相続登記しない場合の固定資産税は誰が支払うのか?

相続登記しない場合でも固定資産税を支払う必要がある

まずは固定資産税とはどのような税金か、相続登記をしない場合の固定資産税はどうなるのかなどについて、順を追って解説します。固定資産税の納税義務者がどのようにして決まるのかを理解し、誰が固定資産税を支払うことになるのかを知っておきましょう。

固定資産税とは

固定資産税は、土地・建物などの固定資産に対して課せられる地方税のひとつです。毎年4~6月頃、不動産の所有者宛に納税通知書が届き、年4回に分けて納付するか一括で納付を行います。

固定資産税の計算では不動産評価額が用いられ、評価額が高い不動産ほど固定資産税の金額も高くなります

固定資産税の対象となる不動産は、戸建て住宅だけでなくマンションも含まれるので、分譲マンションを所有している場合も固定資産税が発生します。また、マンションの場合も「土地」と「家屋」の両方に固定資産税が課税されます。

固定資産税納税義務は相続人に引き継がれる

固定資産税納税義務者は、その年の1月1日に不動産を所有していた人です。ただし、不動産の所有者が年の途中で亡くなった場合、相続によって納税義務が相続人に引き継がれます。つまり、不動産の所有者が固定資産税を支払う前に亡くなってしまった場合、相続人が納税義務を負うことになります。

そして、相続発生から相続登記が行われるまでの間、法律上において不動産は相続人全員の共有状態となるため、固定資産税の支払い義務は相続人全員の連帯債務となります。

以上の理由から、不動産の所有者が亡くなったあとに相続登記をしていなかったとしても、固定資産税は発生します。

その後、遺産分割協議によって不動産の所有権を取得する人が決まれば、その年以降の固定資産税納税義務は新しい所有者に引き継がれます。

なお、未登記の建物であっても、この結論は変わりません。なぜなら、自治体が建物の存在を認識していれば未登記の建物であっても固定資産税が課税され、相続が起きれば登記済みの建物と同じく相続人に納税義務が引き継がれるからです。

相続登記をしない場合のデメリット

相続登記をしないことには以下のようなデメリットがあります。

  • 相続した不動産を売却もしくは担保にできない
  • ほかの相続人の債権者に不動産を差し押さえられてしまう
  • 登記を放置したことで手続や権利の複雑化に繋がる
  • 相続登記しないと罰則がある

これらのデメリットが具体的にどのような内容か、以下で解説します。

相続した不動産を売却もしくは担保にできない

相続登記されていない不動産は登記簿で所有者を確認できないため、登記されている不動産と比べて取引が難しいというデメリットがあります。なぜなら、買い手からすれば所有者不明の不動産を購入すると二重売買などのリスクがあるので、わざわざ購入しようとは考えないからです。

また、相続登記されていない不動産は担保にできないので、住宅ローンの融資を受けることができません。一般的に住宅ローンを組む場合には、購入する建物を担保として抵当権を設定します。しかし、相続登記されていないと担保にできず抵当権が設定できないので、ほかに担保となる財産がなければ住宅ローン融資を受けることは難しいでしょう。

ほかの相続人の債権者に不動産を差し押さえられてしまう

先ほども触れましたが、相続発生から相続登記が行われるまでの間は、亡くなった方が所有していた不動産は相続人全員の共有状態となります。そのため、ほかの相続人の債権者が、共有持分を差し押さえるといった事態が起こり得るのです。

登記には第三者に対して正当な権利を主張する機能があるため、登記さえしていればほかの相続人の債権者に不動産の所有権を主張できます。しかし、相続登記を行わなければ新しい不動産の所有者が外部に公示されないので、第三者に所有権を対抗できません

このような揉め事を避けるには、できるだけ早い段階で相続登記をしておくことが大事です。

登記を放置したことで手続や権利の複雑化に繋がる

相続登記を長期間放置しておくと新たな相続が発生し、登記を行うまで何世代にもわたってこれが繰り返されることになります。

時間が経って相続人が増えるほど権利関係が複雑になり、相続人を証明する書類を揃えるだけでも大きな手間がかかります。また、疎遠な親族や関係がよくない親族も相続人となる可能性が高くなり、遺産分割協議が進みにくくなります。

相続登記しないと罰則がある

相続登記はこれまで義務ではありませんでしたが、登記が亡くなった方の名義のまま変更されないことで登記簿上の所有者不明土地が多く生まれたため、令和6年4月1日からは相続登記が義務化されました。

