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土地売買の手続における司法書士の役割
土地の売買取引において、司法書士は2つの役割を担います。1つは取引の立ち会い、もう1つは売買対象地の引き渡しと登記申請の代理です。各実務の詳細は以下のとおりです。
決済当日の立ち会い
土地売買における重要な司法書士の業務として、決済当日の立ち会いがあります。不動産売買での「決済」とは、土地の名義変更と代金支払いを同時に実施することです。ポイントは、取引手順に誤りがあると大きなトラブルに繋がるため、慣行として慎重な手続を実施する点です。
決済当日の参加者は、司法書士および取引関係者全員です。立ち会った司法書士は、売主の本人確認と意思確認を行い、登記申請に必要な書類が揃っているかどうかもチェックします。ここで問題がなければ、買主の口座から代金振り込みを行い、基本的には入金確認と同時に所有権移転登記を実施できるよう手配します。
登記申請
決済当日の説明にあるように、司法書士の本来の業務は「登記」だとされます。登記とは、法務局で管理する帳簿である「登記簿」に、不動産の基本情報および権利の変更状況を記載するための手続を指します。
土地の所有権移転は、譲渡に関する契約書を交わすだけだと足らず、登記が必要とされます。司法書士は登記の専門家であり、本人が行うべき手続を独占業務として代行でき、実際に不動産会社や取引当事者からの依頼を受けて登記申請を実施しています。
また、一口に登記と言っても、その種類は複数存在します。主だった種類は以下のとおりです。
- 所有権移転登記
- 抵当権抹消登記
- 住所変更登記
- 氏名変更登記
- 相続登記
所有権移転登記は、登記簿上における売主から買主へ名義変更する手続になります。この契約を以て、買主は購入した土地(不動産)の所有権を確保でき、第三者からの悪意ある詐欺行為などから守ることにも繋がります。買主は売買の支払いに目が行きがちになりますが、しっかりと法的手続も進めておきましょう。
抵当権抹消登記や住所変更登記、氏名変更登記、相続登記などは売買に至る原因に応じて、登記すべき種類は異なってきます。売買に付随した登記手続は司法書士が行える分野であるため、まとめて依頼した方が、売却までの流れがよりスムーズになるでしょう。
司法書士に売買手続を依頼する必要性
土地売買において、司法書士の関与は法律上必須ではありませんが、取引の性質を考慮し依頼するのが一般的です。以下で解説するように、当事者の希望がどうであれ、基本的には「司法書士抜きで取引を完結することは難しい」と考えるべきでしょう。
売買取引の慣習上、依頼必須となる
不動産取引において、司法書士への依頼は慣習上必須です。特に司法書士に期待されているのは「売主についての適切な本人確認」と「正確な登記手続」です。司法書士の関与がない場合、次のようなトラブルが懸念されます。
土地の権利に関するトラブル
- 売主を自称する人物が詐欺を行う
- 二重売買により買主が権利を得られない
- 登記申請のミスにより譲渡が完了しない
融資に関するトラブル
- 抵当権設定登記が漏れて債権回収リスクが発生する
- 登記申請の手違いが原因でほかの債権者と比べて不利になる
不動産の権利には「基本的には書類上の確認しかできない」という問題があり、代金目当てに売主を騙る者もいます。本当の所有者が売却を希望していたとしても、本人の勘違いにより、ほかの人にも同時進行で譲渡の約束をしているかもしれません。これらのトラブルがなく登記できるとしても、書類不備により予定時期までに完了しないリスクがあります。
登記の重要性が高まるのは、ローンを組んで土地を購入する契約を締結する場合です。このケースでは、債権回収が図れなかった場合に競売にかける権利(抵当権)を土地に設定する必要があり、やはり登記によって行います。
また、抵当権は1つの土地に対して複数設定することができ、登記の順番によって回収の順位も決まります。間違いがあれば、金融機関は貸し倒れのリスクにさらされることになるため、抵当権設定登記はより慎重に行わなければなりません。
買主が司法書士を手配する場合が多い
土地売買においては、買主側が司法書士を手配するのが一般的です。取引のリスクを負うのは主に買主であり、売買契約書の作成から所有権移転登記まで確実に完了させる必要に迫られているからです。
実際には売主側でも司法書士に依頼することが多々ありますが、資産管理や売買契約の締結方法、そのほか瑕疵担保責任(物件に欠陥があった場合の責任)に関するサポートがメインで、取引の確実性と安全性に直接関わるわけではありません。
土地売買をする際に司法書士に依頼するメリット
すでに解説したように、土地売買は司法書士の支援なしに行えます。特に個人間でローンを組まずに売買取引するケースでは、司法書士の支援を得ず、当事者だけで登記申請まで完了させる場合も多々あります。
