遺贈とは
第三者に無償で財産を譲渡する旨を遺言し、遺言者が亡くなったときに生前の希望を実現することを「遺贈」と言います。相続では法定相続人にしか財産を引き継げませんが、遺贈であれば、法定相続人でない人や任意の法人にも財産を残すことができます。
遺贈を検討すべきケース
民法では、一定の範囲の親族に相続権があると定めており、この範囲に含まれる人(法定相続人)は財産を受け取ることができます。一方で、戸籍上の親族でない人や、遠縁の親戚は、遺産について何の権利も有していません。このような相続権のない人に財産を残す場合、生前に財産を贈与する方法(生前贈与)や、遺言書を作成して遺贈を行う方法があります。実際に遺贈を行う状況としては、下記のようなものがあります。
遺贈のよくあるケース
- 内縁の配偶者に財産を確実に引き継がせたい
- 孫や、子の配偶者に特定の財産を譲りたい
- 親族以外の介護者に財産を残したい
社会貢献の一環として遺贈するケース
- 教育機関のために財産を役立てたい
- NPO法人や公益法人に寄付をしたい
- 地域のため自治体に寄付をしたい
包括遺贈と特定遺贈の違い
実際に行われる遺贈は、贈与財産の範囲の指定方法によって「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類に分かれます。「財産の3分の1を遺贈する」などのように財産を指定する場合は包括遺贈となり、一方で「〇〇の土地を遺贈する」などと個別の財産を指定する場合は特定遺贈となります。
包括遺贈および特定遺贈のそれぞれの特徴は下記のようになりますが、ここで注意したいのは、不動産を贈与する場合にかかる不動産取得税の取り扱いです。
包括遺贈の特徴
- 相続人と同じ権利義務を負う(遺産分割協議に参加できる)
- 遺贈を受けたくない場合は相続放棄が必要となる
- 不動産取得税がかからない
特定遺贈の特徴
- 遺産分割協議に参加できない
- 遺贈を受けたくない場合は放棄の意思表示のみで可
- 不動産取得税がかかる
相続と遺贈の違い
相続と遺贈は、いずれも被相続人の死亡により財産が移転する制度ですが、その仕組みには大きな違いがあります。違いとして挙げられるのは、財産を受け取れる対象者や手続方法、さらに税金の取り扱いです。
財産を受け取れる対象者の違い
相続だと配偶者そのほかの法定相続人のみ財産を受け取れますが、遺贈では受遺者となるべき人の資格制限がありません。内縁の配偶者や友人・知人、お世話になった人などの個人はもちろん、NPO法人や公益法人、教育機関、自治体といった法人・団体にも財産を引き継ぐことができます。
手続方法の違い
相続の場合は遺言の有無や法定相続など問わず、主に被相続人に関する書類と相続人側の書類が必要です。一方、遺贈では遺言書が必須となり、受遺者の本人確認書類や、必要に応じて遺言執行者に関連する書類も求められることがあります。
手続の面でもっとも大きな違いは、不動産の登記申請です。取得する土地や建物につき、相続人は単独で登記申請できますが、遺贈の受遺者は原則として相続人全員と共同で申請する必要があります。遺言執行者が指定されている場合は、受遺者と遺言執行者の共同申請で済みますが、指定がない場合は相続人全員の協力が不可欠となります。
税金の違い
相続と遺贈では、主に相続税および不動産の贈与にかかる税金(不動産取得税・登録免許税)の取り扱いが異なります。相続税については、法定相続人の数に応じて基礎控除額が増加するとされるところ、受遺者の数は基礎控除額に影響しません。また、法人への遺贈は原則として相続税は非課税ですが、代わりに法人税が課税されます。
一方、地方税の1つであり、贈与や譲渡が対象となる「不動産取得税」は、相続人以外への特定遺贈の場合に限り課税されます。また、不動産の所有権移転登記にかかる登録免許税の税率は、相続で不動産を取得する場合に比べ、贈与で取得する場合の方が高くなります。
遺贈に対する課税の種類
遺贈には様々な税金が関係します。主なものとして、相続税、不動産取得税、登録免許税、みなし譲渡税、法人税の5種類があります。これらの税金は、誰が何を遺贈により取得するのかによって課税の有無や税率が変わってきます。
相続税
遺贈により取得した財産には原則として相続税が課されます。基礎控除額は、3000万円に法定相続人1人あたり600万円を加えた額で計算されますが、受遺者の数は基礎控除額に影響しません。
また、配偶者および一親等の血族以外が遺贈を受けた場合、その受け取った財産にかかる相続税額に2割が加算されます。加算は血縁を基準とするため、被相続人の孫が養子となった場合も税額修正の対象です。
不動産取得税
特定遺贈により土地・建物を取得した場合、不動産取得税が課されます。この税額は、固定資産税評価額を課税標準として算出され、法定相続人以外の方が不動産を取得した場合に適用されます。税率は住宅用の土地・建物が3%(令和9年3月31日まで)、それ以外の不動産が4%です。
なお、遺贈などによって住宅を取得するときは、一定の要件を満たすことで軽減措置を受けられます。適用対象となる場合、住宅については最大1200万円の控除を受けられるとともに、土地についても税額が軽減されます。特例の適用条件は下記のとおりです。
中古住宅とその敷地を取得した場合の特例の適用要件
- 個人が自己の居住用に取得した住宅であること
- 床面積が50㎡以上240㎡以下であること
- 昭和57年1月1日以降に新築されたものであること(※)
※昭和56年12月31日以前の住宅で、耐震診断によって新耐震基準に適合されたものも対象。ただし、この証明に関する調査が取得日前の2年以内に終了していることが必須。
登録免許税
