遺言書はパソコン作成できる?作成できる遺言書の種類や注意点などを解説

遺言書はパソコン作成できる?作成できる遺言書の種類や注意点などを解説_サムネイル

パソコン作成が認められる遺言書の種類

遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。このなかで、パソコンでの作成が認められるのは、自筆証書遺言の財産目録および秘密証書遺言です。どの方式の遺言書であっても、遺言書は本文と財産目録で構成され、パソコンで作成できる範囲の考え方が異なります。ここでは、遺言方式ごとの作成方法の考え方に触れたうえで、後にパソコンで作成する場合の方法について解説します。

【自筆証書遺言】財産目録のみパソコン作成可

自筆証書遺言は、遺言者自身による手書きを前提とする方式です。その趣旨から、遺言書本文については、パソコンを使った作成は認められません。一方で、平成31年1月13日の民法改正により、毎ページ手書きの署名+押印をすることを条件に、財産目録部分のみパソコンでの作成が認められるようになりました。

【公正証書遺言】公証人が作成するためパソコン不要

公正証書遺言は、遺言者本人が原則として公証役場に出向いて作成を依頼する方式です。作成するための手続では、遺言者本人は遺言の内容を口授するだけに留まり、作成自体は公証人が行います。したがって、筆記用具やパソコン・ワープロソフトなどの作成手段を、遺言者自身で用意する必要はありません。

【秘密証書遺言】全文パソコン作成が可能

秘密証書遺言は、遺言書本文と財産目録を他人の目に触れないように作成し、公証役場での手続を経て厳重に封印する方式です。この方式では、封紙に公証人および証人の署名押印があればよく、遺言書本文と財産目録の両方をパソコンで作成できます。

\相続のことお気軽にご相談ください/

さくら事務所に相談する

自筆証書遺言の財産目録をパソコンで作成する方法

自筆証書遺言の財産目録はパソコンで作成できると説明しましたが、その方法や様式・雛形については特に規定がありません。基本的には、わかりやすく・読みやすく・情報が網羅されていれば問題ないと言えます。ここでは、パソコンを使った一般的な財産目録の作成方法について説明します。

財産目録作成に使えるソフトウェア

財産目録の作成には、Excel(エクセル)やWord(ワード)を使用するのが一般的です。Excelなら表形式での整理がしやすく、計算機能も活用できるため便利です。Wordでも表作成機能を使えば、十分に対応可能です。

自筆証書遺言書保管制度に必要な用紙設定

完成した遺言の保管方法について、法務局で遺言書の保管、閲覧、情報開示に対応してくれる自筆証書遺言書保管制度を利用しようとする場合、遺言書本文と財産目録の両方について用紙設定の指定があります。具体的には下記のとおりです。

  • サイズ:A4サイズ(両面使用不可)
  • 模様:記載した文字が読みづらくなる模様・彩色がないもの(罫線は可)
  • 余白:上5mm、下10mm、左20mm、右5mm以上

財産目録の具体的な作成手順

財産目録の作成は、まず所有する財産の洗い出しから始めます。不動産や預貯金、有価証券、貴金属など、すべての財産を書き出し、種類ごとに分類していきます。このとき、負債(マイナスの財産)についても洗い出しておく必要があります。不動産なら登記事項証明書、預貯金なら通帳など、財産を証明する書類も準備しておきましょう。

様式については、1ページ目に目次を設け、2ページ目以降に財産の種類ごとの詳細を記載するとわかりやすくなります。各ページには必ずページ番号を振り、印刷後は遺言者の署名と押印を忘れずに行います。

財産目録の具体的な記載例

実際に、不動産・預貯金・有価証券・動産・負債の5項目に渡り、どのように記述していくのかを下記雛形を例に確認してみましょう。ここでは、Wordでの作成を想定していますが、Excelでマスを作って見やすく情報整理するのも良い方法です。

