遺言書がある場合の相続手続の流れや必要書類・注意点を解説

遺言書がある場合の相続とは

遺言書がある場合は、相続人や関係者は遺言書の内容を確認し、その後の手続について判断することが求められます。遺言書は法的効力を持ち、相続の方向性を明確にする重要な役割を果たします。まずはこの遺言書の種類と各々の特徴を理解することが、納得のいく相続手続になる第一歩となります。

遺言書の種類

遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、それぞれ法的な取り扱いが異なります。開封や検認の要否など違いがあるため、遺言書の種類に応じた適切な対応が必要です。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が全文を自筆で作成し、日付・氏名を記載し押印する形式の遺言書です。発見された場合は、法律で検認が義務付けられており、家庭裁判所に提出せずに開封すると、過料の対象となります。検認後は、遺言に従って相続手続が進められ、遺言執行者が指定されていればその人が手続を行います。なお、紛失や形式不備のリスクを避けるため、「自筆証書遺言書保管制度」もあわせて利用するのが推奨されています。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証人の前で遺言者が口述し、公証人が作成する遺言書です。自筆証書遺言とは異なり、検認が不要で、公証人の立ち会いにより存在と内容が公的に証明されているため、発見後は開封して内容を確認できます。また、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんのリスクが低く、遺言の有効性や効力を巡る争いが起こりにくいという利点もあります。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言者が作成した遺言書を封筒に入れ、公証人の前で封印する形式の遺言です。発見された場合、自筆証書遺言と同様に家庭裁判所での検認が必要になります。秘密証書遺言は内容を他人に知られずに作成できるのが特徴ですが、証人2名以上の立ち会いや公証人の前での封印など、手続が複雑で検認も必要なため、利用する人は少ない傾向にあります。

遺言書がある場合の相続手続の流れ

遺言書に沿って遺産分割を行う相続手続は、通常の相続とは異なる点があります。また、遺言の内容によっては遺留分の問題が生じ、遺産分割で紛争となる可能性があるため注意が必要です。遺留分侵害額請求に関してはのちほど解説するので、ここでは遺言書がある場合の相続手続の主な流れについて説明します。各段階で適切な対応を取ることで、円滑な相続手続を進められます。

遺言書の検認と法的な有効性を確認

遺言書の存在が確認されたら、公正証書遺言の場合を除いて家庭裁判所の検認が必要です。

検認が済んだら遺言書の内容を確認しますが、この段階で重要なのは、遺言の記載内容が法的に有効か、また実際に遺言が執行可能かを確認することです。たとえば、遺言者の能力に疑義がある場合、遺言が無効となる可能性があるので、家庭裁判所に遺言無効確認の訴えを提起するなど検討しなければなりません。

金融機関での相続手続

金融機関で預金の払い戻しや解約、有価証券の名義変更などの手続を行います。一般的には、手続に以下の書類が必要です。

  • 遺言書の写し
  • 被相続人の戸籍謄本
  • 相続人の印鑑登録証明書

ただし、金融機関によって要求される書類が異なる場合があるため、手続をとる金融機関で確認しましょう。相続人間での合意形成が必要となることもあるため、慎重に進めることが重要です。

不動産の相続登記

相続登記とは、被相続人名義の不動産を相続人の名義に変更する手続です。遺言書がある場合、その内容に基づいて登記を行います。相続登記に必要な主な書類は以下のとおりです。

  • 遺言書の写し
  • 遺言書の検認審判書(自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合)
  • 相続人の印鑑登録証明書
  • 不動産相続人の住民票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 亡くなった方の住民票(除票)
  • 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍(除籍)謄本

相続登記には期限があり、相続開始を知った日から3年以内に申請する必要があります。この期限を過ぎると過料が科される可能性があるため、放置することなく正確に手続を行いましょう。

相続税の申告と納付

相続税申告は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。遺言書に従う場合、遺言どおりに各相続人の相続財産を計算して申告します。相続財産の評価は不動産や事業用資産など、複雑な場合が多いため注意しましょう。これらの資産は相続税評価額が市場価値と異なることもあるので、相続税の計算には専門的な知識も必要です。

申告書作成後、管轄の税務署に提出し、納税額確定後に納付します。納税が困難な場合、分割納付や延納制度を利用できる場合もあります。

遺言書と異なる遺産分割方法

遺言書には法的効力があり、原則としてその内容に従って相続を進めます。しかし、状況によっては遺言内容と異なる遺産分割が可能な場合があります。なお、遺言書と異なる遺産分割を行う場合も、遺産分割協議書を作成したあとは上記の「金融機関での相続手続」以降の流れと基本的に同様です。 

相続人全員の同意がある

遺産分割協議により、遺言書の内容よりも望ましい分割方法が見つかった場合、受遺者を含む相続人全員の合意があれば新たな遺産分割案を実行できます。これにより、遺言者の意思を尊重しつつもより現実的で公平な分割が可能です。

