特定財産承継遺言とは?特定遺贈との違いや作成するメリット・注意点を解説

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特定財産承継遺言とは

特定財産承継遺言とは、特定の遺産を誰に承継するかを遺言書自身が指定する遺言のことです。令和元年7月の民法改正以前は「相続させる旨の遺言」と呼ばれていましたが、法改正によって条文にも特定財産承継遺言という形式が明記されました。たとえば、以下のような遺言が特定財産承継遺言にあたります。

  • 自宅の土地と建物は長男に相続させる
  • 〇〇銀行の預金は全額長女に相続させる
  • 財産のすべてを長男に相続させる

このように遺言で相続財産を指定された場合、遺言の効力発生時に指定された相続人に特定の財産が承継されます。ただし、財産のすべてを特定の相続人に相続させるといったような偏った内容の遺言を残すと、ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があることには留意が必要です。

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特定財産承継遺言と特定遺贈の違い

特定財産承継遺言と似たものに、特定遺贈があります。特定遺贈とは、遺言によって特定の財産を指定して譲渡することであり、遺産の一部または全部を無償で譲る遺贈の一種です。両者は一見似ていますが明確な違いも存在するため、特定財産承継遺言と特定遺贈の違いについて解説します。

財産を受け取れる人

特定財産承継遺言については、対象が「共同相続人」と法律で定められていることから、財産を譲る相手は相続人に限られます。

一方、遺贈の場合は相続人以外の人を受遺者に指定することも可能です。そのため、相続人以外の人に特定の財産を譲りたい場合には、特定財産承継遺言ではなく特定遺贈となります。

受け取りを拒否したい場合

特定財産承継遺言は遺産分割方法の指定という性質を持つため、指定された相続人は相続を受けることになります。そのため、特定財産承継遺贈を拒否したい場合は相続放棄をする必要があります。相続放棄を行うためには、自己のために相続があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所への申述が必要です。

一方、特定遺贈は遺贈の一種であるため、受け取りを拒むには遺言執行者やほかの相続人に対しての意思表示のみで足り、家庭裁判所への申述は必要ありません。口頭の意思表示でも放棄が可能ですが、トラブル回避のために内容証明郵便などを利用するのが一般的です。

登記手続の方法など

不動産を譲り受けた人は、特定財産承継遺言か遺贈かにかかわらず、不動産登記を行う義務が法律上発生します。登記手続は相続人であれば単独で行うことができますが、相続人以外の場合は遺言執行者が行うか、もしくは相続人全員による共同申請が必要です。

つまり、特定財産承継遺言の場合は自動的に相続人であるため単独で登記をできますが、特定遺贈によって相続人以外に不動産を譲った場合は単独での登記はできません。また、登録免許税の税率も相続と遺贈で異なり、特定財産承継遺言と特定遺贈の税率は以下のとおりです。

  • 特定財産承継遺言:0.4%
  • 特定遺贈:2%(0.4%)

※遺贈を行う相手が相続人の場合は0.4% 

特定財産承継遺言のメリット

特定財産承継遺言のメリット_イメージ

特定財産承継遺言には、相続手続を簡素化して円滑に進めることができます。これらのメリットは相続人の負担軽減と相続手続の効率化に大きく貢献するので、具体的に詳しく見ていきましょう。

不動産の登記などの手続がスムーズになる

特定財産承継遺言では受益相続人が単独で登記申請できるため、手続が非常にスムーズになります。

特定遺贈の場合は相続人全員での共同申請が必要となりますが、特定財産承継遺言ではそうした制約がありません。つまり、ほかの相続人の協力を得る必要がないため、財産を受け取る相続人の都合に合わせて手続を進められます。

また、登録免許税率が特定遺贈の2%(相続人以外の場合)に対し、特定財産承継遺言は0.4%と、税率にも大きな違いがあります。たとえば、不動産の価格が500万円だった場合、登録免許税の額に以下の違いが出ます。

  • 特定財産承継遺言:500万×0.4%=2万円
  • 特定遺贈:3000万×2%=10万円

相続トラブルの予防効果が期待できる

遺言には相続トラブルを未然に防ぐ効果もあります。遺言がない場合、相続人全員での遺産分割協議が必要となり、意見の対立が生じるリスクがあります。また、行方不明者・認知症の相続人がいると話し合いが難航し、調停や審判に発展することもあります。

しかし、遺言を残しておけば、被相続人の意思が明確になり、特に特定承継遺言の場合は財産の帰属先もはっきりします。そのため、相続内容が不明瞭なことによるトラブルを防ぐ効果が期待できます。