1.預貯金(※1)
〇〇銀行△△支店 普通預金
 口座番号 〇〇〇〇〇〇〇
 残高   〇〇万円

〇〇銀行◇◇支店 定期預金
 口座番号 〇〇〇〇〇〇〇
 残高   〇〇万円


2.不動産(※2)
土地 東京都〇〇区〇〇1-2-3
 地番   〇〇番〇
 地目   宅地
 地積   〇〇㎡

建物 東京都〇〇区〇〇1-2-3
 家屋番号 〇〇番〇
 種類   居宅
 構造   木造2階建
 床面積  1階〇〇㎡、2階〇〇㎡


3.有価証券(※3)
〇〇証券

 国債・社債
  日本国債     額面〇〇万円、償還期限〇〇年〇〇月〇〇日
  〇〇工業株式会社 額面〇〇万円、償還期限〇〇年〇〇月〇〇日

 投資信託
  〇〇max slim 50口


 株式
  〇〇建築     100株
  〇〇テクノロジー 100株


4.動産・貴金属(※4)
 自家用車(型式名) 1台
 金貨        10枚(50g/枚)
 ダイヤモンドリング 1点


5.負債(※5)
〇〇銀行
 住宅ローン 残債務:〇〇万円、完済予定日〇〇年〇〇月〇〇日
 教育ローン 残債務:〇〇万円、完済予定日〇〇年〇〇月〇〇日

※1:口座情報や残高、預金口座の種別を記入。
※2:基本的に登記事項証明書のとおりに記入。
※3:証券化されたときの商品名と保有数量を記入。債券については償還期限も明確にする。
※4:動産は品名や数量を記入。自家用車を記入する際は、型式などで特定できるようにする。
※5:借り入れ先と利用した金融商品の名称、残債務額を記入。余裕があれば完済予定日も含める。

秘密証書遺言をパソコンで作成する方法

秘密証書遺言をパソコンで作成する方法_イメージ

秘密証書遺言をパソコンで作成するメリットは、重要な遺言書本文について何度でも書き直せることです。また、秘密証書遺言として有効性を得るために、作成後手続が必要となる点にも注意を要します。

遺言書本体の作成方法・文例

秘密証書遺言の本文は、WordやExcelなどで作成できます。フォントサイズは文字が潰れないように12ポイント以上とし、行間も適度にあけて読みやすさを重視すると良いでしょう。また、印刷する際はA4用紙を使用し、余白は上下左右に十分なスペースを設けるのが適切です。なお、末尾の署名のみ自筆で行う必要がある点のみ注意しましょう。以下で紹介するのは、遺言書本文の一例です。

遺言書



遺言者〇〇〇〇は、次のとおり遺言する。


第1条 遺言者が所有する下記の不動産は、妻〇〇〇〇(昭和〇〇年〇〇月〇〇日生)に相続させる。

土地 東京都〇〇区〇〇1-2-3
 地番   〇〇番〇
 地目   宅地
 地積   〇〇㎡

建物 東京都〇〇区〇〇1-2-3
 家屋番号 〇〇番〇
 種類   居宅
 構造   木造2階建
 床面積  1階〇〇㎡、2階〇〇㎡


第2条 遺言者名義の下記銀行預金およびその果実は、長男〇〇〇〇(昭和〇〇年〇〇月〇〇日生)に相続させる。

〇〇銀行△△支店 普通預金
 口座番号 〇〇〇〇〇〇〇
 残高   〇〇万円



〇年〇月〇日
遺言者 〇〇〇〇 印

財産目録の作成方法

財産目録の作成は、基本的に自筆証書遺言の場合と同じです。あらためて作成方法を整理すると、次のようになります。

  • 所有財産の洗い出しと分類を行う
  • 不動産、預貯金、有価証券などカテゴリーごとに整理
  • ページ番号を記載する
  • 財産を特定できる情報(所在地、口座番号など)を漏れなく記載
  • 印刷後は各ページに署名押印をする(両面印刷の場合は両面に施す)

封印の方法

遺言書と財産目録を封入する封筒は、丈夫な角形2号(A4サイズ用)を使用します。封筒の糊付け部分をしっかりと貼り、その上から遺言書作成時に使用した印鑑で封印します。封印は封筒の開口部に2〜3か所押印するのが一般的です。

封印の際は、のりしろ部分と本体にまたがるように印鑑を押し、後で開封されたことがわかるようにします。封筒が破損しないよう、必要に応じて別の封筒で二重に包むなどの工夫も有効です。

封印後の手続と必要書類

封印した遺言書は公証役場で認証を受けます。事前に公証役場へ電話で予約を入れ、下記の準備をしましょう。

  • 遺言書本文
  • 本人確認書類(運転免許証やパスポート)
  • 実印と印鑑登録証明書
  • 証人2名(未成年者、推定相続人、受遺者は不可)
  • 手数料1万1000円分の印紙

認証後の遺言書は自宅で保管するか、信頼できる人に預けます。保管場所は相続発生後に発見されやすい場所を選び、必要に応じて家族に保管場所を知らせておくことも検討しましょう。

