相続時に不動産取得税はかかるのか?必要になるケースや軽減措置などを解説

不動産取得税とは?相続時でかかるケースや計算方法・軽減措置などを解説_サムネイル

相続では不動産取得税は原則非課税となる

土地や建物を相続によって取得するケースでは、原則として不動産取得税の課税はありません。所有者の死亡という避けられない事由によって発生し、当事者の合意によって財産が移転するわけではないためです。

不動産取得税とは

不動産取得税とは、土地や建物を取得した際に、その新しい所有者に対して課される地方税です。課税される取得原因には、売買、贈与、交換、建築(新築・増築・改築)などがありますが、相続は一部のケースを除いて含まれません。なお、借地権や地上権は、不動産取得税の課税対象にはなりません。

なお、不動産取得税が課税されるケースでは、取得した不動産が所在する都道府県が課税額の納付先となります。申告および納付期日は、取得の日から一定期間内(通常は60日以内)です。

不動産取得税がかからない3つのパターン

不動産取得税が課税されないケースを厳密に定義すると、相続権を有する人が相続によって土地・建物をもらい受けた場合だと言えます。ここで言う相続とは、遺言書に「相続させる」と記載があった場合や、遺産分割協議で取得する場合も挙げられます。ほかに、法定相続分による共有名義での登記を行った場合もあります。

不動産取得税が課税されないパターンを改めて整理すると、下記のようになります。

  • 法定相続で不動産を取得した場合
  • 遺産分割協議で不動産を取得した場合
  • 遺言執行により相続人が不動産を取得した場合

※遺言書に「贈与する」と記載されていた場合は、別途判断が必要

遺産分割協議をやり直した場合はどうなる?

それでは、遺産分割協議をやり直した場合はどうでしょうか。結論を言えば、一度成立した協議を相続人の合意で解除し、再び協議で取得した場合であっても「相続による不動産の取得」に相違なく、不動産取得税は課税されません。この判断は、最高裁判所の判例(昭和62年1月22日)によるものです。

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相続でも不動産取得税がかかる例外

相続人が不動産をもらい受ける原因には、遺言執行や遺産分割協議だけでなく、所有者が贈与の意思を示した場合も存在します。気をつけたいのは、土地や建物を「贈与」された場合だと、原則として不動産取得税の課税がある点です。相続が取得のきっかけであっても不動産取得税がかかる例外ケースとして、以下のような場合が挙げられます。

生前贈与

無償で不動産の権利を移転させる行為のうち、相続を視野に入れて実施するものは、特に「生前贈与」と呼ばれます。地方税法の定めによれば、生前贈与は不動産取得税の非課税の対象に含まれません。つまり、相続対策が理由でも、所有者が生きているうちに無償で土地や建物の権利を移転させた場合には、受贈者は不動産取得税を支払う必要があります。特に、生前贈与に多く見られる以下のケースでは、贈与税の特例と区別すべきです。

相続時精算課税を適用する場合

相続時精算課税制度とは、60歳以上の親から20歳以上の子(または孫)への贈与に適用できる制度で、特別控除と一律税率が適用されます。本制度の対象は「贈与税」だけであって、不動産取得税には及びません。受贈者である子や孫は、不動産取得税の申告・納付義務に注意しましょう。

夫婦間の居住用不動産

夫婦間の居住用不動産の贈与とは、最大2000万円まで贈与税が非課税となる特例があります。この特例は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産またはその取得資金を贈与する場合に適用されます。この特例についても、適用対象となるのは贈与税だけで、不動産取得税の負担はある点に注意しましょう。

死因贈与

死因贈与とは、贈与者の死亡を条件として効力が生じる贈与契約のことです。遺贈と似ていますが、死因贈与は生前に贈与契約を締結する点が異なります。具体的には、遺言とは別に契約書を作成して「私が死亡したら、この不動産をAさんに贈与する」と記載し、この契約書に基づいて相続開始後に登記申請するケースが挙げられます。

地方税法の条文では、非課税となるのは「相続(包括遺贈・被相続人から相続人への遺贈を含む)による不動産の取得」です。ここで見るように、死因贈与は条文に含まれていません。したがって、死因贈与の意思表示により土地や建物を取得した人は、不動産取得税が課税されることになります。

