【ケース別例文あり】遺言書の種類や書き方・注意点を解説

遺言書とは

遺言書とは、自分の死後にどの財産を誰へ譲るのかについて、明確に記した文書のことです。遺言書があると遺言の内容に沿って遺産分割が行われ、法定相続分とは異なる配分で相続を行うことができ、相続人以外の人へ財産を渡す「遺贈」も自由に行えます。

遺言書には、大きく分けて以下の3種類があります。

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者自身が作成する遺言書です。遺言の全文と日付および氏名を遺言者が自書したうえで、押印する必要があります。自分1人でも手軽に作成できるのが自筆証書遺言の特徴といえるでしょう。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証人によって作成される遺言書です。遺言者が口頭で公証人に内容を伝え、公証人はその通りに遺言書を作成します。公正証書遺言の作成には証人2人以上の立会いが必要であり、財産の額に応じた手数料がかかります。このように、正確な遺言書を作成できる反面、手間と費用がかかるのが公正証書遺言の特徴です。

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、公証人と証人2名以上の立会いのもと、その内容を誰にも見せることなく遺言者自身で作成する遺言書です。遺言書には本人が署名・押印し、封筒に本人と証人、公証人がそれぞれ署名・押印します。秘密証書遺言は誰にも遺言書を見せたくないときに使いますが、自筆証書遺言と比べて作成に手間がかかるのが特徴です。

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自分で遺言書を作成する流れと必要書類

遺言書ごとに作成する流れや必要書類について解説します。それぞれの違いを理解し、誤りのない遺言書を作成しましょう。なお、円滑に相続手続を行うためには、遺言執行者の指定が重要です。遺言執行者とは、遺言の内容を実現する役割を負う者のことで、金庫の解錠・取り出しや預貯金払いの戻しをはじめ広範な権限が与えられています。遺言執行者の権限で遺言を実現できるため、遺言書の内容に納得いかず手続に協力的でない相続人がいる場合などには特に役立ちます。

自筆証書遺言の作成方法

自筆証書遺言は、以下の流れで作成します。

  • 財産に関する資料を用意する
  • 相続の内容を決める
  • 遺言を書く
  • 遺言書を封筒に入れて封入する

相続する財産を特定するために、遺言書には正確な情報を記す必要があるので、まずは財産に関する資料を用意します。財産の記載が不明瞭だと相続人の間で紛争になる可能性があります。

相続させる財産が明確になったら相続の内容を決め、それに従って遺言書を作成します。自筆証書遺言では基本的に全文を遺言者が自筆する必要があり、財産目録以外の部分はパソコンでの入力や他人による代筆は認められていません。なお、現在国ではパソコンやスマートフォンによる遺言書の作成も認める方向で話が進んでおり、将来的にはそのような作成方法も認められるようになる見込みです。

また、遺言書は作成方法を誤ると無効になってしまうので注意しましょう。たとえば日付や氏名が記載されていない、一つの証書に2人以上の遺言が書かれている、遺言の内容が不明確であるといった場合、これらの遺言はすべて無効となります。

以下では具体的な遺言書の記載例を紹介します。法定相続人へ相続する場合と遺贈の場合の2パターンを紹介するので、それぞれの書き方をイメージしてください。

【遺言書の記載例1:法定相続人へ相続する場合】

遺言書


遺言者、〇〇は次の通り遺言する。


1.遺言者は下記の不動産を妻 △△(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。

(1)土地
所在   〇〇県〇〇市〇〇 〇丁目
地番   〇〇番
地目   宅地
地積   〇〇平方メートル


(2)建物
所在   〇〇県〇〇市〇〇 〇〇番地〇
家屋番号 〇〇番〇〇号
種類   居宅
構造   〇〇
床面積  1階部分 〇〇平方メートル
     2階部分 〇〇平方メートル


2.遺言者は下記の預貯金およびその一切の果実を長男××(昭和〇年〇月〇日生)、次男□□(昭和〇年〇月〇日生)に各2分の1の割合で相続させる。

〇〇銀行〇〇支店
  定期預金 口座番号〇〇〇〇〇〇
  口座名義人 〇〇


3.この遺言の執行者として次の者を指定する。
(住所)
(氏名)

〇年〇月〇日
(住所)
(遺言者の名前) 印

【遺言書の記載例2:遺贈の場合】

遺言書



遺言者、〇〇は次の通り遺言する。

1.遺言者は下記の不動産を次の者に遺贈する。

(受贈者の住所)
(受贈者の氏名)
(受贈者の生年月日)

(1)土地
所在   〇〇県〇〇市〇〇 〇丁目
地番   〇〇番
地目   宅地
地積   〇〇平方メートル

(2)建物
所在   〇〇県〇〇市〇〇 〇〇番地〇
家屋番号 〇〇番〇〇号
種類   居宅
構造   〇〇
床面積  1階部分 〇〇平方メートル
     2階部分 〇〇平方メートル


