兄弟間で行う土地の名義変更に必要な手続や費用などを解説

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兄弟間で行う土地の名義変更のケース

兄弟間で土地の名義変更を行う場合、その理由や状況によってプロセスや法的な取り扱いが異なります。主に相続、贈与、売買の3つのケースが考えられますが、それぞれの場合で必要な手続や税金の取り扱いが変わります。これらのケースについて、その特徴や注意点を解説します。

相続による名義変更が必要なケース

兄弟間で土地の所有権が移転する相続のケースには、以下のような状況が含まれます。

  • 遺言書に「兄弟に相続させる」という記載がある場合
  • 被相続人に子も直系尊属もいない場合
  • ほかの相続人全員が相続を放棄した場合

被相続人に配偶者はいるものの、子や直系尊属(父母、祖父母など、自分より上の世代の親族)がいない状況では、配偶者と兄弟の相続分は3対1の割合になります。なお、配偶者も不在の場合には兄弟がすべての遺産を相続しますが、複数の兄弟がいる場合は兄弟間で均等に分割されます。

兄弟間の相続税については、遺産総額から基礎控除額を引いた金額に対して課税されます。この場合、配偶者控除が適用されないため、配偶者間の相続と比較して税負担が大きくなる可能性があります。

贈与によって名義変更するケース

兄弟間での贈与は、双方の意思の合致により成立します。口頭での約束でも法的には有効ですが、紛争を避けるために契約書を作成しておくとよいでしょう。文書化することで贈与の詳細や条件が明確になり、スムーズで問題のない贈与が可能です。

名義変更を伴う贈与の場合、贈与税が課されます。ただし、兄弟間の贈与は親子間と異なり、一般贈与財産として扱われるため、税率がより高くなる傾向があります。

さらに、兄弟間の贈与では、親子間などで利用可能な相続時精算課税制度を適用できません。この制度は、受贈者(子または孫)が2500万円までの贈与を税金なしで受け取れる一方、贈与者が亡くなった際に相続財産と合算して相続税を計算し、一括で納税するというものです。兄弟間ではこの制度が使えないため、税務面での取り扱いが異なることに注意が必要です。

売買によって名義変更するケース

兄弟間での不動産の売買は、双方の合意があれば成立します。口頭での約束も法的には有効ですが、のちのトラブルを防ぐためにも売買契約書の作成が推奨されます。売買による名義変更の場合、贈与とは異なり親族間であっても一般の取引と同様に扱われるため、購入者側には不動産取得税がかかります。また、売主側には、譲渡所得税が発生する可能性があります。

兄弟間での不動産売買における譲渡所得税が発生するか否かは、主に売買価格と物件の性質に依存します。これは取引が行われた際にキャピタルゲインが生じた場合、譲渡所得税が発生する可能性があるためです。

一方、著しく低価格で売買した場合、譲渡所得税は生じにくいものの「みなし贈与」に該当する可能性があり、その場合には買主側に贈与税が発生するため注意が必要です。

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兄弟間の名義変更を行う方法と必要書類

兄弟間で不動産の名義変更を行う場合、その原因が相続、贈与、売買のいずれであるかによって、手続の流れや必要書類が異なります。各ケースにおいて、法的要件を満たして適切に手続を進めることが重要です。

以下では、相続、贈与、売買それぞれの場合における名義変更の流れと必要書類について詳しく説明します。

相続を原因とする名義変更の場合

兄弟間での相続による不動産の名義変更を行う場合の手続の流れや必要書類は、以下のとおりです。

手続の流れ

  • 相続の開始
  • 遺産分割協議
  • 必要書類の準備
  • 相続登記の申請
  • 名義変更の完了

必要書類

  • 登記申請書
  • 被相続人の戸籍謄本一式(出生から死亡まで)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の除籍謄本
  • 遺産分割協議書
  • 相続人全員の印鑑登録証明書
  • 固定資産評価証明書

相続の開始は被相続人の死亡により始まり、その後に相続人間で遺産の分割方法を協議し、合意が得られれば遺産分割協議書を作成します。必要書類を揃えたら、法務局に相続登記を申請します。登記完了後、新しい所有者の名義に変更されます。

この過程では相続人間の合意形成が重要であり、遺言書がある場合はその内容に従って手続を進めます。相続登記の申請手続は複雑な場合があるため、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

