エンディングノートと遺言書の違いとは?使い分けのポイントや法的効力を解説

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エンディングノートとは

エンディングノートとは、親族や大切な人に向けて、自分の死後や判断能力が低下した際に備えた情報や希望をまとめておく資料です。法的に何かを実現する効果こそないものの、万が一のときに家族に知ってほしいこと・やってほしいことを自由形式で伝えるために利用されます。

自分の情報を関係者に伝えるための手段

人生の終末期には、その財産の分割に関することだけでなく、さまざまな対応が発生します。それは死亡届の提出や社会保険の解約に留まりません。具体的には、葬儀や終末期医療に関すること、身の回りの整理、欠かさず行っていた習慣、毎日使っていたスマートフォンの取り扱いなどが挙げられます。

これらについて自分の希望を叶えたいときは、あらかじめ必要な情報を関係者に伝えなくてはなりません。背景事情(これまでの人生の歩みなど)についても、必要とあらば知っておいてほしいものです。これらの生前の情報や伝達事項を整理し、実際に伝えるための手段として活用するのがエンディングノートです。

エンディングノートに載せる内容の例

エンディングノートに記載する内容は自由であり、必要と思えることは何でも書き込めます。作成するときは「残された家族に影響する可能性があること」のうち、重要度が高いものから整理するのが一般的です。具体例を挙げると、次のようになります。

自分の基本情報

  • 氏名、住所、生年月日、血液型
  • 家族構成、家系図
  • 身分証明書の番号
  • 社会保険の番号

医療や介護に関する希望

  • 持病や服薬に関する情報
  • 希望する介護の方法
  • 入居したい施設の情報
  • 終末期医療に関する希望
  • 臓器提供に関する希望
  • かかりつけ医の情報

葬儀に関する希望

  • 宗教、宗派、葬儀の形式
  • 希望する葬儀社や斎場
  • 納骨方法や場所、お墓
  • 誰に喪主をやってもらいたいか
  • 誰に参列してほしいか
  • 遺影に使ってほしい写真

継続的に発生する支払いの情報

  • 定期購入している契約情報
  • インターネットサービスの契約情報
  • 上記以外の契約情報

そのほかの情報

  • ペットの基本情報および希望(譲渡先、譲渡方法など)
  • 友人、知人など近しい関係者の連絡先
  • 自分のプロフィール(自分史、思い出、経歴、趣味など)
  • 運用中のSNSやブログに関する情報
  • デジタル遺品に関する情報(スマホのパスワードやログイン情報など)

上記以外にも、財産やローンの返済状況、貴重品や遺言書の場所などを記載しておくことで、スムーズな遺産分割への着手が可能になります。

また、近年ではデジタル遺品・デジタル遺産に関する情報を残しておくことも重要視されます。具体的には、スマートフォンやパソコンおよびそのデータに関することです。遺族が本人の希望に沿って「SNSアカウントを操作したい」「オンラインで取引していた金融資産を管理したい」といった場合に、情報がないためセキュリティを解除する操作ができず、希望を叶えられないケースがあるためです。

エンディングノートを作成する目的とメリット

エンディングノートの最大の目的は、万が一に備えて自分の想いや希望、必要な情報を整理し、家族に伝えることです。法的効力はありませんが、相続や手続をスムーズにし、家族の負担を軽減する手助けとなります。

具体的には、ノートに必要な情報をまとめておくことで、相続手続や遺品整理、葬儀などがスムーズに進められる可能性が高まります。残された人が判断に迷ったり、望まない形で見送られたりする事態も防げるでしょう。

また、エンディングノートの作成プロセス自体にもメリットがあります。ノートを書きながら人生を振り返り、家族や友人との思い出を整理することで、充実した人生を実感しつつ、大切な人に伝えたい事項を整理することができるでしょう。終活の進捗状況を管理するツールとしても活用でき、計画的な準備を進める助けとなります。

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遺言書とは

遺言書とは、法律で定められた方式で作成される書面で、遺産の分配方法や身分行為(子の認知など)について記載するものです。遺言者の死後に法的効力を持たせることができ、作成した人の財産をどのように取り扱うか定めておくために利用されます。

最後の意志を遺産分割に反映させる手段

遺言書は、所有する財産をどうするかを指定し、法律上の効果を持つことができる手段です。その効果は作成者が亡くなったときから生じ、相続人が内容に同意すると、遺言書に基づいて土地・建物の名義変更(相続登記)や預金の払い戻しなどを行えます。

また、遺言書では、内容の実現にあたる人物として「遺言執行者」を指定できます。相続人が高齢である、遠隔地に住んでいるなどの事情で遺言に沿った財産の分配手続ができそうにないときは、遺言執行者を指定しておくと安心です。