相続人でない人への特定遺贈

遺贈には、特定遺贈と包括遺贈の2種類があります。特定遺贈は特定の財産を指定して遺贈する方法で、意思表示の方法としては「○さんに○○の土地を遺贈する」といった形で行われます。一方、包括遺贈は遺産の全部または一定割合を遺贈する方法で、具体的には「○さんに遺産の3分の1を遺贈する」といった意思表示の形を採ります。

地方税法の条文では、包括遺贈は不動産取得税の非課税対象となりますが、特定遺贈については受遺者が相続人である場合のみ非課税となります。遺言書の記載内容で課税・非課税の違いを見てみましょう。

ケース例 不動産取得税の有無 理由
長男Aに遺産の2分の1を遺贈 × 包括遺贈のため
長女Bに東京都〇〇区の土地・建物を遺贈 × 相続人への特定遺贈のため
一般社団法人Cに神奈川県〇〇市の土地・建物を遺贈 相続人でない人への特定遺贈のため

不動産取得税の計算方法と軽減措置

不動産取得税の計算方法と軽減措置_イメージ

不動産取得税が課税されるケースでは、課税額をどのように計算するのでしょうか。課税額に関するポイントは、土地と建物で別々の税率を採る場合がある点や、住宅や住宅のための敷地については課税額を軽減する特例がある点です。詳しくは、以下のとおりです。

課税標準および税率

不動産取得税の課税標準は、原則として固定資産税評価額です。税率は原則として3%ですが、住宅でない建物(店舗や事務所など)は4%です。また、宅地および宅地評価された土地の課税標準額は通常の2分の1となります。これらは令和9年3月31日までの措置となりますが、現在の課税額の計算方法を示すと次のとおりです。

土地の評価

  • 宅地および宅地評価された土地:固定資産税評価額×2分の1×3%
  • 上記以外の土地:固定資産税評価額×3%

建物の評価

  • 建物(住宅):固定資産税評価額×3%
  • 建物(住宅以外の家屋):固定資産税評価額×4%

土地や建物の固定資産税評価額は、所有者の手元に毎年届く納税通知書に記載されています。もし納税通知書がない場合は、不動産が所在する市町村の役場で固定資産課税台帳の閲覧を請求し、評価額を確認する必要があります。なお、取得した不動産の価格が一定額未満の場合、課税されません。非課税となる評価額(免税点)は以下のように定められています。

  • 土地:10万円未満
  • 家屋(新築・増築・改築):23万円未満
  • 家屋(上記以外の取得):12万円未満

中古住宅にかかる課税標準の特例

既存の中古住宅を取得する場合、住宅にかかる課税標準の特例があり、固定資産税評価額から一定額を控除できます。控除額は建物の建築時期によって異なり、下記のようになります。

中古住宅にかかる課税標準の特例による控除額(建築時期:控除額)

  • 平成9年4月1日以降:1200万円
  • 平成元年4月1日~平成9年3月31日:1000万円
  • 昭和60年7月1日~平成元年3月31日:450万円
  • 昭和56年7月1日~昭和60年6月31日:420万円
  • 昭和51年1月1日~昭和56年6月30日:350万円

なお、本特例は、中古住宅なら必ず適用できるといったものではありません。床面積や性能、用途について適用条件があります。

中古住宅にかかる課税標準の特例の適用要件(以下すべて)

  • 取得者が自己の居住の用に供すること
  • 床面積が50㎡以上240㎡以下であること
  • 昭和57年1月1日以降に建築されたか、耐震診断により新耐震基準の適合が証明されていること

住宅用の土地にかかる課税標準の特例

土地と土地上の住宅を一緒に取得したケースや、取得した土地に住宅を新築するケースでは、敷地について課税標準額を軽減する特例があります。軽減される額から解説すると、次のとおりです。

住宅用の土地にかかる課税標準の特例の軽減額

  • 45000円
  • (土地1㎡あたりの固定資産税評価額÷2)×(住宅の課税床面積×2)×3%

このどちらか高い方が軽減額として適用されます。また「 (住宅の床面積×2)」 は200㎡を上限となります。

上記特例の適用要件は、既存の中古住宅を取得した場合と、土地を取得したあとに住宅を新築する場合に分かれます。その詳細は次のとおりです。

既存の中古住宅を取得し、その敷地も取得する場合(以下いずれか)

