外国人が不動産登記に行うための必要書類と注意点を解説

外国人でも日本の不動産を所有できる?

外国人による日本の不動産の所有にはほとんど制限がありません。外国人同士あるいは日本人と外国人との間での不動産取引は、原則として自由です。実際に所有するときは、登記申請と呼ばれる手続を要する点に注意しましょう。

外国人による不動産購入・相続は原則自由

日本では、1945年以降、外国人による不動産取得を制限する法律は撤廃されています。かつては「外国人土地法」により制限がありましたが、現在では国籍による制限は存在しません。もっとも、2022年9月20日に全面施行された「重要土地利用規制法」の影響で、安全保障上重要な施設の周辺1km圏内の土地取引について、国籍を問わず事前届出が必要となる例外があります。

居住地が海外でも不動産の所有は可能

外国人による不動産の取得は、国内居住者に限られるというわけでもありません。居住地が海外にある非居住者であっても、日本国内の不動産を所有することが可能です。ただし、海外から不動産を管理することには実務的な課題があります。たとえば、賃貸管理や修繕、税金の支払いなどを円滑に行うために、日本国内に信頼できる代理人をおかなくてはなりません。

不動産を所有するときは登記申請が必要

日本で不動産を所有する際は、国籍や居住地にかかわらず、法務局で登記申請を行う必要があります。不動産を取得した外国人は、登記義務者となり、必要な申請を行うことで、登記簿と呼ばれる帳簿に所有者として掲載されるようになります。登記簿上の所有者の記載は、不動産の権利者である旨を第三者に主張するための根拠です。

また、登記申請は、外国人が売主となって不動産を売却するときにも必要です。外国人所有の不動産をほかの人に取得させるケースでは、その外国人が登記義務者となります。このケースでは、不動産を取得する人に協力する形で、登記申請を実施しなければなりません。

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外国人による不動産登記の流れ

外国人が不動産登記を行うときの流れは、基本的に日本人の場合と同じですが、追加的な手続や注意点があります。ここでは、不動産を相続する場合と、不動産を売買する場合に分け、どのような流れになるのか解説します。

不動産を相続する場合

外国籍の人が日本の不動産を相続するときは、まず相続の準拠法から確認しなければなりません。準拠法に則って土地を取得できるときに、登記申請の手続を進めていくことになります。詳しく解説すると、以下のとおりです。

準拠法を確認する

不動産の所有者が亡くなり、関係者が外国籍である場合は、相続に適用される法律が問題となります。結論から言えば、基準となるのは「被相続人の国籍」です。被相続人が日本国籍であれば日本の相続法が適用され、被相続人が外国籍であれば国籍のある国の法律が適用されるのが原則です。もっとも、後者のケースでは、その国に「所在地の法律を適用する」との法規があれば、日本の相続法に従って不動産を取得しても構いません。

相続登記を申請する

日本の法律が適用される場合、相続で取得した不動産の登記申請は、相続人が相続の開始を知った日から3年以内に行う必要があります。必要書類には、登記申請書のほか、相続関係を示す書類などの添付情報があります。問題になるのが添付情報で、日本国籍であれば戸籍謄本や住民票を取得できますが、外国人の場合は本国で交付される書類などで対応する必要があります。

外国人が不動産を売買する場合

外国人が日本の不動産について登記するまでの流れは、登記申請の前の段階で日本人と異なる手続が必要です。とくに海外在住者が購入するケースに焦点を当てて説明すると、以下のようになります。

各種代理人を定める

海外在住の外国人が不動産を購入する際には、契約、決済、納税の3つの手続について代理人を定める必要があります。契約については不動産会社、決済については司法書士が代理人となるのが一般的です。

また、不動産を購入すると、不動産所得税や所得税、固定資産税の課税があり、海外居住者はその納税義務を果たすために納税管理人をおかなくてはなりません。通常は税理士に依頼して就任してもらいます。

売買契約書を交わす

売買契約書の作成は、取引の重要な一歩です。外国人買主の場合、言語の選択が重要になります。国内取引の契約書は日本語で作成されるのが一般的ですが、ここでは買主の理解を確実にするため、日本語版と買主の母国語版の両方を用意するのが適切です。また、不動産会社を介して購入する場合は、その不動産会社に「重要事項説明」をする義務が日本の法律で義務付けられており、これは必要に応じて通訳を介して行われることもあります。

報告書を財務大臣宛に提出する

海外居住者が日本の不動産を取得した場合、外国為替および外国貿易法(外為法)に基づき、財務大臣への報告が必要です。この報告は、取得日(購入の契約を交わした日)から20日以内に日本銀行を経由して行わなければなりません。報告書には、取得者の氏名・住所・国籍、取得した不動産の内容、取得の対価などを記載します。もっとも、居住用目的での取得や、非営利目的の業務用取得、事務所用取得、ほかの非居住者からの取得の場合は報告不要です。

売主と買主で共同して登記申請する

不動産の所有権移転登記は、原則として売主と買主が共同で申請します。必要書類には、登記申請書、登記原因証明情報、住所証明書、印鑑登録証明書などがあります。これらの書類のうち問題になるのは、住所証明書と印鑑登録証明書です。海外居住者の場合、本邦の住民票や印鑑登録証明書は交付されないため、代わりに本国が交付する書類などを提出する必要があります。