ただし、この決定は遺言者の意思を覆すことになるため、将来的にほかの関係者から異議が出る可能性もあります。将来の紛争を防ぐためには合意内容を遺産分割協議書として作成し、各相続人の意思を明確に記録することが推奨されます。

遺言書が無効である

遺言書の作成には厳格な法的要件があり、これらを満たしていない場合には遺言書全体が無効となる可能性があります。たとえば、自筆証書遺言で日付や署名が欠けている場合や、証人の数が不足している場合などがこれに該当します。これらが原因で遺言書が無効と判断された場合、相続人間で新たに遺産分割の協議を行うことになります。

遺言書がある相続で注意したいポイント

遺言書がある相続では、遺言の解釈や有効性、記載されていない財産の取り扱いなど、予想外の課題に直面することも少なくありません。これらの問題に適切に対応することで、遺言者の意思を尊重しながら、相続人間の争いを防ぐことができます。

以下では、遺言書に関する主な注意点として、記載のない財産の扱い、複数遺言書の存在、遺言の無効ケースについて説明しています。円滑な相続のため、これらの情報をご確認ください。

遺言書に記載されていない財産への対応

遺言書には記載されていない財産が見つかる場合もありますが、これらの財産は被相続人の意思表示がないものとみなされるため、相続人全員の協議によって遺産分割方法を決めることになります。遺言書に記載のない財産が見つかると、ほかにも財産が隠されているのではないかという疑念が生じたり、分割方法を巡る争いが生じたりすることもあるため、トラブルの原因になります。

こうした問題を未然に防ぐために、遺言書に記載のない財産が見つかった場合は早めに詳細な財産調査を行うとよいでしょう。

複数の遺言書が存在する

遺言書が複数存在する場合、一般的に最新のものが優先されます。これは遺言者の最終意思を尊重するためです。しかし、日付の判読が難しかったり、内容に不明瞭な点があることもあります。そのような状況では、司法書士などの法律の専門家に相談するのがおすすめです。

司法書士であれば、遺言書の有効性や解釈について専門的な助言ができ、相続手続や不動産登記に詳しい司法書士に相談することで、遺言書の法的な問題点を把握できます。

遺言が無効になった

遺言書が無効となるケースとは、たとえば法律で定められた形式を守らずに作成された場合や、遺言者が認知症などが原因で判断能力がなかったときに書かれた場合などです。また、内容が読めないほど乱雑だったり、意味が不明確で解釈できない場合も無効とされることがあります。

遺言が無効と判断されると、その遺言がなかったものとして扱われ、相続人間の協議で遺産分割方法を決めることになります。話し合いで決まらない場合は家庭裁判所に判断を仰ぐことになり、法律で定められた割合に従って遺産が分配されることもあります。

遺言執行者が選任されている場合

遺言執行者が選任されている場合、遺言執行者が相続財産の管理や遺言の執行を行います。この状況では、相続人は原則として相続財産を処分したり管理したりすることができません。

遺言執行者は、通常は遺言書の中で指定されるか家庭裁判所によって選任されます。遺言執行者に選ばれるのは遺言者の親族や友人、あるいは弁護士や司法書士などです。なお、遺言執行者の職務執行に問題がある場合、家庭裁判所に解任を申し立てることも可能です。

遺言書が不公平な場合は遺留分侵害額請求を

遺言によっては、「すべての遺産を長男に相続させる」という内容により、ほかの相続人の相続分がなくなってしまうケースがあります。このような場合、ほかの相続人は遺留分侵害額請求を行うことで、一定の財産を取り戻せる可能性があります。

遺留分侵害額請求は、相続分を侵害された者から遺留分を超えて財産を受け取った相手に対して行います。請求時期は相続開始後、侵害の事実を知ったときから1年以内、または相続開始から10年以内と定められています。

遺留分侵害額請求を行う場合、まず当事者間で協議をし、それで合意に至らない場合は家庭裁判所での調停や訴訟へと進展します。請求が認められると、侵害された遺留分の限度で財産を取り戻すことができます。

遺言書で困ったら司法書士へご相談を

遺言書は相続手続の重要な指針となりますが、その効力や取り扱いは状況により大きく異なります。遺言の種類や内容、遺言執行者の有無、相続人間の合意など、さまざまな要因が相続プロセスに影響を与えます。

法定相続と遺言相続の調整、複数遺言書の優先順位、遺留分の問題など、考慮すべき法的課題も多岐にわたります。これらの複雑な問題を適切に処理し、遺言者の意思を尊重しつつ相続人の権利を守るには、専門的な知識と経験が不可欠です。

円滑な相続と将来のトラブル防止をご希望の際は、相続に精通した当事務所へお気軽にお問い合わせください。ご相談者様一人ひとりに寄り添って丁寧にサポートいたします。

記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載