遺言執行者ができること・できないこととは?役割や権限などを解説

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遺言執行者とは

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するにあたって必要な手続をする役割を担う人物です。具体的には、相続財産の目録を作成して相続人に交付するとともに、相続登記(不動産の名義変更にあたる手続)や預貯金の払い戻しなど必要な処理を行い、その効果を相続人に帰属させます。

遺言執行者はどうやって選任されるのか

遺言執行者になるための資格は特に指定されていません。遺言もしくは相続開始後の家庭裁判所での手続により、相続人、それ以外の親族、専門職などから選ばれます。遺言執行者になるべき人の数にも制限がなく、2人以上の人物を指定することも可能です。

第千六条

遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。

※引用:民法第千六条|e-Gov法令検索

第千十条

遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。

※引用:民法第千十条|e-Gov法令検索

なお、遺言執行者として指定された人は、その就職を承諾するか自分で判断することができます。相続人から催告があったときに「就職を承諾しない」と確答すれば、辞退できます。任務中でも、正当な事由をもって家庭裁判所の許可を得れば、自ら辞任できます。

遺言執行者の権利義務

遺言執行者として就職したときは、速やかに相続財産の目録を作成し、相続人に交付しなければなりません。なお、選任された人には、以下の権利義務があるとされます。

相続財産の管理や遺言執行に必要なすべての行為を行う権利と義務

遺言執行者は、遺産の分配が終わるまでその財産を適切に保管するとともに、その分配を行わなくてはなりません。就職した人には、これらに必要な権利義務が与えられます。

遺贈の履行

相続人でない人などに対する遺贈は、遺言執行者がある場合、その就職した人だけが行えるとされます。

相続人や第三者を保護するため、遺言執行者には、ほかにもさまざまな義務が課せられます。すでに触れた内容も含まれますが、具体的には以下のとおりです。

  • 就職後、任務を速やかに開始する義務
  • 遅滞なく財産目録を作成し、交付する義務
  • 第三者からの受領物につき、相続人に引き渡す義務
  • 善良な管理者の注意をもって遺言執行にあたる義務(善管注意義務)
  • 相続人から請求されたときや遺言執行の終了時、遅滞なく報告する義務
  • 自己のために遺産などを費消した場合に、利息を付して補償する義務

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遺言執行者のみができること

遺言執行者には、法律で定められた特別な権限があります。特定遺贈の実行や子の認知、相続人の廃除など、重要な手続の多くは遺言執行者でなければ行えません。これは令和元年の民法改正で、遺言執行者の権限が「相続人の代理人」から独立した存在として強化されたためです。

(その人物がいる場合に)遺言執行者のみができること

  • 特定遺贈の実行
  • 遺言による子の認知
  • 推定相続人の廃除
  • 一般財団法人設立と財産の拠出

特定遺贈の実行

特定遺贈とは「〇〇に所在する不動産の全部を△△に遺贈する」など、財産を指定し特定の人に遺贈することを指します。

遺贈の実現にあたっては、受遺者側(遺贈を受けた人)から実現を求める場合に、誰に対して請求すべきかが問題です。この点について裁判で判断が示される以前は、遺言執行者の有無にかかわらず、相続人または遺言執行者に対して請求できるとされていました。現在は「遺言執行者がいない場合は相続人に請求できるが、遺言執行者がいる場合はその人物に対してのみ請求できる」ものとなり、法律にも反映されています。

遺言による子の認知

婚姻関係のない男女間に生まれた子との親子関係を認める手続(認知)は遺言でも可能ですが、遺言者が亡くなったあとの手続については、遺言執行者だけが行えます。遺言書で就職すべき人の指定がないときは、家庭裁判所で選任してもらわなくてはなりません。就職した遺言執行者は、その就職から10日以内に認知届を提出する義務を負います。

