遺言書とは
遺言書は、被相続人が「自分の財産を誰にどれだけ譲りたいか」といったような意思表示をするための書類です。遺言書があれば基本的には遺言の内容通りに遺産分割が行われ、遺言書がなければ相続人同士の遺産分割協議によって相続の配分を決めることになります。
遺言によって法定相続分とは異なる配分での相続を行うことができ、相続人以外の人へ財産を渡す「遺贈」も自由に行えます。
遺言書があると遺産相続がスムーズに進みやすく、遺産の分配方法について相続人同士で争うリスクを減らすことが可能です。もっとも、何の説明もなく偏った内容の遺言をのこすとかえって対立を生む可能性があるでしょう。そのため、遺言の内容についてはあらかじめ家族などと話し合っておくことが重要です。
遺言書の作成が求められるケース
遺言書はさまざまな理由で作成されますが、具体的にどのような場合に遺言書の作成が求められるのか、よくあるケースを4つ紹介します。
相続分を変更したい
法定相続分に従った相続とは違う内容の相続にしたい場合、遺言書を作成するのがおすすめです。たとえば、子がいない夫婦の一方が亡くなった場合、法定相続分に従うと親もしくはきょうだいや配偶者が相続人となります。
しかし、親やきょうだいとは折り合いが悪く、何年も連絡を取っていないといったケースも少なくありません。その場合、親やきょうだいに相続させるよりもできるだけ配偶者に自分の財産を多く譲りたいと思う場合もあるでしょう。そういったとき、相続分を変更する旨の遺言書を用意することで、配偶者へより多くの財産をのこすことができます。
相続人以外に財産を譲りたい
遺言によって相続人以外の人に財産を譲る遺贈を行うことが可能です。たとえば、子の配偶者は相続人ではありませんが、長年介護をしてくれたので財産の一部を相続させたいといったケースもあるでしょう。そんなとき、遺言によって子の配偶者に相続させることが可能です。
ほかにも、亡くなった方の子も親が健在だった場合、法定相続分の順位では子が優先されるので親は相続人になれませんが、遺言によって親にも財産を譲ることができます。このように、遺言書があれば本来相続人とならない人を相続人とすることができるのです。
相続人がいない
「亡くなった方に身寄りがない「相続人全員が相続放棄した」などの理由で相続人が1人もいないケースの場合、遺産は国庫に帰属します。しかし、できれば自分の財産を世話になった人に譲りたいと考える人も多いでしょう。そんなとき、遺言によって相続させる人を指定しておけば、遺産を国庫に帰属させることなく自身の遺産を譲ることができます。
また、財産を譲るべき特定の相手が思い付かない場合、非営利団体や自治体へ寄付するという選択肢もあります。遺言によって財産を寄付することを遺贈寄付といいますが、NPOや公益法人といった非営利団体では多くの場合遺贈寄付を受け入れています。活動を応援したい団体があれば、遺贈寄付を行うのもよいでしょう。
事業承継を行いたい
後継者に事業関係の資産を全部相続すれば事業承継が可能ですが、家族の数人が事業に関わっているケースや事業用の資産以外に目立った資産がない場合などは、遺産分割でもめる可能性があります。また、株式会社の場合は株式の数が会社の支配権に関わるので、相続によって紛争が起こるリスクもあるでしょう。
このようなケースでは後継者を1人に決め、事業に関する財産をすべて譲る旨の遺言をのこしておきます。そして、後継者以外の子には別の財産を譲るなどして調整して、不満が出ないよう適切な遺言にすることも重要です。
遺言書の種類
遺言書は大きく分けて以下の3種類があります。
遺言書の種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
自筆証書遺言 |
手軽に作成できる 費用がかからない |
形式を誤ると無効になる 見つからないリスクがある |
公正証書遺言 |
正しい形式で作成できる 偽造や紛失を防げる |
費用と手間がかかる |
秘密証書遺言 |
内容を知られずに作成できる 偽造されるリスクが低い |
費用と手間がかかる 不備がある可能性がある |
それぞれの遺言書の特徴や違い、メリット・デメリットなどについて解説します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、被相続人自身が作成する遺言書です。自筆証書遺言は全文と日付および氏名を自書したうえで、被相続人が押印する必要がありますが、財産目録はパソコンで作成することも可能です。
財産目録とは、遺言者の財産を一覧でまとめた表であり、現預金などの資産や借り入れ金などを記入し、相続財産全体を明確にするために作成します。自筆証書遺言は自分で手軽に作成できるのがメリットですが、形式に誤りがあると無効になるので、作成する際は正しい形式をよく理解しておく必要があります。