不動産登記するときの必要書類

不動産登記するときの必要書類_イメージ

外国人が日本で不動産登記を行う際に、日本人と取扱いが変わってくるのは「住民票」「印鑑登録証明書」「相続関係を示す戸籍謄本」の3つです。登記申請の状況別に必要となる書類を挙げると、次のようになります。

  • 購入する場合:住所証明書(日本の居住者であれば住民票)
  • 売却する場合:印章またはサインの証明書(日本の居住者であれば印鑑登録証明書)
  • 相続する場合:印章またはサインの証明書、住所証明書、相続を証する書類

これらの書類について、外国籍または海外居住者の場合は、どのような書類を代わりに提出できるのでしょうか。在留期間別に、海外居住の日本人の場合も交えて解説すると、以下のようになります。

中長期在留者または特別永住者の場合

中長期在留者または特別永住者の場合は、2012年の入管法改正により、日本人と同じく住民基本台帳の記帳があります。また、住民基本台帳への記帳があれば、印鑑登録も可能です。したがって、不動産登記の場合は、次のような書類を用意すれば問題ありません。

住所証明書

日本人と同様に、居住地の市区町村役場で「外国人住民票」を交付請求して用意します。実際の住所証明では、在留カードや特別永住者証明書もセットで必要です。

印章またはサインの証明書

実印を作成し、居住地の市区町村役場で登録したのち「印鑑登録証明書」を交付請求して用意します。印鑑登録をしない場合や、印鑑登録証明書を交付請求できない場合には、署名・サインにつき「宣誓供述書」を用意します。宣誓供述書は、在日大使館、領事館や、自国または居住国の公証人に発行してもらうことが可能です。

短期在留者・海外居住者・外国法人の場合

短期在留者や海外居住者、あるいは外国法人の場合、日本で住民登録ができず、ひいては印鑑証明も行えません。そこで、代替となる書類が必要となります。

住所証明書

本国または居住国の政府(領事)が作成した、日本の住民票の写しに相当するものの原本が必要です。中国であれば「公証書」、香港なら「聲明」、台湾は「戸籍謄本」などが該当します。これらがない場合は、居住国の公証人に宣誓供述書を発行してもらい、パスポートのコピーとセットで提出します。

印章またはサインの証明書

署名、サインにつき「宣誓供述書」を用意する必要があります。中長期在留者などと同じく、在日大使館、領事館や、自国または居住国の公証人に発行してもらいます。

海外在住者の日本人の場合

日本国籍を持つ海外在住者の場合は、基本的には短期在留者などの外国人と同様ですが、各種書類について次のような扱いになります。

住所証明書

日本で住民登録が行えていないため、居住する国の日本領事館や大使館で発行される「在留証明書」で対応します。在留証明書の取得が困難である場合は、現地の公証人の認証を得た宣誓供述書を用意します。

印章またはサインの証明書

印鑑登録証明書の代わりに、居住する国の日本大使館で署名証明書を取得します。なお、署名証明書を取得できない場合も、外国の公証人が作成した署名証明を代わりに用意することで対応可能です。

外国人の相続を証する書類

外国人が相続で不動産を取得する場合、相続を証する書類が問題になります。日本には相続関係を証明する制度として「戸籍」がありますが、これは世界的に稀なもので、対応する書類は個別に判断しなければなりません。

外国籍の人の相続関係を証する書類としては、被相続人および相続人の国籍がある国の死亡証明書、出生証明書、婚姻証明書などで対応します。これらの書類を取り寄せられないときは、宣誓供述書で対応することもあります。

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不動産登記するときにかかる費用

外国人が日本で不動産を取得し登記する際には、さまざまな費用が発生します。主な費用として登録免許税と不動産取得税があり、これらは取得する不動産の価値に応じて計算されます。また、手続を円滑に進めるために司法書士や通訳、翻訳者などの専門家を雇う場合、それらの報酬も必要となります。以下では、不動産登記時にかかる主な費用について詳しく説明します。

登録免許税

登録免許税は、登記申請の実質的な手数料にあたる国税で、不動産の相続や売買では「固定資産税評価額」に対する割合で課税されます。住宅用家屋の場合は軽減税率もあり、課税額は次のように計算します。

  • 相続するとき:固定資産税評価額×0.4%
  • 売買するとき:固定資産税評価額×2%(住宅用家屋の軽減税率が適用される場合は0.3%)

不動産取得税

不動産取得税は、土地や建物を取得した際に課税される地方税で、登録免許税と同じく固定資産税評価額に対する割合で課税されます。なお、相続、包括遺贈、法人の合併による取得のときは課税されず、もっぱら売買や交換・新築・改築などの場合に負担することになります。課税額の計算方法は、次のとおりです。

  • 土地:固定資産税評価額×3%
  • 建物:固定資産税評価額×4%(住宅の場合は3%に軽減)

そのほかの費用(司法書士報酬など)