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特定財産承継遺言を作成する際の注意点

特定財産承継遺言には、相続手続の簡素化や相続トラブルの予防など多くのメリットがありますが、効果的に活用するためにはいくつかの重要な注意点があります。特定財産承継遺言で失敗することがないように、以下の注意点を理解しておきましょう。

相続人の遺留分に配慮する

遺留分は相続人に認められた最低限の相続分のことであり、特定財産承継遺言では遺留分への配慮が重要です。なぜなら、遺留分を侵害する内容の遺言を作成すると、ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があるからです。そして、遺留分の請求が認められると、被相続人が予定した相続が実現できなくなります。遺留分の割合は、民法上以下のように定められています。

  • 直系尊属のみが相続人である場合:3分の1
  • 上記以外の場合:2分の1

複数の解釈ができる遺言を遺さない

特定財産承継遺言を作成する際は、文言の曖昧さによって複数の解釈が生じないよう注意が必要です。遺言の記載が不明確だと相続人間で解釈が分かれ、争いの原因となります
たとえば、「〇〇不動産を長男に相続させる」という記載だけでは、そのほかの財産の取り扱いや、その不動産の建つ土地の扱いが明確ではありません。

このような曖昧さを避けるためには、特定の財産について承継者を指定するだけでなく、残りの財産についての処分方法も明記すべきです。たとえば、「上記以外の財産については法定相続分に従って分割する」などの文言を追加することで解釈の余地を狭め、相続人間のトラブルを防止できます。

形式面の不備によって無効にならないようにする

特定財産承継遺言を残す場合、法定の方式に従って遺言書を作成する必要があります。公正証書遺言では公証人の関与がありますが、自筆証書遺言の場合は遺言者が単独で残すこともできるため、法律の要件に従って適切に作成しなければなりません

たとえば、自筆証書遺言の場合は全文をパソコンで作成すると無効になります。また、日付についても「令和〇年〇月吉日」のような曖昧な表記は避け、具体的な日付を記載する必要があります。

令和2年からは自筆証書遺言の保管制度も開始されており、法務局での保管を依頼することで遺言の紛失や改ざんのリスクを減らすことができます。そして、形式面の不備を避け、確実に遺志を反映させるためには、司法書士など専門家のアドバイスを受けながら作成することも重要でしょう。

配偶者居住権については指定できない

配偶者居住権とは、配偶者が亡くなったあとも残された方がその家に住み続けられる権利のことであり、配偶者が亡くなってから一定期間であれば住んでいる家を無償で利用できます。

配偶者居住権は被相続人の配偶者に与えられた権利ですが、設定するには遺産分割協議、遺言による遺贈、死因贈与契約のどれかで得ることができ、特定財産承継遺言では設定できないとされています。

これは、配偶者が相続財産のなかで配偶者居住権の取得を希望しなかった場合、配偶者居住権のみを放棄することができず、かえって配偶者の利益を害する可能性が高いとされているためです。

相続した不動産は早めの登記手続を

特定財産承継遺言などで不動産を譲り受けた場合、できるだけ早い段階で登記をすることが推奨されます。なぜなら、正当な権利のある第三者が先に登記をした場合、所有権を失う可能性があるからです。このことは、令和元年7月改正以降の民法でも以下のように明記されています。

第八百九十九条の二

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

※引用:民法第八百九十九条の二│e-Gov法令検索

正当な権利のある第三者とは、特定財産承継遺言の対象となる不動産の売却を受けた人などです。たとえば、遺言に従って長男が不動産を相続したにもかかわらず、次男が勝手に自分へ登記を移したうえで第三者に売却した場合、次男から不動産を購入した第三者が登記をすれば長男は不動産の所有権を失う可能性があります。

このようなリスクがあるため、遺言によって不動産を取得した場合は速やかに登記をすることが重要です。

特定財産承継遺言でお困りなら当事務所へ

特定財産承継遺言は、特定の遺産を指定された相続人に直接承継させる遺言です。特定財産承継遺言があると、相続開始と同時に財産が相続人に移り、煩雑な手続を簡略化することができます。また、登録免許税が遺贈よりも優遇されています。

こうしたメリットを最大限に活かすためには、法的要件を満たした適切な遺言書の作成が不可欠です。当事務所では、遺留分への配慮や明確な表現の選択、法定方式への準拠など、万全の注意点を踏まえた遺言書作成をサポートしています。

あなたの意思を正確に反映し、将来の相続トラブルを未然に防ぐアドバイスによって、安心の相続対策をご提案いたします。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載