遺言書の検認とは
遺言書の検認とは家庭裁判所で遺言書を確認するための手続です。一部の遺言書を除いて法律で義務づけられており、手続は申請の申立人や相続人立ち会いのもとで行われます。
検認の主な目的は、遺言書の内容を明らかにし、その存在を相続人に知らせること、そして遺言書発見後の偽造・隠ぺい・改ざんを防ぐことにあります。手続が必要であるにもかかわらず対応しないと経済的負担やトラブルのリスクを負うことになるでしょう。遺言書を発見したときに意識したい基本的なポイントとして挙げられるのは、次の3つです。
検認が必要な遺言書
公的機関でない場所(自宅や貸金庫など)で原本が見つかる遺言書は、家庭裁判所での検認を必要とします。具体的には、次のようなものが挙げられます。
自筆証書遺言書(保管制度を利用していないもの)
全文手書きで生前自ら封印した遺言書であり、このあと解説する法務局の保管制度を利用していないものは検認を必要とします。自宅や貸金庫から見つかるものや、知人・友人が預かっているものだけではなく、司法書士などの専門家が原本を持っていた場合なども検認は必要です。
秘密証書遺言書
封筒の中身は本人が作成するものの、封印は公証役場で証人2名の立ち会いのもとで行われる遺言書です。封印後の遺言書は自宅などで管理され、死後見つかったときは検認を必要とします。秘密証書遺言の特徴として、封筒に公証人および承認の署名押印があります。
検認が不要な遺言
一方、公証役場や法務局で原本が見つかる遺言書については、その証明が公的機関でなされているため、法令で検認は必要ないと定められています。必要な原本の証明さえあれば、そのまま預貯金の解約や相続登記などといった財産の名義変更手続を進められるのです。
自筆証書遺言(保管制度を利用しているもの)
令和2年7月10日に開始された法務局の保管制度(自筆証書遺言保管制度)は、自筆証書遺言を対象に法務局の遺言書保管所で預かる制度です。本人が亡くなったあとは、相続人などの請求により、法務局に対し遺言書情報証明書を請求して相続手続に活用できます。
公正証書遺言
遺言者本人と公証人との間で内容を確認しながら、証人2名の立ち会いのもと公証人が作成する遺言書です。原本は公証役場で保管されており、その写しである正本・謄本があれば相続手続を進められます。
検認当日に欠席しても問題ない?
遺言書の検認を申し立てると、指定された期日に申立人が家庭裁判所に出向く必要があります。検認日の欠席は申立人に限り認められません。そのほかの相続人については、各相続人の判断に委ねられます。
申立人の欠席は不可だがそのほかの相続人は任意
家庭裁判所へ手続を行った申立人は、遺言書の検認期日に必ず出向く必要があります。申立人本人の欠席は認められませんが、申立人以外の相続人の出席は任意になります。なお、この申立人以外の相続人の代わりに弁護士が代理人として出席するケースは認められています。
欠席した場合のデメリット・リスク
申立人以外は遺言書の検認期日に欠席してもペナルティはないものの、相続に関する重要な判断や手続に影響が出ることがあります。具体的には、次のようなことがいえます。
申立人が出席しない場合
検認そのものを行えず、あらためて期日を定めてもらう必要があります。家庭裁判所のスケジュールや混雑状況によっては、新しい期日まで長く待たされる可能性があり、その間の相続手続は保留されてしまいます。
申立人以外の相続人が欠席した場合
家庭裁判所から送られてくる遺言書のコピーについて、欠席者については送付されません。内容を確かめたいときは、申立人やそのほかの出席者などに、共有してもらう必要があります。遺言書の内容がわからない間は、相続に関する対応が難しく、特に期限のある重要な手続(相続放棄など)に影響が出てくる可能性が高まります。
遺言書の検認の流れ

検認期日の出欠は、あらかじめ遺言書検認の流れを知っておくと判断しやすくなります。一般的な手続の流れは次のとおりです。
家庭裁判所への申し立て
遺言書の検認の申し立ては、一般的に書面の保管者もしくは発見者が行うことが多く、亡くなった人(遺言書を作成した人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で手続します。手数料は1通につき800円とされ、申し立てでは、主に次の書類が必要です。なお、相続状況に応じて準備する書類の数は異なるので注意しましょう。
- 検認申立書
- 遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 検認期日の通知
検認期日の通知
検認の申し立てが受理されたのち、家庭裁判所から日程調整のための電話連絡が来ます。電話で都合の良い日程を答えると、これをもとに検認期日が決定され、すべての相続人に「検認期日通知書」と「出欠回答書」が送付されます。
