遺贈の相続税はいくら?負担を減らす方法と払えないときの対策を解説

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遺贈は相続税の対象

遺贈とは、遺言書によって財産を譲渡することです。遺贈の特徴は、財産の受け取り手である受遺者を自由に指定できる点にあります。これに対して、法律で定められた相続人への相続は、法律で定められた相続人に財産が引き継がれるため、この自由度の違いが遺贈と相続の主な違いです。

また、遺贈も相続と同様、相続税の対象となります。これは、被相続人の死亡時に財産が受遺者に移るという点で、相続と同じ効果があるからです。そのため、受遺者は遺贈を受けた時点で、相続税の申告と納税が必要です。

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遺贈の相続税の計算方法

遺贈を受けた場合に、相続税をどのように計算するかについて解説します。受遺者は被相続人とどのような関係にある人か、法定相続人は誰なのかなどによって計算方法が変わるので、具体的な計算例も確認しながらしっかり理解しておきましょう。

相続財産の総額を算出

遺贈による相続税を計算する最初のステップは、遺産総額を正確に把握することです。具体的には、土地・建物などの不動産、預貯金、株式・投資信託などの有価証券、貴金属、美術品など、被相続人が所有していたすべての財産を洗い出し、それぞれの評価額を合計します。預貯金や不動産といった基本的な財産に加え、見落としがちな生命保険金や死亡退職金なども確認する必要があります。

法定相続人数の基礎控除の計算

次に法定相続人数をもとに基礎控除額を計算します。基礎控除の計算式は、以下のとおりです。

3000万円+600万円×法定相続人数

たとえば、法定相続人が配偶者と子2人の場合、法定相続人は3人なので、基礎控除額は以下のように計算できます。

3000万円+600万円×3人=4800万円

なお、基礎控除額の計算においては法律で定められた相続人の数のみがカウントされます。そのため、遺贈を受けた人がいる場合、その人が法定相続人でなければこの数にはカウントされません。

課税遺産総額を分割する

次に相続税の課税対象となる金額を算出します。まず、先ほど計算した基礎控除額を相続財産の総額から差し引き、これが課税遺産総額となります。たとえば、相続財産が1億円で基礎控除額が4800万円なら、課税遺産総額は5200万円です。この遺産を受け取ったのが3人の法定相続人と、遺贈を受け取った孫Cと仮定した場合の金額は以下のとおりです。こちらを例に相続税を計算してみましょう。

  • 配偶者:2080万円
  • 子A:1040万円
  • 子B:1040万円
  • 孫C:1040万円

相続税を計算する

相続税は、相続や遺贈で取得した金額によって税率が決まります。詳しくは以下のとおりです。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1000万円以下 10%
1000万円~3000万円以下 15% 50万円
3000万円~5000万円以下 20% 200万円
5000万円~1億円以下 30% 700万円
1億円~2億円以下 40% 1700万円
2億円~3億円以下 45% 2700万円
3億円~6億円以下 50% 4200万円
6億円~ 55% 7200万円

※参照:No.4155 相続税の税率|国税庁

この税率表に従って、先ほどの財産額から実際の相続税を計算します。

  • 配偶者:2080万円×15%-50万円=262万円
  • 子A:1040万円×15%-50万円=106万円
  • 子B:1040万円×15%-50万円=106万円
  • 孫C:(1040万円×15%-50万円)×120%=127万2000円

なお、受遺者が一親等の血族(子、父母、被相続人と養子縁組した人物、代襲相続人となった孫)および配偶者以外である場合は、相続税額に2割の加算が適用されます。そのため、孫Cの相続税のみが2割加算となり127万2000円になります。

相続税の負担を軽減させる手続方法

相続税の負担を軽減させる手続方法_イメージ

相続税の課税価格は、各財産の評価額によって決定されます。現金や預金は額面がそのまま評価額となりますが、不動産や自社株式などで、特定の条件が揃っている場合、相続税の負担を軽減することが可能になります。ここでは、遺贈を受けた財産のうち相続税の負担を軽減可能な不動産と株式について解説します。

土地の評価額を抑える

相続税対策として土地の評価額を抑える方法はいくつかありますが、そのうち特に活用されるケースが多いのは小規模宅地の特例です。小規模宅地の特例とは、一定の条件を満たす土地について相続税評価額を最大80%減額できる制度です。居住用の土地であれば330平米まで、事業用であれば400平米までの土地が対象となります。

居住用宅地と事業用宅地、それぞれ適用される要件があるので、以下で2つに分けて解説します。

居住用土地

被相続人の居住用土地の場合、たとえば相続人が以下のような条件に該当すると、特例を受けることができません。

  • 相続開始前3年以内に日本国内の別の家屋に居住していた場合
  • 相続開始時に自身が所有する家屋に居住している場合

事業用宅地

事業用土地についても、以下を満たさない場合は対象外となります。

  • 被相続人などが事業に使用していた土地
  • 相続税申告期限までに事業を引き継ぎ、継続すること

なお、そのほかにも適用条件や適用限度面積、減額割合などが細かく定まっており、貸付事業用宅地なども適用を受けられる場合があるので、詳しく知りたい場合には、以下の国税庁公式サイトをご参照ください。