なお、この遺言執行者は相続人以外の第三者が請け負うことができ、司法書士や弁護士などの専門家も指名することが可能です。

遺言に記載する内容の例

遺言に記載できる内容は民法で定められており、これを「遺言事項」と呼びます。下記はあくまでも一例ですが、指定することで法的効果を持つ事項の代表例として挙げられます。

  • 遺産分割の指定(誰に・何を・どの割合で分配するか)
  • 相続人の変更に関する事項(子の認知、相続廃除)
  • 後見人や後見監督人の指定(相続人に未成年者がいる場合)
  • 一定期間に渡る遺産分割の禁止(トラブルの可能性がある場合など)
  • 祭祀財産の承継(仏壇やお墓を誰が受け継ぐのか)

なお、これらの遺言事項以外にも、自由に想いを伝える「付言事項」を記載することは可能です。ただし付言事項には法的効力がないため、実現したい内容は遺言事項として記載しなければなりません。

選択できる遺言方式には3種類ある

遺言書の作成方法(遺言方式)には厳格な決まりがあるものの、3種類のなかから状況に沿うものを選べます。よく選ばれるのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。

自筆証書遺言

本人が全文を自筆で書き、日付・氏名を記載して押印する方式です。費用をかけずに作成できる反面、方式違反や保管中の紛失・滅失などを理由に無効となるリスクがあります。近年では、法務局の遺言書保管所で預かる制度が開始され、これらのリスクを小さくできるようになりました。

なお、遺言書にあわせて用意されることが多い財産目録については、手書きにこだわる必要はなく、パソコンなどを使用して作成することが認められています。手書きでなくとも法的効力を有するため、より効率的かつ正確に資産を記録することが可能です。

公正証書遺言

全国の公証役場において、公証人が本人から内容を聞き取り、証人2名以上の立ち会いのもと作成する方式です。作成時に費用がかかりますが、遺言書の法的効果が確定しやすい形式のため、無効となるリスクが小さく、最後の意志を実現するための安全・確実な方法だと言っても差し支えありません。

秘密証書遺言

本人が作成した遺言書を封筒に入れ、公証人と証人の面前で封印する方式です。誰にも内容を知られたくない遺言を希望する場合のメリットが大きいものの、方式が複雑で無効となるリスクが高く、公的機関による保管制度も整備されていないため、あまり利用されていません。

遺言書を作成する目的とメリット

遺言書を作成するメリットは、その書面により、特段の事情がない限り生前の希望に沿った遺産分割を実現できる点です。死後の財産の分割について相続人同士の話し合い(遺産分割協議)に委ねると、意見の対立から争いに発展するリスクがありますが、遺言があれば協議を経ることなく手続を進められます。

また、死後は遺言書の内容に基づいて速やかに相続手続に着手できるため、相続人の負担軽減にもつながります。相続人間で遺産の分け方について合意が得られなければ、調停や審判といった裁判所の手続を経て名義変更などを行うことになります。一方、遺言があれば、原則としてその内容に沿ってスムーズに手続を進めることができます。

エンディングノートと遺言書の4つの違い

エンディングノートと遺言書の4つの違い_イメージ

エンディングノートと遺言書は、どちらも死後の手続に関する情報や希望を残すための手段として活用されています。しかし、両者には明確な違いがあり、その特徴を理解することで適切な使い分けが可能となります。

法的効力があるか

エンディングノートには法的効力がありません。葬儀の方法や遺品の処分など、遺族に対する希望を記載することはできますが、その実現は残された人の判断に委ねられます。財産承継に関する希望も拘束力を持たないため、最終的には法定相続人全員による遺産分割協議で決定されます。

一方、遺言書は、民法で定められた方式に従って作成されていれば法律上の効果を発揮します。財産をどう分配するのか指定することで、相続人全員が遺産分割協議を望む場合や、相続人の一部が遺留分の侵害を主張する場合などにならない限り実現可能です。

記載する内容は何か

エンディングノートは記載内容に制限がなく、幅広い情報を残せます。医療・介護の希望、葬儀・埋葬の方法、各種ログイン情報、ペットの世話に関すること、大切な人へのメッセージなど、必要と思えることを何でも書き込んで構いません。

遺言書に記載できる内容は、民法で定められた遺言事項に限定されます。追加で法的効果のない「付言事項」を設けて想いを伝えることも可能ですが、書面の役割はあくまでも財産の処分に関する意思表示です。付言事項に関連性の低い情報や伝達事項を細かく書き込むのは、現実的とは言えません。

