。

住民票除票・戸籍附票が取得できない場合

住民票除票・戸籍附票が取得できない場合_イメージ

登記簿上の住所地の市区町村役場で「不在籍証明書」あるいは「不在住証明書」を取得し、住民票がない旨を証明することで、登記申請が可能です。

本籍地役場の被災などにより戸籍謄本の取得が難しい場合

被災の影響などで戸籍謄本(主に戸籍法改正前の改製原戸籍など)が滅失している場合は、その旨を市区町村の長に証明してもらうよう申請し、交付された書類で代替可能です。

登記申請書の書き方に悩むときは事前相談がベター

不動産を相続するときに作成する登記申請書は、法務局で配布されている書式・記載例を使用することで、自力でも作成できます。ただし、先に集めるべき添付書類の数が非常に多い点や、前回の相続登記が終わっていないなどの特殊な事情も考えられる点から、想像以上に迷う可能性がないとも言えません。

相続税申告や登記義務化に伴い、期限内に手続を終わらせたいときは、最低限でも事前に司法書士に相談しておくと良いでしょう。適切な書き方についてアドバイスを得たり、対応に手間や知識や要る部分に関して依頼したりすることで、一つひとつ確実に手続を進められるようになります。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

お気軽にご相談ください!

相続・不動産登記ご相談
受付中【無料】