義務化後は不動産を取得した相続人は3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。この申請を正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料が科されます。

令和6年4月1日以前に相続した不動産であっても、相続登記されていない場合には義務化の対象になるため、きちんと手続しなければなりません。

固定資産税を支払わずに済む方法・減税方法など

原則として相続登記をしなくても固定資産税の納税義務は発生します。しかし、国が用意している制度を活用すれば、固定資産税の納税を免れたり減税することが可能です。

相続放棄する

相続放棄とは、相続による権利義務の承継を拒否する意思表示のことです。相続放棄をすると相続人としての地位を失うので、亡くなった方から固定資産税納付義務を引き継ぐこともなくなります。

ただし、相続放棄をするとほかの財産を相続する権利もなくなってしまいます。そのため、相続放棄をするうえでは固定資産税などのマイナスの財産だけでなく、プラスとなる財産も加味し、よく検討したうえで決めるようにしましょう。

相続放棄の手続は、ほかの相続人の同意などがなくとも各相続人が単独で行えます。相続開始を知ってから3か月以内という期限があるので、手続が遅れないように注意する必要があります。

相続土地国庫帰属制度を利用する

相続土地国庫帰属制度とは、相続によって土地の所有権を取得した相続人が一定の要件を満たした場合に、土地の所有権を手放して国庫に帰属させられる制度です。

相続土地国庫帰属制度を利用して土地の所有権を手放せば、固定資産税を支払う必要はありません。ただし、相続土地国庫帰属制度を利用するには、10年分の土地管理費相当額にあたる負担金がかかります。負担金は原則20万円ですが、土地の特性によってそれよりも高い金額になる場合もあります。

相続土地国庫帰属制度は土地の相続人が利用できる制度なので、遺言や遺産分割協議で土地の所有者となった場合に利用が可能です。

減税制度を利用する

固定資産税の減税制度はいくつかあります。

たとえば、2024年3月31日までに新築された住宅で一定の要件を満たした場合、固定資産税が1/2になる軽減措置が受けられます。対象となる住宅は床面積が50~280㎡であり、建物のうち居住用部分の床面積の割合が1/2以上ある住宅です。

ほかにも、省エネリフォーム税制などがあります。これは対象となる住宅を省エネ改修工事した際に適用される減税制度であり、省エネ改修工事を行った翌年分の固定資産税額が1/3に減額されます。

減税制度はいくつか用意されているので、条件に当てはまるものがあれば積極的に活用しましょう。

固定資産税が発生しない土地・建物がある

以下のような土地・建物のうち、一定の要件を満たすものは固定資産税が非課税となります。

  • 評価額30万円以下の土地
  • 評価額20万円以下の建物
  • 公共の用に供している道路
  • 土地の所有者が国の場合
  • 公共の保有林や国有林の場合

もし、相続が発生したのに固定資産税の納税通知書がどこにも届かない場合、これらのようにもともと固定資産税が課税されない土地・建物である可能性があります。

固定資産税の支払い方法・評価額の確認方法

固定資産税の納期と支払い方法、評価額の確認方法について解説します。支払い方法は自治体によって異なりますが、一般的にどのような支払い方法が使えるのかを確認しておきましょう。

固定資産税の納期・支払い方法

  • 第1期:令和5年(2023年)6月1日から6月30日まで【納期限|6月30日】
  • 第2期:令和5年(2023年)9月1日から10月2日まで【納期限|10月2日】
  • 第3期:令和5年(2023年)12月1日から12月27日まで【納期限|12月27日】
  • 第4期:令和6年(2024年)2月1日から2月29日まで【納期限|2月29日】

※参照:固定資産税・都市計画税(土地・家屋)|東京都主税局

上記は令和5年度における東京23区内の固定資産税の納期です。固定資産税の支払いは年4回の分割払いになっており、各期ごとに期限が定められています。固定資産税は一括納付も可能ですが、一括で支払ったとしても割引きなどが適用されるわけではありません。

支払い方法は自治体によって異なりますが、一般的には以下のような支払い方法が使えます。

  • 現金
  • 口座振替
  • クレジットカード
  • 電子マネー
  • スマホ決済アプリ

現金や口座振替などは基本的にどの自治体でも対応していますが、クレジットカードや電子マネー、スマホ決済アプリは対応していない自治体もあります。納期限が切れるとコンビニでは支払うことができなくなるので、現金で支払う場合は金融機関や自治体の窓口で支払いを行う必要があります。

