共有名義の不動産の売却時にかかる税金の種類・計算方法とは

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共有名義の不動産を売却したときにかかる税金

共有名義の不動産を売却する際には、複数の税金がかかります。主なものとしては、譲渡所得税、登録免許税、印紙税などがあります。税金の種類によって計算方法や負担者が異なるため、適切な手続と納税のために、各税金の特徴や計算方法を理解しましょう。以下、それぞれの税金について詳しく説明します。

譲渡所得税(住民税・復興特別所得税)

売却によって発生した売却益を「譲渡所得」といい、譲渡所得が発生した際に譲渡所得税がかかります。譲渡所得税には、課税所得に対して一定の税率で住民税と復興特別所得税が加算されるのも特徴です。

共有名義の不動産を売却すると、各共有者の持分に応じて譲渡所得が計算され、それぞれが納税義務を負います。税額の計算方法は複雑であり、保有期間や物件の種類、特別控除の適用の有無などによって変化し、軽減税率や特例措置が適用される場合もあります。

譲渡所得税の計算方法についてはのちほど詳しく解説するので、そちらも参考にしてください。

登録免許税

登録免許税は登記の際に課される税金です。不動産を売却すると、法務局で登記申請をして名義変更しなければならず、その際に登録免許税が発生します。不動産売却時の所有権移転登記においては、共有者から買主への所有権移転に対して課税されます。登録免許税の計算方法は、以下のとおりです。

登録免許税=課税標準×税率(2.0%)

課税標準を求めるためには不動産評価額の確認が必要なので、固定資産税課税明細書か固定資産評価証明書で評価額を確認します。複数の不動産がある場合、それぞれの評価額を合算します。

評価額から1000円未満を切り捨てた数値が課税標準となるので、課税標準がわかったら税率をかけて登録免許税を計算できます。なお、売却時に抵当権抹消登記をする場合、売主側には不動産1つにつき1000円の登録免許税がかかります。

印紙税

印紙税は不動産の売買契約書作成時に発生する税金であり、不動産売買契約書に収入印紙を添付して支払います。印紙税の税額は、以下のように契約書の金額に応じて決まります。

契約書の金額 税額
1万円以下 非課税
50万円以下 200円
50万円を超え100万円以下 500円
100万円を超え500万円以下 1000円
500万円を超え1000万円以下 5000円
1000万円を超え5000万円以下 1万円
5000万円を超え1億円以下 3万円
1億円を超え5億円以下 6万円
5億円を超え10億円以下 16万円
10億円を超え50億円以下 32万円
50億円を超えるもの 48万円

※参照:印紙税の手引き│国税庁

印紙税を負担する人は特に決められていないので、買主・売主のどちらが支払っても問題ありません。売主と買主が折半して支払うケースもあります。

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不動産売却時における譲渡所得税の計算方法

譲渡所得税は、譲渡価格をもとにして算出した課税所得に対して一定の税率をかけて計算します。譲渡所得税の計算方法については、以下で順を追って解説します。

譲渡所得を算出する

以下の計算式を用いて譲渡所得を計算します。

譲渡所得=譲渡価格-取得費(購入価格-減価償却費)-譲渡費用-特別控除

譲渡価格とは、不動産を売却して得た金額でのことであり、売却価格ともいいます。取得費は、購入価格から減価償却費を差し引いた金額です。建物は建てたときからの年数に応じて減価償却するため、購入価格から減価償却費を差し引きます。

譲渡費用は不動産の売却にかかった経費のことであり、土地や建物を売るために支払った仲介手数料や、印紙税のうち売主が負担したものなどが該当します。

特別控除について

特別控除は、一定の条件を満たす不動産を売却した場合に譲渡所得から差し引ける制度です。たとえば、マイホームを売ったときは所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3000万円まで控除ができるという特例があります。そのほかにも、被相続人の空き家を売ったときの特例や、マイホームを売ったときの軽減税率の特例などがあります。

空き家を売ったときの特例は、相続や遺贈で得た不動産が空き家だった場合に一定の条件を満たすと、3000万円の特別控除が適用されるという制度があります。マイホームを売ったときの軽減税率の特例は、10年以上所有した自宅を売却した際に、以下の軽減税率が適用される制度です。

  • 譲渡所得金額が6000万円以下:譲渡所得金額×10%
  • 譲渡所得金額が6000万円超:(譲渡所得金額-6000万円)×15%+600万円

各共有者の持分割合で按分する

通常であれば、上記の計算式に一つ一つの数値をあてはめていくことで譲渡所得金額が算出できます。ただし、共有名義の不動産を売却する場合、特別控除を差し引く前の金額を各共有者の持分割合で按分する必要があります。

たとえば、以下のケースで実際の譲渡所得を計算してみましょう。

  • 共有者:A(母:持分50%)、B(子:持分25%)、C(子:持分25%)
  • 譲渡価格:8000万円
  • 取得費:500万円
  • 譲渡費用:500万円
  • マイホームの特例を適用

まずは譲渡所得を計算します。

譲渡所得の計算:8000万円-500万円-500万円=7000万円

上記の計算により、譲渡所得は7000万円となります。譲渡所得がわかったら、次に共有者それぞれの持分割合に応じてこれを按分します。

  • A:7000万円×50%=3500万円
  • B:7000万円×25%=1750万円
  • C:7000万円×25%=1750万円

共有者それぞれの持分割合がわかったら、A~Cそれぞれに対してマイホームの特例を適用して3000万円を控除します。

  • A:3500万円-3000万円=500万円
  • B:1750万円-3000万円=-1250万円
  • C:1750万円-3000万円=-1250万円

以上より、BとCは課税所得が0以下になるため譲渡所得税は発生せず、Aのみ500万円の課税所得が発生することになります。

保有期間に応じた税率をかける

譲渡所得税の税率は保有期間に応じて変化するので、譲渡所得が算出できたら保有期間に応じた税率をかけて税額を計算します。なお、譲渡所得税に加えて住民税と復興特別所得税も加算されます。

