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公正証書遺言の特徴と相続トラブルのリスク
相続対策として遺言書を作成する場合、その方式は「公正証書遺言」がベストだと言われています。公証人という法律の専門家が作成し、原本が公証役場で保管されることから、ほかの遺言方式と比べて安全性や信頼性が高いとされているためです。
もっとも「公正証書遺言を作成すれば、将来の相続トラブルをすべて防げる」というわけではありません。改めて公正証書遺言の特徴を見直し、どのような点に注意が必要なのか確認しましょう。
公正証書遺言が信頼される理由
公正証書遺言とは、法務大臣から任命された法律の専門家である公証人が作成する遺言方式です。作成時には2名以上の証人の立ち会いが必要で、遺言者本人の意思確認は慎重に行われるため、本人の意向と異なる内容となるリスクが限りなく小さくなります。
さらに、完成した遺言書の原本は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクもほとんどありません。平成26年以降に作成された遺言書については、原本の電子データも作成・保存されており、災害などで原本が失われても内容を復元できる体制が整っています。
このように、公正証書遺言には「本人の意向に沿った遺言ができる」「遺言の効果が失われる可能性が小さい」といった特徴があります。こうした特徴により、安全・確実な遺言方式だと評価されています。
作成してもトラブルがゼロになるとは言い切れない
公正証書遺言を作成しても、将来の相続トラブルをすべて防げるわけではありません。前提として、遺言書の作成は公証役場の案内に従って行いますが、これとは別に、民法で定められた方式に従う必要があります。
また、公証人は遺言書の形式や遺言能力の有無を確認しますが、遺言内容の妥当性については踏み込んだアドバイスを行うことはできません。内容が相続人の期待と異なっていたり、権利を侵害していたりする場合、相続人同士での争いは避けられないでしょう。このような可能性をゼロにすることは難しく、公正証書遺言であっても、もめ事が起きる可能性は否定できないのです。
遺言自体は有効だが内容でもめる3つのケース
相続開始後に公正証書遺言を巡ってトラブルになるケースは、その多くが遺言の内容を巡るものです。具体的なトラブルの例を挙げると、以下の3つです。
- 遺言内容が相続人の想定とは異なっていた
- 相続人の遺留分を侵害する内容だった
- 遺言書に含まれない遺産が見つかった
遺言内容が相続人の想定とは異なっていた
相続人が想定していなかった内容の遺言が見つかると、トラブルに発展することがあります。典型的な例が、婚外子の存在と認知が遺言書に記載されていた場合です。配偶者や子らにとって寝耳に水の事実であり、感情的な対立を引き起こすことも少なくありません。
また、生前の発言から期待していた遺産がほかの相続人に相続されることが判明したり、特定の相続人が予想以上に優遇されていたりするケースもあります。遺言者の真意を確認することもできず、相続人同士の関係性が悪化するきっかけとなってしまうのです。場合によっては、遺留分侵害額請求などが行われる可能性があります。
相続人の遺留分を侵害する内容だった
遺言内容が相続人の遺留分を侵害している場合もトラブルの原因となります。遺留分とは、法定相続人に保障された最低限の取り分のことです。具体的には、遺産のほとんどを特定の相続人に相続させる内容の遺言が問題となります。
このような内容でも、遺言の効果が否定されることはありません。一方で、侵害を受けた相続人は、遺留分侵害額請求権を行使し、不平等の原因となった財産およびその承継者と金銭的な解決を図ることができます。
遺言書に含まれない遺産が見つかった
遺言書や添付する財産目録に記載のない遺産が見つかった場合も、トラブルのきっかけになりがちです。具体的には、預貯金や有価証券の存在が判明したり、遺言作成後に取得した不動産が見つかったりするケースが挙げられます。生命保険金の取り扱いを巡る対立も珍しくありません。
遺言書に記載のない遺産については、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。しかし、遺言書で指定された遺産の分割と異なる結論を望む相続人がいた場合、話し合いが難航することも考えられるでしょう。
遺言の有効性を巡ってもめる5つのケース

相続開始後に公正証書遺言についてトラブルになるケースとして、稀ではあるものの、遺言の有効性を巡るものがあります。作成方法に不備があり、遺産分割の方法などについて効果が及ばないとされるケースです。具体的には、以下の5つの例があります。