評価額の確認方法

固定資産税の納税通知書を確認することで、その年の不動産評価額を確認できます。不動産の評価額は相続登記を行ううえで登録免許税の計算などに用いるため、確認方法を覚えておくと相続登記の際に役に立つでしょう。

もし、固定資産納税通知書が見つからなければ、不動産の情報が市区町村でまとめられている「名寄帳」で代用することも可能です。名寄帳は固定資産税の納税義務者の相続人も閲覧・取得が可能であり、書面で取得する場合には、1通200~300円ほど手数料が発生します。

注意点・よくある質問

これまで解説してきたこと以外で、相続登記や固定資産税に関する注意点や知っておくと便利なこと、よくある質問に対する回答などをまとめました。相続登記や固定資産税に関する理解が深まるので、こちらも参考にしてください。

相続人代表者指定届で納税通知書の送付先が決まる

相続人代表者指定届とは、亡くなった不動産の所有者の代わりに固定資産税納税通知書を受け取る人を指定する届出です。市役所から通知が届くので、代表者を指定して返送すれば、指定した代表者宛に固定資産税納税通知書が届きます。

相続人代表者指定届を出さないと、亡くなった方やその同居家族宛に納税通知書が送られる場合があります。

亡くなった方宛に通知書が届いてしまうと、相続人がそれに気付かず固定資産税が未納になってしまう可能性があります。そのため、遺産分割協議がまとまらないなどの理由で相続登記ができないときは、相続人代表者指定届を提出しておくとよいでしょう。

遺産分割協議がまとまらなければ相続人申告登記でも可

相続人申告登記は相続登記の義務化に伴い新設された制度です。相続登記の義務化後は3年以内に相続登記の申請をしなければなりませんが、相続人申告登記を行えば3年を過ぎたとしても罰則が科されることはありません。

相続人申告登記のメリットは、簡易な方法で申請義務を履行できるということです。遺産分割協議の長期化などで、相続登記の申請期間である3年を超えたとしても、ひとまず相続人申告登記さえしておけば申請義務を果たしたことになります。

ただし、相続人申告登記は相続登記の代わりにはなりません。そのため、遺産分割成立後などにあらためて相続登記をする必要があるので、この点は注意してください。

固定資産税を滞納すると延滞税が発生する

下記は東京都における、令和3年1月1日以降の延滞税の税率です。

期間 割合 延滞金特例基準割合
納期限の翌日から1か月を経過する日までの期間
【延滞金特例基準割合(※1)1%(※2)
納期限の翌日から1か月を経過する日までの期間
【延滞金特例基準割合(※1)7.3%(※3)
令和3年1月1日から令和3年12月31日まで 2.5% 8.8% 1.5%
令和4年1月1日から令和5年12月31日まで 2.4% 8.7%

1.4%

※1:「延滞金特例基準割合」とは、銀行の新規の短期貸出約定平均金利を基準に、各年の前年の11月30日までに財務大臣が告示する割合に、年1%の割合を加えた割合をいいます。
※2:「延滞金特例基準割合+1%」が7.3%を超える場合は、7.3%になります。
※3:「延滞金特例基準割合+7.3%」が14.6%を超える場合は、14.6%になります。

※参照:都税の支払い|東京都主税局

固定資産税を納期限までに納めなければ、納期限の翌日から延滞金が発生します。納期限翌日から1か月を経過する日までの期間と、1か月を経過した日以降の期間で異なる利率が適用され、1か月を経過した日以降は利率が高くなります。

たとえば令和4年4月1日から令和5年12月31日までの期間に、固定資産税20万円を1年間滞納した場合、延滞金は約1万6000円発生します。

延滞金をそのまま放置しておくと相続人の財産が差し押さえられる可能性もあるので、滞納金が生じたらできるだけ早期に支払いを行いましょう。

相続登記の手続に不安がある方は司法書士にご相談を

不動産の所有者が年の途中で亡くなった場合、相続によって納税義務が相続人に引き継がれ、相続人全員の連帯債務となります。相続放棄や相続土地国庫帰属制度を利用すれば固定資産税の支払い義務を免れることができ、また各種減税制度を利用することで固定資産税を下げることも可能です。

固定資産税の支払いは年4回の分割払いになっており、各期ごとに期限が定められていますが、期限が遅れると延滞金が発生するので注意してください。

相続登記をしなくても、固定資産税の支払い義務は発生します。また、令和6年4月1日以降は相続登記が義務化されるので、今後は相続登記を避けて通ることができなくなります。

相続登記の手続に不安がある場合は、登記の専門家である司法書士に相談しながら手続を進めることをおすすめします。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載

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