遺言書の付言事項とは?パターン別の書き方を例文付きで解説

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遺言書における付言事項の役割

遺言書に記載する内容の中には、法定遺言事項と付言事項の2つがあります。法定遺言事項というのは、主に民法の中で定められた法的な効力を生じる文言です。たとえば、相続分や遺産分割方法の指定などが、法定遺言事項の代表例です。

一方、付言事項というのは、遺言に記載をしても法的な効力を生じない文言のことです。付言事項には法的な効力はないものの、法定遺言事項だけではカバーしきれない細かな部分を伝えられ、相続人への感情面の配慮などもできるため、遺言を残すうえで大事な役割を持っています。

そこで、遺言における付言事項の効果やメリット、役割などについて解説します。

遺言の意図を相続人へ伝えることができる

遺産分割で法定相続分と異なる内容を指定する場合、相続人間に不公平感が生じやすくなります。そのため、付言事項を活用して「なぜそのような分け方をしたのか」を具体的に説明し、不満を抱きやすい相続人の理解を促すことが重要です。

たとえば、「会社を継いでくれた長男には経営基盤となる株式を」「親の介護を担った長女には自宅不動産を」といった具体的理由を示すことで、一見不平等に見える分割でも、その背景にある公平性を伝えられます。これにより、分割内容そのものへの不満や誤解から生じる日常的な家族間の軋轢を、未然に防ぐ可能性があります

遺言執行者を依頼された第三者や専門家に意図を伝えやすくなる

遺言書の内容を実現するために、遺言執行者を第三者や司法書士・弁護士などの専門家へ依頼するケースもよくありますが、法定遺言事項だけでは被相続人の真意や背景事情を十分に伝えられないケースがあります。

そこで、付言事項になぜそのような遺産分割を希望したのか、どのような想いで財産を残したのかといった心情を記載することで、第三者や司法書士・弁護士などの遺言執行者が被相続人の意図を汲み取ることが可能になります。これにより、遺言者の意思を尊重した遺産分割を実現するための手続を進めることができます。

争族(相続争い)を回避できる可能性が高くなる

付言事項は、法的紛争に発展しかねない深刻な相続対立を防ぐ役割も果たします。遺留分侵害額請求権の行使や、遺言無効といった法的手段に訴えようとする相続人に対し、被相続人の真意や感謝の気持ちを伝えることで法的手続への心理的ハードルを高める効果があります。

また、「残された家族が仲良く暮らしてほしい」「争いなく円満に解決してほしい」といった被相続人の最終的な願いを明記することで、相続人全員が冷静に話し合いの場を持ち、法的紛争を避けて円滑な相続手続へと進めるきっかけになります。これは相続発生後の家族関係を良好に保つための重要な役割といえるでしょう。

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【ケース別】付言事項の例文

【ケース別】付言事項の例文_イメージ

遺言書の付言事項は法的効力は持たないものの、円満な相続を実現する重要な役割を担います。ここでは、様々な場面に応じた付言事項の効果的な書き方と具体例を紹介するので、実際の遺言書にはどのように付言事項が書かれるのかを確認しましょう。

遺留分を請求しないようお願いする

遺留分は、相続人に認められた最低限度の相続分であり、相続人は被相続人のきょうだいを除き、遺留分の請求が可能です。そのため、付言事項によっても法的に遺留分の請求ができなくなるわけではありません。

もっとも、遺留分を請求しないようお願いをする付言事項を残しておくことで、相続人の理解を得られる可能性はあります。そこで、付言事項では相続分を決めた理由や、なぜ遺留分を請求しないでほしいのかということを説明する必要があります。

長年連れ添った妻Aは、私が病に倒れてからの5年間、献身的な看病とともに家計も支えてくれました。そこで、妻Aにはこの家で最期まで安心して暮らしてほしいとの想いから、相続財産の大半を残すことにしました。


長男B、次男Cには、この父の決断を理解し、遺留分の請求は控えてほしく思います。これが父からの最期のお願いです。

株式の相続分を決めた理由を書く

被相続人が会社経営をしていた場合、残された株式について相続人間で争いが起きることは少なくありません。特に、事業承継によって「株式のすべてを長男に相続させる」といったような場合、次男など株式を相続できなかったほかの相続人との間で、揉め事になるケースがよくあります。

さらに、事業承継では株式だけでなく不動産などの資産も引き継ぐ場合もあるため、不公平感が生じやすいという特徴があります。そのため、このような争いを避けるためには、ほかの相続財産で調整してできる限り公平な遺産分割になるよう配慮すると同時に、付言事項によって納得のいく説明を加えることが重要です。