\相続のことお気軽にご相談ください/

さくら事務所に相談する

遺言書作成でのパソコン使用における注意点

遺言書作成においてパソコンを使用する場合、いくつかの重要な注意点があり、遺言書本文との使い分けを誤ると遺言書全体が無効になってしまう可能性があります。また、パソコンで作成した文書は改ざんが容易という特徴もあります。以下で、具体的な注意点を解説していきます。

遺言の方式は厳守する

自筆証書遺言で財産目録をパソコンで作成する場合、遺言書本文とは必ず別の用紙に作成しなければなりません。同じページ内に手書きとパソコン作成部分が混在すると、遺言書全体が無効となる可能性があります。

署名と押印を忘れない

作成方法のなかで触れましたが、遺言書に添付する財産目録は、すべてのページに遺言者本人による手書きの署名と押印が必要です。署名は住民票に記載されたとおりの氏名を使用し、印鑑は実印の使用が良いでしょう。実印以外でも有効ですが、本人の意思確認の観点から実印が望ましいとされています。

両面印刷はなるべく避ける

財産目録に関しては両面印刷で紙を節約することも認められますが、あまりおすすめできません。自筆証書遺言の場合は、解説した法務局の保管制度が両面印刷に対応できていません。秘密証書遺言の財産目録であっても、両面印刷のものは両面に署名押印が必要となり、手間が増えたりミスが発生したりする恐れがあります。

遺言の内容に注意する

遺言の内容が著しく不公平だと、相続人間で遺留分侵害額請求などのトラブルが発生する可能性が高くなります。特定の相続人だけに財産を集中させる場合は、その理由を付言事項として記載することも検討しましょう。できれば事前に家族会議を開いて、遺言の内容について話し合うことをおすすめします。

偽造・改ざんのリスクに注意する

パソコンで作成した文書は、偽造や改ざんのリスクが大きくなります。印刷物に関しては、手書きの文書と異なり筆跡による真贋判定ができず、パソコンに記録されている遺言のデータについても、アクセスするための情報さえあれば容易に変更されてしまうからです。元データは暗号化やパスワード設定を行い、印刷した遺言書の保管は自筆証書遺言書保管制度や貸金庫の利用を検討しましょう。

デジタル化が進む遺言制度

遺言のデジタル化を認める動きは、ワープロソフトによる財産目録の解禁や、自筆証書遺言書保管制度の開始だけではありません。現在は全文手書きとされる自筆証書遺言の本文などについても、将来的にはパソコン作成を認めようとするなど、新しい動きもあります。

自筆証書遺言の電子化に向けた法改正の動き

法制審議会における民法(遺言関係)の検討では、令和6年4月から自筆証書遺言のデジタル化が議論されています。デジタル化の検討対象は、遺言書本文のほか、署名押印、保管方法、さらに秘密証書遺言などにも及びます。

現在の主な検討事項(一部抜粋)

  • 電子データによる遺言書本文の作成
  • 電子署名の導入、改ざん防止措置
  • 作成した日付の電子的な証明方法
  • デジタル技術を活用した新たな保管制度の導入
  • デジタル技術を活用した秘密証書遺言に相当する新たな遺言方式

※参照:遺言制度の見直しにおける主な検討事項|法務省

遺言書作成の将来的な展望

遺言書の完全電子化に向けては、本人認証の確実性確保や改ざん防止といったセキュリティ面での課題解決が不可欠です。電子署名やブロックチェーン技術の応用なども検討されています。

欧米諸国でも電子遺言を認める動きが出始めており、日本でもこうした国際的な潮流を意識した法整備が進められるでしょう。ただし、高齢者の意思能力確認や不当な影響の防止など、従来からの課題への対応も引き続き重要となります。電子化による利便性向上と、遺言の真正性確保の両立が求められています。

遺言書作成なら専門家に相談を

パソコンやワープロソフトに慣れ親しんでいる人にとって、遺言書のように重要な書類であっても、手書きはなるべく避けたいものでしょう。法律では、自筆証書遺言は財産目録のみ、秘密証書遺言は遺言書本文と財産目録の両方について、パソコンによる作成が認められています。作成するときは、財産目録の各ページに署名押印が必要な点や、偽造・改ざん防止を意識した保管方法を検討する必要性などに注意しましょう。

当事務所では、遺言書作成のご相談を承っております。経験豊富な司法書士が、遺言書の作成方法から保管方法まで、ご要望に沿ったアドバイスをさせていただきます。遺言書作成でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

\相続のことお気軽にご相談ください/

さくら事務所に相談する

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載