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封をしていない遺言書も法的に有効
封筒に入っていないむき出しの遺言書や、封筒の口が封印されていない遺言書でも、法律で定める方式が守られているのであれば有効です。封がされている遺言書を誤って開封してしまった場合も、開封した人がペナルティを受ける可能性がある一方で、中身(遺言書本体)の効力がただちに失われるわけではありません。
最初に「封をしていなくても有効となる遺言書」の条件を整理しておくと、下記のとおりです。
- 定められた方式で作成された自筆証書遺言・公正証書遺言
- 中身が自筆証書遺言の方式で作成されている秘密証書遺言
封の有無は遺言書の効力に影響しない
遺言には3つの方式があり、有効となる条件に「封をすること」が明確に定められるのは秘密証書遺言のみです。自筆証書遺言および公正証書遺言に関しては、封印に関する定めはありません。重要なのは法律で定める方式を守っているかどうかで、上記2つの遺言方式に関しては、封の有無は遺言書の効力に影響しないと言えます。
秘密証書遺言に関しても、秘密証書遺言としての扱いを受けるための条件が封の有無であるというだけで、中身に関しては有効となる余地があります。定められた封印の方法が守られていなくても、中身(遺言書本体)が自筆証書遺言の方式を守っていれば、その効力は失われません。
第九百七十一条
秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。
誤って開封しても遺言書の効力は失われない
それでは、封筒に入れられ封入口が閉じられた遺言書を見つけた人が、誤って開封してしまった場合はどうなるのでしょうか。結論を言えば、誤開封でただちに遺言書の効力が失われることもありません。もっとも、故意や悪意によって開封してしまい、中身の変更などを行った場合には、当然その遺言は無効となります。
検認前の開封は過料の対象になることがある
注意したいのは、封のある遺言を誤って開封してしまった人へのペナルティです。検認を経ないで遺言を執行したり、家庭裁判所以外で開封したりした場合、5万円以下の過料に処せられる可能性があります。遺言書である可能性の高い書面は、次に解説する「検認」まで開封しないようにしましょう。
遺言書の検認手続は封の有無にかかわらず必要
発見した遺言書に封がされているかどうかに関係なく、一部の遺言書に関しては、家庭裁判所で「検認」を申し立てる必要があります。検認とは、遺言書の存在と内容を相続人全員に知らせ、遺言書の形状や内容を明確にする手続です。ここでは、検認が必要な遺言書の種類や手続の流れについて解説します。
検認を必要とする遺言書の種類
検認を必要とする遺言書は、下記で示すいずれかの方式です。封書に公証人および証人の署名などがある「秘密証書遺言」については、例外なく検認を必要とします。自筆証書遺言に関しては、後述の保管制度を利用していない場合は検認手続を要します。
検認を必要とする遺言書の種類
- 自筆証書遺言(自筆証書遺言書保管制度を利用していないもの)
- 秘密証書遺言
公正証書遺言は、公証人が作成した上で公証役場での原本保管があり、その書面には公文書と同等の効力があります。法務局での保管・閲覧・証明書交付に対応する「自筆証書遺言書保管制度」の利用のある遺言書も、内容の証明が保管先で行われています。上記の理由から、下記のいずれかの遺言方式は検認手続を必要としません。
検認が不要な遺言書の種類
- 自筆証書遺言(自筆証書遺言書保管制度を利用したもの)
- 公正証書遺言
検認手続の流れと必要書類
検認の申し立ては、遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人が行います。申し立て先は遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。申し立てのときは、主に下記の書類および費用を用意しましょう。
- 遺言書
- 遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本一式
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 検認申立書
- 収入印紙800円分(遺言書1通ごとに必要)
検認手続の流れと期間
検認の申し立てが受理されると、家庭裁判所から相続人全員に検認期日の通知が送られます。検認期日には、相続人が立ち会いのもと、裁判官が遺言書の形状や内容を確認します。相続人の出席は任意ですが、申立人は原則として出席が必要です。
手続にかかる期間は、申し立てから検認期日までが通常1か月から2か月程度です。ただし、相続人が多数いる場合や、家庭裁判所に検認に関する事務が多数寄せられている場合、戸籍謄本の収集に時間がかかる場合には、さらに期間を要することがあります。
封をしていない遺言書が抱える4つのリスク
遺言書は、相続開始後に発見された際のことを考慮し、封をして確実に保管するとともに、外観から重要書面であることが分かるようにしておくことが望ましいです。封がなされていない遺言書は、保管中や相続開始後に以下のようなリスクが生じる可能性があります。
誤って破棄してしまうリスク