また、自筆証書遺言は本人が保管するため、遺言者が家族にその存在を知らせていなければ見つからない可能性があり、相続人によって偽造されるリスクもあるというデメリットがあります。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人によって作成される遺言書です。証人2人以上の立ち会いが必要であり、本人・証人・公証人がそれぞれ署名・押印して作成します。証人が遺言内容を聞き取り、その内容が遺言書に書かれます。
公正証書遺言は公証人によって作成されるので、正しい形式で作成できるというのがメリットです。また公正証書遺言の原本は公証役場に保管されるので、偽造される心配もありません。ただし、公正証書遺言は目的となる財産の価格に応じて手数料がかかります。また証人は遺言者側で用意しなければならないので、これらの手間と費用がかかる点は公正証書遺言のデメリットといえるでしょう。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、公証人と証人2名以上の立ち会いのもと、その内容を誰にも見せることなく遺言者自身で作成する遺言書です。遺言書には本人が署名・押印し、封筒に本人と証人、公証人がそれぞれ署名・押印します。遺言者が誰にも遺言の内容を知られたくない場合、秘密証書遺言を使うメリットがあります。また、公証人が封紙に署名するため偽造のリスクもほぼありません。
ただし、内容を確認できないため、不備があっても補正できないというデメリットもあります。また作成するのに1万1000円の手数料がかかり、証人2名を用意する必要もあるので、手間と費用がかかる点もデメリットといえるでしょう。
遺言書に書くことができる内容
遺言書に書くことができる内容は法律によって明確に定められており、その定めに従って遺言書を作成する必要があります。遺言書にはどのようなことが書けるのか、法律で定められているルールを整理して3つに分類して以下で解説します。
相続に関する事項
相続に関する事項として、主に以下のようなものがあげられます。
- 相続分の指定
- 遺産の分割方法の指定
- 第三者への指定の委託
- 遺贈
- 特別受益の持ち戻しの免除
遺言では誰にどの財産を相続させるかを決めることができ、法定相続分とは違う内容の相続分にすることも可能です。相続分の指定を第三者に委託することもできます。遺贈とは、相続人以外に財産を譲ることで、特定の人だけでなく団体への寄付も認められます。
特別受益の持ち戻しの免除は、生前贈与を特別受益の計算対象から外して遺産分割を行えるようにすることです。
身分に関する事項
身分に関する事項は、以下のようなものです。
- 子の認知
- 未成年後見人の指定
- 推定相続人の廃除・廃除の取り消し
認知は婚姻関係のない男女の間に生まれた子に法律上の親子関係を生じさせる制度であり、遺言によって認知をすることができます。また、単独親権者がなくなった際は、遺言で未成年後見人の指定ができます。なお、未成年後見には複数人指定することもできます。推定相続人の廃除は、虐待や重大な侮辱を行った相続人となるべき人を相続の対象から外すことです。
遺言執行者に関する事項
遺言では、遺言執行者を指定する、もしくは遺言執行者を指定する人を定めることが可能です。遺言執行者とは、遺言の内容を実現させるための権利・義務を負う人のことであり、相続において重要な役割を果たします。
遺言によって遺言執行者の指定がない場合、相続人などが家庭裁判所に申し立てることで遺言執行者を指定することもできます。
自筆証書遺言書保管制度とは
自筆証書遺言書保管制度とは、自筆証書遺言を法務局に預け、画像データ化して保管する制度です。法務局の窓口で遺言の外形的な確認を受け、書式に問題がないかのチェックを受けることができます。
通常、自筆証書遺言は自分で作成して保管しておくものなので、形式が要件を満たしていないと遺言が無効になるリスクがあります。しかし、保管制度を使えば自筆証書遺言のデメリットを補うことができます。公正証書遺言のように作成時に証人が必要なわけでもなく、検認も不要なので、手軽に作成できるというのもメリットです。
このように、自筆証書遺言のメリットを活かしつつデメリットを補えるのが、自筆証書遺言書保管制度の特徴といえるでしょう。
遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言の内容を実現する役割を負う人です。生前に遺言執行者を指定しておくことで、遺言の内容が確実に実現するよう備えておくことができます。遺言執行者には、相続財産の管理や遺言の執行をするため、以下のような権利が与えられています。