- 遺言者の判断能力が不十分だった
- 証人の資格に問題があった
- 口授の要件を満たしていなかった
- 内容が公序良俗に反していた
- 錯誤や誤認による作成だった
遺言者の判断能力が不十分だった
遺言を作成できるのは15歳以上かつ遺言能力を持つ人だけであり、そうでない人が作成した場合は無効です。この点で特に問題になりやすい場合として、遺言者が認知症と診断されている場合が挙げられます。遺言能力とは「遺言の意味や効力を理解する能力」であり、遺言書が作成された時点で症状が進むなどしてこの能力が失われていると、公正証書遺言であっても効果は持ちません。
遺言者の判断能力、遺言能力を巡っては、後から検証する手段が少なく、しばしば相続人同士で意見が対立する原因となります。遺言無効確認訴訟と呼ばれる手続により、争いが長期化するケースも少なくありません。
証人の資格に問題があった
公正証書遺言の作成には2名以上の証人が必要ですが、証人になれない人(欠格事由)が定められています。未成年者、推定相続人および受遺者とこれらの配偶者や直系血族、公証人の配偶者・四親等内の親族・書記・使用人が該当します。
証人の資格要件は公証役場で確認を行いますが、手違いが起きる、証人本人が身分を詐称するなどといった場合も考えられます。このような事実が判明すると、遺言の有効性を巡って相続人同士で言い合いに発展した末に、無効であると確認される可能性が否定できません。
口授の要件を満たしていなかった
公正証書遺言では、遺言者が遺言内容を公証人に口頭で伝える「口授」が必要です。遺言者の真意を確認する重要な要件とされており、代理人による伝達は原則として認められません。過去には、遺言者に認知症の兆候があり、公証人の説明に対して「はい」と返事をしただけで、遺言者が遺言内容を十分に理解しているかどうかが疑問視され、公正証書遺言が無効と判断された事例もあります。
このように口授の要件を満たしているかどうかの問題は、証人の資格要件と並んで、公正証書遺言の有効性を巡るもめ事のもとです。なお、病気などにより口頭での意思表示が難しい場合は、筆談や通訳を介することも可能です。
内容が公序良俗に反していた
遺言内容が社会的な秩序や善良の風俗に反する場合、公序良俗違反として無効となることがあります。具体的には、愛人契約を条件とする遺産分割や、不正行為を強いる内容などが挙げられます。このような内容は、無効になるとともに、相続人同士の不和の原因になりかねません。
錯誤や誤認による作成だった
重要な事実について誤解や勘違いがあった状態で作成された遺言は、錯誤により無効となる可能性があります。たとえば、ある人物を実子と誤認して遺贈する内容の遺言を作成したが、実際には血縁関係がなかったという場合が該当します。このような場合にも、遺言は無効となり、余計な不和を招く恐れがあります。
公正証書遺言でもめないための6つの予防策
公正証書遺言でもめる原因は、大きく2つに分けられます。1つは遺言の形式や要件に関する問題、もう1つは遺言内容に関する問題です。これらのトラブルを未然に防ぐためには、作成段階から適切な対策を講じる必要があります。ここでは6つの具体的な予防策を紹介します。
事前に相続人そのほかの関係者と話し合う
遺言内容を事前に相続人と話し合っておくのは、将来のトラブル防止に大きな効果があります。特に、法定相続分とは異なる割合で遺産を分ける場合や、推定相続人以外の人に遺贈する場合には、その理由を含めて丁寧に説明することが重要です。
説明のタイミングは、遺言書の作成前が望ましいでしょう。相続人から意見や要望があれば、可能な範囲で内容に反映させることを検討します。すべての相続人に対して個別に説明することが難しい場合は、代表者を通じて伝えることも一案です。
遺言書を書く前に医師に遺言能力の有無を確認する
遺言能力の有無が争いになることを防ぐため、遺言執筆前に医師の診断を受けておくことをおすすめします。診断書には、遺言作成時の判断能力や意思疎通の状況、認知症の有無などを具体的に記載してもらいます。特に高齢者や持病のある人は、定期的に診断を受けることが望ましいでしょう。
医療機関の受診では、かかりつけ医による診断に加え、専門医の診断も受けておくと、より客観的な証明が可能です。作成した診断書は、遺言書と一緒に保管するか、信頼できる専門家に預けておくことをおすすめします。
遺留分を侵害しない内容を検討する