贈与を原因とする名義変更の場合

兄弟間での贈与による不動産の名義変更を行う場合の手続の流れや必要書類は、以下のとおりです。

手続の流れ

  • 贈与契約の締結
  • 必要書類の準備
  • 登記申請書の作成
  • 法務局への登記申請
  • 登記完了と名義変更

必要書類

  • 登記申請書
  • 贈与契約書
  • 登記識別情報通知(または登記済証)
  • 贈与者と受贈者の印鑑登録証明書

まず、贈与者と受贈者間で贈与契約を締結し、必要書類を準備したら登記申請書を作成します。これらの書類を法務局に提出して登記を申請し、登記が完了すると、新しい所有者の名義に変更されます。

売買を原因とする名義変更の場合

兄弟間による売買による不動産の名義変更を行う場合の手続の流れや必要書類は、以下のとおりです。

手続の流れ

  • 売買契約の締結
  • 代金支払いと物件引き渡し
  • 必要書類の準備
  • 登記申請書の作成
  • 法務局への登記申請
  • 登記完了と名義変更

必要書類

  • 登記申請書
  • 売買契約書
  • 登記識別情報通知(または登記済証)
  • 売主と買主の印鑑登録証明書

まず、売主と買主で売買契約を締結し、代金の支払いと物件の引き渡しを行います。次に、必要書類を準備し、登記申請書を作成し、これらの書類を法務局に提出して登記を申請します。登記が完了すると、新しい所有者の名義に変更されます。買主は不動産取得税の申告と納付が必要であり、売主は譲渡所得税の申告が必要な場合があります。

名義変更でかかる税金

兄弟間の名義変更でかかる税金_イメージ

兄弟間での不動産の名義変更には、さまざまな税金が発生します。主なものとしては、以下のものがあります。

  • 登録免許税
  • 譲渡所得税
  • 不動産取得税
  • 贈与税

発生する税金は、名義変更の原因(相続、贈与、売買)によって異なります。以下では、これらの費用と税金について詳しく解説し、具体的な計算例も示します。なお、各税金の計算方法や適用条件は複雑であり、特例や控除が適用される場合もあるので、個々の状況に応じた最適な方法は専門家への相談が推奨されます。

登録免許税

登録免許税は、どのケースにおいても名義変更を行う限り必ず発生します。登録免許税は以下の式で求めることができますが、税率は手続となる原因によって異なります。

登録免許税=課税標準額×税率(0.4~2.0%)

また、100円未満の端数が切り捨てになるため、たとえば計算結果が12万4355円だった場合、100未満の端数を切り捨てて12万4300円が登録免許税の額となります。

譲渡所得税

兄弟間で不動産を売買する際、売主側に譲渡所得税が生じる場合があります。この税金は、一定の税率を課税対象額にかけて算出されます。土地のみの取引では特別な控除はありませんが、マイホーム(居住用の建物付き不動産)の売却時には3000万円の控除が適用可能です。譲渡所得税の計算は以下の式で行います。

課税対象額=譲渡収入金額−(取得費+譲渡費用)

不動産の所有期間に応じて税率が異なり、5年超の所有(長期譲渡所得)なら約15%、5年以下の所有(短期譲渡所得)なら約30%となります。

不動産取得税

兄弟間の不動産売買・贈与においても、通常の取引と同様に不動産取得税はかかります。この税金は、土地や建物を購入、贈与などによって取得した人に支払い義務が発生します。不動産取得税の計算式は次のとおりです。

税額=不動産の評価額×税率

通常、税率は4%ですが、令和9年3月31日までは軽減措置により3%となっています。また、住宅取得には特別な控除があり、新築の場合は課税標準から1200万円が控除されます。また、中古住宅の場合は新築時と同等の額が控除されますが、実際の控除額は住宅の築年数や種類、さらに地域の条例によっても変わる可能性があります。

贈与税

兄弟間の贈与税は、贈与額から110万円の基礎控除を差し引いた額に対して一定の税率を適用して計算されます。

贈与税=(贈与額-110万円)×税率

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1000万円以下 40% 125万円
1500万円以下 45% 175万円
3000万円以下 50% 250万円
3000万円超 55% 400万円