  • 土地取得と同時か、土地取得から1年以内に土地上の中古住宅を取得すること
  • 中古住宅を先に取得した場合は、当該住宅の取得後1年以内に敷地も取得すること

土地を取得したあとに建物を新築する場合(土地取得後3年以内に新築し、かつ、以下いずれかに該当すること)

  • 土地の取得者が、住宅新築までにその土地を引き続き所有していること
  • 土地の取得者からさらに譲渡を受けた相手が、住宅を新築したこと

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相続不動産にかかるそのほかの税金

相続で土地や建物を取得するケースでは、不動産取得税よりも、むしろ登記や所有・売却にあたって必ず課税される税について注意を払いたいところです。税がかかるタイミングを最初に整理しておくと、次のようになります。

  • 相続登記および贈与登記:登録免許税
  • 不動産の所有中(年1回):固定資産税・都市計画税
  • 不動産の贈与を受けた年の翌年:贈与税
  • 取得した不動産を売却した翌年:譲渡所得税

登録免許税

遺産分割や贈与で取得した不動産は、亡くなった人から新しい所有者へと所有権を移すための登記申請が必要です。登記申請では、登録免許税と呼ばれる税を納付する必要があり、相続および相続人への遺贈では固定資産税評価額の0.4%の課税があります。なお、遺贈や死因贈与・生前贈与では、税率は2%に引き上げられます。

固定資産税・都市計画税

固定資産税は、毎年1月1日時点で不動産を所有している人に課される市町村税です。都市計画税は、都市計画事業などの費用に充てるために課される目的税で、通常、固定資産税と一緒に課税されます。税率および住宅用地に関する軽減措置は次のとおりです。

税率

  • 固定資産税:課税標準額×1.4%(標準税率)
  • 都市計画税:課税標準額×0.3%(制限税率)

軽減措置(住宅用地特例)

  • 小規模住宅用地(200㎡以下):課税標準額を1/6に軽減
  • 一般住宅用地(200㎡超部分):課税標準額を1/3に軽減

贈与税

生前贈与および遺贈や死因贈与では、贈与を受けた人に贈与税の課税があります。贈与税には2つの課税方式があり、特に選択しない場合は「暦年贈与」、要件を満たした上で選択した場合は「相続時精算課税」となります。

暦年課税の場合

1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額に対して課税があり、基礎控除110万円を超過した部分につき10%から55%の範囲で累進税率が適用されます。

相続時精算課税を選択する場合

相続開始時までの通算の贈与額に対して課税があり、2500万円を超えた部分に一律20%の税率が適用されます。なお、本課税方式を選択した贈与価格は、相続税の課税対象になります。

譲渡所得税

遺産分割や贈与で取得した土地・建物を売却するのであれば、売却した年の翌年に確定申告しなければなりません。課税額の基準は、譲渡所得から取得費および譲渡費用を控除した額です。税率は、不動産の所有期間に応じて変化し、長期譲渡所得(20.315%)または短期譲渡所得(39.63%)となります。

なお、一定の場合には、下記のような税額を軽減する特例を適用できます。売却時期の判断基準にもなるため、確認が必要です。

取得費加算の特例

譲渡価格から控除できる取得費には、相続税評価額の10%を加算できます。本特例を適用する場合、相続開始から3年以内に売却する必要があります。

居住用財産の3000万円特別控除

相続した居住用不動産を売却する場合、3000万円まで控除できます。適用に当たっては、被相続人の居住期間や相続人の居住実績などの条件があります。

相続した空き家の譲渡所得の特別控除

一定の条件を満たす相続した空き家とその敷地を売却した場合、最大3000万円の特別控除が適用できます。適用にあたっては、相続開始から3年後の年末までに売却しなければなりません。

相続不動産の税金対策と専門家活用のすすめ

相続による不動産取得は原則として不動産取得税が非課税ですが、生前贈与や死因贈与、相続人以外への特定遺贈は例外です。生前贈与では、贈与税の特例を適用するケースが多数見られますが、その控除および非課税の効果は、不動産取得税には及びません。不動産取得税が課税されるケースでは、住宅や住宅の敷地について控除がある点を踏まえ、税納付による支出を正確に計算することが大切です。

不動産の相続に関する実務では、不動産取得税よりも、登記費用となる登録免許税のほか、贈与税や固定資産税などが問題になることが多々あります。相続登記などの手続を司法書士に依頼する際に、依頼先もしくは提携する税理士に相談しておくと良いでしょう。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載