私が経営する〇〇会社の存続は、長男Aの貢献によるところが大きく、業績悪化時も昼夜を問わず尽力してくれました。そのため、会社の株式と事業関連資産はすべて長男Aに相続させることにしました。

次男B、長女Cにも、それぞれの形で家族を支えてくれたことに感謝しています。妻Dには長年の支えに心から御礼を申し上げます。この決断を理解し、これからも家族の絆を大切にしてくれることを願っています。

葬儀方法に関する希望を書く

葬儀の方法は個人の宗教観や価値観によって異なるため、相続の際に親族間でトラブルになるケースがあります。そこで、付言事項として葬儀方法の希望を記載しておくことで、被相続人の希望に沿った葬儀の実現が期待できます。

葬儀方法について記載する場合の注意点は、遺言書が死亡直後に開示される状態にしておくことです。なぜなら、葬儀が終わったあとに遺言書を開封しても、その内容を葬儀に反映できないからです。

私の葬儀は、家族葬として身内だけで執り行ってください。親族も多く、宗教観も様々であるため、葬儀のことで負担をかけたくありません。これは私の強い希望ですので、このことで揉めることなく、今までと変わらず仲睦まじく過ごしていってください。みなの幸せを心より願っています。

養子縁組をした理由を書く

養子は実子と同様の権利を持つ相続人となるため、養子縁組によって新たな相続人が加わることになります。場合によっては、元の相続人の相続分が減ってしまうので、相続の際に両者の間でトラブルが発生することがあります。

そこで、付言事項に養子縁組を決めた理由や実子への感謝を記載することで、家族の理解を深めて円満な相続につなげることが期待できます。

孫のAは幼い頃から私になついてくれ、社会人になった今では私の介護を率先して手伝い、仏壇の管理まで心を配ってくれています。この愛情に応えたい思いから、養子縁組という形を選びました。

長男Bは同居してくれて私の日々を支え、長女Cは遠方にいながらいつも気にかけて励ましてくれました。このような家族に恵まれた幸せを感じつつ、この決断が皆の絆をより深めることを願っています。

臓器提供の意思表示をする

臓器提供の意思表示とは、自身の死後、移植医療のために臓器を提供する意思を示すものです。遺言書の付言事項に臓器提供について記載する目的は、死後の自分の臓器提供の意思を家族に明確に伝え、その決断への理解を深めてもらうことです。

もっとも、遺言書は死亡後すぐに開封されない可能性もあります。そのため、実際の臓器提供を実現するためには、意思表示カードの使用など別途正式な意思表示を行い、家族とも事前に十分な話し合いをしておくことが重要です。

私は、死後の臓器提供を希望します。この決断は、三年前に親友が移植医療によって命をつないだことがきっかけでした。1つの命が別の命を救う可能性に深く心を動かされ、家族と何度も話し合いを重ねてきました。

すでに意思表示カードへの記入は済ませており、長男A、次男Bにもその内容を伝えてあります。2人とも快く理解を示してくれて、必要な手続についても一緒に調べてくれました。私の最期が、誰かの新たな人生の始まりとなることを願っています。

子への支援や養育を求める

遺言者に未成年の子がいる場合、養育を担う相続人を指定して、その相続人には養育費用としてほかの相続人より多くの財産を相続させる場合があります。このような相続分の差異について、付言事項で理由を説明することで、ほかの相続人からの理解を得ることが期待できます。

私は、末っ子のAの養育のため、長男Bにほかの相続人より多くの財産を残すことにしました。Aはまだ15歳であり、母親も他界している今、頼れるのはAと同居している長男Bしかいません。Bは、これまでも弟思いで、Aの学校行事にも積極的に参加し、良き兄として接してくれています。

同居していない次男C、長女Dには申し訳ない気持ちですが、Aの将来を考えてのことです。長男BにはAの養育費用を含めて財産を託し、成人するまでしっかりと見守ってほしいと思います。Aが健やかに成長し、きょうだいの絆が途切れることなく続いていくことを願っています。

相続人に介護をお願いする

高齢の親族の介護が必要な場合、その負担を考慮して特定の相続人に対してより多くの遺産を残すことがあります。このとき、介護を期待する相続人を指定して、その図を説明することが重要です。そこで、付言事項では介護をお願いしたい相続人とその理由、また親族への心情を丁寧に説明する必要があります。