推定相続人の廃除・取り消し

相続人廃除とは、遺言者に対して虐待や重大な侮辱を行った相続人につき、その権利を剥奪する制度です。権利を剥奪された人物は、遺産分割協議に参加したり、遺留分を得たりすることができません。廃除については、遺言でその意思を示すことができ、その実現については、子の認知と同様に遺言執行者だけが行えます。

なお、廃除が被相続人の生前に家庭裁判所によって認められている場合で、遺言に廃除の取り消しの旨が記載されていたときは、家庭裁判所の審判を経て廃除が取り消しになる可能性があります。この手続にも、遺言執行者が関与することになります。

一般財団法人設立と財産拠出

遺言では、相続財産によって一般財団法人を設立することが可能です。実際に設立する手続は遺言執行者しか行えないため、遺言または家庭裁判所での手続で選任しなければなりません。設立にあたっては、遺言に沿った定款(法人の基本ルール)の作成や、財産の拠出(300万円以上)などの手続が行われます。

そのほかの専権事項

遺言執行者には、相続財産の管理・処分に関する広範な権限があります。具体的には、預貯金の払い戻しや解約、遺産分割の実行などが含まれます。ほかには、遺言に基づく未成年後見人の指定実行も遺言執行者の専権事項です。これらの権限は相続人の同意なく行使できますが、遺言の内容に沿った執行が求められ、範囲を超えた処分はできません。

遺言執行者ができないこと

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遺言執行者には、遺言の内容を実現するための広範な権限が与えられています。しかし、その権限には明確な制限もあります。

遺言執行者にはできないこと(相続人自身で行うべきこと)として重要なのが、相続税の申告や納付です。ほかにも、遺言の範囲を超えた財産処分や、相続人間の遺産分割協議への関与なども制限されています。

遺言執行者ができないこと(相続人自身で行うべきこと)

  • 遺言にない財産の処分、分配
  • 遺産分割協議への参加
  • 相続税の申告・納付
  • そのほかの制限事項(相続放棄など)
  • 遺言にない財産の処分・分配

遺言執行者の権限は、あくまでも遺言書に記載された内容の実行に限定されます。遺言に記載のない財産について、独自の判断で処分や分配を行うことはできません。たとえば、遺言書に記載のない預貯金口座を発見した場合、その取り扱いは相続人同士の協議に委ねられます。遺言の趣旨を拡大解釈して財産を処分することも認められていません。

遺産分割協議への参加

遺産分割協議は、相続人同士で行うべき重要な話し合いです。遺言執行者は、遺言に記載された内容の実行や、遺言によらず遺産分割協議で分配を判断することへの同意は行えますが、遺産分割協議への参加はできません。遺言執行者自身に相続権がある場合はともかく、遺言執行者としての権利で自分や自分の親族のために取り分があることを主張するのは認められないのです。

相続税の申告・納付

相続税の申告および納付は、相続人や受遺者自身に帰属する義務です。遺言執行者に付されている権利は、あくまでも「遺産分割そのもの」に関することで、税務にはおよびません。やってくれるのは遺言執行とその終了の報告までであり、相続税の計算や申告書の作成については、自分たちでやるか税理士に依頼するか選択する必要があります。

そのほかの制限事項

遺言執行者には、そのほかにもいくつかの制限事項があります。たとえば、債務などを理由として実施する「相続放棄」については、遺産の承継によって本来ならば利益を受けるはずの相続人自身で判断することであり、遺言執行者に任せることはできません。

相続が発生する前についても、同様のことが言えます。遺言書の作成や変更は、財産を残す人自身で行うべきことであり、遺言執行者への依頼は不可能です。生前に締結した契約の解除や変更についても、原則として遺言執行者には権限がありません。

遺言執行者でなくてもできること

遺言の内容には、遺言執行者でなくてもできる(相続人自身でやってもいい)事項が含まれています。具体的には、包括遺贈や寄与分の指定、信託の設定などは、相続人自身で手続を進めることが可能です。これらの手続については、遺言執行者がいれば遺言執行者が行いますが、いなくても実行に支障はありません。