2.この遺言の執行者として次の者を指定する。

(住所)
(氏名)

〇年〇月〇日
(住所)
(遺言者の名前) 印

遺言書を書き終えたら、改ざん防止のために封筒に入れて封印します。封筒の表面には「遺言書在中」と記載し、裏面には開封を禁止する旨の文言と日付、遺言者の名前を記入し、押印します。

なお、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、自筆証書遺言を法務局へ預けることができます。隠匿や偽造を防ぐことができ、家庭裁判所の検認も必要なくなるので、保管制度は自筆証書遺言の難点を補える制度であるといえるでしょう。

公正証書遺言の作成方法

公正証書遺言は以下の流れで作成します。

  • 財産に関する資料を用意する
  • 相続の内容を決める
  • 必要書類を準備する
  • 証人を2名用意する
  • 公証役場で遺言書を作成する

相続の内容を決めるところまでは自筆証書遺言と同じですが、公正証書遺言は公証役場で遺言書を作成します。公正証書遺言を作成するうえでは、2名の証人が遺言作成過程すべてに立ち会う義務があるため、あらかじめ証人となる人を選任しておかなければなりません。

公正証書遺言を作成する際は、以下のような書類を準備する必要があります。誰に何を相続させるかによって必要書類が異なるので、状況に応じて適切な書類を準備しましょう。

相続人に相続させる場合

  • 遺言者の印鑑・印鑑登録証明書
  • 遺言者の戸籍謄本
  • 遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本

遺贈をする場合

  • 遺言者の印鑑・印鑑登録証明書
  • 遺言者の戸籍謄本
  • 受贈者の住民票

相続財産に不動産が含まれている場合

  • 遺言者の印鑑・印鑑登録証明書
  • 遺言者の戸籍謄本
  • 不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)
  • 固定資産税納税通知書または固定資産評価証明書

相続財産に預貯金や有価証券が含まれている場合

  • 遺言者の印鑑・印鑑登録証明書
  • 遺言者の戸籍謄本
  • 預貯金などの通帳またはそのコピーなど

必要書類が揃ったら証人とともに公証役場へ行き、遺言書を作成してもらいます。

秘密証書遺言の作成方法

秘密証書遺言は以下の流れで作成します。

  • 財産に関する資料を用意する
  • 相続の内容を決める
  • 遺言を書く
  • 遺言書を封筒に入れて封入する
  • 証人を2名用意する
  • 公証役場へ遺言書を提出する

作成した遺言書を封筒に入れて封入するところまでは自筆証書遺言と変わりませんが、秘密証書遺言は証人とともに公証役場で署名・押印を行います。公証人は遺言書の提出を受けると、提出された日付、自己の遺言であることおよび氏名住所を封筒に記載し、公証人・証人・遺言者が封筒に署名押印します。

証人は基本的に誰でもなることができますが、未成年者や相続人・受遺者となる人などは証人になれません。また、証人を自分で用意するのが難しい場合、公証人役場で1万円程度の手数料を支払えば証人を紹介してもらうことも可能です。

無効となる遺言書とは

無効となる遺言書とは_イメージ

遺言が無効になるケースは、形式面・内容面それぞれにいくつかのパターンがあります。遺言書の作成には細かい要件が法律によって定められているため、どのような場合に無効になるのかを知っておきましょう。

署名や押印、日付の記載がない

遺言書には本人が署名・押印したうえで日付を記入する必要があり、これらがないものは無効となります。日付は「〇年〇月〇日」と正確に明記しなければならず、「〇月吉日」といった省略した書き方は認められません。

氏名は基本的に戸籍上の本名を書きますが、遺言書を書いた人と遺言者との同一紙が認められれば芸名やペンネームなどでも有効です。押印は認印でも問題ありませんが、実印の方が遺言者が押印したものという証明力が高いので、実印を使用するのがおすすめです。

内容が不明確

遺言書には、どの財産を誰に相続させるかを正確に記載する必要があります。相続人は遺言の内容をもとに預貯金の取引や不動産の名義変更を行うので、内容が不明確では手続ができなくなってしまう可能性があります。

たとえば、「銀行預金を子に相続させる」という遺言では、どの銀行口座の預金を誰に相続させるのかがわかりません。そのため、この場合は「〇〇銀行〇〇支店 普通預金〇〇(口座番号)名義人〇〇の銀行預金を長男〇〇に相続させる」というような書き方をします。

共同遺言になっている

共同遺言とは、一つの証書に2人以上の人が遺言を書くことであり、この共同遺言は無効になります。これは、書かれた内容がどちらの遺言かが特定できないことや、片方が要件を満たさなかったときにもう片方の遺言の扱いに困るといった問題があるからです。