※参照:贈与税の計算と税率(暦年課税)│国税庁

たとえば、兄弟間で2500万円の土地を贈与した場合で贈与税を計算してみましょう。

  • 課税価格の計算:2500万円-110万円=2390万円(控除額は「3000万円以下」の区分に該当)
  • 税率:50%
  • 控除額:250万円

【贈与税の計算】2390万円×50%-250万円=945万円

上記の場合では、2500万円の土地を兄弟間で贈与した場合、945万円の贈与税が課されることになります。兄弟間の贈与では、配偶者控除のような特別な控除は適用されません。そのため、親子間や夫婦間の贈与と比較して、税負担が大きくなる傾向があります。

贈与税の負担を軽減するためには、複数年にわたって少額ずつ贈与を行う「暦年贈与」の方法を検討することも一案です。ただし、この方法を選択する場合は、長期的な計画と毎年の手続が必要となることに留意してください。また、贈与者が亡くなる前3年以内の贈与は相続税の対象となる可能性があるため、慎重な計画が求められます。

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兄弟間での名義変更における注意点

兄弟間での不動産の名義変更では、税制上の問題や家族関係への影響など特有の注意点が存在します。特に贈与税の高額化やほかの相続人との関係悪化のリスクは、慎重に考慮すべき重要な要素です。これらの問題を適切に管理することで、スムーズな名義変更と良好な家族関係の維持が可能となります。以下、主な注意点について詳しく説明します。

被相続人の甥・姪が相続人になることもある

被相続人よりも先に兄弟が亡くなっている場合、その兄弟の代わりにその子(被相続人から見て甥や姪)が代わりに相続人となります。これを代襲相続といいます。先に亡くなった兄弟に複数の子がいる場合、その全員が相続人となります。

相続登記の手続においては通常の相続と同様に、相続人全員の署名・押印、印鑑登録証明書、戸籍謄本などが必要です。加えて代襲相続の場合、先に亡くなった兄弟の出生から死亡までの戸籍謄本なども追加で必要となります。

贈与税が高くなりやすい

兄弟間での不動産贈与は、一般贈与として扱われるため、親子間の贈与と比べて税制上の優遇が限られており、高額の贈与税が発生する可能性があります。

贈与税計算時には110万円の基礎控除が適用されますが、高価な不動産の場合この控除の効果は限定的です。さらに、兄弟間の贈与では「相続時精算課税制度」や「配偶者控除」などの特別な制度や控除が利用できないため、税負担が増大する傾向にあります。

この重い税負担を軽減する方法としては、不動産を部分的に贈与したり、複数年にわたる暦年贈与を活用したりすることが考えられます。ただし、これらの手法は長期的な計画立案と継続的な手続が必要です。

したがって、兄弟間での不動産贈与を検討する際は、税負担の大きさを十分に認識して慎重に対策を講じることが極めて重要です。専門家のアドバイスを受けながら、最適な方法を選択することをおすすめします。

ほかの相続人との関係が悪化するリスクがある

兄弟間での不動産の名義変更は、ほかの相続人との関係に大きな影響を与える可能性があります。

たとえば親がまだ健在の場合、子の1人に不動産を移転すると相続時に公平性が損なわれる可能性があり、将来的な争いの火種となるリスクがあります。また、名義変更の理由や条件が不明確な場合、ほかの親族から不信感や疑念を抱かれる可能性があるでしょう。

兄弟間の名義変更は単なる法的手続ではなく、家族全体の利害関係に影響を与える重要な決定であることを認識し、慎重に進める必要があります。

複雑な兄弟間の土地名義変更は司法書士へおまかせ

兄弟間での土地の名義変更には相続、贈与、売買の3つのケースがあり、それぞれ異なる手続と税金が発生します。特に注意すべき点として、代襲相続の可能性、高額な贈与税、家族関係への影響などが挙げられます。また、各ケースで必要な書類や税金の計算方法は複雑で、特例や控除が適用される場合もあります。

このように、兄弟間の名義変更は登記手続だけでなく、家族全体の利害関係にも影響を与える重要な決定です。スムーズな名義変更と良好な家族関係の維持のためには、専門知識と経験が不可欠です。

登記手続の詳細については司法書士のサポートを受け、個々の状況に応じた最適な方法を選択し、トラブルを回避して円満に手続を行いましょう。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載