私の母Aは、現在要介護状態にあり、日常生活全般に支援が必要な状況です。長男Bと長女Cは、これまでも献身的に母の世話を続けてくれました。今後も変わらず母の生活を支えてくれることを願い、海外に住んでいる次女Dには申し訳ないですが、遺産の大半をBとCに継承させていただきます。

母が慣れ親しんだこの家で安らかに余生を送れるように、2人の力を貸してほしいのです。母は長年にわたり、家族全員を温かく見守り続けてくれました。これからも皆で母を大切に見守っていってください。これが私の心からの願いです。

ペットの世話をお願いする

ペットを家族同様に大切にしていた場合、特定の相続人にその世話を託したいと考えることがあります。このとき、ペットへの深い愛情とケアの重要性を説明し、継続的な世話を依頼することが大切です。そこで、付言事項ではペットの詳細な情報とともに、なぜその相続人に託したいのかという理由を丁寧に説明する必要があります。

長男Aには、私が10年間飼ってきた愛犬〇〇の世話をお願いしたいと思います。Aは犬の扱いに慣れており、いつも〇〇のことを可愛がってくれていました。そのため、〇〇の餌代や医療費として遺産の一部を残すことにしました。どうか私に代わり、最期まで〇〇の面倒を見てやってください

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付言事項を記載する際の注意点

付言事項は相続人の心に響く大切なメッセージですが、効果的に伝えるためにはいくつかの注意点があります。ここでは、付言事項を記載する際に気をつけるべきポイントを解説します。適切な付言事項は相続トラブルを防ぎ、故人の遺志を正確に伝える力を持ちます。

法的拘束力はないが、遺言内容と矛盾しないようにする

付言事項と法定遺言事項の区別がつかなくなると、法定遺言事項との整合性が取れなくなり、相続人間で混乱が生じる可能性があります。そのため、たとえば遺言本文で「不動産は長男に相続させる」と定めながら、付言事項で「この不動産は次男に譲りたい」といったような、矛盾した内容を書くことは避けましょう。

相続人全員が遺言の意図を正しく理解できるように、遺言本文と付言事項の内容は一貫性を保つことが大切です。法定遺言事項と付言事項は明確に区別して記載しましょう。

必要に応じて専門家(司法書士・弁護士)に相談する

付言事項は法的な効力を持たない文章ですが、その内容や表現方法によって遺言書全体に影響を与える可能性があります。そのため、専門家のアドバイスを受け、より適切な記載方法を選ぶのがおすすめです。

相続に強い司法書士や弁護士に相談すると、相続人の感情や家族関係にも配慮した表現方法をアドバイスしてくれます。特に重要な判断を伝える際は、専門家に相談することで円滑な相続につながります。

遺言書作成の経緯を書く

遺言書で法定相続分と異なる分割方法を指定する場合、その決断に至った理由を明確に説明することが重要です。特に遺留分に影響を与えるような内容の場合、相続人が突然の決定に戸惑いや不信感を抱く可能性があります。

たとえば、介護の貢献や事業承継の必要性など、具体的な理由を説明することで相続人全員が納得できる遺言となります。付言事項に遺言作成の背景や意図を丁寧に記載することは、相続人一人ひとりの理解を深め、円滑な遺産分割を実現することにつながります。

否定的な内容にしない

遺言書の付言事項には、前向きで建設的な内容を心がけることが大切です。批判的な言葉や非難めいた表現は読み手の感情を害し、相続手続の円滑な進行を妨げるリスクがあります。

たとえば、相続人間での財産配分に差をつける場合でも、その決断に至った肯定的な理由を丁寧に説明することで理解を得やすくなります。感謝・希望・信頼などの前向きな気持ちを中心に、家族の絆を深める機会となるような文章を心がけましょう。

遺言書の書き方に迷ったら司法書士へご相談を

付言事項は法的効力はないものの、遺言の意図を明確に伝え、相続人の理解を深める重要な役割を果たします。特に法定相続分と異なる遺産分割を指定する場合、その理由を丁寧に説明することで相続トラブルを防止できます。付言事項作成のポイントは、感謝の気持ちを伝える、前向きな表現を使う、具体的理由を説明するなどです。

ただし、法定遺言事項と混同されないよう明確に区別する専門知識も必要です。当事務所では、お客様のお考えを丁寧にヒアリングし、遺言書作成のサポートを行っています。ご家族に最期のメッセージを確実に伝えるために、ぜひ一度ご相談ください。専門家の視点から、最適な遺言書作成をお手伝いいたします。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載