不動産の遺贈を受けた場合、その名義を受遺者に変えるための「所有権移転登記」の手続の際に、手数料にあたる登録免許税の課税があります。税率は相続人が取得した場合は固定資産税評価額の0.4%、相続人以外が取得した場合は2%です。
みなし譲渡税
個人から法人へ寄附目的などで遺贈する場合には、贈与財産が取得したときより値上がりしている場合、その含み益を譲渡益とみなしたうえでの所得税の課税があります。注意点として、このみなし譲渡税を負担するのは、原則として受遺者ではなく相続人となることが挙げられます。
なお、公益法人などが遺贈の相手となる場合、一定の要件を満たすことで、みなし譲渡税が非課税となる制度もあります。遺贈による寄附の場合は、上記の点を踏まえ、事前に寄附の受け入れ先と相談しておかなくてはなりません。
法人税
法人が受遺者となる場合、相続税のかわりに法人税が課税されます。また、遺贈によって株価が増加したのが同族会社の場合、その増加部分について株主に相続税が課税されることがあります。なお、代表者または管理者の定めがある人格なき社団・財団(法人として認められておらず、登記もしていない団体)の、課税の種類は相続税です。
法人や一定の組織へ寄附目的などで遺贈する場合は、上記に加え、前述のみなし譲渡所得税も考慮しなければなりません。できるだけ遺言する前に検討しておきたい項目です。
遺贈や寄附の相続税が非課税になるケース
遺贈や相続財産からの寄附は、一定の要件を満たすことで相続税が非課税となる場合があります。主に国や地方公共団体、公益法人などへの遺贈や寄付が対象となりますが、その際は受け入れ先の要件や手続の期限などに注意が必要です。特に寄付については、相続税の申告期限までに確実に手続を完了させることが重要です。
法人への遺贈が非課税となる場合
法人への遺贈は原則として相続税は非課税となります。これは、法人に対する遺贈は個人への財産移転とは性質が異なると考えられているためです。
非課税となる代表的な法人としては、国や地方公共団体、公益法人、学校法人、社会福祉法人、認定NPO法人などが挙げられます。ただし、相続税の負担を不当に減少させる目的であると判断された場合は、法人を個人とみなして相続税が課税される可能性があるため、遺贈の目的や内容を明確にしておく必要があります。
相続財産からの寄付が非課税となる場合
相続人が相続により取得した財産を寄付する場合も、一定の要件を満たせば相続税が非課税となります。この場合も、寄附は国や地方公共団体、公益法人、認定NPO法人などに限定され、教育や科学の振興、社会福祉の増進に著しく寄与する事業を行う団体であることが条件です。
非課税の適用を受けるためには、相続開始を知った日の翌日から10か月以内(相続税の申告期限まで)に寄付を完了させる必要があります。また、寄付する財産は相続や遺贈によって取得したものに限られ、寄付が相続税の負担を不当に減少させる結果とならないことも要件となります。寄付先の選定から手続の完了まで、計画的に進めることが重要です。
遺贈の税制上の注意点
遺贈にかかる税金は、その内容によって複雑な計算や特別な取り扱いが必要となる場合があります。特に前述の2割加算、相続税の基礎控除額の計算の適用、生命保険金などの非課税枠の取り扱いについては、事前に十分な確認が必要です。以下では、遺贈を検討する際に押さえておくべき税制上の重要なポイントについて解説します。
相続税の2割加算
相続税の計算方法で触れたとおり、配偶者および一親等の血族以外が遺贈により財産を取得した場合、相続税額に2割加算されます。この2割加算は、代襲相続人となった孫には適用されませんが、養子縁組した孫には適用される点にも注意が必要です。
基礎控除額の計算における法定相続人の範囲
相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されますが、法定相続人数のカウントには注意が必要です。特に気を付けたいのは子の扱いで、養子は実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までしかカウントできません。受遺者が相続人でない限り税制上カウントされないのは、すでに述べたとおりです。
生命保険金・死亡退職金の非課税枠
生命保険金と死亡退職金には、それぞれ相続税の基礎控除額とは別に「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設けられています。ただし、この非課税枠を利用できるのは法定相続人に限られ、遺贈により法定相続人以外が受け取る場合は、全額が課税対象となります。
たとえば、法定相続人が3人の場合、非課税枠は1500万円(500万円×3人)となりますが、この枠は法定相続人間でのみ分け合うことができます。仮に法定相続人以外の人が生命保険金を受け取る場合、その人の分には非課税枠が適用されず、受け取った金額のすべてが相続税の課税対象となります。
専門家に相談して遺贈の税金対策を検討しよう
遺贈にまつわる税金は、相続税をはじめ不動産取得税や登録免許税など複数あり、その計算方法も複雑です。特に相続人以外への遺贈では、2割加算の適用や、不動産関連の税負担が重くなるなど、注意すべきポイントが多くあります。
また遺贈の形態によっても税金の取り扱いは異なり、包括遺贈と特定遺贈では不動産取得税の課税有無が変わってきます。一方で、公益法人などへの遺贈は一定の要件のもと非課税となるケースもあり、寄付目的の遺贈を検討する際は有効な選択肢となります。
当事務所では、遺贈の方法や懸念点の解消を数多く手がけてきました。税金面での不利益を避けつつ、遺贈者の意向を実現したいとお考えの方は、ぜひ早めにご相談ください。豊富な経験を活かし、最適な遺贈の方法をご提案させていただきます。