- 遺言書の検認
- 相続人調査・相続財産調査
- 財産目録の作成
- 貸金庫の解錠・解約・取り出し
- 預貯金払い戻し・分配
- 株式の名義変更
- 自動車の名義変更
- 不動産の登記手続
- 寄付
- 遺贈
- 相続人の廃除・その取り消し
- 保険金の受取人変更
一方で、遺言執行者には任務開始時に遺言の内容を相続人に通知し、相続財産の目録を作成して相続人に交付するといった義務もあります。
遺言執行者がいれば、遺言執行者の権限で遺言書の内容を実現できるため、遺言書の内容に納得いかず手続に協力的でない相続人がいる場合などには特に役立ちます。遺言執行者は誰でもなることができますが、財産管理を任されるという重大な責任もあるので、信頼できる家族や司法書士といった専門知識を持った人などに依頼するのが一般的です。
遺言をのこす場合の注意点
遺言書を書く際に守らなければいけないルールは法律にも定められており、方法を誤るとトラブルの原因になり、遺言自体が無効になってしまうリスクがあります。遺言書を作成するにあたって特に気を付けるべき点を紹介するので、正しい知識を得て問題が起こるリスクを減らしましょう。
遺留分に配慮する
遺留分とは、遺言があっても保証される最低限の相続分のことです。遺留分の割合は法定相続人ごとに法律で定められており、遺言によっても侵害することができません。そのため、たとえば「長男にすべてを相続させる」といった遺言の場合でも、遺留分権利者は遺留分を請求することができます。
遺言の内容に不満のある相続人がいると遺留分の問題になりやすいので、遺言で特定の親族に相続をさせようとする場合には、あらかじめ相続人となる予定の人に説明をしておくことが大事です。不公平な遺言があると遺留分の問題となり、かえって相続人同士が争う原因になるので注意しましょう。
共同遺言は作成できない
2人以上の人が同一の証書で遺言を作成する共同遺言は法律上認められておらず、作成しても無効になります。これは、本来遺言の内容は他人の意思に関係なく遺言者が自由に決めるものだからです。共同遺言を認めると、遺言者の一方が死亡した場合に他方が自分の意志で遺言を撤回できないという不都合が生じます。
共同遺言は2人以上が同一の証書で遺言を作成したものであり、証書がわかれていれば同じ封書に2通の遺言書が封入されていても問題ありません。また、1通の証書であっても両者が容易に切り離せるのであれば、これも共同遺言には当たりません。
作成した遺言書が共同遺言に当たらないか、不安がある場合には司法書士や弁護士といった専門家に相談しましょう。
自筆証書遺言と秘密証書遺言は検認が必要
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、検認をする必要があります。検認とは、家庭裁判所で相続人の立ち会いのもと、遺言書を開封して内容を確認することです。検認を経ることで、遺言書の偽造・変造を防止することができます。
検認が行われるまでの間は遺言書を開封できず、もし検認手続をしないで遺言書を開封すると5万円以下の過料が科される可能性があるため注意しましょう。なお、公正証書遺言や保管制度を利用した自筆証書遺言書の場合、検認を受ける必要はありません。
遺言が無効になるケースもある
遺言が無効になるケースには、大きく分けて形式の不備と内容の不備があります。形式の不備とは、たとえば遺言を修正する際は修正前の内容がわかるよう二重線を引き、修正文言を記載して押印するなどです。また、修正前の文言を修正テープなどで塗りつぶしてしまうとこれも形式の不備となり、遺言が無効になる可能性があります。
内容の不備としては、遺言の内容が不明確であり、どの財産を誰に譲りたいのかわからないというケースがあります。このような遺言の内容を特定できない場合、遺言が無効となることが考えられます。
そのほか、遺言者が認知症などで意思能力がない状態で書かれた遺言書や、第三者によって書かれた遺言書も無効です。遺言書を作成するうえでは正しい知識を持ち、適切な方法で作成することが重要です。
遺言書の作成や登記なら司法書士へ
遺言は方式を誤ると無効になるリスクがあります。また、遺言書の存在を知らせないままで亡くなると、遺言書が発見されないリスクもあるので注意しましょう。
遺言に関するルールは法律に明記されていますが、正しい知識がないと誤った形式・内容で作成してしまう可能性があります。遺言の内容によってはかえって相続人同士が対立する原因になりかねません。
遺言書の作成方法に関して不安な点があれば、司法書士にご相談いただくことをおすすめします。司法書士であれば登記手続までワンストップで行えるので、手間なく確実に相続手続が進められます。