なお、日程調整のための連絡は申し立てから1週間から2週間程度、検認期日は申し立てから1か月から2か月となるのが一般的です。
検認当日の具体的な流れ
検認期日の当日は、それぞれ指定された持ち物を携帯して来所します。当日までに新たに取得すべき書類はありませんが、検認済証明書の交付手数料のほか、以下を準備する必要があります。
- 未開封の遺言書
- 検認期日通知書
- 本人確認書類(運転免許証など)
- 印鑑(申立書に押印したものと同じもの)
- 150円分の収入印紙(検認済証明書の交付手数料)
検認済証明書の発行
期日に検認が済むと、その日のうちに証明書を発行してもらえます。発行される証明書は、相続手続のため遺言書に添付しなければなりません。検認済証明書が複数枚必要となる場合は、必要となる分だけ手数料を納付しましょう。
遺言書の検認をスムーズに行うためにできること
遺言書の検認手続をスムーズに進めるためのポイントは、裁判所との日程調整と専門家の活用です。具体的には、次のようなことが言えます。
裁判所との日程調整を慎重に行う
電話による検認期日の調整では、複数提示しておくとよいでしょう。先の予定になるため、できるだけ「確実に空いている日」を検討し、出席できる日を整理しておくと良いでしょう。あらかじめ、ほかの相続人に空いている日を共有してもらうことも大切です。
専門家に依頼する
遺言書の検認に関する対応が難しいときは、弁護士への依頼を検討しましょう。申し立ての手続から期日の出席まで代行でき、特に相続人が複数いる場合は有効です。相続人同士の予定調整や連絡のやりとりが不要になり、必要に応じて検認後の手続も任せられます。
遺言書の検認における注意点・知っておきたいこと
遺言書の検認は、その効果・目的を正しく理解することが大切です。ほかにも、遺言書の内容次第で追加の手続が必要となる点に注意しなければなりません。
検認済=遺言書は有効というわけではない
遺言書の検認手続は、内容の法的効果を保証するものではありません。開封してみると、自筆証書遺言にもかかわらずワープロで作成されている・修正が適切な方法で行われていないなどの理由により、効果がないと判断されることもあります。
地域や時期によっては検認期日が決まりにくい
遺言書の検認件数は、近年の高齢化の影響で増加傾向にあります。検認を行えるのは基本的に平日のみであり、大型連休などがあると家庭裁判所の対応が間に合いません。このような理由で、地域や時期によってはなかなか検認期日が決まらないことがあります。
遺言執行者の選任申立が必要となることがある
検認期日に判明する遺言書の内容によっては、その実現ができる「遺言執行者」の選任が必要となることがあります。一例として、相続人の廃除や子の認知など、相続人の構成を変更させる事柄が記載されている場合が挙げられます。このような内容がわかった場合、家庭裁判所であらためて選任申し立ての手続をしなければなりません。
検認を経ずに開封するとどうなるのか
検認が必要にもかかわらず手続せずに遺言書を開封した場合、5万円以下の過料に処せられます。また、開封した場合で深刻化しやすいのは、ほかの相続人との間で起きる問題です。
発見した人だけが遺言書の中身を直接確認できる状況があると、その間に「中身をすり替えられるのではないか」「内容を書き換えられるのではないか」といった疑念を周囲の人に生じさせます。その結果、身に覚えがなくても遺言書の内容に問題があるとされ、訴訟により無効とされてしまうかもしれません。
遺言書の内容に納得できないときはどうすべきか
遺言書の検認は、書面の有効性を確認する手続であり、内容の公平性を保証するものではありません。そのため、遺産分割の内容に不公平さを感じたり、不審な点がある場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、新たな分割方法について話し合うことが可能です。もし、この話し合いが難航する場合は、以下の手続を検討しましょう。
遺言の内容に納得できないときの対応(一例)
- 遺産がほとんどもらえない内容のとき:遺留分侵害額請求の手続
- 有効性について不審な点があるとき:遺言無効確認訴訟の提起
遺言書の検認で困ったときは専門家に相談を
自筆証書遺言(保管制度未利用)と秘密証書遺言は、家庭裁判所での検認手続が必須です。検認期日の来所については、申立人本人に限り欠席できず、そのほかの相続人は欠席もしくは代理人による出席が可能とされます。
検認期日を決めるにあたっては、裁判所に希望日を提示するための予定の整理・調整が面倒になるほか、必要書類を揃えて手続する手間があります。対応が難しいとお悩みの方は、当事務所にご相談ください。