作成方法に決まりがあるか

エンディングノートは作成方法に決まりがありません。市販のノートへの手書きや、パソコンで作成した文書の印刷だけでなく、情報漏洩リスクがない限り家族も閲覧できる電子データ(ワードなど)による作成も可能です。様式や記載事項の追加・修正も自由であり、必要に応じて随時更新できます。

遺言書では、民法で定められた方式に厳格に従う必要があります。指定された方法を守ることによって効力が生じ、その作成目的が果たせます。

作成後の保管方法はどうするか

エンディングノートの保管方法は自由です。もっとも、口座情報やパスワードなど重要な個人情報が含まれることが多いため、安全な場所での保管が望ましいでしょう。保管場所は家族に知らせておき、必要なときにすぐ確認できる状態にしておくと良いでしょう。

遺言書は、内容を確認してもらい効果を生じさせるため、その存在と場所を確実に相続人に伝えられるよう保管しなければなりません。一般的には、公正証書遺言の作成や、自筆証書遺言保管制度の利用、貸金庫の利用が検討されます。

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エンディングノートと遺言書の使い分け方

エンディングノートと遺言書は、それぞれ異なる特徴と役割を持っています。エンディングノートは幅広い情報や想いを伝える手段として、遺言書は法的効力のある財産承継の手段として、それぞれの長所を活かした使い分けが重要です。両者を適切に組み合わせることで、より充実した終活・相続対策が可能となります。

それぞれの長所と短所

エンディングノートは自由な形式で作成できるため、幅広い情報や想いを残すことができます。ただし、法的効力がないため、確実に実現したい希望については、死後事務委任契約などの法的な手段を別途検討する必要があります。

一方、遺言書の長所として財産の処分についてあらかじめ決めておける点が挙げられますが、財産以外の「本人や家族の生活と密接する事柄」についての伝達手段として適していません。

両方とも作成しておくメリット

人生の終末期に必要な対応・手続の全体をカバーしたいのであれば、遺言書とエンディングノートの併用がおすすめです。遺言書で遺産分割の方法を法的に指定しつつ、エンディングノートで葬儀や遺品整理に関する希望を伝えることで、相続人の負担を軽減できる効果が見込めます。

記載内容の使い分けのポイント

遺言書の作成では、財産の分配や相続人の指定などを記載した「遺言書本体」と、財産の整理リストである「財産目録」の両方を用意するのが一般的です。エンディングノートには、遺言書に書ききれない想いや希望を自由に記載できますが、遺産分割をスムーズに進めるために、遺言書の保管場所や財産の概要も記載しておくとよいでしょう。

財産状況については、特にエンディングノートに書いておくメリットがあるものとして「日々の生活で継続的に発生している少額の支払いの内容」が挙げられます。具体的には、年会費が発生するサービスやクレジットカードの分割払いなどです。これらは財産目録から漏れやすく、解約し忘れによる損失に繋がる恐れがあるため、エンディングノートに記載しておくと良いでしょう。

相続人や遺族への伝え方

エンディングノートと遺言書は、存在と保管場所を家族に伝えておくことが重要です。特に重要なのは遺言書であり、公正証書遺言なら謄本の保管場所を、自筆証書遺言なら法務局保管制度の利用状況について知らせておくべきです。生前はあまり知られたくないと感じるときは、エンディングノートに場所を記載して、ノートのある場所が家族にわかるようにしておくと良いでしょう。

遺言書作成を専門家に相談するメリット

法的効果がある遺言書の作成は、法律や税務の専門的な知識が必要となる分野です。また、家族関係や財産状況など、個別の事情に応じて遺言書の様式や書き方も異なってくるでしょう。遺言書について専門家へ相談する最大のメリットは、遺言書が無効になるリスクを抑えることができる点です。

これらについて本人の希望を法律的な文書に落とし込むのは、専門家の得意とするところであり、不備による無効を防ぐためにも一任したいところです。このとき、必要な条項や文章を考えるときの煩雑さから解放されるのも、専門家に依頼するメリットだと言えます。

エンディングノートと遺言書で終活を万全に

エンディングノートと遺言書は、どちらも終活の一環として重要な役割を果たします。エンディングノートは葬儀や介護の希望、メッセージなど幅広い情報を自由に記録できます。一方、遺言書は法的効力を持ち、財産分配などの希望を実現することが可能になる手段です。この2つを併用することで、法的効力と情報伝達の両面から、残された家族の負担を軽減しながら生前の希望を実現できます。

当事務所では、遺言書の作成支援をはじめ、ご希望どおりの相続が実現できるよう、各種サポートを行っております。ご自身や大切な家族のために、早めの準備を始めてみませんか。まずはお気軽にご相談ください。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載