封をしていない遺言書は、一見すると普通の書類やメモと見分けがつきにくいものです。特に遺言者の死後、遺品整理などの際に「古い書類」として誤って処分されてしまう危険性があります。一度処分された遺言書は二度と取り戻すことができず、遺言者の意思を実現する機会を永久に失ってしまいます。
第三者による変造や改ざんのリスク
封がされていない遺言書は、第三者が容易に内容を書き換えることができる状態にあります。悪意を持った人が周囲にいないとも限らず、変造や改ざんの可能性は否定できません。特に自筆証書遺言の場合、遺言者が亡くなった後に発見されるまでの間、家族だけでなく第三者にも触れられる可能性が生じ、危険です。
相続人同士の不仲や不信感を招くリスク
封のない状態で発見された遺言書は、その真正性について疑いを持たれやすいものです。特に、遺言の内容に不満を持つ相続人は「この遺言書は偽造されたものではないか」「ほかの相続人が内容を書き換えたのではないか」との疑いを抱きがちです。このような疑いは、たとえ根拠のないものであっても、相続人同士の信頼関係を大きく損ない、円滑な相続手続の妨げとなることがあります。
内容が第三者の目に触れてしまうリスク
遺言書には、財産の分配方法や相続人への想いなど、極めてプライベートな内容が記されています。封をしていない状態では、関係のない第三者が容易に内容を読むことができてしまいます。これは遺言者のプライバシーを脅かすだけでなく、相続財産の情報が漏洩することで、詐欺や窃盗を図る人物に狙われる可能性すら生じさせます。
遺言書を適切に作成・保管するためのポイント
これから遺言書を作成しようとする人は、確実な封印とともに、作成方法や保管方法にも注意しましょう。安全・安心と言える遺言書の封印および保管のポイントは、以下のとおりです。
遺言書自体の有効性を確認する
遺言書の封印・保管する前に、まずその内容が法的に有効なものであるか確認する必要があります。自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合は、次のポイントに注意しましょう。
全文手書きでの作成
自筆証書遺言の場合は、法律で全文手書きで作成するよう定められています。秘密証書遺言の中身はパソコンのワープロソフトを利用して作成することも認められていますが、検認前の開封の懸念があるときは、全文手書きにするなど自筆証書遺言と同様の方法で作成することをおすすめします。
日付・署名・押印
遺言書を作成した日付は年月日まで明確に記載し、署名は本人の自署であることが必要です。押印に用いる印鑑は認印でも実印でも構わないとされていますが、遺言の内容に信頼性を持たせるため、なるべく役所で登録した実印を用いると良いでしょう。
加除・訂正
自筆証書遺言や秘密証書遺言(自筆証書遺言と同じ方式で作成する場合)を訂正する場合は、訂正箇所には二重線を引き、正しい文言を横書きなら上部、縦書きなら横に記入し、訂正印を近くに押します。この印鑑は署名横のものと同一にし、訂正内容を遺言書末尾または訂正箇所近くに記載し署名します。
財産目録や遺言書本体への押印
遺言方式として定められているわけではありませんが、遺言書本体が複数ページにわたる場合、各ページの余白に契印を押すことでページの差し替えを防ぐことができます。財産目録に関しては、記載のあるすべてのページ(両面印刷であれば両面)に署名押印すべきと定められています。
封筒の選び方と記載事項
遺言書の保管では二重封筒の使用をおすすめします。二重封筒とは、内封筒と外封筒の2つで構成されており、内容物の保護性が高く、また開封の形跡も残りやすい特徴があります。外封筒の表面には「遺言書在中」と大きく明記したうえで「検認手続を必要とするため、開封は家庭裁判所で行うこと」という注意書きを添えます。これにより、遺言書の誤廃棄を防ぎ、発見者に適切な手続を促すことができます。内封筒にも同様の記載をしておくと、より確実です。
保管場所の選定と共有
遺言書の保管場所は、火災や水害から守られ、かつ相続人が発見しやすい場所を選びます。自宅の金庫やタンスの中などが一般的ですが、銀行の貸金庫を利用するのも一手です。もっとも、相続開始後に貸金庫を開けるには相続人全員の同意が必要となり、手続が複雑になるリスクはあります。
また、遺言書を作成したことと保管場所については、少なくとも相続人の1人には伝えておくことをおすすめします。ただし、内容まで開示する必要はありません。「遺言書を作成し、〇〇に保管してある」という事実だけを伝えることで、遺言書の存在を確実に相続人に伝えることができます。
封をしていない遺言書の取り扱いは専門家に相談を
遺言書の封印の有無は、遺言書の法的効力に影響を及ぼすものではありません。ただし、封をせずに保管することで、誤廃棄や改ざん、相続トラブルなどさまざまなリスクが生じる可能性があります。
自筆証書遺言書保管制度を利用していない自筆証書遺言や秘密証書遺言形式の遺言書は、封の有無にかかわらず家庭裁判所での検認手続が必要です。また、新たに遺言書を作成する場合は、二重封筒の使用や適切な記載事項の明記など、確実な保管方法を心がけましょう。
当事務所では、遺言書の作成から保管方法のアドバイス、検認手続のサポートまで、経験豊富な司法書士が対応いたします。遺言書に関する不安や疑問がありましたら、まずはお気軽にご相談ください。