注意したいのは、特定の相続人だけが利益を得ることに繋がったり、手続の不透明性が問題になったりする可能性がある点です。相続トラブルをなるべく避けたい場合は、あらかじめ専門職などの公平かつ中立な立場の遺言執行者を選任してもらうほうが良いでしょう。

包括遺贈関連の手続

包括遺贈とは「全財産の3分の1を△△に遺贈」とのように、相続財産に対する割合を指定して遺贈する方法です。包括遺贈の受遺者は、法定相続人と同様の権利・義務を持つことになります。そのため、遺言執行者がいなくても、受遺者自身で必要な手続を行えます。

遺言による信託・祭祀財産の承継

遺言による信託とは、遺言者が亡くなったときに信託を設定できる仕組みです。一方の祭祀承継とは、仏壇やお墓などの家族の祭祀に必要な財産を受け継ぐことを指し、これも遺言で指定することができます。信託および祭祀財産の承継は、遺言執行者がいなくても相続人自身で実行できます。

保険関連の手続

死亡保険金などの受取人変更が遺言で指定されているケースも、遺言執行者の有無にかかわらず相続人自身で実現できます。変更手続は、遺言者の死亡後、保険契約者の相続人が保険会社に通知することで行えます。

ただし、遺言者以外の人を被保険者とする契約の場合は、被保険者の同意が条件となる点に注意が必要です。具体的には「亡くなった父が契約者で、母が被保険者、受取人は遺言により亡父から長男に変更する」といった場合が挙げられます。

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遺言執行者の選任手続と注意点

これまで解説したように、遺言事項には「遺言執行者でないとできないこと」や「念のため遺言執行者を選任してもらったほうが良いこと」などがあります。このような内容を実現するときに向けて、遺言執行者の選任の手続とその注意点を押さえましょう。

選任までの具体的な流れ

遺言執行者の選任には2つの方法がある点はすでに解説したとおりで、もっともスムーズなのは生前のうちに遺言者自身で選ぶ方法です。具体的には、選任にあたって次のような流れとなります。

生前のうちに指定する場合(遺言による指定)

  • 遺言書に所定の内容を明記する
  • 遺言が公開され、遺言執行者へ通知が行われる
  • 遺言執行者から就職の承諾がないときは、相続人から相当期間を定めて催告する

死後に選任する場合(家庭裁判所による選任)

  • 利害関係人が家庭裁判所に申し立てる
  • 家庭裁判所による審理と選任
  • 選任された遺言執行者からの通知
  • 家庭裁判所に選任してもらうときの必要書類

家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる場合は、所定の申立書のほか、戸籍謄本などが必要です。また、審理が進むと、選任予定者の履歴書や承諾書も求められることがあります。選任後は、遺言執行者に選任された証明書(審判書)が交付され、これを基に各種手続を行えます。

遺言執行者の選任をするときの必要書類

  • 申立書
  • 遺言者の死亡の記載がある戸籍謄本
  • 遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票
  • 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
  • 申立人との利害関係を証する資料(親族の場合は戸籍謄本など)

選任にあたっての注意点

遺言執行者に選任される予定の人物からは、必ず事前に就職の承諾や、報酬についてもなるべく明確に取り決めておくとよいでしょう。具体的には、報酬額や支払方法、支払時期などを書面で確認しておくと安心です。

遺言執行者の役割を理解して円滑な相続を

遺言執行者は遺言の内容を実現するための重要な役割を担っています。特定遺贈の実行や子の認知、相続人の廃除などは遺言執行者のみが対応できる一方、相続税の申告・納付や遺言にない財産の処分などはできません。なお、包括遺贈や祭祀承継などは遺言執行者がいなくても実行可能です。

円滑な相続を実現するためには、適切な遺言執行者の選任と事前の承諾取得が重要です。当事務所では遺言書作成や遺言執行者の選任など、経験豊富な専門家がサポートしております。相続に関するお悩みがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載