心配なのは、不動産取引特有のリスクや、慣れない登記申請は想定以上に複雑である点です。これらの問題は、司法書士に依頼することで解決します。
双方安心して取引できる
司法書士に依頼するメリットの最たるものは、取引の安全性の確保です。取引の相手方がいかに信頼できる相手でも、高額取引では「きちんと物件の引き渡しを受けられない」「代金を支払ってくれない」「対象地の所有者とは違う人だった」ということがあり得ます。司法書士が相手方の意思と身元を確認し、契約違反があった場合の約束についても念を押しておけば、上記のようなリスクは小さくなります。
複雑な登記申請の一切を任せられる
土地の名義変更は、慣れないと複雑です。売主・買主双方に必要書類があり、こと売主側でイレギュラーな対応が必要となるケースがあります。所有者の証である登記済証(現在は登記識別情報)を紛失していれば代わりの措置が必要となり、所有者情報に変更があれば現在の情報を反映させるための前提登記を要します。これらの対応も含めて、登記申請を確実に進められるために、その専門家である司法書士の支援が欠かせません。
不動産会社との連携で予定がスムーズに進む
司法書士と不動産会社の連携には、取引全体をよりスムーズに進行させる効果があります。事前の情報共有をすれば、取引別の問題点(前提登記の必要性など)を早期に発見し、対処することが可能です。また、司法書士と不動産会社が協力してスケジュール調整を行うことで「安全性を担保しながら取引を速やかに進行させる方法」を検討できます。こうした理由から、売買仲介を利用するケースでは、取引満足度のため司法書士は欠かせない存在となります。
土地売買の手続を司法書士に依頼した場合の費用
土地売買にかかる費用は大きく2種類に分かれます。登記の最低費用となる登録免許税などと、司法書士に依頼する場合の報酬です。その総額は、土地の評価額の3%程度になるのが一般的です。
司法書士報酬
司法書士への報酬は、基本報酬と追加業務に対する費用で構成されます。基本報酬とは、登記申請の代行にかかる費用にあたり、土地売買に伴って行う所有権移転登記であれば平均で約7万円~9万円程度となります。
司法書士報酬を構成する追加費用は、売買契約書などの書類作成費用と、決済などの立会日当で構成されます。書類作成費用の相場は2万円程度、立会日当は1万円から2万円となり、総額は8万円から11万円程度です。なお、地域によっては15万円程度かかることもあります。
必要書類の交付手数料
土地売買のために必要となる書類には、登記事項証明書、固定資産評価証明書、住民票の写し、印鑑登録証明書があります。これらの交付手数料は、売主と買主の合計で1000円から2000円程度となるのが一般的です。なお、それぞれの費用は下記のようになります。
- 登記事項証明書:450円~600円
- 固定資産評価証明書:200円~400円
- 住民票の写し:200円~300円
- 印鑑登録証明書:200円~300円
登記申請時にかかる登録免許税
土地などの登記申請では、一定の税率で登録免許税の課税があります。売買を原因とする所有権移転登記の税率は2%です。課税標準額は固定資産税評価額であり、登録免許税の計算式は「固定資産税評価額×2%」となります。なお、土地上に建物があるケースでは、建物の所有権移転登記も必要です。新築の建物には軽減税率(土地は対象外)が適用され、税率は0.3%となります。
そのほかの税金(譲渡所得税など)
土地の売買取引が行われた翌年には、売主側に譲渡所得税の課税があり、買主側には不動産取得税の課税があります。それぞれの計算方法は次のようになります。
譲渡所得税の課税額
譲渡所得税は、譲渡した価格から取得費および譲渡費用を控除した価額に対して課税があります。税率は土地の所有期間によって異なり、5年超の場合は20.315%(うち住民税5%)、5年以下の場合は39.63%(うち住民税9%)となります。
不動産取得税
不動産取得税は、土地・住宅の固定資産税評価額に対して3%の割合でかかります。建物に限っては、住宅以外の場合、税率4%で計算されます。
司法書士に依頼する際の注意点
土地売買を司法書士に依頼するケースでは、いくつか確認しておきたいポイントがあります。特に「報酬がいくらかかるのか」「関係者との打ち合わせは済んでいるか」はチェックしておきたいポイントです。
依頼先によって報酬が異なる
土地売買の場合、一般的には不動産会社と提携する司法書士に依頼しますが、自分で依頼先を決める場合には、報酬額に注意を払う必要があります。もっとも、単純に「高いか・安いか」だけではなく、提供されるサービスの内容も確認するのが大切です。報酬体系をチェックするときは、基本報酬と追加費用の内訳が明確に示されているか確認し、不明点があれば質問しましょう。
当事者以外の関係者と合意形成を図る