保有期間 所得税 住民税 復興特別所得税 合計
5年以下(短期譲渡所得) 30% 9% 0.63% 39.63%
5年超(長期譲渡所得) 15% 5% 0.315% 20.315%

※参照:土地や建物の譲渡所得に対する税金│国税庁

たとえば、先ほどの例でAの課税所得500万円に対してかかる税金を計算すると、仮に長期譲渡所得だった場合は以下のように計算します。

500万円×20.315%=101万5750円

共有名義の不動産売却時の確定申告

共有名義の不動産を売却した際の確定申告は、個人の所得税申告とは異なる特有の注意点があります。売却による譲渡所得の発生や共有者間での申告義務の分担など、複雑な要素を含んでいます。

適切な申告を行うためには、売却の形態や各共有者の状況を正確に把握し、必要な手続を理解することが重要です。以下では、確定申告が必要となるケースや具体的な申告方法について、共有名義特有の観点から詳しく解説します。

確定申告が必要なケース

譲渡所得が発生する共有名義不動産の売却では、原則として確定申告が必です。不動産全体を売却した場合、各共有者がそれぞれ個別に確定申告を行います。これは、譲渡所得が各共有者の持分に応じて計算されるためです。

一方、共有持分の一部のみを売却した場合は、その持分を売却した本人のみが確定申告の義務を負います。このように、売却の形態によって申告の主体が変わるため、自身の状況をよく確認することが重要です。

確定申告の手続

確定申告は、売却した年の翌年2月16日から3月15日までの期間に行います。申告先は、申告者の住所地を管轄する税務署です。申告方法には、税務署への直接持参、郵送、e-Taxの利用などがあります。

必要書類は以下のとおりです。

  • 確定申告書
  • 源泉徴収票
  • 不動産売買契約書
  • 仲介手数料の領収書
  • 売却した不動産の登記簿謄本

これらの書類を準備し、漏れなく提出することが重要です。特に、共有名義の場合は各共有者の持分や売却価格の内訳を明確にする必要があります。申告期限や納税期限を守らないと延滞税が発生する可能性があるため、十分に余裕を持って手続を進めましょう。

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共有名義の不動産売却時の注意点

共有名義の不動産の売却は、単独所有の物件を売却する場合と比べて複雑な面があります。所有者が複数いることで生じる独特の課題や注意点が存在するため、それらを適切に理解し対処することが重要です。

売却プロセスを円滑に進め、関係者全員にとって望ましい結果を得るためには、事前の十分な準備と知識が不可欠です。以下では、共有名義不動産の売却にて知っておくべき重要な事項について解説します。

共有持分の譲渡には贈与税がかかる

共有名義不動産の煩雑な売却手続を避けるために、1人の共有者に持分を集約して単独名義にしてから売却する方法を考える人もいます。しかし、この方法には重大な税務上のリスクがあるため、慎重に検討する必要があります。

具体的には、共有持分をほかの共有者に譲渡する際に、それが実質的には贈与と見なされた場合、受け取る側に贈与税が課される可能性があります。そのため、安易に持分の集約を行うことはおすすめできません。

共有名義不動産の売却は複雑な問題を含んでいるため、もしこのような方法をとる場合には、経験豊富な不動産専門家や税理士などに相談して適切な方法を選択することが重要です。

土地のみの売却では3000万円の特別控除が受けられない

前述したマイホームを売ったときの特別控除は、原則として土地と建物を一体として売却する場合に適用されます。そのため、土地のみの売却では居住用財産の売却とは見なされないため、3000万円の特別控除の対象外となります。

共有名義のマイホームであっても、土地だけを切り離して売却すると居住用財産の譲渡には該当せず、特別控除の恩恵を受けることができません。不動産売却時の税制優遇を最大限に活用するには、土地と建物を一体として売却する必要があります。

必要な確定申告を怠るとペナルティがある

共有持分を売却して所得を得た場合には確定申告が必要であり、申告を怠るとペナルティがあります。まず税務署から警告の文書が届きますが、この段階で迅速に対応して期限後申告を行えばペナルティを回避できる可能性があります。しかし、警告を無視すれば無申告加算税や延滞税などが課されるので注意しましょう。

無申告加算税は納税額の15%~20%、延滞税は時間経過とともに増加します。さらに悪質な場合は重加算税も課され、意図的な脱税行為と判断された場合には罰金や懲役などの刑事罰が科される可能性もあります。

税務署は不動産取引を注視する傾向にあり、申告漏れは高い精度で把握しています。法律を遵守し、適切に確定申告を行いましょう。

安全な不動産売却なら司法書士へ相談を

共有名義の不動産売却は、複雑な税務処理と手続を伴い、譲渡所得税、登録免許税、印紙税など持分に応じた計算と申告が必要です。売却後の確定申告は不可欠であり、申告漏れは重大なペナルティにつながるので注意しましょう。

このような複雑な手続と潜在的なリスクを考慮すると、専門家のサポートを受けることが賢明です。司法書士は、登記申請や法的手続に関する専門知識を持ち、円滑な売却プロセスをサポートできます。また、税理士や不動産専門家との連携も可能で、総合的なアドバイスを提供できます。

共有名義の不動産売却を検討されている方は、ぜひ専門家に相談して適切な手続と税務処理を行いましょう。信頼できる司法書士事務所に相談することで、安全かつ効率的な取引を実現し、潜在的な問題を回避することができます。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載