清算型遺贈が選ばれるケースとは?具体的な遺言書の書き方や押さえたい注意点を解説

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清算型遺贈とは

清算型遺贈とは、相続財産を処分して得た代金を、相続人や受遺者の間で分配する遺贈のことです。たとえば、遺産の中に不動産があった場合、不動産を売却してそれによって得られた代金を相続人に遺贈するといったケースが清算型遺贈に該当します。

清算型遺贈を行う場合、一般的には遺言執行者を選任して手続を行います。なぜなら、清算型遺贈をするうえでは、不動産の売却や不動産登記など、さまざまな手続が必要だからです。そのため、遺言執行者には、これらの手続に慣れている司法書士や弁護士などの専門家を選任するケースが多いといえます。

清算型遺贈の種類

清算型遺贈には、大きく分けて2つの種類があり、現金化した財産を1人に遺贈するという方法と複数人で分配するという方法です。また、それぞれのケースにおいて、すべての財産を現金化するケースと特定の財産のみ現金化するケースがあります。

清算型遺贈のやり方は、保有する財産やどのように相続したいかという遺言者の意思に応じて柔軟に決めることができます。

清算型遺贈をする遺言書の書き方

清算型遺贈をする場合、遺言書に以下のような記載をします。

遺言書



第1条 遺言者は、以下の不動産を換価し、その換価金から遺言執行に要する費用、遺言執行者に対する報酬、葬儀費用、不動産登記費用、税金などの諸費用および負債を弁済した後の残金は〇〇〇(氏名・住所・生年月日)に遺贈する。


(1)土地
所在:東京都新宿区西新宿〇丁目
地番:123番4
地目:宅地
地積:165.32平方メートル

(2)建物
所在:東京都新宿区西新宿〇丁目123番地4
家屋番号:123番4
種類:居宅
構造:木造瓦葺2階建
床面積:1階 〇〇平方メートル、2階〇〇平方メートル


第2条 この遺言の遺言執行者として、以下の者を指定する。

事務所:東京都千代田区丸の内〇-〇-〇 〇〇総合事務所
司法書士 〇〇〇〇
(生年月日:昭和〇年〇月〇日)


令和〇年〇月〇日
遺言者  住所:東京都新宿区西新宿〇丁目123番地4
     氏名:〇〇〇〇         印
     生年月日:昭和〇年〇月〇日

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清算型遺贈が行われやすい事例

清算型遺贈は、以下のような事例において特に有効な選択肢となります。それぞれのケースにおいて、清算型遺贈がどのように問題解決に寄与するのかを確認します。

相続財産が主に不動産で構成されている

相続財産が主に不動産で構成されているケースでは、清算型遺贈が有効な解決策となります。たとえば、相続人が長男・次男の2人であり、被相続人が保有する財産が3000万円の不動産と200万円の預貯金のみというケースを想定します。

この場合、「不動産は長男、現金は次男」という分け方をすると、単純計算しても相続額に2800万円もの差額が生じ、不公平な相続になってしまいます。そこで、清算型遺贈を利用して不動産を売却することで、その売却代金と預貯金を合わせた総額を2分の1ずつ分け、遺産を平等に分配することが可能です。

このように、清算型遺贈は相続財産の大部分が不動産である場合でも、相続人間の公平性を保ちながら円滑な相続を実現する有効な手段になります。

被相続人の財産に多額の借金がある

被相続人に多額の借金があっても不動産などの財産がそれを上回る場合、清算型遺贈が活用できます。通常の相続では不動産と借金が同時に相続されるため、借金の返済原資を確保するのが難しい場合があります。なぜなら、不動産を相続してもすぐに現金化することはできないからです。

しかし、清算型遺贈なら不動産を現金化したうえで遺贈されるため、遺贈を受けた財産を返済原資に充てることができます。たとえば、3000万円の不動産と2000万円の借金がある場合、不動産を現金化したうえで遺贈が受けられれば、3000万円の現金と2000万の借金を受け継ぎます。そうすると、借金を支払っても1000万円の現金が残るため、借金があっても心配をすることなく相続が受けられます。

特別世話になった人へ遺贈したい

親族以外の方への遺贈を考える場合、清算型遺贈は有効な選択肢となります。たとえば、相続人となる親族がおらず、長年お世話になった近所の方やヘルパーさんに感謝の気持ちとして遺産を残したいというケースです。

この場合、不動産をそのまま遺贈すると維持管理費や固定資産税の支払いなどが発生し、受遺者にとって予期せぬ負担となる可能性があります。そこで、清算型遺贈を利用して不動産をあらかじめ現金化しておくことで、余計な負担をかけることなく財産を遺贈できるようになります。

特に高齢者の場合、不動産の維持管理が大きな負担となることが多いため、現金での遺贈は受遺者の生活実態に即した選択といえます。また、複数の方に遺贈する場合でも、現金であれば金額を柔軟に設定できるというメリットもあります。