土地売買では、売主および買主だけではなく、親族そのほかの立場の人が関係する場合もあります。相続した土地を取引したり、世帯の資産を組み替える目的で土地購入に踏み切ったりするケースです。このような場合、たとえ司法書士でも「第三者の関与は避けたい」と考える人もあります。取引の安全が担保されるといっても、関係者の心情を考え、依頼する場合は当事者以外の関係者とも合意形成を計っておきましょう。
司法書士報酬は譲渡費用になる
土地の売主がチェックしておきたいポイントとして、譲渡所得税の申告の際には、司法書士報酬も「取得費用」として控除できる点が挙げられます。自分で確定申告する場合は、見落としがないようにしましょう。なお、司法書士に依頼するケースでは、提携先の税理士に税の相談をできる場合があります。
司法書士へ依頼せず売買を行う場合
もし自身で土地の売買を行おうとする場合の手続の流れと注意点について解説します。前述した手続はすべて自分で行う必要が出てくるため、手続を行うための時間を確保する必要があります。
自身で手続を行う流れ
仲介を入れずに当事者間で売買を行うケースは、主に親族間や隣人同士など、面識と信用がある程度成立している場合が多いでしょう。基本的な手続の流れは以下のとおりです。
- 売買対象の確認および価格設定
- 売買契約書の作成と締結
- 代金決済と引き渡し
- 所有権移転登記の申請
売買対象の確認および価格設定
まずは買主と売主が対象となる不動産に間違いがないことを確認するために、現地確認のほか、不動産の謄本や公図、測量図を双方で確認します。また、私道部分の土地なども漏れなく洗い出します。
不動産の売買価格は当事者間で決定しますが、路線価や固定資産評価額、周辺の相場を参考に設定するのが一般的です。相場とかけ離れた価格はみなし贈与となるリスクがあるため注意が必要です。価格決定が難しい場合は、不動産会社に査定を依頼する方法もあります。
売買契約書の作成と締結
売買物件や売買価格が確定したら、代金支払方法、手付金の有無、支払時期、引き渡し時期、登記費用の負担、固定資産税の精算方法、契約解除に関する事項などを調整し、売買契約書を作成します。契約書の作成は当事者双方または司法書士などの専門家に依頼可能です。内容が確定したら、署名・押印して契約を締結します。
代金決済と引き渡し
契約が締結したら、売買代金の支払いと物件の引き渡しを行います。これらは契約締結時に同時に行う場合や、契約書で定めた期日の後日実施する場合があります。一般的には同日に行われますが、当事者間で日程を分けることも可能です。なお、売買代金全額の支払い後に所有権が移転することが多いため、代金完了前に所有権移転登記を申請することはできない点に注意が必要です。
所有権移転登記の申請
ここまでの手続が完了したら、不動産の所有権が買主に移転した後は、買主名義への所有権移転登記を申請する必要があります。この登記は、買主と売主が共同で申請するか、どちらか一方に申請を委任する形で進めることが可能です。また、登記申請を自力で行うのが難しい場合は、司法書士に依頼することも視野に入れましょう。申請内容に不備がなければ、1~2週間程度で完了します。
自分で手続を行う場合の注意点
自分で手続を行うことができれば、専門家に依頼した場合にかかる費用が節約できますが、反面気を付けるべき点が多く、細心の注意を払う必要があります。以下では自分で手続を行う際に躓きやすい点について解説します。
- 売買契約書を自分で作成する必要がある
- 売主が所有している不動産の見落とし
- 固定資産税や諸費用の精算
- 契約トラブルに対応しなければならない
売買を行う際は売買契約書が必要になります。インターネット上には売買契約書の見本が掲載していますが、いずれも汎用性に特化したものであり、各売買状況に応じた最適な契約書と断言ができません。そのため、契約に必要な事項や、記載すべき共有名義などの不動産情報が漏れた影響で、売主買主双方が望まない売買となる可能性があります。
また、固定資産税の支払いや都市計画税、不動産の管理費用などの金銭面においても、取り決めをせずあやふやな状態のままでは、トラブルの原因となりかねません。仲介業者が入っていれば、トラブル対応も請け負ってくれますが、自分で手続を行った場合は当事者同士で解決する必要があります。
いずれの注意点において共通して言えることは、諸々の負担をすべて自身で行えるか否かという点に集約されるでしょう。司法書士などの専門家に依頼しない場合は、これらの点を留意し検討を進めましょう。
土地売買における司法書士の役割
土地売買に関わる司法書士は、決済の立ち会いにより取引の安全性を保証しつつ、必要な登記申請を代行します。依頼必須とまでは言えないものの、不動産会社が仲介する場合や、法人と取引する場合、購入代金を融資で調達する場合には、司法書士に関与してもらうのが慣習です。
個人間の土地売買では、相手方を信用し、双方協力することで、司法書士の支援を得ることなく取引することも多々あります。一方で、名義変更などを巡るトラブルが起き、その解決に難航するケースがあることも事実です。大切な取引は、なるべく専門家の支援を得たほうが良いと言えます。