自社株の評価額を抑える

相続発生後に自社株の評価額を抑える有効な方法として、死亡退職金の活用があります。死亡退職金は会社の負債として計上されるため、相続税の負担を軽減できる効果があります。自社株の相続や遺贈において注意すべき点は、相続税の納付資金の確保です。

上場企業の自社株であれば市場での換金が容易なため、相続税の納税資金を準備しやすいでしょう。さらに、被相続人が勤務先が上場企業であり、その福利厚生としてその株式を保有していた場合には、死亡退職金の非課税枠などを活用することで、相続税評価額を抑えることも可能です。このように評価を抑えつつ、現金化して納税資金に充てるといった柔軟な対応が取れます。

なお、死亡退職金を法定相続人に支給する場合、1人あたり500万円までの非課税枠が設けられているため、相続税の節税効果がありますが、相続人以外への遺贈ではこの非課税枠は使えません。これについては、のちほど詳しく解説します。

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相続税が支払えない場合の対処法

遺贈によって受け取る財産が高額である場合、それにともなって相続税も高額になるため支払いが難しい場合もあります。そういったときの対策方法を解説するので、ここで紹介する対策を参考にして、計画的に資金を準備しておきましょう。

相続財産の売却代金を納税に充てる

遺贈で受け取る財産において、換金額の高い不動産や株式を売却することで、相続税の支払いに充てるというのが有効な対策になります。ただし、売却をする際は、ほかの相続人の承諾を得ることが必要ですが、遺言執行者が選任されている場合は遺言執行者が単独で売却を行うことが可能になります。

また、不動産の場合、立地条件や市場動向によって売却のしやすさが大きく異なります。さらに、解体費用や修繕費用が必要になるケースもあるため、不動産業者に相談して売却の可能性と価格の見込みを確認したほうがよいでしょう。

株式の場合、上場株式であれば比較的売却が容易ですが、非上場株式の場合は買い手を見つけることが難しく、会社やほかの株主との調整が必要になることもあります。

延納・物納を活用する

相続税は原則として現金での納付が求められますが、一括納付が困難な場合は、延納制度の利用を検討しましょう。対象となるのは10万円を超える相続税であり、一定の要件を満たせば最長20年までの分割納付が認められます。ただし、延納期間中は利子税が発生するので、どのくらいの期間延納をするかは状況に応じて検討が必要です。

この延納でも納付が困難な場合は物納の利用が可能です。物納では、相続財産を国に譲渡することで納税に代えることができます。物納できる財産には、以下のような優先順位があります。

  • 第1順位:国債・上場株式・不動産など
  • 第2順位:非上場株式
  • 第3順位:動産

担保権が設定されている不動産や境界が不明確な土地、管理費用が高額となる不動産などの財産は物納が認められません。また、延納の許可を受けたあとでも納付が困難になった場合、申告期限から10年以内であれば、まだ分納期限が到来していない税額部分を物納に切り替えることができます。

遺贈における税金の注意点

遺贈によって相続税が発生する際の注意点を紹介します。ケースによっては相続税以外にも発生する税金があるので、相続税に限らずどのような税金を支払う必要があるのか、事前にすべて確認したうえで計画的に税金の納付を行いましょう。

遺贈を受け取る人が相続人以外の場合の非課税枠について

死亡退職金や死亡保険金は、被相続人の死亡時点で発生するため通常の相続財産とは性質が異なりますが、相続税の計算上は相続財産として扱われます。そして、相続人が死亡退職金や死亡保険金を受け取る場合、法定相続人1人あたり500万円の非課税枠が適用されます。たとえば、法定相続人が3人いる場合、合計1500万円までが非課税となります。

しかし、遺贈により相続人以外の人が受け取る場合、この非課税の特例を利用することができません。つまり、生命保険金や死亡退職金の全額が課税対象となり、相続人の場合と比べて税負担が大きくなります。

そのため、遺言で保険金や退職金の受取人を指定する際は十分な注意が必要です。

相続税以外にもかかる税金がある

遺贈により不動産を取得した場合、相続税のほかにも発生する可能性のある税金があります。まず、遺贈によって不動産の所有権移転登記を伴う場合、登録免許税が発生します。登録免許税は相続の場合でも発生しますが、以下のように遺贈と相続では税率が異なります。

  • 相続:不動産評価額×0.4%
  • 遺贈:不動産評価額×2%

また、不動産取得税の対象について、地方税法では以下のように定められています。

第七十三条の七

道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。

一 相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得

※引用:地方税法第七十三条の七|e-Gov法令検索

つまり、相続人以外への特定遺贈に対しては不動産取得税がかかるということです。不動産取得税は、以下の計算式で計算できます。

不動産の評価額×税率(4%)=税額

遺贈に関する疑問は司法書士へご相談を

遺贈は相続と同様に相続税の対象となり、相続財産の評価、基礎控除の計算、課税遺産総額の按分など、複雑な計算過程を経て税額が決定されます。

注意が必要なのは、法定相続人以外への遺贈では相続税額に2割の加算があること、また死亡退職金や死亡保険金の非課税枠が適用されないことです。また、不動産の遺贈では、相続税のほかにも登録免許税(評価額の2%)や不動産取得税が必要になる場合もあります。

このような複雑な遺贈手続や不動産の所有権移転登記を、経験豊富な司法書士がワンストップでお手伝いいたします。遺贈について不安な点があれば、お気軽にご相談ください。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載