財産目録とは?書き方や作成の目的、必要になるケースなどを解説

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財産目録とは?作成する書面の内容と役割

遺産の相続における財産目録とは、生前所有していた財産の全容を一覧にまとめた書類です。目録のなかには、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産も含めて記載します。このようにして遺産の内容を具体化した書類は、相続手続を円滑に進めるうえで重要な役割を果たします。

主な利用目的は遺産分割への活用

作成する財産目録は、主に遺産分割の際の基礎資料として役立てられます。相続人が各人の財産の取り分を決める場面では、亡くなった時点の被相続人の財産を特定し、分割対象を具体化するものが必要です。財産目録を用意する主なタイミングは遺言書作成時や遺産分割協議時、相続税の申告時などが挙げられます。

平成31年の法改正でパソコン作成が可能に

平成31年1月13日の民法改正では、自筆証書遺言に添付する財産目録につき、パソコンで作成することが可能になりました。遺言書本体は自筆で書く必要がありますが、財産目録についてはWordやExcelなどのソフトで作成できます。こうした方法で作成すれば、単に手書きによる面倒を省けるだけでなく、表計算ソフトなどで内容を管理しながら誤記や漏れを防ぐことができます。

もっとも、パソコンで作成した財産目録を遺言書に添付する場合は、法律の定めにより、各ページに署名と押印が必要です。これは財産目録の真正性を確保するための重要な要件となっています。

財産目録に記載すべき基本項目

財産目録では、記載する資産を容易に特定できるように「何が・どのくらい・どこにあるのか」を明確にする必要があります。具体的には、以下のような項目が推奨されます。

  • プラスの財産:預貯金、有価証券、不動産、自動車、貴金属など換金可能な資産
  • マイナスの財産:住宅ローンなどの借入金、未払いの税金、公共料金など
  • それぞれの財産の場所:不動産の住所、預金口座の金融機関名・支店名など
  • 数量・評価額:保有数量や金額、評価時点を明確にした評価額
  • 権利関係:共有名義の場合の持分割合や、賃貸中の場合はその旨

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財産目録を作成する5つのメリット

財産目録作成は一部を除いて法律で義務付けられているわけでもなく、書式も特に決まったものはありません。しかし、作成しておくことで相続手続がスムーズになるだけでなく、さまざまな場面で活用できるメリットがあります。ここでは、財産目録を作成する5つのメリットについて詳しく解説します。

相続税申告の準備がスムーズになる

相続税の申告は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に、申告書作成などの準備をすべて行う必要があります。この期間内に少なくとも価額が記載された財産目録を用意すれば、相続財産の総額を早期に把握でき、基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかどうかの判断が容易になるでしょう。

また、基礎控除額を超えて相続税の課税がある場合は、納税資金の準備や、財産の種類などの一定の条件もと適用できる税制(小規模宅地等の特例)などの把握にも、財産目録は役立ちます。

遺産分割協議が円滑に進行する

遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。この際、財産調査の結果をまとめた目録があれば、相続財産の全体像を相続人全員で容易に共有でき、具体的な分割方法を検討しやすくなります。

特に不動産や有価証券など、評価額の算定が必要な財産については、財産目録に基づいて冷静に話し合いを進めることができます。後から新たな財産が見つかり、協議をやり直すといった事態も防げる可能性があります。

相続放棄・限定承認の判断材料になる

相続人は相続開始を知った日から3か月以内に、相続放棄や限定承認を選択することができます。財産目録があれば、プラスの財産とマイナスの財産を比較して、相続を引き受けるべきかどうかの判断が容易になります。特に、被相続人に多額の借金があることが判明した場合など、相続放棄を検討する際の重要な判断材料となります。

遺言書作成時の財産把握が容易になる

遺言書を作成する際は、財産目録の添付が推奨されます。どの財産を誰に相続させるか記載するにあたり、財産目録があれば、目録から引用できるとともに、分割の内容を明確にすることが可能です。遺言の内容を考える際、財産目録があれば、相続人の生活状況や必要性を考慮しつつ、公平な配分ができ、相続後のトラブル防止にも役立ちます。

生前贈与の計画立案に活用できる

財産目録は相続税対策にも活用できます。保有財産の総額を把握することで、生前贈与の必要性や可能な金額を具体的に検討することができます。たとえば、教育資金の一括贈与や住宅取得等資金の贈与など、非課税措置を活用した計画的な贈与を検討する際の基礎資料として役立ちます。相続財産を計画的に減らし、将来の相続税負担を軽減することができるのです。