不動産登記の際には、専門家への報酬など、さまざまな付随費用が発生します。不動産を取得するための手続以降の費用相場を示すと、次のとおりです。

司法書士報酬

決済業務や登記申請の代理人となる司法書士については、売買価格の0.5~1%程度の報酬が発生します。たとえば、5000万円の物件の場合、25~50万円程度となります。

翻訳費用(必要な場合)

外国語で作成された契約書などを日本語に翻訳する必要がある場合、1ページあたり5000~1万円程度が相場です。

代理人費用

売買契約や納税の代理人となる者についても、司法書士同様に報酬が発生します。その金額は、取引規模や財産価額に応じて3%から5%程度となり、数十万円から数百万円になることもあります。

外国人の登記事項(2024年4月の変更点)

外国人の不動産登記では、登記事項となる項目に合わせて書類提出などの対応が必要です。これに関しては、2024年4月に外国人渉外登記に関する改正があり、登記申請のときの必要な対応も変わってきています。重要な変更点は、以下の3つです。

ローマ字氏名の併記

外国人の氏名は、従来のカタカナ表記に加えて、ローマ字(大文字)での併記が必須となりました。登記簿上の外国人の名前の表記は、日本の氏名と同様に「姓・名」の順となるとともに、括弧書きでローマ字での表記もなされるようになっています。

国内連絡先の登記

海外居住の日本人、日本に住所のない外国人および外国法人は、日本国内の連絡先を登記する必要があります。国内に連絡先がある場合は印鑑登録証明書、住民票の写し、戸籍附票の写しなどが求められ、連絡先がない場合は国内連絡先がない旨を記載した上申書を作成する必要があります。このように連絡先の有無に応じて必要な書類が異なるため注意しましょう。

外国法人の設立準拠法国の登記

日本で会社法人番号を有しない外国法人が所有者となる場合には、その法人が設立された国(設立準拠法国)を登記する必要があります。そこで、設立準拠法国政府によって作成された住所証明書類と、同じ政府の作成にかかる書面の写しが必要です。

設立準拠法国政府によって作成された住所証明書類

日本の商業登記事項証明書の原本に相当するものにあたります。

設立準拠法国政府の作成にかかる書面の写し

日本の商業登記事項証明書に相当するものの写しにあたります。

外国人による不動産の所有・登記の注意点

外国人が日本の不動産を所有し登記するケースでは、日本特有の法規や課税方法について見落としやすい問題があります。手続についても、翻訳作業が必要となる点は要チェックです。これらのポイントをまとめると、次のようになります。

外国語による書面は翻訳を要する

外国語で作成された書類を日本の不動産登記で使用する場合、日本語への翻訳が必要です。翻訳が必要な範囲は、原則として書類全体ですが、証明に関係する重要な部分(氏名、住所、日付など)を中心に、要点を押さえた翻訳で十分な場合もあります。翻訳者の資格に特別な要件はありませんが、法律用語に精通した専門的な翻訳者を利用することが望ましいと言えます。

登記識別情報は再発行不可

登記識別情報は、不動産の所有者であることを証明する重要な情報です。紙の証明書(いわゆる権利証)とは異なり、暗号化されたデータとして交付されます。この情報は再発行できないため、厳重に管理しましょう。紛失した場合、次回の登記申請時に本人確認資料の提出や事前通知など、追加の手続が必要になります。特に海外在住の外国人の場合、対応が困難になる可能性があるため、要注意です。

所有開始の翌年以降に課税される可能性

外国人による不動産の取得には、日本人と同様に各種課税があります。登録免許税および不動産取得税については述べましたが、翌年以降にかかる税金も理解しておきたいところです。納税管理人を置くべき理由は、ここにあると言っても過言ではありません。

売買の場合

所有者の居住者・非居住者の判定により、課税方法が変わります。居住者(日本国内に住所がある、または1年以上の居所がある人)の場合、不動産譲渡所得に対して確定申告を行い、所得税・住民税を納付する必要があります。非居住者の場合は、原則として源泉徴収方式となります。

相続の場合

日本国内の不動産を相続した場合、日本の相続税が課税されます。ただし、被相続人と相続人の居住状況によって、課税対象となる財産の範囲が変わる可能性があります。

固定資産税について

日本の法律では、不動産の所有者に対し、市区町村が定める価格(固定資産税評価額)に応じた課税が毎年行われます。納税通知書は、原則として不動産の所在地に送付されるため、海外在住の場合は納税管理人を選任し、確実に納税できるようにすることが重要です。

外国人の不動産所有は専門家の支援が必要

外国人が日本の不動産を所有するにあたっては、購入・売却・相続のいずれにしても登記申請が必要です。登記申請では、住所証明、印章またはサインの証明、相続関係の証明書類について、日本国内では発行できない書類につき対応が必要となる可能性が大きいでしょう。そのほか、法改正により、国内連絡先を用意してその証明書類を準備する必要に迫られているのも、注意したいポイントと言えます。

外国人による不動産取引や、外国籍の人が不動産を相続する場面では、言語の壁はもちろんのこと、日本の法規に対応しなければならない難しさがあります。該当する場面では、司法書士などの専門家の支援が必須と言えるでしょう。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載