共同遺言は、夫婦で遺言をのこす場合などに作成されることがあります。一つの書面にまとめた方がわかりやすいといった理由で共同遺言が作成されますが、効力がない遺言書になってしまうので注意しましょう。

認知症などで遺言能力がなかった

遺言書を作成するには遺言能力が必要ですが、認知症などによって遺言能力が認められないと遺言が無効になります。遺言能力とは、遺言の際にその内容や法律的な効果を理解し、判断できる意思能力のことです。

遺言能力の有無には認知症の度合いも影響するため、軽度の認知症で遺言能力があるのか判断できないときは、司法書士などの専門家に相談するようにしましょう。遺言能力は、認知症のほかに成年被後見人や被保佐人などによる遺言の際にも問題となります。また、少ないケースではありますが、未成年によって遺言書が作成された場合はその未成年が満15歳に達していれば遺言能力が認められます。

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遺言書作成時の注意点

遺言書は、作成方法を誤るとかえってトラブルになることもあります。遺言書を作成するにあたって気を付けるべき点を紹介するので、正しい知識を持ったうえで適切な遺言書を作成しましょう。

保管場所を教えておく

遺言書を作成したら、信頼できる家族などに保管場所を教えておくようにしましょう。自筆証書遺言や秘密証書遺言は自分で遺言書を保管しなければならず、誰にも見つからない場所に置いておくと気づかれずに放置されてしまう可能性があります。

遺言書を書いたことを家族に知られたくない場合、自筆証書遺言書保管制度を利用したり遺言執行者に預けたりする方法もあるので、遺言書の保管方法はあらかじめ考えておくとよいでしょう。

財産の内容を詳しく明記する

預貯金の取引や不動産の名義変更は遺言書をもとに行われるため、財産の内容が不明確だと手続ができない可能性があります。また、詳細が分からない財産があると調査して見つけなければならず、相続人に手間と費用をかけさせてしまいます。

相続人が相続した財産をスムーズに受け取れるようにするためにも、遺産の内容は遺言書に詳しく明記しておくことが重要です。

遺留分に注意する

遺留分とは、きょうだい以外の法定相続人に最低限保証された遺産の取得分です。遺産分割の内容は遺言書で指定できますが、相続人は遺留分の範囲内であれば遺言によって減ってしまった相続分を請求できます。事前に何も説明なしに特定の人へ財産を集中させるような遺言書を作成すると、遺留分を請求されやすいので、遺言書を作成する際はこの点を意識しましょう。

遺言書作成を専門家に依頼するメリットや費用

遺言書は自分でも作成できますが、弁護士や司法書士などの専門家に依頼して行うことも可能です。遺言書作成を専門家に依頼するメリットや費用について解説するので、依頼すべきか迷ったときはこちらを参考にしてください。

専門家に依頼するメリット

遺言書作成を司法書士などの専門家に依頼するメリットとしては、以下のようなことがあげられます。

  • 無効になるリスクを避けられる
  • 内容についても相談できる
  • 遺留分に配慮できる

遺言書は形式面に不備があると、無効になるということを解説しました。自分で作成すると不備があることに気付かない可能性がありますが、司法書士などの専門家であれば遺言書の作成方法について熟知しているため、誤って無効になるという心配はいりません。

遺言書は内容も重要であり、遺言書に書くことで効果のあるものとそうでないものを判断する必要があります。また、偏った内容の遺言をのこすと相続人間でもめごとを起こす原因になるので、どのような内容が適切であるか専門家にアドバイスを受けることも重要です。

相続人の中に納得ができない人がいると、遺留分が問題になることもありますが、専門家に相談すればこの点も配慮してアドバイスを受けられるので、問題の起きにくい遺言書を作成可能です。

専門家に依頼する費用

遺言書作成を弁護士・司法書士などの専門家に依頼する場合、10〜25万円程度の費用がかかります。一般的に弁護士に依頼する方が司法書士に依頼するよりも費用が高いため、費用を安く抑えるためには司法書士に依頼するのがおすすめです。

自分で作成すれば専門家に依頼する費用はかかりません。しかし、誤りがあったときのリスクを考えると、少しでも不安がある場合には専門家に依頼した方が安心でしょう。

正確な遺言書を作成したいなら司法書士へご相談を

遺言書は円滑な遺産分割を行ううえで、とても重要な文書です。記載例では比較的単純なケースを紹介しましたが、実際にはもっと複雑なケースも少なくありません。自筆証書遺言であれば手軽に作成可能ですが、自分で作成すると無効になったりトラブルにつながったりする可能性があります。司法書士であれば正確かつスピーディーに遺言書を作成できるので、少しでも不安があれば司法書士に依頼して作成することをおすすめします。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載