財産目録を作成した方がいい4つのケース

財産目録を作成した方がいい4つのケース_イメージ

財産目録は主に相続に関する手続で用いられます。ここでは、財産目録を作成しておくべき4つの具体的なケースについて解説します。

遺言書に添付する場合

遺言書への財産目録の添付は、正しく生前の意思を伝えるために必要です。たとえば「複数ある土地のうち〇〇にある物件を長男に相続させる」という遺言であれば、遺言のなかで登記情報を記載して物件を特定することも可能ですが、ほかの物件との区別などのために財産目録を添付すべきです。

なお、遺言執行者(遺言の内容の実現にあたる人物)が選任された場合は、この役割を担う人に財産目録を作成する義務が課されます。

限定承認の申述をする場合

限定承認では、手続内で清算対象となる財産を特定するため、詳細な財産目録を要します。家庭裁判所で申し立てるときに必要とされる書類に含まれており、目録のない状態で手続することはできません。なお、被相続人の財産の全容については、手続のなかで改めて調査があります。

遺産分割協議を行う場合

遺言書がない場合に行う必要のある遺産分割協議では、単なる分割対象の把握だけでなく、トラブル防止のためにも財産目録を要すると言えます。すでに述べたように、後から遺産が見つかって分割をやりなおす失敗を避ける目的もありますが、そればかりではありません。財産に関する透明性を確保し「遺産を隠しているのではないか」という疑いを避けるうえでも役立ちます。

相続税申告をする場合

相続税申告にあたり、財産目録の提出は必須ではありませんが、申告漏れや過大申告などを防ぐ目的で作成しておいた方が良いでしょう。財産目録がない場合、一部の財産について課税の計算ができなかったり、課税額が抑えられる税制が適用できることに気付かなかったりする恐れがあります。

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財産目録の作り方と雛形

それでは、相続・遺産分割で利用するための財産目録はどのように作成すればいいのでしょうか。法務省公式サイトでは、不動産と預貯金について一覧化した雛形が公開されています。これをもとにして、資産別に記載方法を確認してみましょう。

【財産目録の雛形】

財産目録の雛形_イメージ

※引用:自筆証書遺言の方式(全文自書)の緩和方策として考えられる例|法務省

不動産の記載方法

土地や建物の情報は、登記事項証明書(不動産登記簿謄本の写し)に基づいて特定します。具体的には、最低限、下記のような情報が必要です。

  • 登記上の所在
  • 地番、地目、地積(土地の場合)
  • 家屋番号、種類、構造、床面積(建物の場合)

可能であれば、評価額の基準となる固定資産税評価額も記載しましょう。記載があることで、課税額が登記費用の試算に役立ちます。ほかには、賃貸中の物件については、賃貸借契約の内容や賃料収入なども特記事項として記載しましょう。ほかの相続人と共有している土地については、持分割合も忘れずに記入します。

現金・預貯金の記載方法

現金や預貯金は、同一の金融機関に複数の口座を持っていることもあるため、それぞれの口座を明確に区別できるように記載します。具体的には、口座別に下記の情報が必要です。

  • 金融機関名
  • 支店名
  • 口座番号
  • 口座種別(普通・定期など)
  • 口座残高
  • 保管場所、金額(現金のみ)

口座残高は、生前に作成する場合は作成時点の残高を、相続が発生した後に作成する場合は相続開始時の残高証明書に基づいて記載しましょう。タンス預金など預け入れをしていないお金については、あらかじめ紛失・滅失・盗難の恐れがない場所に写したうえで、その場所を特定できる情報が必要です。

有価証券の記載方法

有価証券は、証券口座に預けているものとそうでないもので記載方法が異なります。証券口座に預けているものは現金・預貯金と同様の情報があれば特定できますが、非上場株式などの口座で管理していないものは別の記載が必要です。

有価証券の種類につき、個別の上場株式、投資信託、債券、出資金、非上場株式について記載項目を挙げると、次のようになります。一部項目は法務省の雛形にはないものとなりますが、資産の特定のためになるべく記載しておくとよいでしょう。

個別の上場株式

  • 発行会社の名称
  • 数量(持っている株の数)
  • 取り扱い金融機関の名称、支店名
  • 購入時点の1株あたりの値段(単位)
  • 作成日の終値

投資信託

  • 信託商品の名称
  • 契約番号
  • 保有口数
  • 取り扱い金融機関の名称、支店名
  • 購入時点の1口あたりの値段(単位)
  • 作成時点の残高

債券

  • 国債の種類
  • 発行回数
  • 取り扱い金融機関の名称、支店名
  • 1口あたりの額面
  • 作成時点の残高

出資金

  • 出資先の金融機関名
  • 支店名
  • 1口あたりの金額
  • 出資した口数

非上場株式

  • 発行会社の名称
  • 株式であること
  • 代表取締役の氏名(相続人やその親族が代表者の場合)
  • 株券の保管者

※参照:遺産目録の記載例|裁判所

負債・借入金の記載方法

負債のうち住宅ローンなどの金融機関が取り扱うものは、基本的には商品名と債権者の情報があれば特定できます。相続人にとって重要なのは「借入条件」や「返済不能となったときの情報」などと言えるため、この点も漏らさずに記載することが重要です。具体的には、下記の情報を記入します。