遺言執行者の選任方法と報酬設定

遺言執行者の選任方法と報酬設定_イメージ

清算型遺贈をするうえでは、不動産の売却や登記などさまざまな手続が必要なので、遺言執行者を選任するのが一般的です。遺言執行者は、亡くなった方の代理人として相続財産の管理をはじめ、遺言の内容を実行するために必要な手続を行います。ここでは、遺言執行者の選任方法と報酬設定について解説します。

遺言執行者の選任方法

遺言執行者の選任方法には、以下の2通りがあります。

  • 遺言で指定する
  • 家庭裁判所に選任を申し立てる

遺言での指定は、遺言者が遺言書の中で「〇〇を遺言執行者に指定する」と明記します。この場合、遺言内容を確実に実行できる人物を選び、事前に本人の承諾を得ておくことが望ましいとされています。また、遺言者が遺言執行者を指定する権限を第三者に委ねることも可能であり、「遺言執行者の指定は〇〇に委ねる」といった記載をしておくこともできます。

一方、遺言書に遺言執行者の記載がない場合、家庭裁判所に選任を申し立てることができます。申し立ては相続人、受遺者、遺言者の債権者などの利害関係人が行い、一般的には弁護士や司法書士などの専門家や利害関係のない親族が選ばれます。

遺言執行者の報酬設定

遺言執行者の報酬の定め方としては、以下のような方法があります。

  • 遺言書で定める
  • 家庭裁判所に決めてもらう
  • 遺産分割協議で話し合う

報酬額に決まりはありませんが、財産を管理する期間や財産の種類によって報酬は異なり、財産が高額であるほど報酬も高い傾向にあります。たとえば、すでに廃止されている規定ではありますが、(旧)日本弁護士連合会弁護士報酬基準では以下のように定められていました。

利益額(債務を引いた遺産額)

報酬
~300万円 30万円
300万円~3000万円以下 2%+24万円
3000万円~3億円以下 1%+54万円
3億円~

0.5%+204万円

※参照:(旧)日本弁護士連合会弁護士報酬基準│日本弁護士連合会

専門家に依頼する場合、このような遺産額に応じた報酬の決め方をする場合があり、司法書士へ依頼する場合も同様の形式であることがあります。もっとも、司法書士の場合は弁護士のように目安となる基準がないため、依頼する司法書士によって基準が大きく異なる場合もあります。

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登記手続の流れ

清算型遺贈における不動産登記の流れは、以下のとおりです。

  • 被相続人から相続人への相続登記
  • 相続人から受遺者への所有権移転登記

清算型遺贈を行う場合、所有者が変更する経緯を登記する必要があります。登記の手続は、遺言執行者が指定されていれば遺言執行者が単独で行うことができますが、指定がなければ相続人全員で行う必要があります。

清算型遺贈において、上記のような流れで登記をするのは、清算型遺贈は形式的に一度相続人に財産が移転し、そのあとで受遺者に財産が移転するという流れをたどるためです。

なお、相続人がいない場合、通常は相続財産を法人名義に変更して相続財産清算人を選任する必要がありますが、清算型遺贈で遺言執行者が指定されていれば、相続財産清算人を選任することなく登記の手続を行うことができます。

清算型遺贈における税務申告の注意点と対策

清算型遺贈において不動産を売却する場合、一時的とはいえ法定相続人に名義が移るため、譲渡所得税・住民税は遺贈によって実際の利益を得る受遺者ではなく、法定相続人に課されることに注意が必要です。

この問題と対策としては、遺言執行者が不動産売却時に発生する譲渡所得税・住民税を事前に算出し、売却代金から必要な税額を確保しておくといった方法があります。売却代金から税額相当分を控除した金額を受遺者に交付し、確保した税額分を翌年の確定申告時に納付できるよう準備することが重要です。

このような対策を怠ると、実際には売却益を受け取っていない法定相続人が税金を支払わなければならず、受遺者との間でトラブルに発展する可能性があります。これらの手続を確実に行うためにも、経験豊富な専門家に遺言執行を依頼することが望ましいでしょう。

手続が不安な場合は司法書士へご相談を

清算型遺贈は相続財産を現金化して分配する遺贈の方法であり、さまざまな相続の課題を解決できる有効な手段です。状況に応じて柔軟な対応が可能な一方、実施にあたっては所有権移転登記から税務申告まで専門的な知識に基づく複雑な手続が必要であり、遺言執行者の役割が特に重要です。相続財産の評価や売却時期の判断など、専門家の知見が成否を左右する場面も少なくありません。

当事務所では、清算型遺贈に関する豊富な実務経験を有する司法書士が、ご相談から遺言執行まで一貫してサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。経験豊富な司法書士が、最適な相続の実現に向けてお手伝いいたします。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載