遺留分侵害を理由としたトラブルは、各人の権利の割合に配慮した遺産分割の内容を検討することで防げる可能性があります。もし、遺留分を侵害する可能性がある場合は、生前贈与や保険金などを用意して、相続人に対する公平な配慮を行うことが1つの解決策となります。これにより、遺留分侵害を防ぎ、相続人間での不満や争いが起こる確率を下げることができるでしょう。
遺言書作成・証人の確保は専門家に委ねる
遺言書の作成を司法書士や弁護士に依頼することで、少なくとも形式面での不備を防ぐことができます。これらの専門家は、遺言内容についてアドバイスや、遺留分の問題や相続税の負担などを考慮した提案なども行うことができます。また、証人の確保についても相談でき、必要に応じて手配してくれる場合があります。
専門家選びのポイントは、相続や遺言に関する知見が豊富で、相談しやすい雰囲気があることです。複数の専門家に相談して、信頼できる人を選ぶことをおすすめします。
信頼できる第三者を遺言執行者とする
遺言書または家庭裁判所の選任により指定される「遺言執行者」は、相続人の代理人として遺言内容を実現する役割を担います。具体的には、遺産の調査・管理、相続人への引き渡し、名義変更などの手続を行います。そのため、法律知識を持ち、公平な立場で職務を遂行できる人物を推奨します。
公平中立かつ知識を有する遺言執行者の指定は、遺言の内容を巡るもめ事の防止に役立ちます。なお、相続人を遺言執行者に指定すると利害関係による対立が生じやすいため、弁護士や司法書士などが第三者として選ばれる傾向にあります。
必要に応じて付言事項を活用する
付言事項とは、遺言の本文とは別に記載する補足的な内容を指します。法的な拘束力はありませんが、遺言者の想いや遺産分割の意図を伝えることができます。たとえば「長男には事業を継いでもらうため会社株式を相続させたい」「子どもたち全員に対して平等に愛情を持っている」といった記載が考えられます。
付言事項には、相続人の感情的な対立を和らげる効果が期待できます。ただし、遺言本文と矛盾する内容や、相続人の心情を逆なでするような表現は避けるべきでしょう。遺言者の真意を伝え、円滑な相続の実現に資する内容を心がけることが大切です。
作成済みの公正証書遺言でもめたときの対処法
すでに作成された公正証書遺言をめぐってトラブルが生じた場合、その解決には段階的なアプローチが必要です。まずは当事者間での話し合いによる解決を試み、それが難しい場合は法的手続による解決を検討することになります。また、遺留分を侵害されている場合は、遺留分侵害額請求権の行使という選択肢もあります。
協議による解決を試みる
遺言を巡ってもめ事が起きたときは、まず相続人同士の話し合いによる解決を試みましょう。話し合いでは、遺言の内容に不満があったとしても、感情的な対立は避け、できるだけ冷静に進めるべきです。
話し合いが難航した場合は、一時的に話し合いを中断し、それぞれが冷静になる時間を設けることも検討します。合意に至った場合は、その内容を「遺産分割協議書」として書面化し、各相続人が実印を押印して印鑑登録証明書を添付する必要があります。
遺留分侵害額請求を検討する
遺留分を侵害されている場合は、遺留分侵害額請求権を行使できます。請求は「相続や贈与を知ったときから1年以内」または「相続開始から10年以内」に行う必要があり、この期間を過ぎると権利が消滅してしまう点に要注意です。個別の侵害額は、遺留分の計算に関する法定の算式に基づいて算出します。
請求の手続は、内容証明郵便などで相手方に意思表示を行うことから始まります。双方の合意が成立しない場合は、調停・審判による解決を検討することになります。
調停・審判により解決を図る
話し合いでの解決が難しい場合は、家庭裁判所での調停を申し立てることになります。調停では、裁判官と調停委員を交えて話し合いを行い、合意による解決を目指します。もし、相続人間の話し合いでの合意が厳しい場合は、各相続人の主張や提出された資料などを参考にし、家庭裁判所が遺産分割の内容を決める遺産分割審判に移行する場合があります。
相続トラブルを防ぐ公正証書遺言の賢い活用方法
公正証書遺言を作成すれば安全・確実と考えられがちですが、もめ事が起きる可能性はゼロではありません。主なトラブルの原因として、遺言者の判断能力や証人の資格に問題があったケース、遺言内容が相続人の想定と異なっていたケース、遺留分を侵害する内容だったケースなどが挙げられます。
このようなトラブルを予防するにあたっては、遺言書作成前の協議や、遺留分への配慮、遺言能力の証明となる診断書の準備などが必要です。
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