  • 債権者を特定できる情報(金融機関名、氏名・住所など)
  • 商品名(金融機関が債権者の場合)
  • 借入条件(借入額、返済期日など)
  • 連帯保証の有無、連帯保証人の情報
  • そのほかの事項(金銭貸借契約書の場所など)

作成時の6つのポイント

財産目録は、相続手続を円滑に進めるための重要な書類です。しかし、作成時に注意すべきポイントを押さえておかないと、後々の手続で支障をきたす可能性があります。ここでは、財産目録作成時の6つの重要なポイントについて、実務上の注意点を交えながら解説します。

全財産を漏れなく記載する

財産の記載漏れは、相続手続の大きな障害となります。金融資産については、通帳やキャッシュカードの保管場所を確認し、取引のある金融機関に残高照会をかけることで、網羅的に把握できます。不動産は市区町村で名寄帳を取得して確認します。近年は暗号資産や各種ポイントといったデジタル資産も財産となるため、スマートフォンやパソコンも確認が必要です。生命保険契約や貸金庫の有無についても、書類や利用している金融機関に確認しましょう。

評価額の基準日を明確にする

財産目録に財産の価額を記入するときは、正確な額の記入も重要ですが「どの時点なのか」を明確にしなければなりません。少なくとも、財産目録の作成日は明記しておきましょう。なお、評価額の記載については、不動産は路線価や固定資産税評価額を基準とし、上場株式は市場価格を参考にします。外貨預金など為替変動の影響を受ける資産については、為替レートの基準日が重要です。

名義預金の取り扱いに注意する

名義預金とは、実質的な所有者と口座名義人が異なる預金のことです。典型的なものとして、子や孫の将来のために本人名義の口座に入れたお金が挙げられます。名義預金かどうかの判断は、通帳や印鑑の管理者、資金の出所、日常的な出し入れの状況などから行います。

名義預金は、税務上は実質所有者の財産として取り扱われるため、相続税の課税対象となり、相続人に思わぬ負担を課す恐れがあります。名義預金として判断されなかった場合でも、口座の入出金の状況(口座名義人の利用が確認される場合など)によっては、生前のうちに贈与したとみなされ、贈与税が課税されるかもしれません。

詳細な状況について特記事項にまとめる

目録では、財産の現状や権利関係を正確に伝えるため、必要に応じて特記事項欄を設け、詳細情報を記載しましょう。不動産であれば賃貸借契約の有無や賃料収入、共有者がいる場合の持分割合、抵当権などの担保権設定の状況などが記載しておきたい事項となります。

ほかにも、家族間での無償の使用貸借がある場合はその旨を記載し、建物の大規模修繕や改修工事の履歴なども記録しておくと、将来の評価の参考になります。

遺言書に添付するものは各ページに署名・押印する

遺言書に添付する財産目録の各ページには、作成者の署名と押印が必要です。署名は本人の直筆でなければならず、パソコンで印字した名前では無効となります。押印は印鑑登録証明書を添付したうえで実印を使用するのが理想的ですが、認印でも構いません。注意したいのは、遺言書に添付する場合、遺言書本体や封印に使ったものと同じ印鑑でなければならない点です。

なお、両面印刷の場合は表裏両面に署名・押印が必要です。記載内容を訂正する場合は、訂正箇所に二重線を引き、その場所を指示して訂正した内容を記載するとともに、訂正印を押します。

定期的に見直しを実施する

財産目録は作成して終わりではありません。年1回程度は定期的に内容を見直し、必要に応じて更新しましょう。特に、不動産の売買や新規の借り入れなど、財産に大きな変動があった場合は、その都度更新が必要です。また、相続税制の改正があった場合も見直しのタイミングです。評価額の時点修正や権利関係の変更の有無を確認し、常に最新の状態を維持しておくことが重要です。

相続にまつわる重要書類の作成は専門家に相談を

財産目録の役割は、生前所有していた財産の特定を容易にすることです。遺言書の内容の理解を助ける、遺産分割協議をトラブルなく円滑に進行させる、相続税申告のミスを防ぐなどの効果が期待できます。

遺言書、遺産分割協議書、財産目録などの相続に関する重要書類の作成は、司法書士などの専門家と相談しながら進めると安心です。当事務所では、目的を達成するための書類作りの支援も行っています。必要な書類やそのほかの準備に不安があるときは、是非ご相談ください。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載